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第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍
64話
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「そのようなことが……されど、なにゆえ静殿は慈父慈母を手に掛けたのか……? 禁忌を破りしは静殿にあらずや? 仕舞師の称号剥奪も自業自得、逆恨みゆえの所業か? さらには継承者たる清殿への仕打ち……まこと、わからぬものよ。あの折の静殿には畏怖を覚えたが……確かに清殿を『愚か者の妹』と呼び、蔑んでおられたな……」
花天照は目を閉じ俯いた。
「わかりませぬ……なにゆえ、静殿がそこまで称号に執着なされるのか……」
悲哀に満ちた目をする花天照。
「なにゆえ、そのような悲しき目をなされる……花天照殿?」
現路が心を見抜くように問い掛けた。
「それは……かつて、静さまが我ら花護人の主にてあらせられたゆえ……」
「なんと……?」
驚きを隠せない現路。そして花天照は話を続ける。
「私らが務めは、正しき花仕舞師に仕え奉ること。称号を失ったその時より、もはや主にはあらず。ゆえに、新たに称号を得られた清さまにお仕え申すのは定めにて、抗うこと能わぬのです」
現路は黙っている。
「しかも今の主、清さまは静さまと『花切ノ契』を交わされました。永遠の絶縁……抗う術もなき契約にございます。されば、我らはその御心に従うほかありませぬ」
言葉はさらに深く続く。
「されど……清さまにお仕えする我らが『忠』に背いておるわけではございませぬ。強いて仕えておるのではない……そこだけは誤解なきようお願い申す。ただ……私らは現路殿を羨ましく思うのです。『忠』に心を砕かれるそのお姿が……まこと、羨ましきことにて……」
花天照は現路を見つめた。
「羨ましい……と申すか?」
「はい……現路殿は真の『忠』に生きておられる。それは、ただ一人の主にのみ尽くす『忠』……私らとは異なるのです」
「真の『忠』……か……」
現路は呟いた。
「はい……その左手の甲に浮かぶ花紋の痣こそ、その証にてございます。それは人の終わりを告げるしるし。現路殿には見えぬやもしれませぬが、私らにははっきりと見える。病や災いばかりにあらず、その痣は意思をも映すのです。その強き御心、決して揺らぐことはございますまい。私にはそれこそ、主に対する『忠』の証と存じます」
花天照は強く……そして儚く言い切った。
「されど……拙者が主は『生き残れ』と……」
花天照は囁いた。
「時に人は……大切なる者の幸せを願うもの……己が本心を隠してでも……己が身を犠牲にしてでも……例え共に在りたくとも、願いはただ、それのみ……」
現路はなぜか幼少期のことを思い出していた。いつしか忘れていた言葉が蘇る。あれは匠盛と過ごした幼き日。主従関係にあった二人だがまるで兄弟のように仲が良かった。
敷地内で泥にまみれ遊び回る。匠盛は夕日を背にし、にこりと現路に笑いかけている。夕日に染まる匠盛が伝えた言葉が温かかった。
「現路よ……お前とは、いつも一緒ぞ……お前は、いつもわれが側におれ……それが、われが願いじゃ……」
花天照は目を閉じ俯いた。
「わかりませぬ……なにゆえ、静殿がそこまで称号に執着なされるのか……」
悲哀に満ちた目をする花天照。
「なにゆえ、そのような悲しき目をなされる……花天照殿?」
現路が心を見抜くように問い掛けた。
「それは……かつて、静さまが我ら花護人の主にてあらせられたゆえ……」
「なんと……?」
驚きを隠せない現路。そして花天照は話を続ける。
「私らが務めは、正しき花仕舞師に仕え奉ること。称号を失ったその時より、もはや主にはあらず。ゆえに、新たに称号を得られた清さまにお仕え申すのは定めにて、抗うこと能わぬのです」
現路は黙っている。
「しかも今の主、清さまは静さまと『花切ノ契』を交わされました。永遠の絶縁……抗う術もなき契約にございます。されば、我らはその御心に従うほかありませぬ」
言葉はさらに深く続く。
「されど……清さまにお仕えする我らが『忠』に背いておるわけではございませぬ。強いて仕えておるのではない……そこだけは誤解なきようお願い申す。ただ……私らは現路殿を羨ましく思うのです。『忠』に心を砕かれるそのお姿が……まこと、羨ましきことにて……」
花天照は現路を見つめた。
「羨ましい……と申すか?」
「はい……現路殿は真の『忠』に生きておられる。それは、ただ一人の主にのみ尽くす『忠』……私らとは異なるのです」
「真の『忠』……か……」
現路は呟いた。
「はい……その左手の甲に浮かぶ花紋の痣こそ、その証にてございます。それは人の終わりを告げるしるし。現路殿には見えぬやもしれませぬが、私らにははっきりと見える。病や災いばかりにあらず、その痣は意思をも映すのです。その強き御心、決して揺らぐことはございますまい。私にはそれこそ、主に対する『忠』の証と存じます」
花天照は強く……そして儚く言い切った。
「されど……拙者が主は『生き残れ』と……」
花天照は囁いた。
「時に人は……大切なる者の幸せを願うもの……己が本心を隠してでも……己が身を犠牲にしてでも……例え共に在りたくとも、願いはただ、それのみ……」
現路はなぜか幼少期のことを思い出していた。いつしか忘れていた言葉が蘇る。あれは匠盛と過ごした幼き日。主従関係にあった二人だがまるで兄弟のように仲が良かった。
敷地内で泥にまみれ遊び回る。匠盛は夕日を背にし、にこりと現路に笑いかけている。夕日に染まる匠盛が伝えた言葉が温かかった。
「現路よ……お前とは、いつも一緒ぞ……お前は、いつもわれが側におれ……それが、われが願いじゃ……」
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