9 / 15
第8話 キアヌと弓の勇者
しおりを挟む
「キアヌ様、何かが届きましたよ」
「え、何だろう……?」
アクエリアスのダンジョンに向けて出発しようとする俺たちの元に、宿屋の窓から羽の生えた箱がふわりと舞い込んできた。
箱には手紙が結びつけられていた。
俺たちはその手紙を3人で覗き込んだ。
それは、アーノルドからの手紙だった。
『親愛なる弟へ。
元気にしているか?お前は俺にとってこの世で一番可愛い存在だ。二番目はりんごだ。あの丸っこいフォルムがとても可愛い。
俺は、世界はりんごを中心に回っていると思っている。りんごは原初の人間が食したという逸話もあるし、万有引力もりんごがあるから見つかった。今、俺たちが享受している生活は、りんごがあるからこそ成り立っているのだ。りんご有り、ゆえに我有り。お前もりんごには、敬意を払え。
追伸。りんご帝国で作ったアップルパイをお前に贈る。みんなで食べてくれ。
アーノルド・オブシディアン』
「……。アーノルドのやつ、りんご愛が強すぎて、りんご教の教祖みたいになってるな」
「わーい、アップルパイだー」
「美味しそうですね」
「手紙の内容スルーかよ」
「え、手紙?ああ、兄さま、僕が一番可愛いって。嬉しいな」
「その割にりんごのことばっかり書いてあったけどな」
俺がそんなツッコミを入れていると。
「キアヌ!」
そう呼ぶ声がして、キアヌの魔法の杖からジェミニが現れた。
「あっ、ジェミニ。一緒にアップルパイ食べようよ」
「アップルパイ?」
「うん、兄さまがくれたんだ」
キアヌはジェミニにアップルパイをひとつ差し出した。
「いただきます」
ジェミニはキアヌからアップルパイを受け取ってパクリと口に入れた。
「ん……!美味しい……!ホクホクしたりんごの優しい甘みが口いっぱいに広がる……!」
アップルパイをモグモグと食べながら、ジェミニは切り出した。
「そうだ、キアヌ。現在、この近くに、女神サジタリアスに守護されし勇者、モストが来ている。気をつけろ」
「また見知らぬ勇者か……やれやれですね」
「あと、スアロもアクエリアスのダンジョンを目指しているらしい。どこかで出くわすかもしれない」
「スアロ……誰だっけ?」
全然ピンときていないキアヌに、俺はそっと囁く。
「炎の勇者だよ。体育会系のうるせーヤツ」
「あー、そうだった。だいぶ前にぶちのめした勇者だ」
「……アクエリアスのダンジョンは、人気のダンジョンなんだ。他にも目指している勇者がいるかもしれん」
「ダンジョンに、人気とかあるんだ……」
「また何かあったら伝える。頑張れよ」
ジェミニはそう言い残して姿を消した。
俺たちはアップルパイを食べ終わると、ダンジョンを目指して出発した。
気持ちの良い晴天だ。
港町はレンガ造りの住宅街が広がっていて、建物や木々の隙間から、青い海が見える。
俺たちはその海の方向へと歩いていく。
「海が見えてきましたね……!私、海に来るのは初めてです」
ヒューが嬉しそうに微笑んで言う。
「そっか。ヒューはたしか、エトワール地区の北生まれなんだっけ?」
「はい。王都周辺で育ったので、近くに海はありませんでした」
「僕は小さい頃に兄さまと一回だけ来たことがあるよ。砂のお城を作ったり、貝殻を拾い集めたりして……」
キアヌの話を遮るように、何かの影が一瞬頭上に見えた。
「キアヌ様!」
ヒューが咄嗟にキアヌを突き飛ばした。
「うっ……!」
ヒューがガクッとへたり込んだ。
「ヒュー!!」
俺は慌ててヒューのそばに寄った。
ヒューの背中に金色の光でできた矢が突き刺さって貫通していた。
「まずい、キアヌ!誰かに攻撃されてる!!」
「わかってる」
キアヌは矢が飛んできた後方をじっと見つめた。
ヒューの背中に刺さっていた矢がキラキラと光りながらスーッと消えていった。
「キアヌ様……ここは危険です……逃げてください……」
「僕はヒューを置いて逃げたりしないよ。……僕が今から敵を処す」
キアヌは小さな氷柱をいくつも手に持った。
そこに、ビュンッと家の屋根を飛び越え、弧を描いて光の矢が次々と飛んできた。
キアヌは氷柱を手裏剣のように光の矢めがけて投げつけた。
氷柱が当たり、矢はパーンとシャボン玉が割れるかのように弾けた。
屋根の上に、一人の少年が現れた。
目つきの悪いその少年は、蜂蜜色の髪をポニーテールにしていて、オレンジ色のケープを身にまとっていた。
「ちっ、命中してねえ……!」
少年は、オレンジ色の水晶がついた杖を前に突き出した。すると、杖が変形して、弓の形になった。
そこに、光の矢が何本も現れた。少年は弓を構え、矢をまとめて射った。
矢が屋根の上からキアヌの方に降り注ぐ。
キアヌは走ってその矢から逃げた。
「逃がさねえ……!」
すると、矢はぐいっと軌道を変えてキアヌを追いかけていく。狙いを定めた矢はスピードを上げてキアヌの胸めがけて刺さろうとする。
キアヌはすぐに飛び退いてその矢を避けた。
矢は地面にグサリと突き刺さった。
キアヌは軽く息を切らしながら、少年を見上げた。
「君は……勇者……?」
「ああ。オレはモスト。女神サジタリアスに選ばれた勇者だ。……この国の危険分子である魔眼の使い手は始末させてもらう」
「僕、別に、危険分子なんかじゃないよ」
「たしかに、ぱっと見、危険でも何でもなさそうな、ふぬけたツラをしているが、そういうフリをしているだけの可能性もある」
「え、僕ってふぬけたツラなの……?普通に傷つく……」
「食らえ……!!」
モストは再び弓を引いた。
光の矢がビュンビュン飛んでくる。
キアヌは曲がり角を曲がってモストの死角に入った。
「逃げても無駄だ。オレの矢は、ターゲットを視認し、追跡する……!」
モストは屋根の上から矢を放ち、矢を追いかけて屋根の上を駆け抜けた。
矢は屋根の上から下に弧を描いて降りていくと、軌道を変えてキアヌの追跡を始めた。
俺はキアヌの様子を見に、後を追いかけて角を曲がった。
キアヌは四角い氷のバリアを作って道の真ん中に立っていた。
なるほど、氷のバリアなら、光の矢を反射できるかもしれない。
俺は息を飲んで光の矢を見つめた。
矢が氷のバリアに当たると、矢はバチバチと明るい光をまとい、スピードを増した。
パーンッ!
と矢はバリアを一気に突き破り、氷は激しく割れた。
「キアヌ!!」
そこに、キアヌの姿はなかった。
「ひょっとして……これは……氷の鏡……?」
氷の鏡に、ダミーの自分を映し出していたのか……!
じゃあ、本物のキアヌは……。
俺が顔を上げると、キアヌはすでに氷の階段を作って屋根の上に上っていた。
キアヌは氷で拳に氷をまとわせ、モストの腹を殴りつけた。
「ぐっ……!!」
モストの身体が凍りながら、屋根の上から転がり落ちた。
モストがカチコチに凍ったのを確認すると、キアヌは急いでヒューの元へ駆け寄った。
「ヒュー、ごめん。僕を庇ったせいで……」
「キアヌ様……」
「傷の様子を見せて」
キアヌはヒューのローブをぺらっとめくって服の中を覗き込んだ。
そこに、モストが凍った身体を引きずってやってきた。
モストはキアヌの様子を見て顔を真っ赤にした。
「なっ、何、お前、スカートめくりしてるんだ……!」
「え、違うけど……」
「ふぬけたツラじゃなくて、むっつりスケベのツラだったのか、この変態野郎……!」
モストは逃げるようにその場から去って行った。
「なんか誤解されちゃった……まあ、いっか。……あれ、矢が刺さったはずなのに傷が無いね」
「たしかに、先程から、身体に力は入らないのですが、痛みはありません……」
「あれは女神が作った矢だから、人を傷つける能力はないのかもしれないな」
「でも、身体に力が入らないんじゃ、しばらく歩けないよね。少し休んでから行こうか」
「休むって言っても、この辺は住宅街だから、休憩所とか宿屋とかねーぞ?」
「そっか……。じゃあ、どうしよう……」
悩むキアヌを見兼ねて、俺は言った。
「しょうがねーなぁ。俺が、ヒューを乗せて港まで飛んで行ってやるよ」
俺がヒューを「よっこらしょ」とおんぶすると、突然身体が浮いたヒューはビクンッと跳ね上がった。
「あ、悪い。ヒューには俺が見えないんだった」
「ウィルがヒューのことおんぶしてってくれるって」
「そうなんですか……びっくりしました……ありがとうございます、ウィル様」
ヒューは恐る恐る俺の肩に腕を回して俺に身を委ねた。
見えないものに身を預けるのはきっと不安なはずだ。俺がちゃんとしなければ。俺は妙な責任を感じて、ヒューの身体をしっかりと支えた。
「よし、港に向かうぞ」
俺たちは海に向けてまた進み出した。
「え、何だろう……?」
アクエリアスのダンジョンに向けて出発しようとする俺たちの元に、宿屋の窓から羽の生えた箱がふわりと舞い込んできた。
箱には手紙が結びつけられていた。
俺たちはその手紙を3人で覗き込んだ。
それは、アーノルドからの手紙だった。
『親愛なる弟へ。
元気にしているか?お前は俺にとってこの世で一番可愛い存在だ。二番目はりんごだ。あの丸っこいフォルムがとても可愛い。
俺は、世界はりんごを中心に回っていると思っている。りんごは原初の人間が食したという逸話もあるし、万有引力もりんごがあるから見つかった。今、俺たちが享受している生活は、りんごがあるからこそ成り立っているのだ。りんご有り、ゆえに我有り。お前もりんごには、敬意を払え。
追伸。りんご帝国で作ったアップルパイをお前に贈る。みんなで食べてくれ。
アーノルド・オブシディアン』
「……。アーノルドのやつ、りんご愛が強すぎて、りんご教の教祖みたいになってるな」
「わーい、アップルパイだー」
「美味しそうですね」
「手紙の内容スルーかよ」
「え、手紙?ああ、兄さま、僕が一番可愛いって。嬉しいな」
「その割にりんごのことばっかり書いてあったけどな」
俺がそんなツッコミを入れていると。
「キアヌ!」
そう呼ぶ声がして、キアヌの魔法の杖からジェミニが現れた。
「あっ、ジェミニ。一緒にアップルパイ食べようよ」
「アップルパイ?」
「うん、兄さまがくれたんだ」
キアヌはジェミニにアップルパイをひとつ差し出した。
「いただきます」
ジェミニはキアヌからアップルパイを受け取ってパクリと口に入れた。
「ん……!美味しい……!ホクホクしたりんごの優しい甘みが口いっぱいに広がる……!」
アップルパイをモグモグと食べながら、ジェミニは切り出した。
「そうだ、キアヌ。現在、この近くに、女神サジタリアスに守護されし勇者、モストが来ている。気をつけろ」
「また見知らぬ勇者か……やれやれですね」
「あと、スアロもアクエリアスのダンジョンを目指しているらしい。どこかで出くわすかもしれない」
「スアロ……誰だっけ?」
全然ピンときていないキアヌに、俺はそっと囁く。
「炎の勇者だよ。体育会系のうるせーヤツ」
「あー、そうだった。だいぶ前にぶちのめした勇者だ」
「……アクエリアスのダンジョンは、人気のダンジョンなんだ。他にも目指している勇者がいるかもしれん」
「ダンジョンに、人気とかあるんだ……」
「また何かあったら伝える。頑張れよ」
ジェミニはそう言い残して姿を消した。
俺たちはアップルパイを食べ終わると、ダンジョンを目指して出発した。
気持ちの良い晴天だ。
港町はレンガ造りの住宅街が広がっていて、建物や木々の隙間から、青い海が見える。
俺たちはその海の方向へと歩いていく。
「海が見えてきましたね……!私、海に来るのは初めてです」
ヒューが嬉しそうに微笑んで言う。
「そっか。ヒューはたしか、エトワール地区の北生まれなんだっけ?」
「はい。王都周辺で育ったので、近くに海はありませんでした」
「僕は小さい頃に兄さまと一回だけ来たことがあるよ。砂のお城を作ったり、貝殻を拾い集めたりして……」
キアヌの話を遮るように、何かの影が一瞬頭上に見えた。
「キアヌ様!」
ヒューが咄嗟にキアヌを突き飛ばした。
「うっ……!」
ヒューがガクッとへたり込んだ。
「ヒュー!!」
俺は慌ててヒューのそばに寄った。
ヒューの背中に金色の光でできた矢が突き刺さって貫通していた。
「まずい、キアヌ!誰かに攻撃されてる!!」
「わかってる」
キアヌは矢が飛んできた後方をじっと見つめた。
ヒューの背中に刺さっていた矢がキラキラと光りながらスーッと消えていった。
「キアヌ様……ここは危険です……逃げてください……」
「僕はヒューを置いて逃げたりしないよ。……僕が今から敵を処す」
キアヌは小さな氷柱をいくつも手に持った。
そこに、ビュンッと家の屋根を飛び越え、弧を描いて光の矢が次々と飛んできた。
キアヌは氷柱を手裏剣のように光の矢めがけて投げつけた。
氷柱が当たり、矢はパーンとシャボン玉が割れるかのように弾けた。
屋根の上に、一人の少年が現れた。
目つきの悪いその少年は、蜂蜜色の髪をポニーテールにしていて、オレンジ色のケープを身にまとっていた。
「ちっ、命中してねえ……!」
少年は、オレンジ色の水晶がついた杖を前に突き出した。すると、杖が変形して、弓の形になった。
そこに、光の矢が何本も現れた。少年は弓を構え、矢をまとめて射った。
矢が屋根の上からキアヌの方に降り注ぐ。
キアヌは走ってその矢から逃げた。
「逃がさねえ……!」
すると、矢はぐいっと軌道を変えてキアヌを追いかけていく。狙いを定めた矢はスピードを上げてキアヌの胸めがけて刺さろうとする。
キアヌはすぐに飛び退いてその矢を避けた。
矢は地面にグサリと突き刺さった。
キアヌは軽く息を切らしながら、少年を見上げた。
「君は……勇者……?」
「ああ。オレはモスト。女神サジタリアスに選ばれた勇者だ。……この国の危険分子である魔眼の使い手は始末させてもらう」
「僕、別に、危険分子なんかじゃないよ」
「たしかに、ぱっと見、危険でも何でもなさそうな、ふぬけたツラをしているが、そういうフリをしているだけの可能性もある」
「え、僕ってふぬけたツラなの……?普通に傷つく……」
「食らえ……!!」
モストは再び弓を引いた。
光の矢がビュンビュン飛んでくる。
キアヌは曲がり角を曲がってモストの死角に入った。
「逃げても無駄だ。オレの矢は、ターゲットを視認し、追跡する……!」
モストは屋根の上から矢を放ち、矢を追いかけて屋根の上を駆け抜けた。
矢は屋根の上から下に弧を描いて降りていくと、軌道を変えてキアヌの追跡を始めた。
俺はキアヌの様子を見に、後を追いかけて角を曲がった。
キアヌは四角い氷のバリアを作って道の真ん中に立っていた。
なるほど、氷のバリアなら、光の矢を反射できるかもしれない。
俺は息を飲んで光の矢を見つめた。
矢が氷のバリアに当たると、矢はバチバチと明るい光をまとい、スピードを増した。
パーンッ!
と矢はバリアを一気に突き破り、氷は激しく割れた。
「キアヌ!!」
そこに、キアヌの姿はなかった。
「ひょっとして……これは……氷の鏡……?」
氷の鏡に、ダミーの自分を映し出していたのか……!
じゃあ、本物のキアヌは……。
俺が顔を上げると、キアヌはすでに氷の階段を作って屋根の上に上っていた。
キアヌは氷で拳に氷をまとわせ、モストの腹を殴りつけた。
「ぐっ……!!」
モストの身体が凍りながら、屋根の上から転がり落ちた。
モストがカチコチに凍ったのを確認すると、キアヌは急いでヒューの元へ駆け寄った。
「ヒュー、ごめん。僕を庇ったせいで……」
「キアヌ様……」
「傷の様子を見せて」
キアヌはヒューのローブをぺらっとめくって服の中を覗き込んだ。
そこに、モストが凍った身体を引きずってやってきた。
モストはキアヌの様子を見て顔を真っ赤にした。
「なっ、何、お前、スカートめくりしてるんだ……!」
「え、違うけど……」
「ふぬけたツラじゃなくて、むっつりスケベのツラだったのか、この変態野郎……!」
モストは逃げるようにその場から去って行った。
「なんか誤解されちゃった……まあ、いっか。……あれ、矢が刺さったはずなのに傷が無いね」
「たしかに、先程から、身体に力は入らないのですが、痛みはありません……」
「あれは女神が作った矢だから、人を傷つける能力はないのかもしれないな」
「でも、身体に力が入らないんじゃ、しばらく歩けないよね。少し休んでから行こうか」
「休むって言っても、この辺は住宅街だから、休憩所とか宿屋とかねーぞ?」
「そっか……。じゃあ、どうしよう……」
悩むキアヌを見兼ねて、俺は言った。
「しょうがねーなぁ。俺が、ヒューを乗せて港まで飛んで行ってやるよ」
俺がヒューを「よっこらしょ」とおんぶすると、突然身体が浮いたヒューはビクンッと跳ね上がった。
「あ、悪い。ヒューには俺が見えないんだった」
「ウィルがヒューのことおんぶしてってくれるって」
「そうなんですか……びっくりしました……ありがとうございます、ウィル様」
ヒューは恐る恐る俺の肩に腕を回して俺に身を委ねた。
見えないものに身を預けるのはきっと不安なはずだ。俺がちゃんとしなければ。俺は妙な責任を感じて、ヒューの身体をしっかりと支えた。
「よし、港に向かうぞ」
俺たちは海に向けてまた進み出した。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる