闇堕ち騎士と呪われた魔術師

さうす

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18.魔王領にて

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 マーリンが目を覚ましてから、俺たちは雪の森を抜けて、いよいよ魔王の支配地域に足を踏み入れた。
 そこは、今までの景色とはまるで違っていた。
 街の魔術師たちの服装は煌びやかで、高価そうな杖や宝石のついた帽子が店で売られ、小さな魔物をペットとして散歩させている人までいる。

「魔王の支配地域は、文化が発展しているような感じがしますね」
「それは人々の犠牲の上に成り立っている。……あれを見ろ」

 マーリンが指差した先には、檻の中に閉じ込められた子どもたちがいた。

「魔術師たちは、魔法の使えない人間たちを奴隷として売買し、働かせることで自分たちの文化を発展させてきたんだ」

 ジャンヌは子どもたちのやつれた姿を見て、心苦しそうにしていた。元奴隷身分の俺や、貧民街生まれのマーリンと違って、ジャンヌは貴族階級の出だ。無垢な彼女にとって、過酷な現実を目の当たりにするのは、胸が痛いことなのだろう。
 鎖で繋がれた少年が、重そうな壺を運ばされている。その少年が石に躓いて俺たちの目の前で転んだ。壺がガシャンッと音を立てて割れた。

「何やってんだてめえ!」

 少年の主人らしき男が、少年の顔を殴りつけた。

「すみません……!」
「謝れば済むと思うなよ! このクソガキ!!」

 容赦なく少年を殴る男をジャンヌが止めようとしたとき。

「待て」

と男を制したのは、これまで黙って同行していたシスターだった。

「壺なら無事だ。ほら」

 シスターは壺を男に差し出した。
 割れたはずの壺が、元通りになっている。シスターの魔法で直したのだろう。

「あれ……確かに割れたはずなのに……」

 男は不思議そうにして、俺たちのことを見た。すると、俺とマーリンの顔を見て、ハッとした表情をした。

「ランスロットとマーリン……!? 魔王様殺しの騎士と裏切り者の魔術師がなんで一緒にいるんだ!?」

 その大きな声に、街の人々もざわつき出した。

「まさか、私たち魔術師を殺しに来たんじゃ……」
「きっと魔王様を殺す気なのよ!」
「そんな……!! 魔王様がいなくなったら、俺たちの生活は……」
「せっかく贅沢な暮らしができるようになったのに!」
「魔王様のところに、彼らを行かせてはならない!!」

 俺たちを見る目に、殺気が満ちていく。

「ランスロット、走るぞ」

 マーリンが俺の手を握り、走り出した。俺はマーリンに引きづられるように駆けていく。
 ジャンヌたちも慌てて追ってくるが、マーリンと俺の方が速く、どんどん遠ざかっていく。
 街の人々が「あいつらを止めろ!!」と叫んだ。俺たちの前に魔術師たちが立ちはだかる。

「退け!」

 マーリンが杖で魔術師たちを吹っ飛ばした。
 すると、人々は

「マーリンが人を襲ったぞ!」

とますます騒ぎ出した。

「マーリンを殺せ!!」

 魔術師たちが魔法でさまざまな色の炎や光線を放った。
 光がマーリンの足を貫いた。マーリンは失速し、うずくまった。その間に、魔術師たちが俺とマーリンを取り囲む。俺は剣を抜いて、魔術師たちに向けた。

「近寄るな。俺はあの魔王とやり合って生還した騎士だぞ。お前らを殺すなんて、容易いことだ」

 俺は魔術師たちを睨んだが、魔術師たちも退かない。

「怯むな! あいつらを少しでも傷つけて、足止めするんだ!!」

 魔術師たちが杖を向け、次々と襲いかかってくる。俺は剣で魔術師たちを斬りつけた。近くにいた人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。

「忠告はしたぞ。……俺たちに近寄るな」

 それでも魔術師たちは杖を向けてくる。

「殺す気はなかったんだ。恨むなよ」

 俺は剣を振るった。その一撃で俺たちを囲んでいた魔術師たちはバタバタと倒れていった。

「あはは! 騎士様が一般市民殺しまくってる!」
「ふふっ、極悪人ですね」

 上から声が降ってきて、見上げると、カインがアベルを抱えて宙に浮かんでいた。

「そんな怖い顔しないでよ、騎士様」

 魔族の兄弟は俺のそばに舞い降りてきた。
 ジャンヌとシスターも後からやってきた。

「……みんな死んでるな。こりゃ、回復は無理だ」

 シスターが冷静に呟いた。一方で、ジャンヌは動揺しているようだった。

「どうして殺してしまったのですか……。彼らは一般市民なのに……」

 シスターが俺の代わりに言った。

「マーリンを守るためだろう?」

 俺は黙って剣を鞘に収めた。

「マーリンとランスロットの魂は既にひとつになりつつある。私たちが踏み入るべき領域ではない。彼らはそれほどの愛と覚悟を持って魔王に挑もうとしているんだ」

 シスターの言葉に、ジャンヌは口を閉ざした。その代わりに聞こえてきたのは、柔らかな男の声だった。

「それは非常に困るね。魔王様を君たちに殺させるわけにはいかない」
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