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序章〜新たな試練の前兆〜
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4月の初頭。
春を迎えても朝方は未だ少し肌寒い。
そのため僕こと紲名玲(きずな あきら)は今、『徳島魔法科大学校』にある学生寮の一室にて、ベットの中でぬくぬくと夢心地な状態だ。そんな僕の耳元で突如誰かの息遣いが聞こえてくる。
「…んんっ。すぅ…。」
(ーーっ!)
僕のではない誰かの心地良さな呼吸が聞こえたせいで、夢心地だった僕の意識は一瞬で覚醒した。
はっと目を見開くと、そこには普段の凛とした表情からは想像もつかない可愛らしい寝顔に薄暗い部屋の中でも存在感のある精巧な銀細工のようなシルバーブロンドの髪を持つ女性が一定のリズムで寝息をたてている。
「なっ!」
咄嗟に身体を起こして声が出そうになったが、なんとか声を出すことだけは堪える。
そのおかげで、彼女が起きることは無かった。
(ーー何で?咲夜が僕と同じベットで寝てるの⁉︎)
そう、僕の横で幸せそうな表情をしながら寝ていたのは学園生活を共にするパーティの1人である桐崎咲夜(きりさき さくや)だった。
サファイアブルーの色をした瞳は今は閉じられており、その寝ている姿は美しさと可愛らしさを兼ね備えた精巧な人形のような顔立ちをしている。
そうな光景に思わず、僕は息をすることすら忘れそうになっていた。
(ーーいやいや、そうじゃないだろ!自分よ!)
今、問題なのはどうして咲夜が僕の横で寝ているかである。
先ず、咲夜を含む僕らのパーティは4月から同じ部屋で生活することになったため、彼女がこの部屋に居ること自体は問題ではない。また僕の記憶が確かな限り、今僕と咲夜が使っているベットは僕に割り当てられたベットで間違いないはずだ。
ちなみにだが、この部屋には二段ベッドが2つあって、僕と咲夜がそれぞれのベッドの下を使っている。そして、僕の上のベッドには姉さんである紲名明日花(きずな あすか)が、咲夜の上は残りのパーティメンバーの結月朱莉(ゆづき あかり)が使用している。
(ーーつまり、問題なのはどうして咲夜が僕のベットを使っているかということになるのか…。いや、それよりもこの状況をなんとかする方が先だろ!)
どうやら僕自身、目が覚めたばかりなこともあり思考能力が十分ではないようだ。
(ーーそもそも、この状況で僕に非はないはずだし、慌てる必要もない。取り敢えず、必要以上の騒ぎにならないように咲夜だけ起こして事情を説明した方が良いかな…。)
そう結論を出した僕は、起こすのを躊躇いそうになるほど幸せそうな寝顔している咲夜に意を決して左手を伸ばそうとする。
(ーーん?)
ふと、視線を感じたのでその方向に僕が顔を向けると、二段ベッドの上からこちらを覗き込みながら笑みを浮かべている姉さんと眼が会う。
「玲、貴方何してるの?」
(ーーあっ、これはマジで怒っているやつだ…。)
怒髪天とはこの事と言わんがばかりな状態である。
姉さんとは生まれてから、ずっと一緒に生活して来たがここまで怒っていることは、僕の記憶にはない。実際、今の僕は寝ている咲夜に手を出そうとしていように思われてもおかしくない状況ではあるので、姉さんの気持ちを理解するのは難しくはない。正直、威圧感が凄過ぎてヤバい。
「いや、これは姉さんの考えているようなことではなく…。」
さっき述べたように僕に非はないはずだが、姉さんからの圧力のせいで、僕は上手く説明の言葉を出せない。
「ううん…、なんですか?」
そんな中、僕と姉さんの会話が原因なのか最悪のタイミングで咲夜が眠たそうに瞼を擦りながら、身体を起こした。
咲夜は目の前に僕がいることで、僕と咲夜が同じベットにいることを寝ぼけた状態でも徐々に認識してきているのか、大きく眼を開きながらその顔に羞恥の色に変わっていく。
「うひゃあああ!」
僕が隣にいることを完全に理解した咲夜は大きな声を上げながら、見事な体捌きで転がるようにベットから飛び出した。
ちなみに、その瞬間姉さんは咄嗟に頭を引っ込めて、咲夜との衝突を回避していた。
かなり怒って冷静さを失っていると思っていたが凄まじい反応速度である。
「何ですか⁉︎どうして、玲が横にいるんですか⁉︎」
突然の出来事に動揺を隠せずにいる咲夜。
それを気にすることなく、姉さんはベットから降りると無言で僕に詰め寄ってくる。
「姉さん、ちょっと落ち着いて。」
「あら?私は至って冷静よ。」
(ーーおかしい。僕は悪くないはずなのに、どうしてこんなことに?)
僕がどうすれば良いのか考えていると、この騒ぎで残りのパーティメンバーである朱莉さんが目を覚まし、その長く軽やかに纏まったイエローゴールドの髪と豊かな胸を遊ばせながら、優しさを感じさせる碧眼で僕らの方を見ると、おおよその状況を理解したのか声をかけてくる。
「咲夜ちゃんも明日花ちゃんも他の部屋の人たちに迷惑だと思うから、少し落ち着いて。…取り敢えず玲ちゃんの話を聴いてみましょう。」
こうして、朱莉さんが声をかけてくれたおかげで、この騒動は落ち着きを取り戻し、僕らは講義に遅れることなく出席出来た。
そして時間は進み、昼休みになる。
「本当に、ごめんなさい!」
午前中の講義も終わったので僕ら4人は食堂にて昼ご飯を食べようとしていると、咲夜が今朝のあの騒動の後に口にした言葉と同じ言葉を再度口にした。
あの騒動後、朱莉さんのおかげで僕は事情を何とか説明することが出来た。
その説明を聴いて冷静になった咲夜は、朝方一度お手洗いに行くために眼を覚ましたらしく、その後寝ぼけたままで僕のベットだと気付かずに入って来たということを思い出した。
「朝も言ったとは思うけど、別に気にしてないよ。ちょっと騒ぎになっただけだし。」
そんな僕の言葉に咲夜は声を普段より小さくして応える。
「ですが…、私が寝ぼけてたせいで必要以上に注目されてますし…。そのせいで玲の正体がバレることのキッカケになるかもしれません。」
言われてみると、周囲の学生たちがこちらを見ながらヒソヒソと話している人たちがいた。どうやら、一部の学生には僕らが起こした今朝の騒動を知られているようだ。
「そこまで気にしなくても大丈夫じゃないかな。」
周囲の人たちの反応は一時的なもので、特にリスクにはならないと判断した僕は咲夜に応える。
そんな僕の意見に僕の横に座っている姉さんも同意して口を開く。
「そうね、基本的に問題無いと私も思うわ。まぁ、咲夜ちゃんが『魔法無効化』で玲の変身魔法を解いてたら玲が男だとバレたかもしれないけど。」
姉さんの言うように僕は今、女性の姿になっている。
何故、そんな状況なのか説明しようと思う。
そもそも、この世界には魔法が存在している。正確に言うと僕が出会った女神様が言うには、僕の姉である紲名明日花が世界を創り変えたらしい。
何の因果か、僕と姉さんだけ改変前の世界での記憶と今の世界で育ってきた記憶がある。ただ女神様曰く、姉さんが世界を改変した時の記憶は女神様によって封印されているらしい。
少し話題が逸れてきたので話を戻そう。
こうして改変された世界ではある日、世界樹と呼ばれている大樹が突如出現した。その後、世界中のありとあらゆる物質に魔素(まそ)と呼ばれるエネルギーが宿り始めた。
そして、魔素を多く含んでいる人類の一部に様々な現象を引き起こす魔法を使える人が現れた。その魔法を使うことが確認出来たのは女性だけだった。
魔法が使える人たちが現れてから暫くすると、世界中に魔窟(ダンジョン)と呼ばれる場所やその魔窟を中心に魔物と呼ばれる異形の存在が出現した。
このため、世界の国々では魔物や魔法を使う犯罪者に対応すべく、国が有事の際に魔法の使用を認める『魔女』と言う資格と制度を設け、『魔女』の取得を目指す育成機関を設立した。僕らが居るこの『徳島魔法科大学校』もその1つである。
どうして本来魔法が使えない男である僕がこの学園に在学しているのかと言うと、これも女神様の説明によると世界改変の影響で僕だけ男の身でありながら、魔法を使うことができ、その使える魔法属性が『変化』だったと言うこともあり、この学園の長と同時に僕と姉さんの祖母である紲名桐葉(きずな きりは)と幾つかの条件の下で入学が許可された。
その条件の最重要は、僕が男だとバレないように学園長や先生の許可が無い限り変化の魔法で女性の姿でいること。そして、僕の魔法属性が『変化』だと周囲の学生たちに認識されないように努めることである。
そのため、僕は魔法属性を『結晶』と偽っている。仕組みを簡単に言うと、魔法に使う分とは別の魔素を用意することで、その魔素自体を結晶に変化させているのである。
以上が簡単であるが、僕らを取り巻いている状況になっている。
そして、僕らは取り敢えず問題は無いと判断して昼食を食べ始める。
こうしてご飯を食べ進めていく内に僕は、ふと思ったことがあったので一旦食事の手を止めて咲夜に声をかける。
「ねえ、咲夜。今日の午後からの訓練で試してみたいことがあるから、ちょっと付き合ってもらっても良いかな?」
そんな僕の言葉に咲夜は口の中にあるご飯を飲み込んだ後、返事をする。
「試したいことですか?別に私で良ければ付き合いますよ。」
「オッケー。ありがとう。」
咲夜の了承に僕は御礼を言った後、食事を再開する。
すると姉さんが声をかけてくる。
「玲、何をしようと考えてるの?」
「うーん、ちょっとした実験かな?前から気になってた事があったし。」
「あー、ひょっとしてアレ?」
流石、僕の双子の姉である姉さんはこれだけ訓練の内容が予想出来たみたいである。
「?」
一方で、咲夜はイマイチ予想がつかないのか疑問符を浮かべていた。
まぁ、詳しいことは後のお楽しみと言うことで。
ちなみに、朱莉さんは特に気にすること無くご飯を美味しそうに食べていた。
そうこうして僕らの昼食が終わりかけた時、狙い澄ましたかのようなタイミングで学園から僕らを含む学生に支給される端末である『デバイス』に通知が届いたのを知らせる音がほぼ同時に聞こえた。
それに気付いた僕らは各々の『デバイス』を確認する。
その内容は至ってシンプルで、午後1時半に学長室へ来るようにと言うことだった。
通知の送り主は僕らが所属しているクラスでの先生からだった。
「一体、何の用なのかしら?」
通知文を読み終えた朱莉さんが考えるよう呟いた。
それを聞いた姉さんが普段通りの口調で口を開く。
「多分だけど、前回の試験の報酬が用意出来たとかじゃない?」
「それにしては用意が早過ぎると思いますけど…。」
姉さんの言葉に咲夜が控えめな態度で応えた。
「そう?まぁ、行けば分かるでしょ。」
「それもそうですね。」
「確かにね。」
姉さんの言葉に2人共同じ意見のようだ。
(…なんだろう?何故か嫌な予感がする。)
そんな3人とは違い、僕は虫の知らせとでも言うべきか、この呼び出しに対して一抹の不安を抱いていた。
そして、僕ら4人は指定された時間に学長室へと向かった。
春を迎えても朝方は未だ少し肌寒い。
そのため僕こと紲名玲(きずな あきら)は今、『徳島魔法科大学校』にある学生寮の一室にて、ベットの中でぬくぬくと夢心地な状態だ。そんな僕の耳元で突如誰かの息遣いが聞こえてくる。
「…んんっ。すぅ…。」
(ーーっ!)
僕のではない誰かの心地良さな呼吸が聞こえたせいで、夢心地だった僕の意識は一瞬で覚醒した。
はっと目を見開くと、そこには普段の凛とした表情からは想像もつかない可愛らしい寝顔に薄暗い部屋の中でも存在感のある精巧な銀細工のようなシルバーブロンドの髪を持つ女性が一定のリズムで寝息をたてている。
「なっ!」
咄嗟に身体を起こして声が出そうになったが、なんとか声を出すことだけは堪える。
そのおかげで、彼女が起きることは無かった。
(ーー何で?咲夜が僕と同じベットで寝てるの⁉︎)
そう、僕の横で幸せそうな表情をしながら寝ていたのは学園生活を共にするパーティの1人である桐崎咲夜(きりさき さくや)だった。
サファイアブルーの色をした瞳は今は閉じられており、その寝ている姿は美しさと可愛らしさを兼ね備えた精巧な人形のような顔立ちをしている。
そうな光景に思わず、僕は息をすることすら忘れそうになっていた。
(ーーいやいや、そうじゃないだろ!自分よ!)
今、問題なのはどうして咲夜が僕の横で寝ているかである。
先ず、咲夜を含む僕らのパーティは4月から同じ部屋で生活することになったため、彼女がこの部屋に居ること自体は問題ではない。また僕の記憶が確かな限り、今僕と咲夜が使っているベットは僕に割り当てられたベットで間違いないはずだ。
ちなみにだが、この部屋には二段ベッドが2つあって、僕と咲夜がそれぞれのベッドの下を使っている。そして、僕の上のベッドには姉さんである紲名明日花(きずな あすか)が、咲夜の上は残りのパーティメンバーの結月朱莉(ゆづき あかり)が使用している。
(ーーつまり、問題なのはどうして咲夜が僕のベットを使っているかということになるのか…。いや、それよりもこの状況をなんとかする方が先だろ!)
どうやら僕自身、目が覚めたばかりなこともあり思考能力が十分ではないようだ。
(ーーそもそも、この状況で僕に非はないはずだし、慌てる必要もない。取り敢えず、必要以上の騒ぎにならないように咲夜だけ起こして事情を説明した方が良いかな…。)
そう結論を出した僕は、起こすのを躊躇いそうになるほど幸せそうな寝顔している咲夜に意を決して左手を伸ばそうとする。
(ーーん?)
ふと、視線を感じたのでその方向に僕が顔を向けると、二段ベッドの上からこちらを覗き込みながら笑みを浮かべている姉さんと眼が会う。
「玲、貴方何してるの?」
(ーーあっ、これはマジで怒っているやつだ…。)
怒髪天とはこの事と言わんがばかりな状態である。
姉さんとは生まれてから、ずっと一緒に生活して来たがここまで怒っていることは、僕の記憶にはない。実際、今の僕は寝ている咲夜に手を出そうとしていように思われてもおかしくない状況ではあるので、姉さんの気持ちを理解するのは難しくはない。正直、威圧感が凄過ぎてヤバい。
「いや、これは姉さんの考えているようなことではなく…。」
さっき述べたように僕に非はないはずだが、姉さんからの圧力のせいで、僕は上手く説明の言葉を出せない。
「ううん…、なんですか?」
そんな中、僕と姉さんの会話が原因なのか最悪のタイミングで咲夜が眠たそうに瞼を擦りながら、身体を起こした。
咲夜は目の前に僕がいることで、僕と咲夜が同じベットにいることを寝ぼけた状態でも徐々に認識してきているのか、大きく眼を開きながらその顔に羞恥の色に変わっていく。
「うひゃあああ!」
僕が隣にいることを完全に理解した咲夜は大きな声を上げながら、見事な体捌きで転がるようにベットから飛び出した。
ちなみに、その瞬間姉さんは咄嗟に頭を引っ込めて、咲夜との衝突を回避していた。
かなり怒って冷静さを失っていると思っていたが凄まじい反応速度である。
「何ですか⁉︎どうして、玲が横にいるんですか⁉︎」
突然の出来事に動揺を隠せずにいる咲夜。
それを気にすることなく、姉さんはベットから降りると無言で僕に詰め寄ってくる。
「姉さん、ちょっと落ち着いて。」
「あら?私は至って冷静よ。」
(ーーおかしい。僕は悪くないはずなのに、どうしてこんなことに?)
僕がどうすれば良いのか考えていると、この騒ぎで残りのパーティメンバーである朱莉さんが目を覚まし、その長く軽やかに纏まったイエローゴールドの髪と豊かな胸を遊ばせながら、優しさを感じさせる碧眼で僕らの方を見ると、おおよその状況を理解したのか声をかけてくる。
「咲夜ちゃんも明日花ちゃんも他の部屋の人たちに迷惑だと思うから、少し落ち着いて。…取り敢えず玲ちゃんの話を聴いてみましょう。」
こうして、朱莉さんが声をかけてくれたおかげで、この騒動は落ち着きを取り戻し、僕らは講義に遅れることなく出席出来た。
そして時間は進み、昼休みになる。
「本当に、ごめんなさい!」
午前中の講義も終わったので僕ら4人は食堂にて昼ご飯を食べようとしていると、咲夜が今朝のあの騒動の後に口にした言葉と同じ言葉を再度口にした。
あの騒動後、朱莉さんのおかげで僕は事情を何とか説明することが出来た。
その説明を聴いて冷静になった咲夜は、朝方一度お手洗いに行くために眼を覚ましたらしく、その後寝ぼけたままで僕のベットだと気付かずに入って来たということを思い出した。
「朝も言ったとは思うけど、別に気にしてないよ。ちょっと騒ぎになっただけだし。」
そんな僕の言葉に咲夜は声を普段より小さくして応える。
「ですが…、私が寝ぼけてたせいで必要以上に注目されてますし…。そのせいで玲の正体がバレることのキッカケになるかもしれません。」
言われてみると、周囲の学生たちがこちらを見ながらヒソヒソと話している人たちがいた。どうやら、一部の学生には僕らが起こした今朝の騒動を知られているようだ。
「そこまで気にしなくても大丈夫じゃないかな。」
周囲の人たちの反応は一時的なもので、特にリスクにはならないと判断した僕は咲夜に応える。
そんな僕の意見に僕の横に座っている姉さんも同意して口を開く。
「そうね、基本的に問題無いと私も思うわ。まぁ、咲夜ちゃんが『魔法無効化』で玲の変身魔法を解いてたら玲が男だとバレたかもしれないけど。」
姉さんの言うように僕は今、女性の姿になっている。
何故、そんな状況なのか説明しようと思う。
そもそも、この世界には魔法が存在している。正確に言うと僕が出会った女神様が言うには、僕の姉である紲名明日花が世界を創り変えたらしい。
何の因果か、僕と姉さんだけ改変前の世界での記憶と今の世界で育ってきた記憶がある。ただ女神様曰く、姉さんが世界を改変した時の記憶は女神様によって封印されているらしい。
少し話題が逸れてきたので話を戻そう。
こうして改変された世界ではある日、世界樹と呼ばれている大樹が突如出現した。その後、世界中のありとあらゆる物質に魔素(まそ)と呼ばれるエネルギーが宿り始めた。
そして、魔素を多く含んでいる人類の一部に様々な現象を引き起こす魔法を使える人が現れた。その魔法を使うことが確認出来たのは女性だけだった。
魔法が使える人たちが現れてから暫くすると、世界中に魔窟(ダンジョン)と呼ばれる場所やその魔窟を中心に魔物と呼ばれる異形の存在が出現した。
このため、世界の国々では魔物や魔法を使う犯罪者に対応すべく、国が有事の際に魔法の使用を認める『魔女』と言う資格と制度を設け、『魔女』の取得を目指す育成機関を設立した。僕らが居るこの『徳島魔法科大学校』もその1つである。
どうして本来魔法が使えない男である僕がこの学園に在学しているのかと言うと、これも女神様の説明によると世界改変の影響で僕だけ男の身でありながら、魔法を使うことができ、その使える魔法属性が『変化』だったと言うこともあり、この学園の長と同時に僕と姉さんの祖母である紲名桐葉(きずな きりは)と幾つかの条件の下で入学が許可された。
その条件の最重要は、僕が男だとバレないように学園長や先生の許可が無い限り変化の魔法で女性の姿でいること。そして、僕の魔法属性が『変化』だと周囲の学生たちに認識されないように努めることである。
そのため、僕は魔法属性を『結晶』と偽っている。仕組みを簡単に言うと、魔法に使う分とは別の魔素を用意することで、その魔素自体を結晶に変化させているのである。
以上が簡単であるが、僕らを取り巻いている状況になっている。
そして、僕らは取り敢えず問題は無いと判断して昼食を食べ始める。
こうしてご飯を食べ進めていく内に僕は、ふと思ったことがあったので一旦食事の手を止めて咲夜に声をかける。
「ねえ、咲夜。今日の午後からの訓練で試してみたいことがあるから、ちょっと付き合ってもらっても良いかな?」
そんな僕の言葉に咲夜は口の中にあるご飯を飲み込んだ後、返事をする。
「試したいことですか?別に私で良ければ付き合いますよ。」
「オッケー。ありがとう。」
咲夜の了承に僕は御礼を言った後、食事を再開する。
すると姉さんが声をかけてくる。
「玲、何をしようと考えてるの?」
「うーん、ちょっとした実験かな?前から気になってた事があったし。」
「あー、ひょっとしてアレ?」
流石、僕の双子の姉である姉さんはこれだけ訓練の内容が予想出来たみたいである。
「?」
一方で、咲夜はイマイチ予想がつかないのか疑問符を浮かべていた。
まぁ、詳しいことは後のお楽しみと言うことで。
ちなみに、朱莉さんは特に気にすること無くご飯を美味しそうに食べていた。
そうこうして僕らの昼食が終わりかけた時、狙い澄ましたかのようなタイミングで学園から僕らを含む学生に支給される端末である『デバイス』に通知が届いたのを知らせる音がほぼ同時に聞こえた。
それに気付いた僕らは各々の『デバイス』を確認する。
その内容は至ってシンプルで、午後1時半に学長室へ来るようにと言うことだった。
通知の送り主は僕らが所属しているクラスでの先生からだった。
「一体、何の用なのかしら?」
通知文を読み終えた朱莉さんが考えるよう呟いた。
それを聞いた姉さんが普段通りの口調で口を開く。
「多分だけど、前回の試験の報酬が用意出来たとかじゃない?」
「それにしては用意が早過ぎると思いますけど…。」
姉さんの言葉に咲夜が控えめな態度で応えた。
「そう?まぁ、行けば分かるでしょ。」
「それもそうですね。」
「確かにね。」
姉さんの言葉に2人共同じ意見のようだ。
(…なんだろう?何故か嫌な予感がする。)
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