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一章 入学旅行一日目
1-03b ああ入学旅行
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霧は異世界の空気を胸いっぱいに吸い込むと、足を前に踏み出した。どこもかしこも、臨場感に溢れている。青い空には白い雲が流れゆき、風に乗ってどこからか鐘の音が聞こえてくる。あれは、この古城学園を歓迎する人々が鳴らしているものだ。霧は耳を澄ませ、感動に目を潤ませた。
(ああ――本当に、どこもかしこも、物語の通り!)
愛称で『古城学園』と呼ばれるこの空飛ぶ城は、元は地上に建っていた。その頃は王の住まう城だったが、1500年以上も昔に起きた大変革の折、ダリアと言う名の天才魔法士によって空中に運ばれたものだ。以来、特殊な魔法でずっと大空を浮遊している。
霧が今立っている場所は、城の正面玄関にあたる場所で、少し先に進んだ先に、幅の広い階段が下へと続いているのが見えた。かつては城への出入りのため大地と繋がっていたその階段は、今は一番下で途切れている。
霧は強い風に弄られながら、ゆっくりとその階段を、下りていった。宙に浮かぶ階段に立っているという、日常では遭遇したことのない状況に、足がすくむ。
階段の中ほどまで来ると、霧は草原の広がる眼下の景色を覗き込んで、感嘆の声を上げた。
「うっわ……すごいなぁ……、マジで空に浮かんでるよ」
霧は物語1巻の、印象的なシーンを思い出した。
学園に入学したての主人公、チェカ・ダリアリーデレが、この空飛ぶ古城学園から飛び立って、入学旅行に行く場面を。
――良い入学旅行を!
霧の頭の中に先程学園長から掛けられた言葉がよみがえり、興奮で鼻の穴が広がる。
「入学旅行……そうか、あたし、入学旅行に出かけるのか! ということは……だ、魔法士学園に入学したということだ! そうか、そうなのか!! この夢、そういう設定なんだな!」
霧は弾かれたように笑い出した。愉快でたまらない。
『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』略して『クク・アキ』を愛読しているファン、『ククリアン』なら、この素敵な魔法士学園の生徒になってみたいと思わない者はいないだろう。そして誰もが、入学旅行を体験してみたいと思ったはず。
この物語が老若男女問わず幅広い世代の読者に支持された要因の一つ。それは、この学園の入学可能年齢が、下は15歳から始まり、上は年齢制限がない、という点があげられる。
しかも、男女差別は一切ない。『クク・アキ』の世界に住む人は、男でも女でもその他でも、誰でも思い立ったときに学園の門を叩けるのだ。
男女差別が顕著で閉塞感のある日本社会で生まれ育った霧には、この学園をはじめとした世界の成り立ちは、非常に魅力的でスカッとするものだった。
物語の中では、実際に様々な年齢・立場の生徒たちが登場する。15歳という若さの少年少女もいれば、40代~50代の中年、果ては80代のお年寄りまで、この学園では普通に肩を並べて勉学に励んでいるのだ。年齢という垣根がないため、生徒間の交流は非常に広く、奥深いものになる。
もちろん、この学園に入るための試験は難関だ。ほとんどの生徒が、何年も準備して試験に挑む。
そして狭き門である古城学園に入学を許された生徒は、まず初めに入学旅行に旅立つ。
――入学旅行。それは奇想天外な物語の、幕開けなのである。
「入学旅行、ああ入学旅行、入学旅行!」
霧はウキウキして、思わず誰かの俳句の調子を真似てしまった。感動のあまり両手を広げて青空を仰ぎ見た途端、強い風に煽られ、遥か下方に広がる草原の風景が、ぐらりと視界を踊る。よろけて下に転げ落ちそうになりながらも、霧の胸には恐怖心はなく、ただただ、楽しくてたまらなかった。
どうにも高揚感が収まらず、階段に座り込んで一人笑い転げている霧に、後ろから声が飛んでくる。
「キリ、大丈夫なの?! ちゃんと飛べ立てる?! 教えたこと、覚えているわね?!」
(ああ――本当に、どこもかしこも、物語の通り!)
愛称で『古城学園』と呼ばれるこの空飛ぶ城は、元は地上に建っていた。その頃は王の住まう城だったが、1500年以上も昔に起きた大変革の折、ダリアと言う名の天才魔法士によって空中に運ばれたものだ。以来、特殊な魔法でずっと大空を浮遊している。
霧が今立っている場所は、城の正面玄関にあたる場所で、少し先に進んだ先に、幅の広い階段が下へと続いているのが見えた。かつては城への出入りのため大地と繋がっていたその階段は、今は一番下で途切れている。
霧は強い風に弄られながら、ゆっくりとその階段を、下りていった。宙に浮かぶ階段に立っているという、日常では遭遇したことのない状況に、足がすくむ。
階段の中ほどまで来ると、霧は草原の広がる眼下の景色を覗き込んで、感嘆の声を上げた。
「うっわ……すごいなぁ……、マジで空に浮かんでるよ」
霧は物語1巻の、印象的なシーンを思い出した。
学園に入学したての主人公、チェカ・ダリアリーデレが、この空飛ぶ古城学園から飛び立って、入学旅行に行く場面を。
――良い入学旅行を!
霧の頭の中に先程学園長から掛けられた言葉がよみがえり、興奮で鼻の穴が広がる。
「入学旅行……そうか、あたし、入学旅行に出かけるのか! ということは……だ、魔法士学園に入学したということだ! そうか、そうなのか!! この夢、そういう設定なんだな!」
霧は弾かれたように笑い出した。愉快でたまらない。
『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』略して『クク・アキ』を愛読しているファン、『ククリアン』なら、この素敵な魔法士学園の生徒になってみたいと思わない者はいないだろう。そして誰もが、入学旅行を体験してみたいと思ったはず。
この物語が老若男女問わず幅広い世代の読者に支持された要因の一つ。それは、この学園の入学可能年齢が、下は15歳から始まり、上は年齢制限がない、という点があげられる。
しかも、男女差別は一切ない。『クク・アキ』の世界に住む人は、男でも女でもその他でも、誰でも思い立ったときに学園の門を叩けるのだ。
男女差別が顕著で閉塞感のある日本社会で生まれ育った霧には、この学園をはじめとした世界の成り立ちは、非常に魅力的でスカッとするものだった。
物語の中では、実際に様々な年齢・立場の生徒たちが登場する。15歳という若さの少年少女もいれば、40代~50代の中年、果ては80代のお年寄りまで、この学園では普通に肩を並べて勉学に励んでいるのだ。年齢という垣根がないため、生徒間の交流は非常に広く、奥深いものになる。
もちろん、この学園に入るための試験は難関だ。ほとんどの生徒が、何年も準備して試験に挑む。
そして狭き門である古城学園に入学を許された生徒は、まず初めに入学旅行に旅立つ。
――入学旅行。それは奇想天外な物語の、幕開けなのである。
「入学旅行、ああ入学旅行、入学旅行!」
霧はウキウキして、思わず誰かの俳句の調子を真似てしまった。感動のあまり両手を広げて青空を仰ぎ見た途端、強い風に煽られ、遥か下方に広がる草原の風景が、ぐらりと視界を踊る。よろけて下に転げ落ちそうになりながらも、霧の胸には恐怖心はなく、ただただ、楽しくてたまらなかった。
どうにも高揚感が収まらず、階段に座り込んで一人笑い転げている霧に、後ろから声が飛んでくる。
「キリ、大丈夫なの?! ちゃんと飛べ立てる?! 教えたこと、覚えているわね?!」
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