162 / 175
六章 入学旅行六日目
6-04 新しい朝
しおりを挟む
《礼を言うのは我の方だ。ありがとう、霧。おまえの働きで、我らは間もなく、全き姿を取り戻すだろう。もがれていた片翼が、戻ってくる》
「え……? 何のこと? さっぱり意味わかんない」
《いずれわかる。案ずるな。あの数奇な合いの子が、おまえを助けてくれるだろう》
「……?? 合いの子……って? ハーフのこと、だよね……? あっ! もしかして、イサナのこと?!」
肯定の気配を漂わせながら、クルカントゥスは身をひるがえした。
《人の時間は慌ただしい。おまえの意識が浅瀬に向かって浮上する。そろそろおまえを返そう》
「クルカントゥス……また、会える?」
《おまえが強く願うなら》
霧はホッとして、涙を拭って微笑んだ。竜もまた、霧に向かって笑いかける。その独特な笑い声は波のようにさざめきながら、心地よいエコーを響かせて遠去かっていった。優しい余韻を残し、神々しい光と虹をまといながら。
霧は、ゆっくりと目を開けた。
目に入ったのは、妖精の飛び交う絵柄の、可愛い天井。
遮光カーテンを引き忘れた窓から、中庭の光がぼんやりと室内を照らしている。
「ああ……」
霧は心底ホッとして、大きく息を吐き出した。
「おはよう、ククリコ・アーキペラゴ」
幸福感が、胸いっぱいに広がる。
霧はしばらくの間、満ち足りた気持ちで横たわっていた。今日の課題はお休みのため、時間を気にする必要は無い。昨日はみんな遅くまで妖精の里の回復作業をしていたので、今日は各自、休息に充てることになっているのだ。
「はあ……入学旅行も、もう6日目かぁ……。来たばっかりって感じなのに、早いなぁ……」
霧は怒涛の5日間を振り返りながら、ベッドの上で寝返りを打つ。適度な弾力で体を支えてくれるマットレスが気持ちよくて、「二度寝しちゃおうかな」と霧が思っていると、部屋の扉がノックされた。
「ん……?」
霧がベッドの上に座り込むと、部屋の外から控えめな音量のリューエストの声が、聞こえてくる。
「キリ~~~~、お兄ちゃん、寂しくて泣きそうだよぉ~、起きてるなら一緒にお昼ごはん食べに行こうよ~」
「えっ、もう昼なわけ?!」
霧はそう独り言を呟きながら、時間を確認した。確かにもう昼過ぎだった。
「マジか……」
霧は慌てて、「ちょっと待って、今、支度するから!」と叫んでベッドから下りた。
急いで身支度を整えると、霧は扉を開ける前、ほんの少し、躊躇した。
リューエストに、どんな顔をして会えばいいのだろう? ――そう、思って。
答えは、すぐに出た。
彼は双子の兄、リューエスト・ダリアリーデレ。
(うん……。彼は、ずっとあたしを見守ってくれた、あたしの、大切な兄)
リューエストから何かを訊き出す必要は、ない。
彼は何もかもわかっていて、ずっと兄として渡会霧を愛してきてくれたのだから。入学旅行一日目から――本当の意味で出会ってから、ずっと。
竜が見せてくれた過去の映像の中には、その答えが詰まっていた。
今更霧が「いや、他人なんで、以降、そう扱ってください」と言っても、彼は引き下がらないだろう。引き下がらないどころか、号泣して足にすがりついてくるかもしれない。「お兄ちゃんを捨てないで!」などと嘆き悲しみながら。その様を想像した霧は、思わず吹き出した。
(やりかねん……。……うん、……いいよ、リューエスト、受け取ることにする。こんなあたしを、妹として受け入れてくれた、あなたの気持ちを)
迷いの吹っ切れた霧は、扉を開けた。
「え……? 何のこと? さっぱり意味わかんない」
《いずれわかる。案ずるな。あの数奇な合いの子が、おまえを助けてくれるだろう》
「……?? 合いの子……って? ハーフのこと、だよね……? あっ! もしかして、イサナのこと?!」
肯定の気配を漂わせながら、クルカントゥスは身をひるがえした。
《人の時間は慌ただしい。おまえの意識が浅瀬に向かって浮上する。そろそろおまえを返そう》
「クルカントゥス……また、会える?」
《おまえが強く願うなら》
霧はホッとして、涙を拭って微笑んだ。竜もまた、霧に向かって笑いかける。その独特な笑い声は波のようにさざめきながら、心地よいエコーを響かせて遠去かっていった。優しい余韻を残し、神々しい光と虹をまといながら。
霧は、ゆっくりと目を開けた。
目に入ったのは、妖精の飛び交う絵柄の、可愛い天井。
遮光カーテンを引き忘れた窓から、中庭の光がぼんやりと室内を照らしている。
「ああ……」
霧は心底ホッとして、大きく息を吐き出した。
「おはよう、ククリコ・アーキペラゴ」
幸福感が、胸いっぱいに広がる。
霧はしばらくの間、満ち足りた気持ちで横たわっていた。今日の課題はお休みのため、時間を気にする必要は無い。昨日はみんな遅くまで妖精の里の回復作業をしていたので、今日は各自、休息に充てることになっているのだ。
「はあ……入学旅行も、もう6日目かぁ……。来たばっかりって感じなのに、早いなぁ……」
霧は怒涛の5日間を振り返りながら、ベッドの上で寝返りを打つ。適度な弾力で体を支えてくれるマットレスが気持ちよくて、「二度寝しちゃおうかな」と霧が思っていると、部屋の扉がノックされた。
「ん……?」
霧がベッドの上に座り込むと、部屋の外から控えめな音量のリューエストの声が、聞こえてくる。
「キリ~~~~、お兄ちゃん、寂しくて泣きそうだよぉ~、起きてるなら一緒にお昼ごはん食べに行こうよ~」
「えっ、もう昼なわけ?!」
霧はそう独り言を呟きながら、時間を確認した。確かにもう昼過ぎだった。
「マジか……」
霧は慌てて、「ちょっと待って、今、支度するから!」と叫んでベッドから下りた。
急いで身支度を整えると、霧は扉を開ける前、ほんの少し、躊躇した。
リューエストに、どんな顔をして会えばいいのだろう? ――そう、思って。
答えは、すぐに出た。
彼は双子の兄、リューエスト・ダリアリーデレ。
(うん……。彼は、ずっとあたしを見守ってくれた、あたしの、大切な兄)
リューエストから何かを訊き出す必要は、ない。
彼は何もかもわかっていて、ずっと兄として渡会霧を愛してきてくれたのだから。入学旅行一日目から――本当の意味で出会ってから、ずっと。
竜が見せてくれた過去の映像の中には、その答えが詰まっていた。
今更霧が「いや、他人なんで、以降、そう扱ってください」と言っても、彼は引き下がらないだろう。引き下がらないどころか、号泣して足にすがりついてくるかもしれない。「お兄ちゃんを捨てないで!」などと嘆き悲しみながら。その様を想像した霧は、思わず吹き出した。
(やりかねん……。……うん、……いいよ、リューエスト、受け取ることにする。こんなあたしを、妹として受け入れてくれた、あなたの気持ちを)
迷いの吹っ切れた霧は、扉を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる