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第3夜 サイドカーとカクテル言葉
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「こんばんはマスター。二人でも大丈夫?」
私は親友の鈴木絵理と共に、『Rencontre』の扉を開いた。
「おや、真知さん。いらっしゃいませ。お二人でお越しとは珍しいですね。」
「今日は初めて親友を連れて来たの。」
「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしても?」
マスターは穏やかな笑顔を浮べて、座る席を促しながら絵理に問いかけた。
「鈴木絵理です。初めてなのでよく分かってないのですが…。」
「もちろん構いませんよ。飲みたいものを仰っていただければ。」
絵理はどこか緊張しているようだ。私は絵理が席に着くのを見届けてからマスターに話しかけた。
「今日は結婚祝いのディナー帰りなの。だから、今日は全部私持ち。」
「そうでしたか。この度はおめでとうございます。」
マスターが恭しく頭を下げると、絵理は照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。ディナーだけでも十分嬉しかったのに、BARも行こうって誘ってもらったんです。」
「真知さんは昔から通ってくださっていますが、ご友人を連れてこられたのは初めてです、どうぞごゆっくりなさってください。」
「ありがとうございます。」
私は、不慣れな絵理に代わってカクテルを注文することにした。
「マスター。サイドカーを2つお願い。」
「かしこまりました。」
「サイドカーって?」
絵理は不思議そうに、私に耳打ちをして尋ねた。
「柑橘系のさっぱりしたカクテルだよ。ミカンとか好きでしょ?」
「うん。好き。ありがとう。」
「いえいえ。」
私はお礼を言われた嬉しさを隠しきれず、少し間をおいてから返事をした。
マスターは何も言わずに、手馴れた様子でカクテルを作っていく。
待っている間、私と絵理は他愛のない昔話をして盛り上がっていた。
学生の頃からの付き合いだから、会話のテンポがお互いに分かっていて心地良い。
「どうぞ。サイドカーです。」
「ありがとうございます。………美味しい!」
1口飲んだ絵理は、嬉しそうに顔をほころばせた。
昔から、素直な言葉を口にする絵理が好きだった。何年も経ってお互い大人になったが、変わらない所があることが嬉しい。
しばらくすると、絵理がお手洗いに行くと言って立ち上がった。私は慌てて、絵理にお手洗いの場所を指を指しながら教えた。
絵理が席を外すと、マスターが呟くように言った。
「……真知さんは、カクテル言葉を知るのがお好きでしたよね。」
「うん。」
「サイドカーのカクテル言葉もご存知で?」
「もちろん。」
私が苦笑いをして頷くと、マスターもどこか悲しげだった。
「これまで真知さんの相談を色々と受けてきましたが、お相手は絵理さんでしたか。」
「………そうだね。」
「結婚されたとお聞きしましたが、良かったのですか。長い間悩まれていたのに。」
「うん。もういいんだ。今更壊れるのも嫌だし、何より絵理は子供を欲しがっているから。だから、何も言わない。」
「……そうですか。」
私は大きな深呼吸をしてから、笑顔を作った。
「だから、遠回しのサイドカーね。これくらいなら許されるでしょ。」
「………」
マスターは、それ以上何も言わなかった。
絵理が戻ってきてからは、先程の会話など無かったかのようにのんびりと過ごした。
「そういえば、長い間通っているのにマスターの名前知らないんだよね。」
私がそう言うと、絵理はとても驚いていた。
「そうなの?てっきり知っているんだと思ってた。」
マスターは、小さく笑っている。
「何方にも名前を公開しておりませんので。」
「えー。どうして?」
私が尋ねると、マスターは少し間をおいてから答えてくれた。
「これくらいの距離感だからこそ、話せることもあるでしょうから。」
私は「確かに。」と頷いた。
私のあの話は、マスターにしか出来なかったから。
自分に近ければ近い存在である程、話せなかった。
サイドカーのカクテル言葉は、『いつも二人で』。
絶対に叶うことはないけど、今こうして“友達”としてなら傍にいられる。
だから、私はこれでいい。
結婚おめでとう。絵理。
不幸せになんか、ならないでよね。そんな事になったら、また私が悩んじゃうから。
私は親友の鈴木絵理と共に、『Rencontre』の扉を開いた。
「おや、真知さん。いらっしゃいませ。お二人でお越しとは珍しいですね。」
「今日は初めて親友を連れて来たの。」
「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしても?」
マスターは穏やかな笑顔を浮べて、座る席を促しながら絵理に問いかけた。
「鈴木絵理です。初めてなのでよく分かってないのですが…。」
「もちろん構いませんよ。飲みたいものを仰っていただければ。」
絵理はどこか緊張しているようだ。私は絵理が席に着くのを見届けてからマスターに話しかけた。
「今日は結婚祝いのディナー帰りなの。だから、今日は全部私持ち。」
「そうでしたか。この度はおめでとうございます。」
マスターが恭しく頭を下げると、絵理は照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。ディナーだけでも十分嬉しかったのに、BARも行こうって誘ってもらったんです。」
「真知さんは昔から通ってくださっていますが、ご友人を連れてこられたのは初めてです、どうぞごゆっくりなさってください。」
「ありがとうございます。」
私は、不慣れな絵理に代わってカクテルを注文することにした。
「マスター。サイドカーを2つお願い。」
「かしこまりました。」
「サイドカーって?」
絵理は不思議そうに、私に耳打ちをして尋ねた。
「柑橘系のさっぱりしたカクテルだよ。ミカンとか好きでしょ?」
「うん。好き。ありがとう。」
「いえいえ。」
私はお礼を言われた嬉しさを隠しきれず、少し間をおいてから返事をした。
マスターは何も言わずに、手馴れた様子でカクテルを作っていく。
待っている間、私と絵理は他愛のない昔話をして盛り上がっていた。
学生の頃からの付き合いだから、会話のテンポがお互いに分かっていて心地良い。
「どうぞ。サイドカーです。」
「ありがとうございます。………美味しい!」
1口飲んだ絵理は、嬉しそうに顔をほころばせた。
昔から、素直な言葉を口にする絵理が好きだった。何年も経ってお互い大人になったが、変わらない所があることが嬉しい。
しばらくすると、絵理がお手洗いに行くと言って立ち上がった。私は慌てて、絵理にお手洗いの場所を指を指しながら教えた。
絵理が席を外すと、マスターが呟くように言った。
「……真知さんは、カクテル言葉を知るのがお好きでしたよね。」
「うん。」
「サイドカーのカクテル言葉もご存知で?」
「もちろん。」
私が苦笑いをして頷くと、マスターもどこか悲しげだった。
「これまで真知さんの相談を色々と受けてきましたが、お相手は絵理さんでしたか。」
「………そうだね。」
「結婚されたとお聞きしましたが、良かったのですか。長い間悩まれていたのに。」
「うん。もういいんだ。今更壊れるのも嫌だし、何より絵理は子供を欲しがっているから。だから、何も言わない。」
「……そうですか。」
私は大きな深呼吸をしてから、笑顔を作った。
「だから、遠回しのサイドカーね。これくらいなら許されるでしょ。」
「………」
マスターは、それ以上何も言わなかった。
絵理が戻ってきてからは、先程の会話など無かったかのようにのんびりと過ごした。
「そういえば、長い間通っているのにマスターの名前知らないんだよね。」
私がそう言うと、絵理はとても驚いていた。
「そうなの?てっきり知っているんだと思ってた。」
マスターは、小さく笑っている。
「何方にも名前を公開しておりませんので。」
「えー。どうして?」
私が尋ねると、マスターは少し間をおいてから答えてくれた。
「これくらいの距離感だからこそ、話せることもあるでしょうから。」
私は「確かに。」と頷いた。
私のあの話は、マスターにしか出来なかったから。
自分に近ければ近い存在である程、話せなかった。
サイドカーのカクテル言葉は、『いつも二人で』。
絶対に叶うことはないけど、今こうして“友達”としてなら傍にいられる。
だから、私はこれでいい。
結婚おめでとう。絵理。
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