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一章 入学旅行一日目
1-03a 空飛ぶ魔法士学園
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「う、う、嘘でしょ……、これ……ああ、ああっ!! ここはっ……『ククリコ・アーキベラゴ』!! 魔法士たちの、空飛ぶ古城学園!!」
そう、ここはまるで『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』という物語の世界そのものだった。
霧の目の前にあるこの荘厳な城は、物語の中と同じように大空の只中にあり、宙に浮かんでいる。それは霧の現実世界ではありえない、壮観な眺めだった。
霧が先程から感じていた「どこかで見た」という感覚――本棚の並んだ講堂、重厚な二枚扉、辞典を置く台座、そして霧にケープとホルダーをくれた女性、頬に傷のある学園長――それらはすべて、その物語の中に出てくる風景と人物そのものだったのである。
印象的な空飛ぶ古城学園を目にして初めて、それらとの合致がドッと脳内に押し寄せ、霧はめまいを感じた。
(嘘でしょ……なんで?! ここ、あたしが立ってるこの場所、『ククリコ・アーキペラゴ』の魔法士学園、正面玄関じゃないのぉ! 何これ、実写版映画のセットか何か?! え、実写版作られるの時間の問題だと思ってたけど、もうできてたの?!)
『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』――それはファンタジーに分類される、日本発祥の人気小説だ。
主人公の名前は、チェカ。『辞典魔法』と呼ばれる特殊な魔法を繰り出す天才魔法士だ。彼を中心につづられるエピソードを鮮やかに描き出すこの物語は、軽快な文体と展開で、読者をぐいぐい引き込んでゆく。
この物語の魅力を語り出せばきりがないが、緻密に作られた独自設定、社会的格差の無い解放感に満ちた人々の暮らし、視覚的にも限りなく美しい世界の光景、キュート&クールな『言獣』という不思議な存在など、どこを切り口にしても興味深い。
また、作中で日本を介入させている点も、多くの日本人読者の心を鷲掴みにした。
この『ククリコ・アーキペラゴ』の世界は『言語双生界』として日本と繋がっている、と言う設定で、作中の登場人物たちは誰もが普通に日本語を使用しているのだ。その一方で、人の名前や地名などは、この異世界に昔からあるククリコ語と呼ばれる言葉がカタカナで表されていて、異世界の味付けも同時に為されている。
異世界文化と、日本文化の華麗なるコラボ、そして西洋ファンタジーのような風景に溶け込んだ、日本語。このハイブリッド感のある雰囲気がまた、作中に独特の面白さを醸し出している。
(ひらがな・漢字・カタカナ・アルファベット、全部そのまま物語の中で生かされてるんだもんなー、ほんと、クレイジーなんだけど妙に説得力あって、感心した設定になってったけ。何よりみんな日本語で会話して、言語を使って繰り出す魔法がこれまた日本語なんだもん、そりゃ日本人としては、はまるわ。親しみ無限大よ)
何より、「外国語の方がオシャレでしょ」などと他国文化におもねることなく、言語としてはマイナーな日本語を異世界の標準言語に取り入れているところが素直に面白い、と霧は物語を思い返した。
この物語が色鮮やかな挿絵と共に文庫本として発売されると、ファンタジー好きな若者の間に口コミで広がり、あっという間に老若男女問わず幅広い層に支持されるようになった。
やがて国民的人気を得たこの物語は、すぐさまコミカライズ、アニメ化され、今ではゲームも開発中。最初の巻が発売されてから3年足らずで、多くの人に愛されるベストセラー作品に成長した。
もちろん霧もすぐにファンになり、小説はもちろん、漫画もアニメも欠かさず鑑賞している。今も霧のバッグの中には、今日発売されたばかりの新刊――8巻目の文庫本が入っている。図書館に行く前に買ったもので、閉館まで図書館の本を読んだ後、家に帰ってからじっくり読もうと思って大切にしまってあるのだ。
その物語の世界が、今、目の前に広がっている。
「あたし……夢を見てるのかな?! 物語の中に紛れ込むなんて……」
きっとそうだ、と霧は思った。夢を見ているに違いない、と。
市立図書館で本を貪り読んでいた途中で眠気に襲われ、きっと机に突っ伏して寝ているのだ、と。明晰夢は、霧の得意技だ。
それにしても、なんというリアルな夢だろう。
(あたしの明晰夢もここまで進化したか――ククク、凄いぞ自分!!)
自画自賛に満ちた霧の口元が、にんまりと歪む。我ながらキモい、と自覚しながらも霧は不気味な笑みがこぼれるのを止めることが出来なかった。ざわざわと、血が沸き立つような異様な興奮に肌が粟立ち、喜びに体中が震える。
(ああ、なんて素晴らしい!! ククリコ・アーキペラゴの世界にダイブできるなんて! この夢、いつまでも覚めないで! 何ならもう一生、覚めなくてもいい!)
*作者からのお願い*
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そう、ここはまるで『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』という物語の世界そのものだった。
霧の目の前にあるこの荘厳な城は、物語の中と同じように大空の只中にあり、宙に浮かんでいる。それは霧の現実世界ではありえない、壮観な眺めだった。
霧が先程から感じていた「どこかで見た」という感覚――本棚の並んだ講堂、重厚な二枚扉、辞典を置く台座、そして霧にケープとホルダーをくれた女性、頬に傷のある学園長――それらはすべて、その物語の中に出てくる風景と人物そのものだったのである。
印象的な空飛ぶ古城学園を目にして初めて、それらとの合致がドッと脳内に押し寄せ、霧はめまいを感じた。
(嘘でしょ……なんで?! ここ、あたしが立ってるこの場所、『ククリコ・アーキペラゴ』の魔法士学園、正面玄関じゃないのぉ! 何これ、実写版映画のセットか何か?! え、実写版作られるの時間の問題だと思ってたけど、もうできてたの?!)
『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』――それはファンタジーに分類される、日本発祥の人気小説だ。
主人公の名前は、チェカ。『辞典魔法』と呼ばれる特殊な魔法を繰り出す天才魔法士だ。彼を中心につづられるエピソードを鮮やかに描き出すこの物語は、軽快な文体と展開で、読者をぐいぐい引き込んでゆく。
この物語の魅力を語り出せばきりがないが、緻密に作られた独自設定、社会的格差の無い解放感に満ちた人々の暮らし、視覚的にも限りなく美しい世界の光景、キュート&クールな『言獣』という不思議な存在など、どこを切り口にしても興味深い。
また、作中で日本を介入させている点も、多くの日本人読者の心を鷲掴みにした。
この『ククリコ・アーキペラゴ』の世界は『言語双生界』として日本と繋がっている、と言う設定で、作中の登場人物たちは誰もが普通に日本語を使用しているのだ。その一方で、人の名前や地名などは、この異世界に昔からあるククリコ語と呼ばれる言葉がカタカナで表されていて、異世界の味付けも同時に為されている。
異世界文化と、日本文化の華麗なるコラボ、そして西洋ファンタジーのような風景に溶け込んだ、日本語。このハイブリッド感のある雰囲気がまた、作中に独特の面白さを醸し出している。
(ひらがな・漢字・カタカナ・アルファベット、全部そのまま物語の中で生かされてるんだもんなー、ほんと、クレイジーなんだけど妙に説得力あって、感心した設定になってったけ。何よりみんな日本語で会話して、言語を使って繰り出す魔法がこれまた日本語なんだもん、そりゃ日本人としては、はまるわ。親しみ無限大よ)
何より、「外国語の方がオシャレでしょ」などと他国文化におもねることなく、言語としてはマイナーな日本語を異世界の標準言語に取り入れているところが素直に面白い、と霧は物語を思い返した。
この物語が色鮮やかな挿絵と共に文庫本として発売されると、ファンタジー好きな若者の間に口コミで広がり、あっという間に老若男女問わず幅広い層に支持されるようになった。
やがて国民的人気を得たこの物語は、すぐさまコミカライズ、アニメ化され、今ではゲームも開発中。最初の巻が発売されてから3年足らずで、多くの人に愛されるベストセラー作品に成長した。
もちろん霧もすぐにファンになり、小説はもちろん、漫画もアニメも欠かさず鑑賞している。今も霧のバッグの中には、今日発売されたばかりの新刊――8巻目の文庫本が入っている。図書館に行く前に買ったもので、閉館まで図書館の本を読んだ後、家に帰ってからじっくり読もうと思って大切にしまってあるのだ。
その物語の世界が、今、目の前に広がっている。
「あたし……夢を見てるのかな?! 物語の中に紛れ込むなんて……」
きっとそうだ、と霧は思った。夢を見ているに違いない、と。
市立図書館で本を貪り読んでいた途中で眠気に襲われ、きっと机に突っ伏して寝ているのだ、と。明晰夢は、霧の得意技だ。
それにしても、なんというリアルな夢だろう。
(あたしの明晰夢もここまで進化したか――ククク、凄いぞ自分!!)
自画自賛に満ちた霧の口元が、にんまりと歪む。我ながらキモい、と自覚しながらも霧は不気味な笑みがこぼれるのを止めることが出来なかった。ざわざわと、血が沸き立つような異様な興奮に肌が粟立ち、喜びに体中が震える。
(ああ、なんて素晴らしい!! ククリコ・アーキペラゴの世界にダイブできるなんて! この夢、いつまでも覚めないで! 何ならもう一生、覚めなくてもいい!)
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