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第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍
63話
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「そなたにわかるや? 忠義を尽くさんとした主君の目前にて、その死を見届ける無念を。追うことも許されず、ただ生かされるのみ……。しかれども、拙者が主君の遺言は『生き残れ』とのみ。されどなお、拙者は生くる理を見いだせず、死を選ばんとした。それこそが、心の謀反にてあったのだ」
現路は唇を噛んだ。
「拙者は『忠』と信じたかった。信じねばならぬと……されど、それを『妄』と諭したは、そなたの姉、静殿にてあった」
清の表情が険しく変わる。目が瞬時に憎しみに包まれ、つり上げた。清はその存在を認めたくはなかった。認めれば憎しみが増す。しかし、今の現路に対し、否定的な言葉は思い浮かばなかった。
「手前は……手前は……」
唇が震える。言葉を返せなかったことに対してではない。静に嘲笑われているかのようで呼吸さえままならなかった。現路はその清の姿を憐れに思い優しく寄り添った。
「清殿……よい。そなた、いずれかに仕えたることはあるか? 誰ぞに仕えたることなき者には、この苦しみはわかるまい。いや、わかってはならぬ……。そなたを見ればわかる。そなたは仕える者にあらず、上に立つ者の器よな」
現路の言葉にはっとする清。
──私は誰かのために仕えたことがない。現路殿の言うとおり……仕えたことのない者が語るなどなんという奢りなのだ……──
「清さま……ここは私めが現路殿と相対いたしましょう。主に仕える身として、その立場、心得ておりますゆえ」
一片の羽が落ちてくる。それはひらりひらりと舞うように。そして畳に落ちると風が渦巻く。翼にくるまれた人影が現れるとゆっくりと翼が広がる。純白の天衣無縫の衣は清らかさが滲み、胸の前で祈るように両手を組み、黄金の髪を靡かせる。神々しく目映く姿。
「花天照……」
清は言葉を出した。花天照はゆっくり、目を見開き現路に微笑んだ。
「現路殿……我は清さまに仕え奉る花護人、筆頭花天照にて候。私が主、清さまに身を預けたる以上、その御代わりとして談を交わすは、私目が務めにてございます」
幻想的な光景に言葉を失いかける現路。
「まこと、この世は未知なることばかり……もはや、驚きはいたさぬ」
花天照は現路を羽で包んだ。
「二人きりにて、話がしたうございます……お気づきであろうが、清さまは姉、静さまの御名を聞くだに、憎悪にて心を染められる」
「まこと……静殿の御名を聞いた刹那、あの目の色は変わった。まるで鬼の目の如くであったわ」
花天照は清と静、二人の出来事を話した。無情にも両親が清の目の前で静によって惨殺されたこと。憧れであった静の暴挙、そして『花切ノ契』を自らの手で行い、姉妹の永遠の縁切りを行ったこと……。その後、花仕舞師として対立を深めていくこと。いくら追いかけても、まるで嘲笑うように先を行く静に、さらに憎悪が増していること──その姿への憤りが、清の心を支配していること……。
花仕舞師としてあるべき姿が実は、すべて姉、静に対しての憎悪のみが原動力として動いていることを現路に聞かせた。
現路は唇を噛んだ。
「拙者は『忠』と信じたかった。信じねばならぬと……されど、それを『妄』と諭したは、そなたの姉、静殿にてあった」
清の表情が険しく変わる。目が瞬時に憎しみに包まれ、つり上げた。清はその存在を認めたくはなかった。認めれば憎しみが増す。しかし、今の現路に対し、否定的な言葉は思い浮かばなかった。
「手前は……手前は……」
唇が震える。言葉を返せなかったことに対してではない。静に嘲笑われているかのようで呼吸さえままならなかった。現路はその清の姿を憐れに思い優しく寄り添った。
「清殿……よい。そなた、いずれかに仕えたることはあるか? 誰ぞに仕えたることなき者には、この苦しみはわかるまい。いや、わかってはならぬ……。そなたを見ればわかる。そなたは仕える者にあらず、上に立つ者の器よな」
現路の言葉にはっとする清。
──私は誰かのために仕えたことがない。現路殿の言うとおり……仕えたことのない者が語るなどなんという奢りなのだ……──
「清さま……ここは私めが現路殿と相対いたしましょう。主に仕える身として、その立場、心得ておりますゆえ」
一片の羽が落ちてくる。それはひらりひらりと舞うように。そして畳に落ちると風が渦巻く。翼にくるまれた人影が現れるとゆっくりと翼が広がる。純白の天衣無縫の衣は清らかさが滲み、胸の前で祈るように両手を組み、黄金の髪を靡かせる。神々しく目映く姿。
「花天照……」
清は言葉を出した。花天照はゆっくり、目を見開き現路に微笑んだ。
「現路殿……我は清さまに仕え奉る花護人、筆頭花天照にて候。私が主、清さまに身を預けたる以上、その御代わりとして談を交わすは、私目が務めにてございます」
幻想的な光景に言葉を失いかける現路。
「まこと、この世は未知なることばかり……もはや、驚きはいたさぬ」
花天照は現路を羽で包んだ。
「二人きりにて、話がしたうございます……お気づきであろうが、清さまは姉、静さまの御名を聞くだに、憎悪にて心を染められる」
「まこと……静殿の御名を聞いた刹那、あの目の色は変わった。まるで鬼の目の如くであったわ」
花天照は清と静、二人の出来事を話した。無情にも両親が清の目の前で静によって惨殺されたこと。憧れであった静の暴挙、そして『花切ノ契』を自らの手で行い、姉妹の永遠の縁切りを行ったこと……。その後、花仕舞師として対立を深めていくこと。いくら追いかけても、まるで嘲笑うように先を行く静に、さらに憎悪が増していること──その姿への憤りが、清の心を支配していること……。
花仕舞師としてあるべき姿が実は、すべて姉、静に対しての憎悪のみが原動力として動いていることを現路に聞かせた。
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