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第3章/幻想物語 魔女の夢(過去の記憶)

第22話/忘れじの記憶 02-虹光[ライメル]

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僕は目の前で、大切な人を失った。
そして、僕の中に密かに眠っていた炎魔術の才能が花開き、戦う術を得た。

*   *   *

魔術は基本的に、誰かから学び、練習する
ことで、初めて扱う事が可能になるのが
普通なのだが、例外が存在する。

それは、魔物に対しての負の感情が、一定
以上に高まった時である。
この時、魔物に対して、強い対抗心が心の
中に芽生える。
その時人は、直感的に魔術を扱える様に
なるのだ。

そして今、ライメルは大切な人を目の前で
失った事で、負の感情が、極限まで高まって
いる状態。
だから、魔術の才能が開花したんだ。

*   *   *

僕の大切な人を殺した罪を、今ここで
償わせてやる…僕の魔術でな。

「人を殺した罪は、決して軽くない。

 魔力解放60%”魔炎/赤”」

僕の手から飛び出したのは、赤色に輝く
魔法の炎だった。
この炎があれば、魔女とも戦える。
そう思っていたんだ。

魔女は、一瞬で僕の攻撃を掻き消した。

僕は、魔術を扱うのが初めてだった事も
あって、1発攻撃しただけでも、結構体力を消費している。

「でも、攻撃しないと…!
 イリナやお母さんの、敵討ちが、
 出来ない…!

 魔力解放50%”魔炎/赤”」

そして、魔女はクスッと笑った。
多分、僕の攻撃が弱すぎて”相手にならない”
って笑ってるんだろうな。
なら、僕に勝ち目は、ないのかもしれない。

僕は必死に攻撃したものの、全て簡単に
消されてしまった。

僕が疲れ切った頃、魔女の攻撃が突然
僕を襲った。
見た感じ、ただ雑に魔力を込めた魔力の塊。
だが、その威力は、僕の魔術とは比べ物に
ならないほど強かった。

僕の体を、虹色の光が突き抜ける。
一撃で、僕は全身が動かなくなるほど、重い
攻撃を受けた。
もう、力が入らない。
これは、詰みって、やつなのかもしれない。

次攻撃をくらったら、僕は確実に死ぬ。
そう思った時、またイリナの事を思い出して
しまったんだ。
多分、僕は彼女のことが、好きだったのかも
しれない。その人は、僕の目の前で死んだ。

そして僕もこいつに殺される。
本当にこれで良いのか…?まだ、出来る事が
あるかもしれない…

「こっち向けよ、ゴミ魔女が…!
 まだ僕は、死んでないんだぞっ…!
 僕はこんなもんじゃない。」

魔力を扱える様になったなら、もっと
出来る事があるはずだ。どうせ死ぬなら、
試せるだけ試してから死んでやる。

さっき魔炎で攻撃したが、それは簡単に
打ち消されてしまった。
だから、魔炎じゃ勝つことは出来ない。
ならどうすれば良いんだ…?

まず、魔女の攻撃を考えろ…
魔女は、ただ魔力をぶつけてきただけだ。
おそらく、僕らが今扱っている魔力。
それ自体に攻撃力があるはずだ。

そして、魔力は凝縮することで、さらに力を
増すと聞いた事がある。
本当かどうかは分からないが。

「魔力を、凝縮する…か…
 試す価値しかないじゃんか…!」

まずは、体内から外に魔力を解放する。
どんどん魔力を体内から外に出していく。
10%、20%と、量を増やしていく。

そこからは、単純だけど、難しい作業だ。
外に出した魔力を凝縮する。

魔術を扱う上で1番難しい技術。
それが”魔力操作”だ。

魔力を操作して、極限まで魔力を凝縮させる
事が、こいつを倒す為のカギなんだ。

集中しろ、魔女なんか気にするな。
また、攻撃が来るかもしれないが、そんなの
気にしてる余裕はない。

「魔力を中心に集めろ…
 どんどん魔力が、ブラックホールに
 吸い込まれていくみたいに…

 僕は、まだ負けれないんだ…!!」

でも、魔女の近くにも、魔力が出現した。
相手も、攻撃の準備をしているんだ。

「まずい、次の攻撃は耐えれないぞ…?
 それまでにどうにか、魔力を…」

いいや、焦るんじゃない。
呼吸を整えて、じっくり魔力を小さくして
いけばいい。

そして、魔力は肉眼では目視出来ないほどに
小さなものになった。

「攻撃の準備が、あと一歩遅かったなぁ!
 これで、僕の…勝ちだっ!

 魔力解放90%”ヴァルキリー ネア”」

今まで小さく固まっていた魔力を、僕は
魔女に向けて撃ち放った。

それは魔女に当たると、虹色の光とともに
拡散して、魔女の体を突き抜けた。

*   *   *

気がつくと、虹色の光は消えていた。
もちろん、魔女も居なかった。

「出来た…!魔力を上手く操れたのかな。
 初めてにしては、上出来じゃないかな!」

すぐにイリナに自慢しに行こう!
まあ、自慢できる人と言っても、イリナか
お母さんくらいしか居ないけど。

その時、僕は思い出した。

「もうこの街には、誰も居ないんだった。」

魔女を倒した後に、僕は1人で泣いた。
この魔物を倒しても、魔力を自分で扱える
様になっても、それだけでは、大切な人を
失った悲しみは、そう簡単に埋められるモノ
ではないみたいだ。

「なんで、僕を1人にしたんだよ…
 イリナも、お母さんも…ひどいよ…」

地面にうずくまって、1人で泣いていた僕に、
この時、1人の女性が話しかけてきた。

名前は知らない。顔も見たことない人だ。
でも、1人が寂しかった僕は、この人がいることで、ものすごく安心したのを覚えてる。

「ねぇ君、大丈夫か?」

そう、優しい声で僕に話しかけてくれた人。

それは、フォルトゥーナと言う女性だった。

第22話/忘れじの記憶 02-虹光[ライメル]
















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