僕、魔女になります‼︎ 2巻

くりす

文字の大きさ
2 / 12

第1章〜試練と報酬〜

しおりを挟む
 「やっほー♪4人共時間通りに来たね♪」
 呼び出された僕ら4人が学長室の前に行くと、そこには2人の人物がいた。
 片方は明るい紫色の腰にまで届きそうな長い髪に朱莉さんにも劣らない豊かな胸部、僕らが着ている藍色の制服を基調としつつグレードアップさせた教師用の中でもスカートタイプの服装、親しみ易い雰囲気の無邪気な笑みを浮かべて、こちらに手を振りつつ声をかけてきた。
 もう一方の人物はセミロングの黒髪に、知的さを感じさせる眼鏡、真面目そうな立ち振る舞いをしており、こちらはズボンタイプの服装で僕らの方を見ていた。
 この2人は僕らのクラスでの主担任の月兎(つきうさ)リト先生と副担任である稲葉睡蓮(いなば すいれん)先生である。
 「それで、僕たちは一体何の用で呼び出されたんですか?」
 僕は僕らを呼び出した本人たちに用件を尋ねた。
 すると月兎先生は自身の口元に右手の人差し指を当てて、楽しそうに笑いながら答える。
 「未だナイショだよ♪まぁ、直ぐに分かるから。それに…。」
 月兎先生はそこまで喋ると口元に当てていた人差し指を学長室の方へと向けて言葉を続ける。
 「中で待っている人がいるから、早く入ろうね♪」
 「わかりました。」
 月兎先生が用件を言う気がないと理解した僕は月兎先生の言葉に従うことにした。
 それを聴いた月兎先生はいつもより真剣な雰囲気になると学長室の扉をノックする。
 「学園長、学生たちを連れてきました。」
 「入りな。」
 「失礼します。」
 学園長の了承を得た月兎先生は学長室の扉を開けて、中に入って行く。
 そんな月兎先生に続いて僕ら4人と稲葉先生も学長室に入室する。
 学長室には見るからに高級な絨毯やソファ、テーブルに絵画等の調度品が置かれており、この部屋の主人の威厳を感じさせる。
 そして、その部屋の主である人物は薄っすらと茶色が入っている肩まで伸びた黒髪に、洞察力のある目付きをしており、見た目の年齢では30代後半くらいの女性にしか見えないのに、それを感じさせない長年の猛者特有の雰囲気を漂わせている。それも当然で、彼女の実年齢は80を超えている。
 そもそも魔素の保有量が多い人は20歳を超えてからの老化速度が遅くなり、長命になる傾向があるが、この人物においては規格外が過ぎる。
 また、彼女は過去にあった世界大戦を終戦に導いた立役者の一人のため、様々な分野での影響力が強い、まさに生きる伝説である。
 この人物こそ、『徳島魔法科大学校』の学園長であり、僕と姉さんの祖母でもある紲名桐葉(きずな きりは)である。
 (ーーまぁ、そんなことより今は僕らが呼び出された用件の方が気になるんだけど…。)
 そんなことを思った僕が学園長に用件を尋ねようとすると、それより先に他の人が声を発した。
 「あら?随分と大人数で来ましたね?」
 (ーーっ⁉︎)
 予想していなかった声が聞こえ驚きつつ声のした方に顔を向けると学長室のソファに腰をかけながら、優雅にティーカップに口を付けていた女性がいた。その人は見た目は20代後半から30代前半で、もう春だと言うのに左の胸の部分に金色の桜の刺繍が入った黒いロングコートを着ており、精巧なホワイトシルバーの長い髪に蒼い色の瞳で、日本刀のような美しさと鋭さを思わせる雰囲気をしていた。
 何より凄いのが彼女が声を出すまで、おそらく僕らのパーティの誰もが最初から学長室に居たはずの彼女に気が付いていなかったと言うことである。この気配の消し方だけで彼女が只者ではないのは明らかだ。
 (ーーと言うかこの人は、まさか⁉︎)
 そんなことを考えるとほぼ同時に咲夜が口を開く。
 「お母さん⁉︎」
 そう、彼女は桐崎咲夜の母親である桐崎千華(きりさき ちか)である。
 『魔女』の中でも魔物の討伐や犯罪者の確保等で多くの功績を挙げており、その魔法属性から『剣の巫(つるぎのかんなぎ)』と呼ばれる有名な『魔女』である。
 僕も何度かテレビ等で見聞きしたことはあるため、多少彼女については知っている。
 (ーーでも、どうして桐崎さんがここに居るんだ?)
 そんなことを考えていると、学園長は桐崎千華さんが先程口にした疑問に答える。
 「他の子はアンタの娘さんのパーティメンバーと先生だよ。」
 「パーティ?そう言えば、今年度は試験的に2人1組のペア制ではなく4人1組のパーティ制を導入すると言う話でしたね。」
 「ああ、だから呼んでおいたんだよ。」
 学園長と桐崎千華さんの話が落ち着いたと判断した僕は学園長には尋ねる。
 「それで、学園長。僕らが呼び出された用件はどう言った内容なんですか?桐崎千華さんと関係のある話ですか?」
 「もちろん関係ある話だよ。じゃないと一緒に話をする理由がないからね。それでアンタたちを呼び出した用は…。」
 学園長がそこまで話を進めると桐崎千華さんが話を遮ってくる。
 「学園長、その話は私からします。咲夜、貴方この学園から退学しなさい。」
 「「「「!?」」」」
 桐崎千華さんの予想外の発言に僕ら4人は驚きを隠せなかった。
 そんな中、僕らの代わりに学園長が桐崎千華さんに声をかけてくれる。
 「理由を説明してやってもらってもいいかい?」
 「別に構いませんよ。」
 「ちょ、ちょっと待って下さい。」
 桐崎千華さんに説明を求める学園長に対して僕は待ったをかけた。
 「ん?なんだい?」
 「学園長や先生たちはひょっとしてこの話を事前に知ってたんですか?」
 そう、学園長たちは僕らと違ってあまり驚いていなかったので、僕はもしかして予め話を知っていたのではないか、と思ったのだ。
 そんな僕の疑問を聴いた学園長は机の引き出しから一通の手紙を取り出すと僕の疑問に答える。
 「ああ、知ってたよ。事前に送ってもらった手紙に書いてたからね。もちろん、先生たちにも伝えてあるさ。」
 (ーーと言うことは、学園長はあえて咲夜にこの事を伝えてなかったのか?少なくとも、咲夜の様子を見る限り初めて聴いたようだし…。今、これ以上学園長を問い詰めるのは意味が無さそうだ。)
 「分かりました。桐崎さん、話を遮ってしまい、すみませんでした。理由の説明をお願いします。」
 学園長の回答を聴いた僕はこれ以上の追求はせず、桐崎千華さんに話をするように促す。
 姉さんや咲夜、朱莉さんの3人は何か言いたそうにしていたが、話を前に進めるためか結局、何も言わなかった。
 そんな僕らの様子を見た桐崎千華さんは何を思ったのかは分からないが、特に気にすることなく理由を説明する。
 「先ず確認しておきますが、『林財閥』は知っていますよね?」
 「はい、『魔道具』を中心として様々な分野で成功を収めている大企業ですよね?」
 「ええ、流石に知っていますか。」
 「一応は、ですけどね。」
 林と言う名前は良く耳にするが、その中でも特に有名なのは『魔道具』の生産を逸早くビジネスに取り込んだ企業の名前だろう。
 ちなみに『魔道具』とは、魔物と言う存在から獲得出来る『魔石』と呼ばれる結晶を組み込んだ道具で、日用品から武器防具等の幅広い種類がある。
 そして、訓練を受けた一般兵が『魔道具』の武具を身に付けると『魔石』に蓄えられた魔素が尽きるまでの一時的だが魔物や魔法使いと闘うことが可能になる。
 ただ、『魔道具』は安定した大量生産をする事が難しく、必然的に高価な物が多い。
 「それで、その『林財閥』と咲夜さんの退学がどう関係してるんですか?」
 「『林財閥』のトップを務めている方の息子さんがウチの咲夜に興味を持ったらしいの。」
 「それって、つまり…。」
 僕は嫌な予感を感じながらも桐崎千華さんに説明を続けてもらう。
 「そう、その息子さんの林貴仁(はやし たかひと)さんが咲夜を嫁に迎えたい、と言うことね。ただ、婚姻関係を結ぶ条件として学校を辞めてもらいたいらしいの。ここからは私の推測だけど、おそらく咲夜が『魔女』になって魔物や魔法を使う犯罪者との戦闘で負傷等をするのが嫌だから、こんな条件を出して来たんでしょうね。」
 要するに、政略結婚のようなものである。
 (ーーやっぱり、そう言うことか…。それに桐崎さんが言っている理由も納得は出来る。)
 実際、魔法のおかげで医療技術は大きく向上しているが、『魔女』のそう言った戦闘における負傷は存在する。もちろん、最悪の場合もある。
 (ーーそこは理解出来るけど、問題なのは…。)
 「それで桐崎さんは咲夜さんに学園を退学してもらって、その林貴仁さんと関係を持って欲しいと?」
 「ええ、その通りよ。一応、林さんがどんな人か私のツテを使って調べたけど、特に問題になりそうな点も見当たらず、とても優秀な人物として有名らしいわ。」
 「だからと言って、勝手過ぎませんか?幾ら相手が有望でも本人の意思を尊重しないなんて。」
 僕は思ったことを桐崎千華さんに問いかけた。
 話の流れを見守っていた姉さんや朱莉さんも言葉にはしていないが僕と同じ意見のようだ。
 そんな僕の疑問を聴いた桐崎千華さんは呆れるように小さく溜息を吐くと僕に向かって口を開く。
 「はぁ…、貴方はこの話の重要性を理解できているの?もし、咲夜が林さんと婚姻関係を持つことが出来れば、私たち『魔女』と『林財閥』との間に強い繋がりが作られるのよ。そんな機会を個人の感情だけで捨てることが許されると思うの?」
 僕らは沈黙を保ちながら桐崎千華さんの言葉を聴き続ける。
 「それに私は咲夜が『魔女』になれるとは思っていない。この子の魔法属性では対人戦ならまだしも、基本的に身体能力が人間以上の魔物と闘うのは厳し過ぎる。だから、咲夜には『魔女』を目指すのは諦めるべきよ。」
 「なるほど、良く分かりました。」
 (ーー確かに桐崎さんのやっている事は『魔女』たち、そして魔物の被害を受ける可能性がある人たちにとって正しいことかもしれない…、けど!)
 僕はそう言った後、小さく息を吸って言葉を心にある感情と共に吐き出す。
 「それでも貴方が勝手なのは変わりません!咲夜に何の相談も無く全部決め付けて、そんなの横暴にも程があります!それに…。」
 「黙りなさい。」
 「っ⁉︎」
 桐崎千華さんが静かに口にした言葉で、僕はそれ以上喋る事は出来なかった。その言葉にはそれ程の圧力があったのだ。
 「そもそも、パーティか何かは詳しく知りませんが、貴方は私と咲夜の話に口を挟める理由があるのですか?…まぁ、確かに貴方の言うことも一理あるかもしれませんし、本人に聴いてみましょう。ねぇ、咲夜?貴方は今回の話について、どう考えているの?」
 そして、桐崎千華さんは咲夜に意思確認をした。おそらく、咲夜本人が納得していると答えることを予想しているのだろう。
 (ーー実際、咲夜自身は今回の話についてどう思っているんだろう?)
 やがて、僕らの視線は咲夜に向かう。
 咲夜は少しの間、僕と桐崎千華さんを交互に見ていたが、意を決したかのような表情をした後、桐崎千華さんの眼を見て答える。
 「お母さん、今回の話の重大性は私でも充分理解出来ます。それでも!私はこの人たちと一緒に『魔女』を目指したいです!」
 「っ⁉︎」
 咲夜の予想していなかった言葉に桐崎千華さんは少し驚いたように咲夜を見る。
 (ーー咲夜は凄いな。あんな威圧感を出してた人に堂々と答えるなんて…。)
 僕がそんなことを考えいる間に、桐崎千華さんは心を落ち着けるためか、少しの間だけ眼を閉じていた。そして、咲夜と再び眼を合わる。
 「そう、貴方の考えは良く分かりました。」
 (ーーおや?意外と素直に引いてくれるのか?)
 そんな僕の淡い期待は桐崎千華さんが次の言葉で呆気無く打ち砕かれる。
 「ですが、こちらもそう簡単に貴方の言い分を認める訳にはいきません。」
 (ーーうーん、やっぱりこうなるよなぁ。)
 「どうしたら認めてくれますか?」
 咲夜の質問に桐崎千華さんは言葉を返す。
 「それは簡単な話ですよ。貴方の…、いえ貴方たちの価値を私に証明してくれれば今回の件は無かったことにしましょう。」
 「それって…。」
 「ええ、貴方たち4人で私と闘って証明してみせなさい。そうですね…、学園長、例年通りなら来月の長期休暇の後に行われている学園祭がありますよね?」
 桐崎千華さんは咲夜から学園長に視線を移して問い掛けた。
 「ああ、今年も実施する予定だよ。」
 「学園祭、ですか?」
 僕は学園長と桐崎千華さんとの会話に疑問を投げ込む。
 すると、この2人に代わって今まで成り行きを見守っているだけだった月兎先生が教えてくれる。
 「未だ説明してなかったけど、ウチの学園では毎年5月の短期休暇の後に学園祭を行ってるんだよ♪まぁ、学園祭と言っても基本的には生徒たちが何か出し物をすること自体はあんまり無くて、外部から武器防具等のアイテムを製作している企業や魔法関係の研究者を呼んで製品や研究内容の展示等をやってもらうだけなんだけどね♪後、一部の生徒たちにとって一番重要なのは『魔法戦』に出て自分たちの存在を世間にアピールすることだよ♪」

 『魔法戦』とは、主に『魔女』同士が仮想世界を生み出すことが出来る『夢の箱庭』と言う装置を使って仮想世界で戦闘を行うことを意味している。そして、その戦闘風景をメディアが世間に公開していることもある。
 主な目的は『魔女』たちの能力向上や世間に『魔女』について興味を持ってもらうためである。また、この『魔法戦』での勝敗を予想するギャンブルも国の公認を受けて行われている場合もある。
 
 月兎先生は説明を続ける。
 「それで、その『魔法戦』の中でも人気なのが、外部から『魔女』を呼んで学生たちとエキシビションマッチをしてもらうことだよ♪」
 (ーーつまり、桐崎さんの提案は…。)
 「そう、貴方たちが考えている通り、学園祭での『魔法戦』で今回の話に決着を付けましょう。宜しいですか?学園長。」
 桐崎千華さんの確認の言葉に学園長は肯定の意を込めて頷く。
 「別に構わないよ。むしろ、こちらとしても『剣の巫』に出場してもらえるなら有り難い話だしね。」
 「ありがとうございます、学園長。貴方たちもこれで良いかしら?」
 桐崎千華さんが学園長に軽く頭を下げた後、僕ら4人に確認をして来た。それに対して僕らはお互いに視線を合わせて意思確認をし、代表して僕が応える。
 (ーー正直、かなり厳しい闘いになるのは確実だけど、咲夜の為にも白黒付けるしかない!)
 「分かりました、僕らもそれで問題ありません。」
 僕は強い覚悟を決めて出して言葉に学園長は小さく笑みを浮かべると声をあげる。
 「どうやら話は決まったようだね。アタシはもう少し千華と話ことがあるから、月兎先生、稲葉先生、後はお願いして良いかい?」
 月兎先生は普段通りの明るいテンションのまま、右手で短く敬礼する。
 「了解です♪それじゃあ、失礼します♪」
 「失礼します。」
 学園長の指示を受けた月兎先生と稲葉先生は僕ら4人を引き連れて学長室を後にする。
 
 こうして、僕らのパーティに新たな試練が訪れることになった。

 学長室を出た僕らに未だ用があるらしく、月兎先生を先頭に僕らは事務室へと向かっている。
 (ーーそれにしても、学園長と桐崎さんは今、何ついて話をしているんだろう?)
 何となく、あの2人が僕らが去った後の会話が気になり学長室の方へと頭を向けたが、考えても仕方ないと判断して、僕は月兎先生に質問する。
 「ところで、月兎先生。僕らに何故事務室に向かってるんですか?」
 「うーん?この前やった試験の報酬が届いたから君たちに渡すためと今後の予定を決めるためだよ♪」
 「えっ?もう用意出来たんですか?」
 今後についての話も重要だが、報酬が用意されている事に僕は驚いた。だって試験が実施されたのは3月末で、今は4月頭ですよ?
 ちなみにこの報酬についてだが、試験で色々あったため僕の分は用意されないとのこと。
 (ーー自業自得と言えば、それまでだけど…、ちょっと残念な気分だ。)
 
 そうこうしている間に僕らは事務室へと辿り着く。

 「お疲れ様でーす♪」
 先頭の月兎先生が相変わらずの高いテンションで声をあげて、僕らを率いて事務室に入った。
 事務室には数人の事務員の方々がおり、月兎先生たちを見て、お疲れ様です等の挨拶を返してくれた。
 僕らは月兎先生に案内されるままに事務室内を進んで、3つの箱が置いてある長机の前まで移動した。
 (ーーこの箱が今回の報酬なのかな?)
 そんなことを考えていると、月兎先生は僕らに席に座るように促し、自分も稲葉先生と共に僕らの机を挟んだ対面に腰を下ろす。
 そして僕ら全員が席に着くと、月兎先生が説明を始める。
 「先ず、この前の試験での報酬がここに置いてある箱の中に入ってるから、名前と中身の確認をしてもらっても良いかな?もちろん、気に入らなければ返品してもらっても良いよ♪ただ、その場合は報酬はポイントで支給することになるけどね♪」
 月兎先生の言うポイントとは、この学園内にあるショッピング施設等で使えるお金で、各学生に支給されている生徒手帳等も兼ねている『デバイス』と言う端末を用いることで利用できる。
 (ーーまぁ、僕には何も支給されないから今回は関係の無い話だけどね。)
 僕がそんな風に思っていると、箱に書かれている名前を確認した姉さんたち3人がそれぞれの報酬を受け取る。
 
 3人の報酬の中身は以下のようになっていた。

 先ず姉さんだが、箱の中には大口径のハンドガンが入っていた。
 稲葉先生が言うには、この銃の目的は武器としての機能ではなく、魔法を用いる際の術式、つまりイメージの補助のためらしい。
 確かに姉さんの魔法属性は『想像』と言う自分のイメージしたものの殆どを魔法で創り出すことが可能だが、逆に言えば、魔法の選択肢が多過ぎるとも言える。そのため、戦闘時で咄嗟の判断が必要な場面に対応出来ない可能性がある。
 要するに、魔法のイメージを弾丸系統に集中させることで、瞬時に魔法を使えるようにしようと言う事だ。もちろん、場面によっては、その高い汎用性の魔法属性を存分に発揮することもあるだろう。

 そして次は咲夜のだが、こちらは指先の部分が露出しているオープンフィンガータイプの黒色のグローブだった。
 もちろん、ただのグローブではなく、学園長の知り合いに『糸』の魔法属性を持っている『魔女』がおり、その人に製作を依頼したらしい。
 そのため、只の糸とは比較出来ない強度の糸で作られており、並大抵の刃物では傷一つ付かないらしい。
 これは『魔法無効化』と言う特殊な魔法属性を持っている咲夜でも扱えるように考えられている。

 此処で咲夜の『魔法無効化』について今、僕ら把握している限りを説明しようと思う。
 先ず、前提である「魔法とは何か?」と言うと、この世界では魔素と呼ばれるエネルギーが存在しており、人間は大気中の魔素を呼吸と同様に吸収と放出を繰り返している。そして魔法を使える適正である魔法属性を持つ人が、その魔法属性に応じた魔法のイメージ、つまり術式を編み出して、その術式に必要な魔素を注ぎ込む事で様々な現象を起こす事が出来る。
 また、魔法とは大きく分けると『魔術』と『法術』の2つに分類される。
 『魔術』ーー使用者の魔法属性に適応した術式と魔素によって、術者のイメージを具現化する方法。発動後は外部からの干渉等で術式が崩壊するか、エネルギー源である魔素が尽きるとその効力を失う。
 『法術』ーーこちらは使用者の魔法属性に適応した術式と魔素を用いて、物質等に直接作用させて変化させる方法。例えば、『金属』の魔法属性を持っている人が鉄の塊に干渉して、その形を腕輪や剣に変形させることが出来る。他にも、対象物を複製したり、その強度を高めたり等、使用者の技量と術式次第で出来ることは大分異なる。そして、この法術は魔術と異なり術式や魔素が無くなっても変化させた物資は元に戻らない。そのため建造物の建設等で大きく貢献している。もちろん『法術』は対象物が無い場合時には発動させる事が出来ない。また、高い技量を持っている人の一部には、対象物を魔素に逆変換して自分の中に取り込むことが出来る人もいるらしい。
 以上が魔法、つまり『魔術』と『法術』の簡単な説明になる。もちろん、例外的な魔法も存在するが、今は割愛させてもらう。
 ちなみに僕の今の姿は僕自身の変化魔術を用いており、この魔術で僕の姿は姉さんをベースにした女性の姿をしている。もちろん魔術である以上、魔素を定期的に供給しないと途中で効力を失う。ただ、維持するための魔素量は微々たるもので戦闘に大きな支障が出るどころか、本来放出する魔素を維持に用いることで、相手から見ると僕が放出している魔素量はかなり少なく見える。そのため、相手は魔素を感知する『魔力感知』で僕を感知するのが難しくなる。
 さて、話を咲夜の『魔法無効化』に戻そう。咲夜の『魔法無効化』は、どうやら彼女が放出する魔素の濃度が一定以上になると効果を発揮し、その時には放出された魔素が薄い白銀の色をした別のエネルギー、僕らは『オーラ』と呼んでいるものに変化する。
 この『オーラ』に『魔術』が触れると、ほぼ全ての『魔術』がその効果を失う。
 そして『法術』の方はと言うと、『オーラ』を術者や『法術』の対象物と接触している状態だと『法術』の発動はしないが、既に法術で変化した物質を元に戻すことは出来ない。
 これが咲夜の『魔法無効化』の効果である。どんな仕組みなのかは僕も興味があるので、今後、機会があれば色々と試してもらいたいと思っている。
 
 そのような理由により、今回の咲夜の報酬であるグローブは近接戦で闘う咲夜には攻防が可能な、相性の良いアイテムだと思う。

 最後に朱莉さんのは、レイピアの様な細身の剣と同じく細身の短剣だった。これらには、それぞれの柄の下に『魔石』が組み込まれていた。
 先生たちの説明によると、この『魔石』は空間系統の魔法が刻まれており、剣の魔石に魔素を注ぎ込む事で、短剣を剣の持ち主の手元に瞬間移動させることが出来るらしい。
 そのため、近距離戦は剣と短剣の二刀流、遠距離戦では短剣を投擲して剣に付いている『魔石』の力で回収すると言った闘い方が出来る様になる。
 もちろん両方とも細身ではあるが、『法術』によって強度を上げているため、滅多に折れたり刃毀れしたりはしないとのこと。

 以上が3人に与えられた報酬になっている。
 (ーー正直言って、かなり羨ましい。)
 「さてと、報酬の中身も確認してもらったし、そろそろ今後の事について話していこうか♪」
 そんな僕の気持ちなんて関係無く、話題は今後の事に移る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...