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24.決戦
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魔王はニヤリと笑うと、俺を突然天井に向かって高く放り投げた。
俺が宙を舞っている間に、魔王は巨大な魔法陣を描いた。先端にナイフが取り付けられた鎖が魔法陣から大量に発射され、マーリンを突き刺そうとする。マーリンは素早く飛び退いてそれをかわしていく。しかし、鎖は壁に当たって跳ね返り、再びマーリンの方へと向かっていく。マーリンが鎖を避ければ避けるほど、鎖は部屋中に張り巡らされて、マーリンの逃げ場を奪っていく。魔王は鎖を天井からぶら下がるシャンデリアに引っ掛けて、先端のナイフを刺すことで鎖を壁に固定した。
俺が魔王の腕に受け止められるのと同時に、ぐっと鎖が引っ張られて、シャンデリアの留め具がブチッと外れた。
シャンデリアはマーリンの頭上に落ちていった。マーリンの周りは鎖に囲まれている。
逃げ場がない、と思ったのも束の間、マーリンは魔王の張り巡らせた鎖の上に飛び乗って落ちてくるシャンデリアをかわした。
ガシャーン、と大きな音を立てて、シャンデリアは割れた。
魔王は鎖に軽く触れた。鎖に緑色の炎が伝っていく。マーリンの乗っている鎖の方へ炎が広がっていく。
マーリンは鎖が燃えているのもお構いなしに、鎖の上をとんでもないバランス感覚で駆け抜けた。
そして、杖で魔王を殴ろうと振りかぶる。
魔王は魔法陣を盾にしてその杖を防いだ。
攻撃しても、魔法陣が鉄壁の防御だ、と俺が思っていると、マーリンはローブの内側から片手で何かを取り出し、下から魔法陣の盾を避けるようにして魔王の足に突き刺した。
「これは……」
シャンデリアの破片だ。
「いつの間に隠し持っていたんだ……?」
しかし、魔王はすぐに盾にしていた魔法陣からナイフを放った。マーリンは杖でそれを弾くが、弾ききれなかったナイフが数本、マーリンの腹に突き刺さった。
魔王は足、マーリンは腹から血を流し、息を切らしている。
「やっぱり君は強いね、マーリン。さすが僕が見込んだ男だ。でも僕は君に負けるつもりはないよ」
すると、魔王の足から流れていた血が、シュワッと光を放って徐々に消えていく。
「回復魔法か……厄介だな。だが、それならば回復される前にトドメを刺すまでだ」
マーリンは回復しかけている魔王の足に向けて、杖でナイフを次々と打ち込んだ。
「うっ……!」
魔王の腕の力が抜けて、俺は床に落下した。
鎖で縛られたまま、俺は這ってマーリンのもとに向かおうとした。
「逃がさないよ、ランスロット……!」
鎖がさらに巻きついて俺の身体を締めつける。
「うああっ……!」
骨が何本か逝った気がする。
マーリンの魔王を見る目にこれまで以上に殺意が溢れる。
マーリンは自分を囲む鎖をブチッと引きちぎった。その鎖を投げ縄のように、魔王へ投げつける。鎖が魔王の身体に絡まると、マーリンは鎖を自分のもとに引き寄せた。魔王とマーリンが至近距離に迫る。マーリンは魔王に華麗な蹴りを入れた。魔王は吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。
その衝撃で、俺の身体を縛っていた鎖魔法が解けた。
マーリンはその間に猛スピードで走っていき、壁にもたれる魔王を杖で殴りつけていた。
俺は身体を引きずって魔王とマーリンのところへ歩いた。
「回復が間に合わなくなってきているようだな」
「そうだね。そろそろやばいかも……」
魔王の美しい顔は痣と血に染まっていた。
「だけどね、最期は君を道連れにしてやるよ」
魔王が血のついた指で魔法陣を描くと、マーリンの背後に大量のナイフが現れ、雨のように降り注いだ。
マーリンは小さな呻き声を上げて、ガクリとその場に倒れた。
魔王は虚ろな目で俺を見上げた。
「ランスロット、僕は君に殺されるなら本望だ……僕を殺しなよ」
アーサーを殺された日から、憎み続けてきた魔王。その復讐が果たされようとしている。そう考えると、剣を握る手が震えた。
「ああ……でも、ひとつだけ心残りがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「……なんだよ」
「僕は生まれてから一度も……誰かに名前を呼ばれたことがない。君がもし僕に情けをかけてくれるなら……僕に、名前をつけてくれないか」
「名前……?」
魔王は魔術師であるがゆえに国を追われ、魔王となった。家族からは愛されず、魔術師たちからは崇拝され、対等に名前を呼び合うような人間はいなかったのだ。
「分かった」
俺は魔王の瞳を見つめた。アーサーによく似た金色の瞳。それはマーリンと俺が月夜に飲んだ酒の色によく似ていた。
「シェリー」
あの日マーリンと酌み交わした酒の名を告げた。
「シェリー……意味は『愛しい人』『愛の告白』……君に呼ばれるのは皮肉だな」
魔王は弱々しく、だが、幸せそうに笑ってみせた。
「ありがとう、ランスロット。君のことが好きだった」
俺は魔王……シェリーに、最後の一撃を刺した。動かなくなったシェリーの表情は、眠っているかのように安らかだった。
剣をしまい、俺は屈み込んでマーリンに声をかけた。
「おい、しっかりしろ……!」
「ランスロット……」
微かに呟く声がした。良かった、まだ死んでない。
「復讐が……終わってしまったな」
「そうだな」
魔王を殺せば、アーサーの仇が討てると思っていたが、実際に遂げてみると、どこか寂しかった。
それはマーリンと俺の関係が、復讐から始まった関係だったからなのだろう。
「結局……俺は勇者よりもお前の主人に相応しいと、証明できなかったな」
「でも、対価は十分もらったよ。俺はこれからもお前の騎士だ。お前の方が強すぎて、あんまりお前のことを守ってやれないけど。肩くらいなら、貸してやれる」
俺はマーリンを支えて立ち上がった。
俺が宙を舞っている間に、魔王は巨大な魔法陣を描いた。先端にナイフが取り付けられた鎖が魔法陣から大量に発射され、マーリンを突き刺そうとする。マーリンは素早く飛び退いてそれをかわしていく。しかし、鎖は壁に当たって跳ね返り、再びマーリンの方へと向かっていく。マーリンが鎖を避ければ避けるほど、鎖は部屋中に張り巡らされて、マーリンの逃げ場を奪っていく。魔王は鎖を天井からぶら下がるシャンデリアに引っ掛けて、先端のナイフを刺すことで鎖を壁に固定した。
俺が魔王の腕に受け止められるのと同時に、ぐっと鎖が引っ張られて、シャンデリアの留め具がブチッと外れた。
シャンデリアはマーリンの頭上に落ちていった。マーリンの周りは鎖に囲まれている。
逃げ場がない、と思ったのも束の間、マーリンは魔王の張り巡らせた鎖の上に飛び乗って落ちてくるシャンデリアをかわした。
ガシャーン、と大きな音を立てて、シャンデリアは割れた。
魔王は鎖に軽く触れた。鎖に緑色の炎が伝っていく。マーリンの乗っている鎖の方へ炎が広がっていく。
マーリンは鎖が燃えているのもお構いなしに、鎖の上をとんでもないバランス感覚で駆け抜けた。
そして、杖で魔王を殴ろうと振りかぶる。
魔王は魔法陣を盾にしてその杖を防いだ。
攻撃しても、魔法陣が鉄壁の防御だ、と俺が思っていると、マーリンはローブの内側から片手で何かを取り出し、下から魔法陣の盾を避けるようにして魔王の足に突き刺した。
「これは……」
シャンデリアの破片だ。
「いつの間に隠し持っていたんだ……?」
しかし、魔王はすぐに盾にしていた魔法陣からナイフを放った。マーリンは杖でそれを弾くが、弾ききれなかったナイフが数本、マーリンの腹に突き刺さった。
魔王は足、マーリンは腹から血を流し、息を切らしている。
「やっぱり君は強いね、マーリン。さすが僕が見込んだ男だ。でも僕は君に負けるつもりはないよ」
すると、魔王の足から流れていた血が、シュワッと光を放って徐々に消えていく。
「回復魔法か……厄介だな。だが、それならば回復される前にトドメを刺すまでだ」
マーリンは回復しかけている魔王の足に向けて、杖でナイフを次々と打ち込んだ。
「うっ……!」
魔王の腕の力が抜けて、俺は床に落下した。
鎖で縛られたまま、俺は這ってマーリンのもとに向かおうとした。
「逃がさないよ、ランスロット……!」
鎖がさらに巻きついて俺の身体を締めつける。
「うああっ……!」
骨が何本か逝った気がする。
マーリンの魔王を見る目にこれまで以上に殺意が溢れる。
マーリンは自分を囲む鎖をブチッと引きちぎった。その鎖を投げ縄のように、魔王へ投げつける。鎖が魔王の身体に絡まると、マーリンは鎖を自分のもとに引き寄せた。魔王とマーリンが至近距離に迫る。マーリンは魔王に華麗な蹴りを入れた。魔王は吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。
その衝撃で、俺の身体を縛っていた鎖魔法が解けた。
マーリンはその間に猛スピードで走っていき、壁にもたれる魔王を杖で殴りつけていた。
俺は身体を引きずって魔王とマーリンのところへ歩いた。
「回復が間に合わなくなってきているようだな」
「そうだね。そろそろやばいかも……」
魔王の美しい顔は痣と血に染まっていた。
「だけどね、最期は君を道連れにしてやるよ」
魔王が血のついた指で魔法陣を描くと、マーリンの背後に大量のナイフが現れ、雨のように降り注いだ。
マーリンは小さな呻き声を上げて、ガクリとその場に倒れた。
魔王は虚ろな目で俺を見上げた。
「ランスロット、僕は君に殺されるなら本望だ……僕を殺しなよ」
アーサーを殺された日から、憎み続けてきた魔王。その復讐が果たされようとしている。そう考えると、剣を握る手が震えた。
「ああ……でも、ひとつだけ心残りがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「……なんだよ」
「僕は生まれてから一度も……誰かに名前を呼ばれたことがない。君がもし僕に情けをかけてくれるなら……僕に、名前をつけてくれないか」
「名前……?」
魔王は魔術師であるがゆえに国を追われ、魔王となった。家族からは愛されず、魔術師たちからは崇拝され、対等に名前を呼び合うような人間はいなかったのだ。
「分かった」
俺は魔王の瞳を見つめた。アーサーによく似た金色の瞳。それはマーリンと俺が月夜に飲んだ酒の色によく似ていた。
「シェリー」
あの日マーリンと酌み交わした酒の名を告げた。
「シェリー……意味は『愛しい人』『愛の告白』……君に呼ばれるのは皮肉だな」
魔王は弱々しく、だが、幸せそうに笑ってみせた。
「ありがとう、ランスロット。君のことが好きだった」
俺は魔王……シェリーに、最後の一撃を刺した。動かなくなったシェリーの表情は、眠っているかのように安らかだった。
剣をしまい、俺は屈み込んでマーリンに声をかけた。
「おい、しっかりしろ……!」
「ランスロット……」
微かに呟く声がした。良かった、まだ死んでない。
「復讐が……終わってしまったな」
「そうだな」
魔王を殺せば、アーサーの仇が討てると思っていたが、実際に遂げてみると、どこか寂しかった。
それはマーリンと俺の関係が、復讐から始まった関係だったからなのだろう。
「結局……俺は勇者よりもお前の主人に相応しいと、証明できなかったな」
「でも、対価は十分もらったよ。俺はこれからもお前の騎士だ。お前の方が強すぎて、あんまりお前のことを守ってやれないけど。肩くらいなら、貸してやれる」
俺はマーリンを支えて立ち上がった。
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