追放賢者のやり直し ~『お前は弱い』と言われてパーティから追放された賢者は過去に戻り、これまでに培った知識を活かして世界最強になる~

志鷹 志紀

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23話 違う、僕は【テノール視点】

 こんな夢を見た。
 
 カイト達が手も足も出ないミノタウロス・ケージ。
 剣術は通じず、武術も全て無駄。
 ミノタウロス・ケージの固い表皮の前では、あらゆる物理攻撃が通じない。

 そんな中、僕はとある魔法を発動した。
 どんな魔法だったかは、どうでもいいことだ。
 大事なのは、僕の魔法でミノタウロス・ケージを一撃で倒したこと。

 カイト達でも歯が立たなかったミノタウロス・ケージを、僕は一撃で倒した。
 そんな僕のことを、カイト達は崇め奉る。褒めちぎる。
 
 おいおい、よしてよ。このくらい、楽勝だよ。
 そんなことを言いながらも、内心は大変気分がいい。
 数日前まで僕を追放しようと考えていた連中が、僕にすがっているのだから。
 こんなに気持ちのいいことは、他にないだろう。

 ん、そこにいるのは……アルガか?
 いや、キミも見たかい? 僕の活躍を。
 凄かっただろう、一撃でミノタウロス・ケージを倒したんだよ?
 キミみたいな凡才には、決してできない芸当だろう?
 なぁ、キミも認めなよ。僕よりも劣る、ゴミクズであることを──

「なぁ、テノール。そろそろ目を覚ませよ」



「…………え?」



 目を覚ますと、そこには──
 ──耐え難い地獄が広がっていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 辺り一面に広がる、白骨の地面。
 そして僕を覗き見る、3人の男女。
 1人は桃色の髪の、見覚えのない獣人の女。
 1人は金髪ツインテールの女、ラブリ。
 1人は僕よりも劣る男、アルガ。
 何故か3人が、横たわる僕を覗き見ていた。

「ここは……、それに何故キミたちがいるんだ……?」

「お前を助けに来たんだよ」

「僕を助けに……? 何を言っているんだ? 僕はミノタウロス・ケージを討伐して、今からゲートで帰るんだけど……?」

「まだ記憶が混乱しているようだな。いや、認めたくないから記憶を捏造しているのか」

「一体、何の話を──う゛ッッッ!!」

 刹那、僕の脳内に記憶が流れ込む。
 忌々しく、度し難い……敗北の記憶が。

「そうだ、僕たちはミノタウロス・ケージに敗れ……僕は鳥籠に捕らわれてしまったんだ」

「そして、哀れなことにカイト達に捨てられてしまった」

「クソッ、帰ったら……必ず、復習してやる!!」

 ここでふと、1つ疑問が浮かんだ。
 僕が捨てられたことまでは思い出したが、何故にこの場所にアルガたちがいるんだ?

「それで、なんでキミたちがこんなところにいるんだ? こんな何もないところにやってくるなんて、キミたちは相当な暇人なのかい?」

「命の恩人に対して、酷い言いぐさね」

「命の恩人……? キミたちのような無能な連中に、助けられるようなことはないと思うけれど?」

「……自分を客観視できないなんて、かわいそうな人ですね」

「少なくとも獣人族のキミよりは、かわいそうじゃないと思うけどな。あ、それ以上近づかないでね。ダニやノミが移るからさ」

 しかし、何故彼らはこの場所にいるんだ?
 どれだけ考えても、答えが出ない。

「はぁ……テノール、少し考えてみろよ」

「いったい何をだい? 少なくとも、僕はキミよりも思慮深いと自負しているんだけど?」

「この部屋にはカイト達が手も足も出ない怪物、ミノタウロス・ケージがいたんだ。そして、お前は鳥籠に捕らえられていた。ここまではいいな?」

「あぁ、そうだね。そのくらい、説明されなくても、理解しているんだけどね」

「そして俺たちは今、その鳥籠の中にいる」

「つまり、キミたちもミノタウロス・ケージに敗れたんだね!! いやぁ、実に愚かだねぇ!!」

「……鳥籠の外を、よく見てみろよ」

 アルガに促され、僕は渋々鳥籠の外を覗いてみる。
 そこには──

「あ、あれ……?」

「どうだ、ミノタウロス・ケージはいるか?」

「い、いない……ど、どこだ!! どこにいったんだ!!」

 忌々しいミノタウロス・ケージの姿は、どこにもなかった。
 鳥籠から脱出したら、僕が倒してやろうと思っていたのに。

「なぁ、一体どこに行ったと思う?」

「知っているのか? 早く教えろよ!! 早く!!」

「せっかちだな。仕方ない、教えてやるよ」

 アルガはニヤッと嗤い、告げる。
 それは──
 
「ミノタウロス・ケージは──俺たちが倒した」

 ──僕が一番、聞きたくない言葉だった。


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「う、ウソだ……。ぼ、僕を騙そうとしているんだろ!!」

 そんな、信じられない。
 僕たちが手も足も出なかったミノタウロス・ケージを、僕よりも劣るアルガが討伐しただなんて。
 そんなこと、認められるハズないだろ!!

「ウソな訳ないじゃない。仮にウソだったら、私たちがここにいる理由をどう説明するのよ」

「帰還ゲートも見ての通り、開いています。ボスドロップの『牛魔の首飾り』もここにありますよ」

 獣人の言うとおり、帰還用ゲートは開いている。
 それに獣人の首に装着されているのは、確かに牛魔の首飾りだ。
 だが、だが、だが!!
 
「あり得ない!! アルガ、キミは僕よりも劣る凡才だ!! ラブリ、キミは支援魔法も出来ない無能だ!! 獣人の女、キミは種族的に劣等種だ!! キミたちは全員!! 僕よりも!! 劣っているんだ!!」

 どうしても、認められない。
 いや、あり得ないんだ。
 彼らが僕よりも優れているなんて、そんなことはあり得ない。

「だったら、どう説明する? この状況を」

「それは……そうだ!! 他の優秀な冒険者が、手助けに来てくれたんだろ!! その優秀な冒険者が、ミノタウロス・ケージを倒したんだ!! キミたちはその優秀な冒険者から、手柄を横取りしたに違いない!!」

「仮にそれが正しいとして、ボスドロップまで譲ってくれると思うか? 希少な特殊個体のボスのドロップアイテムだぞ? 如何に手柄を譲ってくれる優しい冒険者でも、そこまではしないと思うけどな」

「そ、それは……」

 心の奥底では、すでにわかっている。
 だけど……それを認めるわけには行かない。
 僕は優秀なんだ。誰よりも、優れているんだ。

「アンタ、本当に惨めよね」

「……素直になった方がいいですよ。スーッとしますよ」

「テノール、いい加減認めろよ。お前が見下していた俺たちは、お前よりも優秀だったんだ」

「だ、黙れ……」

 僕は……間違っていない。
 優秀なんだ、キミたちなんかよりもずっと。
 優れているんだ、どんな魔法師よりも。
 僕は魔法学院を首席で卒業した、賢者なんだから。

「はぁ……仕方ない、見せて・・・やるよ」

 そうしてアルガは、魔法を唱えた。

「《記憶の映像メモリー・メモリー》」

 現れたのは、一枚の半透明な板。
 大きさはおよそ50センチほど、薄さは数ミリにも満たない。
 見たことのない魔法だが……なんだ、これは?

「アルガ、これは……?」

「その板に今から、先ほどの戦いを映してやる」

「は……?」

 そしてアルガの言うとおり、板に映像が映し出された。
 映し出されたのは、一人称視点での戦い。
 そこには暴れまわるミノタウロス・ケージと、戦うラブリと獣人の女がいた。
 たまに映像に入ってくる男の腕があるが、これはアルガの腕なのだろう。
 アルガの視線で映像が撮られているため、アルガの姿は見えないのだろうね。

「まさか……」

 映像が進むたびに、僕は認めざるを得なかった。
 ミノタウロス・ケージを討伐したと語る、彼らの話が真実であることを。
 
「理解できたか?」

「……うん」

 僕は……全て間違っていた。
 彼らを劣った存在と見なしていたが、真の弱者は僕だったのだ。
 映像を見て、理解してしまった。理解させられてしまった。

「アンタは敗北したのよ」

「……うん」

「そして、あなたをわたし達が救ったんです」

「……うん」

「俺たちが言っていることが、正しいことだと理解できたな?」

「……うん」

 プライドが砕け散る。
 ほんの少し前まで、僕はアルガを超えていた。
 だが、この僅かな時間で……完全に超えられてしまったようだ。
 僕はもう、どれだけ努力をしても……アルガには追い付けないだろう。

 心に去来きょらいするのは、ひどいほどの寂寥感せきりょうかん
 思い出したのは、『ウサギとカメ』の童話。
 僕は才能に慢心した、ウサギだったようだ。
 カメに敗北したウサギも、今の僕と同じくらい虚しさに苛まられていたのだろうか。

「テノール、認めるか?」

「僕は……キミたちよりも、ずっと劣っている。才能に慢心しすぎたんだ」

「そうだ、お前の完全敗北だ」

「アルガ……これまで見下して、すまなかったね」

「謝ったとしても、決して許さないけどな」

 敗北を知らずに生きてきた僕の人生に、初めて訪れた『敗北』。
 普通の人ならば、これを踏み越えられるのだろう。
 だが……僕には、できない。無理だ。
 もう、何も手がつかない。何もできない。
 敗北というものは、こんなにもダメージが大きいのか。

「ラブリ、キミのことを無能と蔑んで、すまなかった」

「私も、アンタのことは許さないわ」

「獣人の女性、散々バカにしてすまなかった」

「……わたしも許しません」

 彼らは……こんなにも強大なダメージに、打ち勝って生きてきたのか。
 すごいな、僕には無理だ。
 たった1度の敗北で、ここまで打ちのめされているんだから。
 僕は最初から……彼らに勝っていなかったのかもな。

 エルフ故に長い僕の人生、きっとこの先は全て空虚なモノとなるだろう。
 無意味な人生を、ただ送ることになるだろう。
 ただ漠然と時を重ねることになるだろう。

「テノール、お前悔しくはないか?」

「ううん、今はもう……虚しいだけだよ」

「俺たちに対してじゃない。カイト達に対してだ」

「カイト達……か。さっきまでは捨てられて悔しかったけれど、今は……どうでもいいよ」

「お前がどうであれ、俺はカイト達に腹が立っているんだ」

「そう……なんだ」

「だから、手を貸せ。いや、違うな。俺たちに従え」

 アルガは冷たく、僕を睨みつけてくる。
 あぁ、もう……どうでもいいや。
 何でもいいや、どうなっても構わないや。

「うん、いいよ」

 僕はアルガに従った。
 ……完全にプライドは、折れてしまった。

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