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第1話
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振り返ると、そこには1人のコンビニ店員が立っていた。
「俺のことを話してたんでしょ?」
そう面と向かって問われ、もう隠し通せないと思ったらしく、ルシフは少し間をおいて「ああ」と頷いた。
「最近、ここらで起きている傷害事件に、あんたが絡んでいるんじゃないかって話だ」
直球すぎる言葉にも関わらず、コンビニ店員は全く動揺することなく
「なんだ、その話か」
と、つまらなそうに言った。
「……お前が、やったのか?」
ルシフの問いかけに、男は悪びれもせずに答えた。
「そうだよ」
マジかよ、超あっさりと犯行を認めたよこの人……。
「動機は?なんでそんな事件を起こしたんだ?」
「そんなに改まって聞かなくても、可愛い女の子の周りにいる野郎どもを始末する理由なんて、簡単に想像つくだろ?」
「イリスのストーカーってことか」
「俺は、イリスのことを本気で愛しているんだよ」
「私、あなたのこと知らないですし、愛されるような覚えもないんですけど……」
「君が覚えてなくても、俺は覚えてる。俺が二日酔いで君の家の前のゴミ置場で死にかけてたときに、手を差し伸べてくれた……」
「あっ、あのときの……。あれはただ単に邪魔だったので立ち去ってほしかっただけです」
「わかってるよ。それでも、俺は嬉しかったんだ。俺は今まで誰からも愛されたことがなかった。『役立たず』『能なし』『出来損ない』って罵られて生きてきた。初めてだったんだよ、他人から『大丈夫ですか?』なんて心配されたのは……。
あのとき、女神が現れたと思ったんだ。俺はそれから君に会いたくてこのコンビニでバイトを始めた。最初はただの店員と客っていう関係で満足だった。でも、君がコンビニを訪れてくるたびに、どんどん気持ちを抑えられなくなってきて……。
君の周りにいる男たちが羨ましくて、憎くてたまらなかった。だから、傷つけてやろうと思って……」
「バカじゃないの、あんた。だからって、人を傷つけたところで何も変わらないよ」
「ごめんなさい、イリス……。この気持ちをどうしたらいいのかわからなかったんだよ。どうしようもなく君が好きなんだ。俺と結婚してください」
「は?この状況でプロポーズとか意味わかんないんですけど。イかれてるにも程があるでしょ」
「ああっ、その蔑むような目も好きだよ……」
「失せろ変態」
「ねぇイリス、ところでこの魔法使いさんたちは一体何者?イリスの彼氏とかだったら殺すけど」
「とぼけるな。俺たちのことは知ってるんだろ」
ルシフの声はただならぬ殺気を帯びていた。
男は不気味な笑みを浮かべた。
「怖いなぁ、怒らないでよ。ごめんね、知ってるよ、魔法屋でしょ。まさか君たちが境界にいるとは思わなかったよ。そっかぁ、今は君が店主なんだね」
男の顔から笑みがふっと消える。
「贖罪のつもり?」
男の言葉に、空気が凍りつく。
その沈黙を破ったのはベルだった。
「あんたに、ルシフの何がわかるんだよ」
男は軽蔑するような口調で言い放つ。
「わかる訳ないだろ。人殺しの気持ちなんて」
人殺し……?
ルシフが……?
理解が追いつかない私を置き去りにして、事態は悪化していく。
突然ベルの手から光でできたナイフが現れ、男めがけて放たれた。
ナイフは男の頬を掠め、ポタポタと血が滴った。
「随分と物騒なもの投げてくるね。君、意外とキレやすいタイプ?」
「黙れ。それ以上舐めた口利いたら次は心臓ぶち抜いてやる」
えー……何これ、何この状況、何この子……。ベルって真面目ないい子そうだと思ってたのに、ヤンキー臭がすごいんですけど……。
「ベル、落ち着け」
ルシフがベルの腕を掴むと、ベルはその手を乱暴に振り払った。
「落ち着けません。ユートピア魔法軍は僕らの仇ですよ?なんであんたは平気でいられるんですか。……あんたのそういうところが、僕は昔から大っ嫌いなんですよ」
ルシフは呆れたように溜め息を吐いた。
「そうかよ。俺もお前のそうやってすぐに感情任せになるところが昔から大っ嫌いだ」
2人は少しの間睨み合っていたけれど、先に折れたのはベルだった。
「……すみません、今のはただの八つ当たりでした」
「別に……謝らなくてもいい。それよりも今は、傷害事件の犯人を捕まえることが先だ」
「あ、やっぱり俺を捕まえるつもり?困るなぁ、刑務所に入れられたら、イリスに会えなくなっちゃうじゃん」
男の調子に乗った態度に、ルシフは苛立った様子でチッと舌打ちした。
「とことん頭のおかしい野郎だな。大人しくお縄につけ」
「お断りします」
「だったら力ずくでブタ箱行きにしてやる」
ルシフは男に杖を向けた。
「魔法で俺とやり合うつもり?……望むところだ」
ニヤッと笑った男の手元に、大きな魔法陣が出現した。男が魔法陣の中に手を突っ込むと、そこに一本の槍が現れた。
「その独特な図柄の魔法陣……お前、普通の魔法使いじゃないな?」
「そうだよ。俺はもともとユートピア魔法軍の兵士じゃなかった。……俺が何者か、知りたい?」
男は槍を構え、ついにその名を明かした。
「俺の名は、レヴィ・アルストロメリア。……ユートピア王国、第四王子だ」
「俺のことを話してたんでしょ?」
そう面と向かって問われ、もう隠し通せないと思ったらしく、ルシフは少し間をおいて「ああ」と頷いた。
「最近、ここらで起きている傷害事件に、あんたが絡んでいるんじゃないかって話だ」
直球すぎる言葉にも関わらず、コンビニ店員は全く動揺することなく
「なんだ、その話か」
と、つまらなそうに言った。
「……お前が、やったのか?」
ルシフの問いかけに、男は悪びれもせずに答えた。
「そうだよ」
マジかよ、超あっさりと犯行を認めたよこの人……。
「動機は?なんでそんな事件を起こしたんだ?」
「そんなに改まって聞かなくても、可愛い女の子の周りにいる野郎どもを始末する理由なんて、簡単に想像つくだろ?」
「イリスのストーカーってことか」
「俺は、イリスのことを本気で愛しているんだよ」
「私、あなたのこと知らないですし、愛されるような覚えもないんですけど……」
「君が覚えてなくても、俺は覚えてる。俺が二日酔いで君の家の前のゴミ置場で死にかけてたときに、手を差し伸べてくれた……」
「あっ、あのときの……。あれはただ単に邪魔だったので立ち去ってほしかっただけです」
「わかってるよ。それでも、俺は嬉しかったんだ。俺は今まで誰からも愛されたことがなかった。『役立たず』『能なし』『出来損ない』って罵られて生きてきた。初めてだったんだよ、他人から『大丈夫ですか?』なんて心配されたのは……。
あのとき、女神が現れたと思ったんだ。俺はそれから君に会いたくてこのコンビニでバイトを始めた。最初はただの店員と客っていう関係で満足だった。でも、君がコンビニを訪れてくるたびに、どんどん気持ちを抑えられなくなってきて……。
君の周りにいる男たちが羨ましくて、憎くてたまらなかった。だから、傷つけてやろうと思って……」
「バカじゃないの、あんた。だからって、人を傷つけたところで何も変わらないよ」
「ごめんなさい、イリス……。この気持ちをどうしたらいいのかわからなかったんだよ。どうしようもなく君が好きなんだ。俺と結婚してください」
「は?この状況でプロポーズとか意味わかんないんですけど。イかれてるにも程があるでしょ」
「ああっ、その蔑むような目も好きだよ……」
「失せろ変態」
「ねぇイリス、ところでこの魔法使いさんたちは一体何者?イリスの彼氏とかだったら殺すけど」
「とぼけるな。俺たちのことは知ってるんだろ」
ルシフの声はただならぬ殺気を帯びていた。
男は不気味な笑みを浮かべた。
「怖いなぁ、怒らないでよ。ごめんね、知ってるよ、魔法屋でしょ。まさか君たちが境界にいるとは思わなかったよ。そっかぁ、今は君が店主なんだね」
男の顔から笑みがふっと消える。
「贖罪のつもり?」
男の言葉に、空気が凍りつく。
その沈黙を破ったのはベルだった。
「あんたに、ルシフの何がわかるんだよ」
男は軽蔑するような口調で言い放つ。
「わかる訳ないだろ。人殺しの気持ちなんて」
人殺し……?
ルシフが……?
理解が追いつかない私を置き去りにして、事態は悪化していく。
突然ベルの手から光でできたナイフが現れ、男めがけて放たれた。
ナイフは男の頬を掠め、ポタポタと血が滴った。
「随分と物騒なもの投げてくるね。君、意外とキレやすいタイプ?」
「黙れ。それ以上舐めた口利いたら次は心臓ぶち抜いてやる」
えー……何これ、何この状況、何この子……。ベルって真面目ないい子そうだと思ってたのに、ヤンキー臭がすごいんですけど……。
「ベル、落ち着け」
ルシフがベルの腕を掴むと、ベルはその手を乱暴に振り払った。
「落ち着けません。ユートピア魔法軍は僕らの仇ですよ?なんであんたは平気でいられるんですか。……あんたのそういうところが、僕は昔から大っ嫌いなんですよ」
ルシフは呆れたように溜め息を吐いた。
「そうかよ。俺もお前のそうやってすぐに感情任せになるところが昔から大っ嫌いだ」
2人は少しの間睨み合っていたけれど、先に折れたのはベルだった。
「……すみません、今のはただの八つ当たりでした」
「別に……謝らなくてもいい。それよりも今は、傷害事件の犯人を捕まえることが先だ」
「あ、やっぱり俺を捕まえるつもり?困るなぁ、刑務所に入れられたら、イリスに会えなくなっちゃうじゃん」
男の調子に乗った態度に、ルシフは苛立った様子でチッと舌打ちした。
「とことん頭のおかしい野郎だな。大人しくお縄につけ」
「お断りします」
「だったら力ずくでブタ箱行きにしてやる」
ルシフは男に杖を向けた。
「魔法で俺とやり合うつもり?……望むところだ」
ニヤッと笑った男の手元に、大きな魔法陣が出現した。男が魔法陣の中に手を突っ込むと、そこに一本の槍が現れた。
「その独特な図柄の魔法陣……お前、普通の魔法使いじゃないな?」
「そうだよ。俺はもともとユートピア魔法軍の兵士じゃなかった。……俺が何者か、知りたい?」
男は槍を構え、ついにその名を明かした。
「俺の名は、レヴィ・アルストロメリア。……ユートピア王国、第四王子だ」
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