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第1話
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お、王子……?
異世界の王子が、なんでこんなところでコンビニ店員やってるの?
「この魔法陣は、王家の者だけが使うことを許された図柄……とはいえ俺は既に国外追放された身だけど。
王室の奴らは他の王子より出来の悪い俺のことが邪魔で仕方なかったらしい。ユートピア魔法軍の境界調査員に任命っていう名目で、俺を追い出したんだ。
でも、俺は別に奴らを恨んでないよ。お陰でイリスと出会えたし、こうして魔法屋と闘える日が来るなんてさ。
俺、一回強い魔法使いと戦ってみたかったんだよ。兄貴たちは最初から俺を弱いって決めつけて、一度も相手にしてくれなかったからさ」
レヴィは幼い子供のように無邪気な笑顔を見せる。
「ちょっと喋り過ぎちゃったね。じゃあ早速お手合わせ願います」
そして、唐突に槍をルシフに向かって振り下ろした。
ルシフは自分の周りをすぐさまドーム状の光のバリアで囲み、槍を跳ね返そうとする。
すると槍の先端がいきなり炎に包まれ、バリアをジュワッと溶かした。
その槍が落ちて来る前にルシフは自分の杖を振るって次々と魔法で電撃を放った。
レヴィはそれをバック転でアクロバティックにかわすと槍を勢いよく上に振り上げた。槍の先端に黒い光が集まって大きくなっていく。
その光をレヴィはルシフに向けてぶっ放した。
ルシフもほぼ同時に蒼い光を放ち、2つの光の玉は激しくぶつかり合った。
「境界一番の魔法使いの実力がこの程度?いや、違うな……。ねぇ、君、手を抜いてるでしょ。どうして?もっと本気出してよ」
レヴィの黒い光がわずかに勢いを増した。
蒼い光の玉が一瞬で壊され、ルシフの身体は黒い光に吹っ飛ばされた。
「君もどうせ俺のことを弱いと思ってるんだろ?だから、本気で戦ってくれないんだろ?みんな、俺のこと馬鹿にしやがって……!」
レヴィはルシフを押し倒し、首に槍を突きつけた。
ルシフは動じることなく、レヴィの目をまっすぐ見つめて言った。
「お前は、俺より強いと思う」
あまりに意外すぎる言葉に、レヴィはポカンとして
「は?どういう意味?」
と聞き返した。
「お前が俺をどんな超人魔法使いだと思ってたのか知らんが、俺の実力はこんなもんだ。普通の魔法使いと、さほど変わんねぇよ」
え、えぇえぇ?
何言ってんのこいつ?
「じゃあ、君が、境界で一番の大魔法使いだっていうのは嘘だったってこと……?」
レヴィが私の思っていたことを代弁してくれた。
「ああ」
あっさり認めやがった!!
唖然とするレヴィと私を他所に
「だがな」
とルシフは続けた。
「それはあくまで、『俺の』実力の話。つまり、『俺たちの』実力の話になれば別ってことだ」
そこで私は気がついた。
魔法屋は、境界で一番の大魔法使いが営む店……。
でもそれは、『店主が』最強の魔法使いだとは一言も言っていないということに。
「そんなに見せてほしけりゃ見せてやるよ……俺たちの本気を」
ルシフは自信満々の笑みを浮かべて、レヴィの槍を握り、あろうことか自分の首筋を切りつけた。
予想外の展開に怯んだレヴィをルシフは退けて立ち上がった。そして、首の傷を押さえる手が血塗れになっているにも関わらず平然と呪文を唱え始めた。
「封印されし偉大なる魔導師の力よ、我に勝利の導きを」
ルシフの身体をキラキラとした星屑のような光が包み込んだ。
その神秘的な謎の光が徐々に鎮まり始めると、ルシフはさらに詠唱を続ける。
「闇の王よ、我が血と魂を汝に捧げ、共に闘い、共に滅びゆくことを誓わん。契約に従い、その力を解き放て……ーー」
すると、ベルが露骨に嫌そうな顔をしながら進み出て唱えた。
「我が主の仰せのままに」
ベルは突然ルシフの背後から血塗れの首筋に噛みついた。
グロテスクすぎる。てかクレイジーすぎる。
と思ったけど、すぐに異変が起こった。
空が真っ赤に染まり、ゴゴゴ……と地響きがする。
地面がバキバキと割れていく。
ベルが苦しそうな声を上げてその場にうずくまった。ベルの呼吸はどんどん荒くなっていき、目からは大粒の涙が零れ落ちた。あまりに辛そうなベルの姿に
「え、ちょっと、ベル、大丈夫なの……?」
と私が思わず近寄ろうとするとルシフが
「来るな!」
と叫んだ。
……そのとき。
ベルの身体がビクンッと震え、同時に、その背中に大きな翼が生えた。
呪われたみたいに全身が紋章で埋め尽くされ、ベルの姿はあっという間に人間ではなくなった。
瑠璃色だった瞳は空と同じ真っ赤な色に染まる。
それは、怪物そのもの……だけど、息を呑むほどに美しい。堕天使、という表現がよく似合う。
「ベル、思う存分暴れてやれ」
「はい」
ベルがレヴィに向かって走り出した。
レヴィが槍を構え、ベルを迎え撃つ。
しかしベルはふわっと舞い上がり、素早くレヴィの背後に回ると短剣で斬りかかった。
レヴィがギリギリのところで短剣を槍で受け止める。
ベルはさっと体勢を崩し、レヴィの足を引っ掛けて倒した。さらに、尋常じゃない速さで手から黒い鎖を放って、レヴィの手足を縛りつけた。そして容赦なくレヴィを鎖で締め上げ、そのまま投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
多分、レヴィは今ので何本か骨が折れたと思う。
でも、ベルは攻撃をやめない。
レヴィの頭上に飛び上がると、苦無をレヴィめがけて次々と投げつけた。
苦無が突き刺さり、レヴィの身体は見ていられないくらいに血だらけになっていく。
しかも、ベルは敢えて急所を外して攻撃しているから、タチが悪い。
もはや闘いというよりただの拷問だ。
ルシフがレヴィの真上の天空に大きな魔法陣を描いた。
レヴィが使っていたのよりも、ずっと複雑な、見たこともない図柄。
ベルがレヴィから離れたその瞬間に、ルシフは魔法陣から真下に向けて、巨大な紅い雷を落とした。
「もうやめて!!」
私は居ても立っても居られず、ルシフを思い切り突き飛ばした。
「は?なんだよ」
「なんでそんな酷いことするの!?こんなのもう見ていられない……!」
「じゃあ、目を瞑ってろよ」
「そういう問題じゃない!!私の家の前を殺人現場にしないで!!」
「ああ、その点は大丈夫だ」
ルシフはほとんど動かなくなったレヴィのそばに歩み寄り、しゃがんで様子を見た。
「全ての攻撃を死なない程度にしておいた。瀕死だが、息はしてる。こいつはユートピアの王子だと言ってたからな。そう簡単に死んでもらっちゃ困る」
「……あんたたちが、こんなに残酷な人たちだとは思わなかった」
「お前にそんな風に言われる筋合いはない」
ルシフはそう言いながら、静かにレヴィへ杖を向けた。
杖から出たピンクの光にレヴィの身体が包まれると、レヴィの傷は癒え、一瞬にして小さな子猫の姿になった。
ルシフは猫をそっと抱き上げる。
「レヴィ・アルストロメリアは俺たちで預からせてもらう。……だが、それだとお前の無実の罪を晴らすという依頼が果たせないな」
ルシフは少し考えてから、
「じゃあ、傷害事件のことは俺が、魔法で全てなかったことにしてやる」
と言った。
事件をなかったことにする……。
それはきっと、倫理的には良くないことだ。
でも、この時のルシフの言葉には、断れない威圧感があった。
ルシフは杖を空に掲げ、四方八方に白い光を飛ばした。
さっきの闘いで壊れた地面も元に戻っていく。
「よし。これで、被害者の怪我は治したし、お前以外の人間全ての事件の記憶が消えた。
さて、約束通り、報酬は貰う。俺たちをケーキ屋に連れて行け」
というわけで、私たちはケーキ屋へと向かった。途中で、たまたま事件の被害者である叔父に出会ったけど、何事もなかったようにピンピンしていた。ルシフは本当に事件をなかったことにしてしまったらしい。
ルシフは猫に変えたレヴィを鞄に押し込んでケーキ屋の中へ早足で入っていった。ベルはいつの間にか普通の少年の姿に戻っていて、ルシフの後に続いて遠慮もなしに大量のケーキを注文した。
テーブル席につくと、2人は礼儀正しく
「いただきます」
と手を合わせて、ものすごい勢いでケーキを食べ始めた。
ベルなんかホールケーキ3個をひとりでバクバク食べている。
「美味しいです」
ベルが幸せそうに言う。
ルシフは自分のケーキだけじゃ飽き足らず、ベルのケーキを勝手に食べ始めた。
「ちょっと、ルシフ!僕のケーキ食べないでください!!」
「いいだろ別に。味見くらいさせろよ」
「ダメです!」
こうして会話しているのを見ていると、2人はいたって普通の少年だ。
さっきの闘いが嘘のよう。
「ねぇ」
と私は尋ねた。
「あんたたちは一体何者なの……?」
2人はケーキを食べるのをやめて、顔を上げた。
ルシフが
「他人にベラベラ喋るような話じゃない」
と冷たく言う。
それきり、ルシフとベルは黙々とケーキを食べ続け、それ以上のことを話すことはなかった。
2人はやはり礼儀正しく
「ご馳走様でした」
と手を合わせると、席を立った。
「ケーキ、美味かったぜ。ありがとな」
ルシフはそう言い残すと、ベルを連れて店を出て行ってしまった。
私が後を追うように店の外に出たとき、彼らの姿はもう、どこにもなかった。
異世界の王子が、なんでこんなところでコンビニ店員やってるの?
「この魔法陣は、王家の者だけが使うことを許された図柄……とはいえ俺は既に国外追放された身だけど。
王室の奴らは他の王子より出来の悪い俺のことが邪魔で仕方なかったらしい。ユートピア魔法軍の境界調査員に任命っていう名目で、俺を追い出したんだ。
でも、俺は別に奴らを恨んでないよ。お陰でイリスと出会えたし、こうして魔法屋と闘える日が来るなんてさ。
俺、一回強い魔法使いと戦ってみたかったんだよ。兄貴たちは最初から俺を弱いって決めつけて、一度も相手にしてくれなかったからさ」
レヴィは幼い子供のように無邪気な笑顔を見せる。
「ちょっと喋り過ぎちゃったね。じゃあ早速お手合わせ願います」
そして、唐突に槍をルシフに向かって振り下ろした。
ルシフは自分の周りをすぐさまドーム状の光のバリアで囲み、槍を跳ね返そうとする。
すると槍の先端がいきなり炎に包まれ、バリアをジュワッと溶かした。
その槍が落ちて来る前にルシフは自分の杖を振るって次々と魔法で電撃を放った。
レヴィはそれをバック転でアクロバティックにかわすと槍を勢いよく上に振り上げた。槍の先端に黒い光が集まって大きくなっていく。
その光をレヴィはルシフに向けてぶっ放した。
ルシフもほぼ同時に蒼い光を放ち、2つの光の玉は激しくぶつかり合った。
「境界一番の魔法使いの実力がこの程度?いや、違うな……。ねぇ、君、手を抜いてるでしょ。どうして?もっと本気出してよ」
レヴィの黒い光がわずかに勢いを増した。
蒼い光の玉が一瞬で壊され、ルシフの身体は黒い光に吹っ飛ばされた。
「君もどうせ俺のことを弱いと思ってるんだろ?だから、本気で戦ってくれないんだろ?みんな、俺のこと馬鹿にしやがって……!」
レヴィはルシフを押し倒し、首に槍を突きつけた。
ルシフは動じることなく、レヴィの目をまっすぐ見つめて言った。
「お前は、俺より強いと思う」
あまりに意外すぎる言葉に、レヴィはポカンとして
「は?どういう意味?」
と聞き返した。
「お前が俺をどんな超人魔法使いだと思ってたのか知らんが、俺の実力はこんなもんだ。普通の魔法使いと、さほど変わんねぇよ」
え、えぇえぇ?
何言ってんのこいつ?
「じゃあ、君が、境界で一番の大魔法使いだっていうのは嘘だったってこと……?」
レヴィが私の思っていたことを代弁してくれた。
「ああ」
あっさり認めやがった!!
唖然とするレヴィと私を他所に
「だがな」
とルシフは続けた。
「それはあくまで、『俺の』実力の話。つまり、『俺たちの』実力の話になれば別ってことだ」
そこで私は気がついた。
魔法屋は、境界で一番の大魔法使いが営む店……。
でもそれは、『店主が』最強の魔法使いだとは一言も言っていないということに。
「そんなに見せてほしけりゃ見せてやるよ……俺たちの本気を」
ルシフは自信満々の笑みを浮かべて、レヴィの槍を握り、あろうことか自分の首筋を切りつけた。
予想外の展開に怯んだレヴィをルシフは退けて立ち上がった。そして、首の傷を押さえる手が血塗れになっているにも関わらず平然と呪文を唱え始めた。
「封印されし偉大なる魔導師の力よ、我に勝利の導きを」
ルシフの身体をキラキラとした星屑のような光が包み込んだ。
その神秘的な謎の光が徐々に鎮まり始めると、ルシフはさらに詠唱を続ける。
「闇の王よ、我が血と魂を汝に捧げ、共に闘い、共に滅びゆくことを誓わん。契約に従い、その力を解き放て……ーー」
すると、ベルが露骨に嫌そうな顔をしながら進み出て唱えた。
「我が主の仰せのままに」
ベルは突然ルシフの背後から血塗れの首筋に噛みついた。
グロテスクすぎる。てかクレイジーすぎる。
と思ったけど、すぐに異変が起こった。
空が真っ赤に染まり、ゴゴゴ……と地響きがする。
地面がバキバキと割れていく。
ベルが苦しそうな声を上げてその場にうずくまった。ベルの呼吸はどんどん荒くなっていき、目からは大粒の涙が零れ落ちた。あまりに辛そうなベルの姿に
「え、ちょっと、ベル、大丈夫なの……?」
と私が思わず近寄ろうとするとルシフが
「来るな!」
と叫んだ。
……そのとき。
ベルの身体がビクンッと震え、同時に、その背中に大きな翼が生えた。
呪われたみたいに全身が紋章で埋め尽くされ、ベルの姿はあっという間に人間ではなくなった。
瑠璃色だった瞳は空と同じ真っ赤な色に染まる。
それは、怪物そのもの……だけど、息を呑むほどに美しい。堕天使、という表現がよく似合う。
「ベル、思う存分暴れてやれ」
「はい」
ベルがレヴィに向かって走り出した。
レヴィが槍を構え、ベルを迎え撃つ。
しかしベルはふわっと舞い上がり、素早くレヴィの背後に回ると短剣で斬りかかった。
レヴィがギリギリのところで短剣を槍で受け止める。
ベルはさっと体勢を崩し、レヴィの足を引っ掛けて倒した。さらに、尋常じゃない速さで手から黒い鎖を放って、レヴィの手足を縛りつけた。そして容赦なくレヴィを鎖で締め上げ、そのまま投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
多分、レヴィは今ので何本か骨が折れたと思う。
でも、ベルは攻撃をやめない。
レヴィの頭上に飛び上がると、苦無をレヴィめがけて次々と投げつけた。
苦無が突き刺さり、レヴィの身体は見ていられないくらいに血だらけになっていく。
しかも、ベルは敢えて急所を外して攻撃しているから、タチが悪い。
もはや闘いというよりただの拷問だ。
ルシフがレヴィの真上の天空に大きな魔法陣を描いた。
レヴィが使っていたのよりも、ずっと複雑な、見たこともない図柄。
ベルがレヴィから離れたその瞬間に、ルシフは魔法陣から真下に向けて、巨大な紅い雷を落とした。
「もうやめて!!」
私は居ても立っても居られず、ルシフを思い切り突き飛ばした。
「は?なんだよ」
「なんでそんな酷いことするの!?こんなのもう見ていられない……!」
「じゃあ、目を瞑ってろよ」
「そういう問題じゃない!!私の家の前を殺人現場にしないで!!」
「ああ、その点は大丈夫だ」
ルシフはほとんど動かなくなったレヴィのそばに歩み寄り、しゃがんで様子を見た。
「全ての攻撃を死なない程度にしておいた。瀕死だが、息はしてる。こいつはユートピアの王子だと言ってたからな。そう簡単に死んでもらっちゃ困る」
「……あんたたちが、こんなに残酷な人たちだとは思わなかった」
「お前にそんな風に言われる筋合いはない」
ルシフはそう言いながら、静かにレヴィへ杖を向けた。
杖から出たピンクの光にレヴィの身体が包まれると、レヴィの傷は癒え、一瞬にして小さな子猫の姿になった。
ルシフは猫をそっと抱き上げる。
「レヴィ・アルストロメリアは俺たちで預からせてもらう。……だが、それだとお前の無実の罪を晴らすという依頼が果たせないな」
ルシフは少し考えてから、
「じゃあ、傷害事件のことは俺が、魔法で全てなかったことにしてやる」
と言った。
事件をなかったことにする……。
それはきっと、倫理的には良くないことだ。
でも、この時のルシフの言葉には、断れない威圧感があった。
ルシフは杖を空に掲げ、四方八方に白い光を飛ばした。
さっきの闘いで壊れた地面も元に戻っていく。
「よし。これで、被害者の怪我は治したし、お前以外の人間全ての事件の記憶が消えた。
さて、約束通り、報酬は貰う。俺たちをケーキ屋に連れて行け」
というわけで、私たちはケーキ屋へと向かった。途中で、たまたま事件の被害者である叔父に出会ったけど、何事もなかったようにピンピンしていた。ルシフは本当に事件をなかったことにしてしまったらしい。
ルシフは猫に変えたレヴィを鞄に押し込んでケーキ屋の中へ早足で入っていった。ベルはいつの間にか普通の少年の姿に戻っていて、ルシフの後に続いて遠慮もなしに大量のケーキを注文した。
テーブル席につくと、2人は礼儀正しく
「いただきます」
と手を合わせて、ものすごい勢いでケーキを食べ始めた。
ベルなんかホールケーキ3個をひとりでバクバク食べている。
「美味しいです」
ベルが幸せそうに言う。
ルシフは自分のケーキだけじゃ飽き足らず、ベルのケーキを勝手に食べ始めた。
「ちょっと、ルシフ!僕のケーキ食べないでください!!」
「いいだろ別に。味見くらいさせろよ」
「ダメです!」
こうして会話しているのを見ていると、2人はいたって普通の少年だ。
さっきの闘いが嘘のよう。
「ねぇ」
と私は尋ねた。
「あんたたちは一体何者なの……?」
2人はケーキを食べるのをやめて、顔を上げた。
ルシフが
「他人にベラベラ喋るような話じゃない」
と冷たく言う。
それきり、ルシフとベルは黙々とケーキを食べ続け、それ以上のことを話すことはなかった。
2人はやはり礼儀正しく
「ご馳走様でした」
と手を合わせると、席を立った。
「ケーキ、美味かったぜ。ありがとな」
ルシフはそう言い残すと、ベルを連れて店を出て行ってしまった。
私が後を追うように店の外に出たとき、彼らの姿はもう、どこにもなかった。
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