改訂稿『オオカミは淫らな仔羊に欲情する』【R18】

サニー

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  半ば誘拐みたいに私をその後部座席に押し込めた
  ドイツの高級車メルセデス・ベンツ S400は、
  高速に乗って滑らかに走り出した。

  
「あ、あの、ところで小父さん達は誰なんですか?」

「あぁ! そうやった、自己紹介もまだやったな。
 わりぃわりぃ ―― わしはこういうもんじゃ」

 
  そう言って、私の隣に座るこの車内にいる
  人間の中では一番格が上そうな男が1枚の名刺を
  差し出してきた。
   
   ” 株式会社 寿警備
     営業部長・鏑木 絢三(かぶらぎ けんぞう) ”

     
「―― で、営業部長の鏑木さんが私にどういった
 ご用件で……」 

「お嬢さん、かぶの兄貴、シートベルト少しキツ目に
 締めてもらえますか?」


  運転担当の青年が、フロントミラー越しに鏑木を
  見ながら険しい目つきで言ってきた。
  

「なんや、もう、勘付かれたか」

「へえ」

「撒けるか?」

「任せて下さい」


  それからこのベンツは一気にスピードを上げ
  並走車を追い越し・ごぼう抜き ――

  
「うぉっ ―― どわっ ―― ぎゃっ、ぶつかるぅ! 
 い、一体何がどうしたんですかっ?!」
 
「なぁに、大した事はねぇ。ちょいと敵対勢力に
 尾(つ)けられてるだけや」

「大した事あるじゃないですか!」


  這々の体でシートベルトにしがみつき
  チラリと後方を見れば、
  この車と同じようなタイプのベンツが
  猛スピードで迫っている。 

  私は今1度シートベルトを確認し、
  ソレにしっかりしがみついた。


  無事ベンツは敵対勢力の車を撒いて、
  とある雑居ビルの玄関前へ
  キキーッとブレーキ音を響かせ停まった。

  もちろん鏑木と運転手、朋也は平然としているが、
  私は? ―― といえば、顔面蒼白で
  シートベルトにしがみついた恰好のままだ。

  しかし、何故か鏑木はえらくご機嫌で、相好を崩し、
  私の肩をバシバシ叩きながら。


「いやぁ~嬢ちゃん、あんた、意外に見処あるな。
 見直したぜ」

「ハハハ……そりゃ、どーも……」


   (お願い、そんなに叩かないで……リバース
    しそう……)


  ベンツから降り立って、
  初めてココが右京区の太秦だという事に
  気が付いた。


 ***  ***  ***



  先導するように鏑木さんが立ち、
  何故か? 朋也さんとガタイのいい男が
  後ろに2人ぴったりと立った。

  エレベータは20階建てのビルの最上階で止まり。

  大きな両開きの扉の前へ。

  鏑木さんが扉を軽くノックすると、
  中から「入れ」と、威圧的な声が返ってくる

  「どうぞ」と、鏑木さんが開けたドアから、
  私は恐恐その室内へと足を踏み入れた。
  

  広い部屋の前面は硝子貼りになっていて、
  机と大きなソファしかないソファには、
  30代後半ぐらいだろう。

  鋭い眼光の男が座っており。

  部屋に入ってきた私を値踏みするように見てきた 


「どうぞ、お掛けになって下さい」


  私は促されるまま、男の正面のソファへと
  腰を下ろした


「―― 和泉絢音、さん。16才。私立四条壬生学院・
 2年生、で、間違いありませんね」

「は、ぁ……」

「私は松浪。この事務所を任されています。絢音さん、
 亡くなったお父上から祖父の事は聞いていました
 か?」
 

  私は ”和泉慎一郎・祥子夫妻”の養女だ。

  本当の父は和泉家のお抱え運転手をしていたそう。


「祖父 ―― ってと、お祖父ちゃん? いいえ、特には
 聞いてませんが……」


  たとえ聞かされていたんだとしても、
  本当の父の事すら満足に知らないのだし、
  今更そんな事を知ったところで何の意味も
  ないと思う。
  
   
「絢音さん、あなたの祖父、小鳥遊泰三は
 広域指定暴力団 ”煌竜会”の4代目総長
 なんです ――」
 
 
  それに続いて、この松浪さんから聞かされた話しは、
  今の私には到底信じられる事ではなかった。
  
  だってそうでしょ??
  
  今の今まで、まともに知らなかった祖父が
  ヤクザさんの大親分で。
  
  ステージⅣの**癌に冒され終活の真っ最中で。
  
  自分の跡目には、組織内でいらぬ争いの
  起こらぬよう、直系の者に継がせよ ―― と、
  命じたそうな……。
  
  本当の父・小鳥遊桜花には腹違いの兄弟がたくさん
  いたそうだが、揃いも揃って組関係の抗争やら
  喧嘩で早世しており、数少ないの生き残り末弟の
  将生(叔父さん)は殺人罪で服役中。

  もう1人の叔父は色々と問題ありで、
  現在、総長から勘当を喰らっているのだそう。
  
  え?……え、えぇ~~っ!!
  
  コレって、めっちゃヤバくね?
  
  リアル ”セーラー服と機関銃”やん。
  

  因みに私、将来の夢は医者か弁護士か一級建築士。
    
  ”ガリ勉”なだけが取り柄の私が
  リアルに組織(ヤクザ)の跡目を
  ”相続するか? 否か?” の、
  返事を早急に求められているのは、
  映画の中の”目高組”のような、
  組員4名ぽっちの弱小暴力団ではなく ――、
  最も末端の4次団体の準構成員を含めれば、
  総構成員数は約15000人にも及ぶという
  日本最大の広域指定暴力団だ。  
  

  私は、この部屋に連れて来られた時点で、
  クラスメイトの質の悪いドッキリだと思っていた。
  
  いや、どうかドッキリであってくれと、心の中で
  そう願っていた……。
  
  
「……で、返答はなるべくなら、今すぐして
 欲しいんですが」
 
 
  なら、考えるまでもない。
  
  
「無理です。私はしがない女子高生ですし、
 皆さんを率いていく人望もスキルも
 特殊な技術も何ももってません」
 
「……どうしても、引き受けて貰えませんか?」

「えぇ、どうしても無理です」

「……承知しました」


  松浪が低い声でそう言うと、私をここへ
  連れて来た鏑木さん・朋也さん他、
  室内にいた組員の皆さんが一様にがっくり
  肩の力を落とした。
  
  
「こんな所へご足労頂きありがとうございました。
 帰りはうちの若いもんに送らせますんで ――」
 
「い、いえっ。そのお心遣いだけで結構ですっ」


  ”ゾク車” ならぬ、何処からどう見てもヤクザの
  車にしか見えない、さっきみたいなベンツで
  送られたりしちゃ、私は明日からご近所中の
  キケン人物確定だ。
  
  送迎の申し出は丁重にお断りし、この部屋の
  外廊下へ出たらエレベーターは1階だったので、
  もう、1秒でも早くこの場から立ち去りたかった
  私は階段を駆け下り始めた……。
  
  だけど、不意にそんな私の脳裏にあの映画
  『セーラー服と機関銃』のワンシーンがパッと
  浮かんだ。
  
  そのシーンは、主人公・星泉が
  『―― 組長なんて絶対無理です。これでも一応
   女の子だし、学校もあるし ――』と言って、
  跡目の相続を断って、去った後、
  若頭・佐久間他3人の組員が別れの盃を交わす、
  といった場面だった。
  
  なんで今、そんな場面が?
  
  深く考える前に、私の足は元来た階段を戻って
  また事務所前の扉の所まで来ていた。
  
  そして、私がそこへ着いたとほとんど同時に開いた
  扉からは、何だかさっき見た時よか体の横幅が
  厚みを増したように見える、組員さん達の姿。
  
  ジャケットで隠しているが、皆の胸元やベルトには
  刃渡り**センチはありそうなサバイバルナイフや
  黒光りする拳銃が見えた。
  
  ったく、ヤクザってのはどうしてこう単細胞揃い
  なんだ?!
  
  こんなの持ち歩いてるのがバレただけで、
  銃刀法違反の現行犯じゃないの。
  
  
「あ、あの ――」         
  
「チッ、何ぞ、忘れ物っすか?」

「と、朋也さん達こそどちらへ行かれるんですか?」

「部外者のあなたには関係のない事です」


  と、松浪さんが私を冷たくあしらい、
  エレベーターホールへ向かった時、
  部屋の扉が閉まりきる瞬間 ――。
  
  私は見てしまった、
  映画のワンシーンのように、神棚の下へ
  別れの盃を交わした跡があったのを。
  
  
「―― ちょっ、ちょっと待ってっ!!」


  今度も考えるより先に体が動いていた。
  
  つまり、私はエレベーター待ちの組員達の
  一番前へ割ってすすんだ。
  
  
「トーシロは引っ込んでて下さい」

「……さっきのお話し今からでも引き受けられ
 ますか?」
 
 
  皆んな、きょとんとした表情で私を見ている。
  
  唯一、冷静に受け止めたのはあの松浪さん。
  
  
「それは何かの冗談ですかい? あんただって変な
 トラブルに巻き込まれるのはごめんでしょう。さぁ、
 そこをどいて下さい」
 
「だめです。5代目候補として、命を粗末に扱う事
 だけは許しません」
 
「あんた、今何と……?」

「……跡目相続の件、確かにお引き受けしました」


  私のこれから先の人生が180度変わった瞬間だ         


  とりあえずは、これでもう”模試のランキング”に
  怯える日々からは脱出出来た訳やし。
  
  一応これでも、就職内定になるんだよね?

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