推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

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五章 入学旅行五日目

5-06d 白痴と賢者 4

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 何か温かいものに包まれた――と、霧が意識した次の瞬間。霧は周囲の明るさに思わず目を閉じ、自分を取り巻く空気が変化したのを肌で感じた。
 恐る恐る目を開けると、そこは直径10メートルほどの、丸い部屋だった。
 円形の床をぐるりと囲む壁は、カーブを描いて天井と一体化している。まるでお椀を伏せたような、半球状の部屋だ。フロア自体が発光していて、とても明るい。霧が辺りを見回すと、壁の一部分が丸くぽっかりと開いていて、隣のフロアが見えていた。そして霧のそばにはレイが佇み、その隣にはイサナが浮かんでいる。イサナの体内で見た彼には人の名残があったが、言獣げんじゅうとしての彼の姿は、『白痴』の頃と同じ、宙に浮かぶ奇怪なクジラのような姿のままだった。

 イサナは無事に霧を取り出すことができてホッとしたようだ。ぐるぐると霧の周囲を飛び回ったのち、レイの傍に戻ると言った。

《うまくいった。コツを掴んだから、次回からはもっと素早くできると思う。ねえ霧、さっそく『竜辞典』の中に入ってみていい?》

「うん、いいよ。あ、ちょい待ち! ミミ、ちょっと出てきて」

 飛び出してきた『辞典妖精』のミミは、怪訝そうに周囲を窺っている。霧が事態を説明しようとすると、ミミは【おかしな気配がしたから、中からそっと見ていたの】と言った。何もかも把握しているその様子に、霧はほとんどの説明を省き、大事なことだけ告げる。

「このイサナっていう、ミラクルハイブリッド言獣さんに、契約なしに辞典の中に住んでもらおうと思ってるんだけど、構わない?」

 ミミは驚いた顔で霧に言った。

【わたしの許可を、求める必要は無いわ。霧、あなたは辞典主。わたしはあなたと『辞典』を繋ぐ、アシスタント。あなたがいいと思えば、わたしもいいと思う。そして……】

 ミミはイサナの傍に行くと、ひとしきり飛び回ったあと、霧のそばに戻ってきて言った。

【わたし、この、知ってる。ソイフラージュとレイフラージュの、友達。同時に、今は言獣。不思議な、ひと】

 それを聞いて、イサナがおずおずと、ミミに声をかける。

《ええと、その、よろしく……ミミ。ミミか……響きがいいね。とても可愛い名前を、霧にもらったんだね》

 パッと、ミミが嬉しそうに微笑んだ。

【そうなの。新しい名前を、付けてもらったの。霧はわたしの、三人目の辞典主。イサナ、どうか一緒に霧を守ってね】

《もちろんだよ。僕に何ができるかわからないけど、いつでも力になる》

 イサナの頼もしい言葉を聞いたミミは、霧に向かって満足そうに微笑むと、『竜辞典』の中に戻って行った。
 霧は斜め掛けしている『竜辞典』を両手で支え持つと、イサナに向かって差し出しながら言った。

「いやあ、なんか、あたし史上初だよ、こんなにたくさん、お友達を持てるなんてさ。辞典絡みだけでも、レイでしょ、ソイでしょ、ミミでしょ、イサナでしょ。長年、孤独を友にしてきたあたしが、信じられない事態だな。まあ、その、仲良くしてね、イサナ。一緒にわいわいやろうね。さ、どうぞどうぞ、お入りくださいな。何のおもてなしもできませんが、さささ、ごゆるりと」

 霧はふざけた口調でそう言ったが、イサナは真剣そのものといった風情で、『竜辞典』に飛び込んだ。途端にイサナの姿が消える。彼を追いかけたのか、レイも辞典に吸い込まれるように姿を消した。

「およっ?! うまくいった?」

《……大丈夫。……うん。イサナは、はしゃいでる》

 すぐに出てきたレイが、霧にそう告げると、イサナも姿を現した。

《霧、君の『辞典』の中、とても居心地いいよ! さあ、次はどうしたらいい? 霧を、さっきの階に戻す? それとも、全然別の場所に行く?》

 レイは優しく微笑みながらイサナと目を見交わすと、言った。

《ちょっと待って、イサナ。ここは『封印の間』でしょ? 君を閉じ込めていた場所。図書塔の、最下層》

《うん。僕は思わず、ここに戻ってきてしまった。赤い子が怖かったから》

 霧はさっきレイから聞いたことを思い出し、イサナに言った。

「アデルは、怖くないよ。イサナが怖いって言ってた赤い辞典を持ってるけど、とてもいい子なんだ。だからイサナとも友達になってくれると思う」

《あの子、霧の友達? そういえば、すごく怒ってた。霧を返せって、僕に突進してきたんだ。まだ怒ってるんじゃないかなぁ……》

(そういえば、みんな心配してるだろうな。早く帰って、無事なことを知らせないと……)

 霧はそう思いながら、壁に1つだけぽっかり空いた部分を通り、部屋の外に出てみた。
 そこもまた円形のフロアとなっていて、さっきの部屋よりも広く、壁のあちこちに不思議な模様が浮き出ている。

「はあ……ここが、伝説の図書塔最下層……。不思議空間……。この模様、綺麗だなぁ……浮彫?光で描かれてる?みたいな……」

 霧は何となく、その模様の一つに手を伸ばした。

《だめ、キリ!》

 レイの緊迫した声が霧の体を硬直させる。しかしその静止は、遅かった。霧の手に反応した扉が、開く。
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