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第1話 キアヌと炎の勇者
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「キアヌ。キアヌ。起きろ」
「んー……兄さま……?」
俺の呼びかけに、金髪の少年は布団からもぞもぞと這い出て目を開けた。
「なんだ、ウィルか……」
「起こしてやったのに『なんだ』ってなんだ。悪かったな、兄さまじゃなくて」
マッシュルームヘアのその少年はゆっくり伸びをして、ベッドから降り、着替え始めた。
「随分と呑気だな、お前は。他の勇者たちに先を越されるぞ」
「それは困るなぁ……」
この呑気な少年の名はキアヌ・オブシディアン。
女神ジェミニから魔法の杖を授けられた勇者である。
俺たちが暮らすアリアンロッド王国は、12人の女神が守護する宗教国家だ。
この王国に、最近、魔王が侵攻を始めたというので、12人の女神はそれぞれ魔王討伐にふさわしいと思う勇者を1人ずつ選び、その勇者たちに魔法の杖を与えたのだ。
「キアヌ、寝癖ついてるぞ」
「え、どこ?」
キアヌは荷物から手鏡を取り出して眺めた。
相変わらず死んだ目をしてるな……。
右目は青色だが、左目は宝石のように鮮やかに煌めく紫色をしている。
寝癖を櫛で梳かして直し、身支度を整えると、キアヌは魔法の杖を手に取り、部屋の扉に手をかけた。
「ウィル、荷物持って。出発するよ」
宿屋を出発した俺とキアヌは、腹ごしらえに近くの食堂へと向かった。
食堂の中に入ると、店員の女の人が
「いらっしゃいませ」
と明るい声で呼びかけてきた。
なかなかの美人だ。
「鼻の下伸びてるよ、ウィル」
キアヌがぼそっと突っ込む。
「1名様ですか?」
店員に問われ、キアヌが
「いえ、2人です」
と答えると、店員は少し不思議そうな顔をしながら、俺たちを席に案内した。
「ウィル、何食べる?」
「肉」
「すみませーん、サンドイッチ2つ」
「俺の意見ガン無視かよ」
店員はまた不思議そうな顔でテーブルにサンドイッチを2つ置いた。
それもそのはず、店員は、客をキアヌ1人だと思っている。
俺、ウィル・ヘリオドールは人間には認知することができない、悪魔である。
俺はかつて、人間にその存在を知られたことがなかった。自由気ままに旅をして、ときどき人間に悪戯をして、平和な暮らしを送っていた。
……キアヌに見つかってしまうまでは。
キアヌの紫に輝く左目は、悪魔を視認し、その悪魔を自分に従わせる能力を持っている。いわゆる魔眼である。
キアヌに視認された俺は、キアヌに逆らうことができない。そういうわけで、俺は勇者キアヌの魔王城へと向かう旅に同行し、キアヌの荷物持ちをさせられている。
いや、せっかく悪魔を使役できるっていうのに、荷物持ちさせるってなんだよ。
自分で言うのもアレだけど、俺、結構すごい魔力持ってるぞ。仕事が荷物持ちだけじゃ勿体ないんだが。
サンドイッチを貪りながら、俺は地図を広げた。
アリアンロッド王国は、国王の城があるエトワール地区、鉱石がよく採れるリュンヌ地区、小さな教会が多いシエル地区の3つに分かれている。まあ、こんな地域名は覚えなくても良いんだが。このうちのシエル地区に、魔王軍がじわじわと侵攻しているという。
魔王が率いる帝国の名は、りんご帝国。
魔王の好物がアップルパイであることから、こんなふざけた国名らしい。
りんご帝国の魔王の城はアリアンロッド王国より北東にある。
そこを目指してキアヌを含めた12人の勇者は競い合うように旅をしている。
「今、俺たちはエトワール地区にいる。魔王城に向かうには、リュンヌ地区を通って行くのが近道だ。オーケー?」
「へえ、そうなの?僕、方向音痴だから、よく分かんない。ウィルがいると助かるね」
「お前……。そんなんで、よく勇者に立候補したな」
「まあ、兄さまのためだから」
キアヌはそう言うと、ポケットから古びた写真を出して見つめた。
そこには、目が青色で、黒髪のポニーテールの少年が写っていた。長身でスタイルが良く、絵に描いたようなイケメンだ。顔にはお洒落な紋章が刻まれている。ただ、目つきがものすごく死んでる。
「はぁ……兄さま……かっこいい……」
写真を眺めてうっとりしているキアヌに、俺は呆れながら
「お前のブラコンも絶好調だな」
と溜め息を吐く。
「何か文句あるの」
キアヌが口を尖らせる。
「いや。ただ、俺には、家族ってもんが居ねーからな。お前の気持ちが全然分からん」
俺は物心ついたときから、一人で生きてきた。誰からも気づかれず、誰かから縛られることもなく、煩わしい付き合いもなかった。そんな俺は、家族なんて、面倒くさいだけだと思うんだが……。
「キアヌ!」
ふと、女の声がした。
俺はハッと我に返った。
見ると、キアヌの魔法の杖から、水色のショートヘアで、雪の結晶の形をしたピアスをつけた女神が現れていた。
「げっ、ジェミニ……」
「げっ、ウィル……」
俺と女神は激しく睨み合った。
「ちょっと、バチバチしないでよ」
キアヌがサンドイッチをパクパク食べながら仲裁に入る。
「キアヌ。勇者ともあろう者がこんなしょうもない悪魔とつるむんじゃない」
「あ?誰がしょうもない悪魔だ、このアホ女神」
「なんだと、貴様……」
「12人の女神の中で一番アーホ!!」
「貴様、今すぐ処す……!!」
「まあまあ、落ち着いて。ジェミニ、君がわざわざ僕の前に現れたってことは、何か用があるんでしょ?」
キアヌがなだめると、ジェミニは咳払いをして「ああ、そうだ」と頷いた。
「この近くに、女神アリエスに守護されし勇者、スアロが来ている。キアヌ……お前は悪魔を見る魔眼の持ち主だ。私以外の11人の女神たちからは良く思われていない。故に、勇者から命を狙われるかもしれない。気をつけろ」
そう。アリアンロッド王国は、女神を崇める宗教国家。神秘の力を使うことを許されているのは、女神と、その使徒イコール勇者だけ。
魔法を使う者……ましてや悪魔を操る魔眼の持ち主なんて、この国では忌み嫌われる存在なのだ。
「わかってるよ。魔王城に辿り着くのはこの僕だ。他の勇者なんて叩き潰す」
キアヌはそう言うと、まるで魔王のような笑みを浮かべた。
それを見て、ジェミニはふっと笑い、
「それなら良いんだが」
と満足そうに言い残して姿を消した。
食堂を後にすると、俺たちはリュンヌ地区方面に向けて街を離れ、川沿いの原っぱを歩き出した。
歩き出したっていうか、俺は羽根生えててちょっと浮いてるから飛んで移動し始めたって感じなんだが。
「この近くに勇者が来てるって言ってたな。ちょっと警戒しておくか」
「なんだっけ、勇者の名前……アポロだっけ……?」
「それはチョコだ」
「じゃあオレオ?」
「それはクッキーだし、1文字も合ってねーぞ。たしか、スアロだろ」
「ウィル、記憶力あるね。僕、お菓子の名前しか覚えられないや。スアロって、どんな勇者なのかな」
呑気な声でキアヌが言ったそのとき、背後から
「オレのことを呼んだか!?」
とでかい声がした。
振り返ってみると、ツンツンした赤い髪をした、いかにも漫画の主人公っぽいヤツが立っていた。
「呼んでません」
とキアヌが即答する。
「いや、呼んだだろう、オレは女神アリエスに守護されし炎の勇者スアロ!!」
「いや、別に、呼んでませんって……。うわ、暑苦しい。声でか……無理……」
キアヌ、心の声ダダ漏れだぞ。
「その禍々しい左目……お前、女神ジェミニに守護されし勇者キアヌだな!?」
「あー、うるさい、うるさい。だったら、何ですか」
「オレと勝負してもらおう!!決闘だ!」
「そう来ますか……やれやれですね」
「なんだそのやる気の無さは!お前それでも勇者か!?」
それは俺も同感。
「オレが好きなものを3つ教えてやろう!友情、努力、勝利!!お前はそのどれにも当てはまらん!よって、オレはお前が嫌いだ!今ここでお前を倒す!」
スアロはそう言うと、赤い石のついた魔法の杖をこっちに向けた。
「仕方ないなぁ……。僕の嫌いなものを3つ教えてあげるよ。満員電車、黒板を爪で引っ掻く音、そして……体育会系のノリだ」
キアヌはそう宣言し、水色の水晶のついた魔法の杖をスアロに向けた。
「ウィル……下がってて」
キアヌは俺を片手で後ろに下がらせた。
突然、スアロの杖からぶわっと炎が放たれた。
キアヌが杖を振るうと、キアヌの正面にドーム状の氷のバリアが張られた。
炎が激しく当たり、バリアはジュワリと溶かされた。
バシャッと水がキアヌに降りかかる。
キアヌの生気のない目に僅かな光が宿る。
今度はキアヌが杖を振りかざした。
すると、スアロの頭上に大きな氷柱が現れた。
落ちてきた氷柱をスアロはさっとかわす。
キアヌは畳み掛けるように氷柱を次々と落とす。
スアロは炎でそれをジュワリと溶かしながら、キアヌの方にまっすぐ走ってきた。
スアロが再び杖を振るう。
赤い炎が龍のように形を変え、うねりながらキアヌの服の裾にぶわっと火が灯した。
その間にスアロの足元も氷で固定されていく。
キアヌは自分の服を凍らせ、火を止めた。そして、キアヌはぴょんっと軽く跳んで、スアロから距離をとった。
スアロは炎を操る勇者。
キアヌは氷を操る勇者。
相性が悪すぎる。
キアヌは凍ったポケットから写真を取り出した。
「あ……兄さまの写真が……焦げてる……」
「何だってえ!?声が小さくて聞こえないぞー!?」
逆にお前の声はでかすぎるんだよ。
「アーノルド兄さま……」
キアヌは写真をポケットにしまい、スアロを殺気のこもった目で睨みつけた。
「許さない。僕は今から貴様を処す」
キアヌの足元から氷が一気に広がって、辺り一面を覆っていった。
スアロの炎を避けながら、キアヌは氷の上をスピードスケートのように滑り抜け、杖を振りかざした。
杖が氷の剣へと姿を変えた。
キアヌがスアロを斬りつけると、スアロは斬りつけられたところから氷漬けにされていった。
全身を凍らせられ、動かなくなったスアロをキアヌはひょいっと持ち上げると、近くの川にそっと浮かべた。
スアロはカチコチになったまま、後方へと流されていった。
「あーあ……。あいつも女神の加護を受けてるから死にはしないだろうけど、やりすぎじゃねーか?」
俺が尋ねると、キアヌは悪びれもせず、
「兄さまの写真を焦がした罪は重い」
と言い切る。
ブラコンは怒らせないに限るな……。
「残る勇者はあと10人か……」
「僕が全員ぶちのめす」
「物騒だな……」
「だって、僕の兄さまが勇者に討伐されるなんて、冗談じゃないよ。兄さまは、僕のために魔王になったのに」
「そりゃあ、そうだけどよ」
「必ず勇者を倒して兄さまに会いに行く」
「んー……兄さま……?」
俺の呼びかけに、金髪の少年は布団からもぞもぞと這い出て目を開けた。
「なんだ、ウィルか……」
「起こしてやったのに『なんだ』ってなんだ。悪かったな、兄さまじゃなくて」
マッシュルームヘアのその少年はゆっくり伸びをして、ベッドから降り、着替え始めた。
「随分と呑気だな、お前は。他の勇者たちに先を越されるぞ」
「それは困るなぁ……」
この呑気な少年の名はキアヌ・オブシディアン。
女神ジェミニから魔法の杖を授けられた勇者である。
俺たちが暮らすアリアンロッド王国は、12人の女神が守護する宗教国家だ。
この王国に、最近、魔王が侵攻を始めたというので、12人の女神はそれぞれ魔王討伐にふさわしいと思う勇者を1人ずつ選び、その勇者たちに魔法の杖を与えたのだ。
「キアヌ、寝癖ついてるぞ」
「え、どこ?」
キアヌは荷物から手鏡を取り出して眺めた。
相変わらず死んだ目をしてるな……。
右目は青色だが、左目は宝石のように鮮やかに煌めく紫色をしている。
寝癖を櫛で梳かして直し、身支度を整えると、キアヌは魔法の杖を手に取り、部屋の扉に手をかけた。
「ウィル、荷物持って。出発するよ」
宿屋を出発した俺とキアヌは、腹ごしらえに近くの食堂へと向かった。
食堂の中に入ると、店員の女の人が
「いらっしゃいませ」
と明るい声で呼びかけてきた。
なかなかの美人だ。
「鼻の下伸びてるよ、ウィル」
キアヌがぼそっと突っ込む。
「1名様ですか?」
店員に問われ、キアヌが
「いえ、2人です」
と答えると、店員は少し不思議そうな顔をしながら、俺たちを席に案内した。
「ウィル、何食べる?」
「肉」
「すみませーん、サンドイッチ2つ」
「俺の意見ガン無視かよ」
店員はまた不思議そうな顔でテーブルにサンドイッチを2つ置いた。
それもそのはず、店員は、客をキアヌ1人だと思っている。
俺、ウィル・ヘリオドールは人間には認知することができない、悪魔である。
俺はかつて、人間にその存在を知られたことがなかった。自由気ままに旅をして、ときどき人間に悪戯をして、平和な暮らしを送っていた。
……キアヌに見つかってしまうまでは。
キアヌの紫に輝く左目は、悪魔を視認し、その悪魔を自分に従わせる能力を持っている。いわゆる魔眼である。
キアヌに視認された俺は、キアヌに逆らうことができない。そういうわけで、俺は勇者キアヌの魔王城へと向かう旅に同行し、キアヌの荷物持ちをさせられている。
いや、せっかく悪魔を使役できるっていうのに、荷物持ちさせるってなんだよ。
自分で言うのもアレだけど、俺、結構すごい魔力持ってるぞ。仕事が荷物持ちだけじゃ勿体ないんだが。
サンドイッチを貪りながら、俺は地図を広げた。
アリアンロッド王国は、国王の城があるエトワール地区、鉱石がよく採れるリュンヌ地区、小さな教会が多いシエル地区の3つに分かれている。まあ、こんな地域名は覚えなくても良いんだが。このうちのシエル地区に、魔王軍がじわじわと侵攻しているという。
魔王が率いる帝国の名は、りんご帝国。
魔王の好物がアップルパイであることから、こんなふざけた国名らしい。
りんご帝国の魔王の城はアリアンロッド王国より北東にある。
そこを目指してキアヌを含めた12人の勇者は競い合うように旅をしている。
「今、俺たちはエトワール地区にいる。魔王城に向かうには、リュンヌ地区を通って行くのが近道だ。オーケー?」
「へえ、そうなの?僕、方向音痴だから、よく分かんない。ウィルがいると助かるね」
「お前……。そんなんで、よく勇者に立候補したな」
「まあ、兄さまのためだから」
キアヌはそう言うと、ポケットから古びた写真を出して見つめた。
そこには、目が青色で、黒髪のポニーテールの少年が写っていた。長身でスタイルが良く、絵に描いたようなイケメンだ。顔にはお洒落な紋章が刻まれている。ただ、目つきがものすごく死んでる。
「はぁ……兄さま……かっこいい……」
写真を眺めてうっとりしているキアヌに、俺は呆れながら
「お前のブラコンも絶好調だな」
と溜め息を吐く。
「何か文句あるの」
キアヌが口を尖らせる。
「いや。ただ、俺には、家族ってもんが居ねーからな。お前の気持ちが全然分からん」
俺は物心ついたときから、一人で生きてきた。誰からも気づかれず、誰かから縛られることもなく、煩わしい付き合いもなかった。そんな俺は、家族なんて、面倒くさいだけだと思うんだが……。
「キアヌ!」
ふと、女の声がした。
俺はハッと我に返った。
見ると、キアヌの魔法の杖から、水色のショートヘアで、雪の結晶の形をしたピアスをつけた女神が現れていた。
「げっ、ジェミニ……」
「げっ、ウィル……」
俺と女神は激しく睨み合った。
「ちょっと、バチバチしないでよ」
キアヌがサンドイッチをパクパク食べながら仲裁に入る。
「キアヌ。勇者ともあろう者がこんなしょうもない悪魔とつるむんじゃない」
「あ?誰がしょうもない悪魔だ、このアホ女神」
「なんだと、貴様……」
「12人の女神の中で一番アーホ!!」
「貴様、今すぐ処す……!!」
「まあまあ、落ち着いて。ジェミニ、君がわざわざ僕の前に現れたってことは、何か用があるんでしょ?」
キアヌがなだめると、ジェミニは咳払いをして「ああ、そうだ」と頷いた。
「この近くに、女神アリエスに守護されし勇者、スアロが来ている。キアヌ……お前は悪魔を見る魔眼の持ち主だ。私以外の11人の女神たちからは良く思われていない。故に、勇者から命を狙われるかもしれない。気をつけろ」
そう。アリアンロッド王国は、女神を崇める宗教国家。神秘の力を使うことを許されているのは、女神と、その使徒イコール勇者だけ。
魔法を使う者……ましてや悪魔を操る魔眼の持ち主なんて、この国では忌み嫌われる存在なのだ。
「わかってるよ。魔王城に辿り着くのはこの僕だ。他の勇者なんて叩き潰す」
キアヌはそう言うと、まるで魔王のような笑みを浮かべた。
それを見て、ジェミニはふっと笑い、
「それなら良いんだが」
と満足そうに言い残して姿を消した。
食堂を後にすると、俺たちはリュンヌ地区方面に向けて街を離れ、川沿いの原っぱを歩き出した。
歩き出したっていうか、俺は羽根生えててちょっと浮いてるから飛んで移動し始めたって感じなんだが。
「この近くに勇者が来てるって言ってたな。ちょっと警戒しておくか」
「なんだっけ、勇者の名前……アポロだっけ……?」
「それはチョコだ」
「じゃあオレオ?」
「それはクッキーだし、1文字も合ってねーぞ。たしか、スアロだろ」
「ウィル、記憶力あるね。僕、お菓子の名前しか覚えられないや。スアロって、どんな勇者なのかな」
呑気な声でキアヌが言ったそのとき、背後から
「オレのことを呼んだか!?」
とでかい声がした。
振り返ってみると、ツンツンした赤い髪をした、いかにも漫画の主人公っぽいヤツが立っていた。
「呼んでません」
とキアヌが即答する。
「いや、呼んだだろう、オレは女神アリエスに守護されし炎の勇者スアロ!!」
「いや、別に、呼んでませんって……。うわ、暑苦しい。声でか……無理……」
キアヌ、心の声ダダ漏れだぞ。
「その禍々しい左目……お前、女神ジェミニに守護されし勇者キアヌだな!?」
「あー、うるさい、うるさい。だったら、何ですか」
「オレと勝負してもらおう!!決闘だ!」
「そう来ますか……やれやれですね」
「なんだそのやる気の無さは!お前それでも勇者か!?」
それは俺も同感。
「オレが好きなものを3つ教えてやろう!友情、努力、勝利!!お前はそのどれにも当てはまらん!よって、オレはお前が嫌いだ!今ここでお前を倒す!」
スアロはそう言うと、赤い石のついた魔法の杖をこっちに向けた。
「仕方ないなぁ……。僕の嫌いなものを3つ教えてあげるよ。満員電車、黒板を爪で引っ掻く音、そして……体育会系のノリだ」
キアヌはそう宣言し、水色の水晶のついた魔法の杖をスアロに向けた。
「ウィル……下がってて」
キアヌは俺を片手で後ろに下がらせた。
突然、スアロの杖からぶわっと炎が放たれた。
キアヌが杖を振るうと、キアヌの正面にドーム状の氷のバリアが張られた。
炎が激しく当たり、バリアはジュワリと溶かされた。
バシャッと水がキアヌに降りかかる。
キアヌの生気のない目に僅かな光が宿る。
今度はキアヌが杖を振りかざした。
すると、スアロの頭上に大きな氷柱が現れた。
落ちてきた氷柱をスアロはさっとかわす。
キアヌは畳み掛けるように氷柱を次々と落とす。
スアロは炎でそれをジュワリと溶かしながら、キアヌの方にまっすぐ走ってきた。
スアロが再び杖を振るう。
赤い炎が龍のように形を変え、うねりながらキアヌの服の裾にぶわっと火が灯した。
その間にスアロの足元も氷で固定されていく。
キアヌは自分の服を凍らせ、火を止めた。そして、キアヌはぴょんっと軽く跳んで、スアロから距離をとった。
スアロは炎を操る勇者。
キアヌは氷を操る勇者。
相性が悪すぎる。
キアヌは凍ったポケットから写真を取り出した。
「あ……兄さまの写真が……焦げてる……」
「何だってえ!?声が小さくて聞こえないぞー!?」
逆にお前の声はでかすぎるんだよ。
「アーノルド兄さま……」
キアヌは写真をポケットにしまい、スアロを殺気のこもった目で睨みつけた。
「許さない。僕は今から貴様を処す」
キアヌの足元から氷が一気に広がって、辺り一面を覆っていった。
スアロの炎を避けながら、キアヌは氷の上をスピードスケートのように滑り抜け、杖を振りかざした。
杖が氷の剣へと姿を変えた。
キアヌがスアロを斬りつけると、スアロは斬りつけられたところから氷漬けにされていった。
全身を凍らせられ、動かなくなったスアロをキアヌはひょいっと持ち上げると、近くの川にそっと浮かべた。
スアロはカチコチになったまま、後方へと流されていった。
「あーあ……。あいつも女神の加護を受けてるから死にはしないだろうけど、やりすぎじゃねーか?」
俺が尋ねると、キアヌは悪びれもせず、
「兄さまの写真を焦がした罪は重い」
と言い切る。
ブラコンは怒らせないに限るな……。
「残る勇者はあと10人か……」
「僕が全員ぶちのめす」
「物騒だな……」
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