僕、魔女になります‼︎ 2巻

くりす

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第3章〜可能性の萌芽〜

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 月兎先生との最初に行った『魔法戦』の特訓が開始してから早1週間が過ぎた。
 この1週間は月兎先生と稲葉先生からのアドバイスや『魔法戦』を繰り返しつつも、個人でも『魔力制御』を中心にした鍛練や新たな魔法を考察して来たおかげで、パーティの実力は確実に伸びてきている。
 そんな僕らは今、もうすぐ正午に差し掛かる時刻の中、講義棟の1室にて座学の講義を受けている。この『徳島魔法科大学校』では基本的に先生が生徒たちに行う講義は平日の午前中のみで、それ以外は各個人の自由に学園内の施設を使って自主訓練を行うようになっている。これは学園長の方針で『自ら強く成ろうとしなければ、強くは成れ無い』と言う考えらしい。
 もちろん、必要だと判断したら個別に先生たちに指導をお願いする事も出来る。
 
 話を講義に戻そう。
 月兎先生は教室に備え付けられている投影装置を使って講義についての映像を出しながら、細かい内容や補足を行っている。
 「…と、言った具合に『法術』は『魔術』と違って1つの術式で高い効力を出すのが難しい代わりに、術式や魔素が無くなっても効果は残る訳だけど、この仕組みを利用して複数の『法術』を重ね掛けする事で大きな効果を生み出せるんだよね♪」
 教室内では月兎先生の説明とその内容をノートに書き取る為のペンを走らせている音以外は殆ど存在せず、平穏な日常が続いている。
 「もちろん、『法術』を重ね掛けすると言っても、使用者の技量に大きく左右されるし、強化値が上がれば上がるほど難しくなるのは当然だもんね♪ただ、これが複数の魔法属性を使うと面白い事が出来るんだよ♪何か分かるかなぁ?」
 月兎先生の問いに多くの生徒か疑問符を浮かべている。僕自身も良く分からない状態である。
 (ーー複数の魔法属性を使う?魔法属性が異なるんだったら、1つの対象物に異なる魔法属性の『法術』は使えないと思うし…。どう言う事なんだろう?)
 そんな僕を含む生徒たちの反応に満足したしたのか、月兎先生は揶揄うような笑顔を浮かべる。
 「う~ん、どうやら分かる子は居そうに無いね~♪じゃあ、説明していくよ♪ちゃんと聴いておくように♪」
 月兎先生は生徒たちに準備するためか、一旦間を空ける。
 「分かり易くする為に具体例を出すけど、先ず『木』の魔法属性を持っている人が木材の強度を『法術』で高めまーす♪次に、『槍』の魔法属性を使える人が強化された木材を『法術』で槍の形に作り変えた後、その槍の強度を上げる『法術』を使うとどうなるでしょうか?」
 月兎先生は生徒たちに改めて問題を投げかけた。
 (ーーまさか、木の魔法属性と槍の魔法属性での『法術』を使った強化分が合計されるのか?その場合、その槍の強度はどうなるんだ?)
 僕を含めた生徒たちの一部がその事に気付いて少しだけ教室が騒めき出す。
 月兎先生は生徒たちを静かにさせる為に両手を2回程叩く。
 「はい、はーい♪静かにね♪それじゃあ、この問題の答えだけど…、結論から言うと、『木』と『槍』の2つある魔法属性による強度の上昇は両方とも木材に効果を与える事が出来まーす♪すると、木で出来た槍の筈なのに考えられない程の強度になります♪これは『法術』の重ね掛け、と呼ばれていて使用している人も少なくは無いから、しっかり覚えておくように!そうじゃないとテキトーな『魔力障壁』を使った所為で、相手のレベルによっては攻撃を防げないと言った事があるからね♪」
 (ーー木製の槍でさえ、そんなに高い攻撃力を出せるなら金属製の武器を『法術』の重ね掛けで強化されると、生半可な『魔術』以上に警戒する必要があるなぁ…。と言うか、もしかしなくても『剣の巫』って呼ばれている桐崎さんも使っているのか?)
 そんな僕の疑問を見透かしたかのように、月兎先生は講義を進める。
 「ちなみにだけど、この『法術』の重ね掛けを使っている『魔女』の中でも有名な人を出すなら、『剣の巫』こと桐崎千華さんだろうね♪あの人の強化された剣が放つ攻撃は凄まじいの一言に尽きるよ♪」
 (ーーやっぱり、そうなのか。そうすると、『魔力障壁』以外の防御手段とかも考えた方が良いかもしれないな。それにしても、こう言った講義の中で桐崎さんの情報を出してくれると言うのは有難いよね。)
 僕が月兎先生に感謝の気持ちでいると、その思いが届いたのか月兎先生と自然に眼が合った。
 すると、月兎先生は何を思ったのか僕の方に普段とは違う意味有り気な笑顔を見せる。
 (ーーあれ?なんか、この展開に覚えがある気がするんだけど…。)
 僕がどことなく既視感と共に嫌な予感を覚えているのなんて関係無いまま、月兎先生は話を進める。
 「そう言えば、一部の子は先輩とから話を聴いて知ってるかもしれないけど、来月の長期休暇が終わった後に学園祭を行う事になってまーす♪」
 学園祭と言う単語を聴いて、一部の生徒間で小さな声で話し合いが始まる。
 「それで学園祭について簡単に説明するね♪詳細については『デバイス』で調べる事が出来るから興味を持てば、各自で確認するように♪」
 月兎先生はそこから学園祭についての説明を始め、話し合っていた生徒たちも静かになった。とは言っても、僕らは1週間程前に説明を聴いているので、ここでは割愛させてもらう。
 (ーーうーん、さっきの嫌な予感は気のせいだったのかな?月兎先生も普通に説明しているだけだしなぁ…。)
 僕がそんな事を考えている間に月兎先生の説明は終わりを迎えようとしていた。
 「まぁ、そんな訳だから『魔法戦』とかのエキシビションに参加したい人は事前に事務室で参加希望届を提出するように♪でも、届を出しても必ず『魔法戦』に出れる訳では無いから、その辺は理解しておいてね♪それで実は~♪」
 そこで月兎先生は一呼吸置く。そして、次に月兎先生が出した言葉で僕が感じていた予感は気のせいでは無かった事を思い知る。
 「なんと!紲名玲さんたちのパーティはあの『剣の巫』の桐崎千華さんとのエキシビションが行われる事が決まってま~す♪みんな、応援してあげてね♪」
 月兎先生の言葉を聴いて教室内の生徒たちが騒がしくなる。
 (ーーやっぱり、気のせいじゃ無かったか!)
 とは言え、遅かれ早かれ告知はされるだろうし仕方ないと言えば仕方ない気はする。
 そうこうしている間に、講義の終了時刻を告げるチャイムが教室に鳴り響いた。
 それを聴いた月兎先生は右手を高く挙げる。
 「本日の講義は以上でーす♪ご飯、ご飯♪」
 月兎先生はいつもと同じ様に、そう言い残すと教室を後にする。
 幸いにも誰から声をかけられ騒動になる事は無かった。皆、興味はあるが積極的に声をかけようとはしなかった。
 そのため、僕ら4人は他の生徒たちから好奇な視線を向けられながらも昼食のために食堂へと若干速足で移動をした。


 「はぁー、何とかなったのかな?」
 いつものようにワイワイと賑わっている食堂にて、各々が注文した料理を受け取り、席に座った後、僕は他の3人に確認するために言葉を溢した。
 「未だ、そうと決まった訳では無いと思うけどね。」
 「ん?どう言う事ですか?朱莉?」
 「これを見てみて。」
 咲夜の質問に朱莉さんは僕らに『デバイス』の画面を見せてくれる。
 「これって学園祭についてのページ、かしら?」
 姉さんの言う通り、朱莉さんの『デバイス』にはこの学園での学園祭について説明が表示されていた。
 「そして、ここを見てちょうだい。」
 朱莉さんが『デバイス』をスイスイと操作すると、そこには僕ら4人と桐崎千華さんがエキシビションマッチを行う事を大々的に発表している場所が映っていた。
 朱莉さんの『デバイス』で見ることが出来る以上は、他の生徒たちもこの情報を知ることが可能になっていると言うことだ。
 「なるほどね。これがキッカケで変なトラブルが起きなければ良いんだけど…。」
 「玲。それ、完全にフラグでしょ?」
 「……そんな事無いと信じたい。」
 「フラグ?って何ですか?」
 「んー、なんて言えばいいのか…。」
 フラグの意味が分からない咲夜にどう説明しようか考えていると、突然声を掛けられた。
 「隣、宜しいかしら?」
 (ーーこの声は、たしか…。)
 僕が聞き覚えのある声の方へ視線を向けると、そこには勝ち気な金色の瞳、瞳と同じ色をした腰まで届く髪、育ちの良さを彷彿させる女性らしい体躯をした、如何にもお嬢様と言った容姿を持った人物が僕の方を見ていた。
 「清水さん?」
 彼女の名前は清水雷華(しみず らいか)と言う。
 「こんにちは、玲さん。」
 そんな清水さんの後ろから、ひょっこりと顔を見せて柔和な笑みを浮かべる女性が現れる。
 その人は矢野瑞樹(やの みずき)さんと言い、清水さんのパーティメンバーの1人である。瑞樹さんはセミロングの薄い青色の髪に、相手に安心感を与える優しい黒色の眼をしている。身長は僕より頭1つ分低いくらいで、大人しそうな雰囲気を出している。
 僕と姉さんは彼女たちとある講義の時に『仮想空間』で戦闘した経験がある。
 「こんにちは、瑞樹さん。折角だし、一緒にどうかな?」
 僕は念の為、姉さんたちの意見を確認しておく。3人共、特に否定する理由も無いので了承してくれた。
 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてさせて貰いますね。」
 瑞樹さんは丁寧なお礼の言葉を述べた後、清水さんと一緒に僕らが使っている席の隣にある席に腰を下ろした。
 彼女たちに少し遅れて2人の女性がやって来たが、特に迷い無く席に着いたため、この2人が清水さんたちの残りのパーティメンバーなのだろう。
 全員が着席したのを確認した清水さんが提案をする。
 「面と向かって、話をするのは初めての方たちも居ますから、お互いに自己紹介でもしておきましょうか?」
 僕ら全員が軽く頷いて肯定の意を表す。
 「それでは、私からさせてもらいますね。私は、清水雷華と申します。以後、宜しくお願いします。」
 清水さんは堂々として振る舞いで自己紹介を終えた。
 「次は私がしますね。私の名前は矢野瑞樹と言います。これから気軽に話し掛けて貰えると嬉しいです。」
 瑞樹さんも親しみやすさを感じさせる暖かな笑顔で清水さんに続いた。
 「じゃあ、次は自分の番っすね。自分の名前は風音鈴(かざね すず)と言うっす。鈴と呼んで下さい。よろしくお願いしまっす。」
 意気揚々と右手を挙げながら自己紹介をした女性は純粋な子どもみたいな翠色の瞳に、肩に届かない程度の明るいイエローグリーンの髪をしている。背丈は僕と同じくらいで、ボーイッシュな顔立ちに活発そうなイメージを受ける。また、清水さんたちのパーティ内で唯一ズボンタイプの制服を着ているのもあって、パッと見ただけで性別を判断するのは難しそうだ。
 (ーーまぁ、魔法使いの時点で基本的に女性のはずなんだけどね…。)
 僕が若干失礼な事を考えていると、鈴さんの隣に座っている女性が右手を胸に当てながら、自己紹介を始める。
 「それでは、次は私の番ですね。私の名は日野神楽(ひの かぐら)と申します。」
 日野さんはとても洗練された優雅な仕草で小さく礼をした。
 彼女はまるで腕利きの職人が時間をかけて制作したかのような美しいスカーレットの長い髪を持ち、均整の取れた白い顔立ちをより引き立ていた。また、眼は赤色が少し混ざった金色をしており、モデルも顔負けしそうな体躯をしている。全体的にファンタジー世界でのお姫様のような風貌ながらも、どこか妖艶さも感じる雰囲気だ。
 (ーーただ、そんな容姿なのに食べようとしているのが和食のせいでミスマッチ感が凄いなぁ…。)
 そんなこんなで清水さんたちの自己紹介が終わったので、僕らも簡単に自己紹介を行った後、昼食を食べ始めた。
 
 「ところで、玲さん。少し確認したい事があるですが良いですか?」
 「ん?何かな?」
 総勢8人といった中々な人数で雑談を交えながら昼食を取っていると、清水さんが周囲に気を配りながら、少し声の音量を下げて僕に問い掛けて来た。
 「月兎先生が先程言っていた事なんですけど、貴方たちは事前に話を聴いていたのかしら?」
 (ーーあぁ、桐崎さんとの事か…。素直に咲夜の事情を説明して、余計な心配させるわけにもいかないし…、ここは申し訳ないけど少しお茶を濁す感じで…。)
 「あー、うん。簡単に説明すると前の試験での報酬を受け取りに学長室に行った時に、偶然にも桐崎千華さんと会う事が出来て、その後話が進めて行く間に学園祭でエキシビションをやろうって言う話題になった感じかなぁ。」
 「ふーん、そうですか…。」
 清水さんはやはり納得しきれないのか、僕にジトッとした視線を向けて来た。
 (ーーうーん、やっぱり納得してくれないよなぁ…。さて、どうしようか…。)
 僕がどう言えば良いのか考えていると、清水さんは僕がしないと判断してくれたのか、小さく息を吐くと普段通りの表情に戻す。
 「まぁ、深く詮索するのも野暮ですね。それで、特訓の調子はどうですか?」
 (ーーあれ?清水さん、こっちに気を遣ってくれたのかな?)
 「それに関しては、順調な方だと思うよ。」
 実際、1週間前よりも戦闘そのものに慣れてきたおかげか、能力はもちろんな上、戦闘中の思考にも少しずつだが余裕が出てきた。このままのペースなら来月には、きっとかなりの実力が身に付いていると思う。おそらく、姉さんたちも同じ考えだろう。
 「それはなによりです。私たちも精進しないといけませんね。」
 「雷華ちゃんの言う通り、私たちも頑張りましょう!」
 「私たちも学園祭のエキシビションマッチに参加してみるを一考する必要がありそうです。」
 瑞樹さんと日野さんは清水さんの言葉に同意を示していた。鈴さんもうんうんと頷いてる。
 「そうっすね。自分も挑戦してみたいっす。それにしても、やっぱ『剣の巫』と闘えるのは凄い貴重っすから、羨ましい限りっすね!」
 鈴さんは高いテンションで声を上げたのに対して、日野さんが少しだけ眉を寄せる。
 「鈴、そのような事をこのような場所であまり大きな声で言うのは感心しませんよ。とは言っても、もう手遅れかもしれませんが…。」
 日野さんはそう言っている途中に、一瞬だけだったが僕らから視線を外して他所の方向に向けた。
 (ーーん?どう言う意味だろう?)
 僕は日野さんが視線を向けた方を見てみると、僕らが使っているテーブルに2人組が歩いて来ているが視界に映った。
 (ーークラスの人では無いけど、学生用の制服を着ているから先輩なのかな?)
 そんな2人は僕らの場所にやって来た後、その内の片方の人物が両手を腰に当てる。
 「なあ、アンタたち。今、『剣の巫』について話をしてたみたいだけど…、ひょっとして今度の学園祭でエキシビションに出る紲名玲たちのパーティについて、知ってるのかい?」
 質問を投げかけて来た女性は淡い銀色の短髪と黄色い瞳をしており、力強さと機動力の高さを感じさせる健康的な褐色の肌している。例えるなら、機敏な肉食動物と言ったところだろうか。
 もう一方の女性は、緑色が入った黒いロングヘアーに茶色い眼でシミ1つない白い肌が特徴的で、まるで森の住人のような雰囲気を醸し出している。
 この2人のイメージを一言で表すなら、『動と静』と言った感じだろうか?
 「えっと…、一応、僕がその紲名玲ですけど…、何か用ですか?」
 僕は先輩(?)の質問に左手を小さく挙げながら素直に答える。
 「ああ、アンタが紲名玲なんだね。用件の前に、先ずは自己紹介しておくよ。アタシの名前は石川真虎(いしかわ まとら)で、こっちは森内悟(もりうち さとり)って言うんだ。」
 紹介された森内先輩(?)は軽く会釈をしてくれる。
 「みなさん、よろしく。一応、補足しておくと、私たちは今年度から3科生だから貴方たちの2つ上の先輩になるわね。」
 「それでアタシたちの用ってのは、『魔女見習い』でも無い1科生が『魔女』の中でも高い実力者である『剣の巫』と闘うのが納得いかないって言う話さ。」
 石川先輩の言っている『魔女見習い』とは『魔女』になるための試験を受けるのに必須の資格であり、魔物を討伐など有事の際には『魔女』の資格を持っている人の許可の下で魔法による作戦参加が認められている。
 また、『魔女見習い』と『魔女』の試験はそれぞれ1年に2回実施されおり、この学園を含む多くの魔女育成校では入学して1年以内に『魔女見習い』を、そして4年以内に『魔女』の資格を取得出来なければ、原則として退学処分になる。ちなみに、『魔女』の資格を取得さえすれば、その年度の終了時に卒業となるので早くから実力があれば入学して2年で卒業することも可能である。僕らの担任である月兎先生と稲葉先生は2科生で『魔女』になって卒業した実力者ということだ。
 「だからアンタたち4人には『剣の巫』と闘うのに相応しい実力があるのかアタシたちに見せてもらいんだよ。」
 「恐らくですけど、この考えには学生たちの多くは賛同すると思いますよ。実際に声に出すかは別にしてですけど…。」
 (ーーまぁ、普通に考えれば無条件で納得する方が難しい話だよな。)
 石川先輩と森内先輩の意見に内心で同意した僕は先輩方に質問をする。
 「では、どうすれば納得してくれますか?」
 そんな僕の問い掛けに対して答えは先輩たちの後ろから返って来る。
 「事情は聴かせてもらったよ♪それだったら提案なんだけど、玲ちゃんたちと真虎ちゃんが『魔法戦』をやって他の生徒たちに観戦してもらえば良いよ♪なんだったら、私が立ち会いをしてあげようか?」
 「げっ、リトじゃねえか!どうしてここに居るんだよ⁉︎」
 唐突に後ろから聞こえた月兎先生の声に石川先輩は驚きを隠せなかった。若干声色に嫌気が混じっていたように聞こえたが気のせいだろう…。
 月兎先生の魔法属性は『音』で、その魔法属性による『恩恵』も強力であり、小さい音を聴き取る事も出来るし、衝撃波のような大きな音にも耐性を持っている。そのため同じ食堂内に居れば僕らの会話を聴くことも可能だろう。
 ちなみにだが、この学園では生徒間での『魔法戦』には教師等の立ち会いは原則として必須になっている。例え『仮想世界』での戦闘とは言え、危険行為等の監視が必要だし、戦闘内容が生徒たちの評価にも影響するからである。
 「昼休みに食堂に居るのは普通でしょ?それと…、幾ら元同級生だったとは言え、今は教師と生徒、そして『魔女』と『魔女見習い』の立場なんだから、言葉はちゃんと選ぼうね♪」
 「はい…、すみませんでした。」
 普段通りの笑顔だったが、言葉には格の違いを感じさせる程の圧力があって石川先輩は直ぐに謝罪を口にした。
 (ーーそれにしても、月兎先生が立場とか言葉を選ぶとか言っても若干説得力が無い気がする…。)
 そんな失礼な事を考えていたのが見透かされたのか、月兎先生は僕の方を見つめて来る。
 「ん?何か言いたい事でもあるのかな、玲ちゃん?」
 (ーーマズい!なんとか誤魔化さないと…。)
 「えっと…、僕らと先輩方が『魔法戦』を行なって、僕らの実力を見てもらおうと言うのは良く分かりましたけど…、もし、それでも納得の出来ない生徒たちが現れた場合はどうするつもりなんですか?」
 「そうだね~、人数が少なければ特に気にする必要は無いとは思うけど、あまりに大人数がその考えの場合は私を含む教師陣と学園長で玲ちゃんたちがエキシビションに出場して良いのか再考する必要があるだろうね♪」
 「なるほど…、良く分かりました。」
 (ーー先輩たちの『魔法戦』で他の学生たちに認めてもらわなければ、桐崎さんと闘う事すら出来ない可能性があるのか…。もし桐崎さんと闘えなければ、おそらく無条件で咲夜は退学させられるだろうから、この『魔法戦』は絶対に負けられないイベントって事か。)
 「明日花ちゃんたちもオッケーかな?」
 月兎先生の確認に姉さんたちも、この『魔法戦』の重要性を理解しており3人共真剣な表情で頷いた。
 「じゃあ、試合開始時刻なんだけど…、今日の午後3時からで、みんな大丈夫かな?」
 月兎先生の言葉に僕らと先輩たちは問題無いという意を込めて首を縦に振った。
 「オッケー♪じゃあ、後は他の生徒たちに知られておかないとね♪」
 そう言うと月兎先生は自身のポケットから『デバイス』を取り出すと、スイスイと軽やかに操作を行う。
 暫くすると、僕ら生徒たちの『デバイス』に僕ら4人と先輩たちが『公開型魔法戦』を行うといった内容の通知が届いた。
 「よし♪これで通達もバッチリだね♪」
 (ーーこれ、今作ったの⁉︎幾らなんでも早過ぎないか?)
 『デバイス』に届いた通知内容のクオリティはレベルの高い広告のようだったので、正直言って月兎先生のスペックの高さに驚かざるおえない。
 僕らが呆気に取られていると月兎先生は『デバイス』を自身のポケットに戻す。
 「それじゃあ、私はお昼ご飯を食べに行くから♪今日の2時半に『仮想訓練棟』へ集合って事でヨロシクね♪」
 こうして月兎先生はまるで嵐のように去って行き、石川先輩たちも僕らのテーブルを後にした。

 僕らのテーブルに静寂が戻り始めたと同時に鈴さんが大きく頭を下げた。
 「本当に申し訳ないっす!自分が大きな声を出したせいで玲さんたち迷惑を掛けてしまい、ごめんなさいっす!」
 「別に気にしなくても大丈夫だよ。きっと遅かれ早かれ、似たような状況になってただろうし…。」
 「そうそう、玲の言う通り!もう決まちゃった事なんだから!」
 僕と姉さんの言葉に同じ意見であろう咲夜と朱莉さんも続く。
 「それに最終的には月兎先生が決めた事ですからね、鈴さんがそこまで気にする必要は無いと思います。」
 「そうね、私も咲夜ちゃんたちと同じ考えよ。」
 僕らの言葉で鈴さんは先程までの明るい雰囲気に立ち戻る。
 「そう言ってもらえるとありがたいっす。せめて、『魔法戦』の応援を頑張らせてもらうっす!」
 そうして、僕ら8人は昼食を再開した。
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