「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です

涙乃(るの)

文字の大きさ
21 / 29

9

しおりを挟む
外へ出たフィオナは、はぁっとため息をもらす。

旦那様に握られた手の温もりがまだ残っている。

このままではいけない。

自身の荒れた手を見て、先程のメアリー達のことが頭をよぎる。

彼女達の肌や手や髪質、そのどれもが自分なんかよりもはるかに綺麗だった。

仕方のないことですね。
ライアンが無事に一人立ちしたら、貴族籍から離れて、庶民として働いて生きて行くしかないかもしれません。

ライアンが結婚して家庭を持ったら、私の存在は邪魔になる。

ライアンにはルブラン家を建て直してもらいたい。

その頃の自分の年齢を考えると、結婚相手を探すのも、持参金のことも、ライアンの負担にしかならない。

それに、こんな荒れた手や、少し筋肉のついた腕……

「はぁ……」


今までおしゃれなどに興味を持たないように、抑制していたけれど、やっぱり綺麗に着飾って舞踏会にも参加してみたかった。

旦那様と一緒に参加できたなら、きっと一生の思い出になるでしょう。


自分の中に、まだそんな乙女心が残っていたことに戸惑うフィオナ。

ほんのりと芽生えてきたこの淡い恋心も、これ以上大きくなる前に忘れないといけません。

肩を落とし歩いていると、囁くような声が聞こえる。


「ティナ、ティナ、クリスティナ!」


フィオナはキョロキョロと辺りを見回すと、木の陰に隠れるように佇む人物を見つける。


庶民の男性がよく着ているシャツにパンツというスタイルで、帽子を深く被っており、手まねきしている。

「どなたですか?」

フィオナは警戒しつつ、その人物に声をかける。

その人物は顔全体がフィオナに見えるように、帽子を少し持ちあげた。

「っ! フィオ姉様!」


その人物は、「しー!」っと口の前に人差し指を立てて、声を抑えるように合図をする。

フィオナは周囲に誰もいないことを確認すると、急いでフィオーリの側に駆け寄った。

「クリスティナ‼︎   」

フィオーリはガバリとクリスティナを抱きしめる。

「フィオ姉様、説明してください! というか、大変ですっ、人違いかもしれません」


「どういうこと?」

きょとんと首をかしげるフィオーリに、フィオナは今までの経緯を説明した。

「なるほどねー。どうりで、お会いした記憶がないはずだわ。じゃあ、ティナはどこで見初められたの?ねぇねぇ、詳しくおしえて。 というか、ティナ、あなた、ケチったのね?
 髪色が……ふふふ、なんだか、昔を思い出すわね。よくこんな風に入れ替わって遊んでいたわね。
 
いけないっ、あなたに依頼料を渡すのを忘れていたわ。うっかりしていて、ごめんなさい。
これを、受け取って。

でも、間違いだったのなら、あなたがカミングアウトしたら、全て解決ね。

嬉しい!」


フィオーリは満面の笑みを浮かべて、ポケットから小袋を取り出すと、クリスティナの手に持たせる。

ずしりとした重みにフィオナは動揺する。

「これは?」

そっと中を覗くと金貨が詰まっていた。

「姉様? ど、ど、どうしたのですこんな大金?受け取れませんっ」


フィオナはフィオーリに慌てて押し返した。

「いいのよ、これは依頼料含めて、迷惑料、受け取って」

「意味がわかりません!」

返そうとするフィオナと、渡そうとするフィオーリ。 何度も繰り返すうちに手が滑り地面に小袋が落ちてしまう。
ジャランと金貨が小袋から溢れる。

二人で慌てて拾い集めると、フィオーリはフィオナに押しつけた。


パキッと枝を踏む音が聞こえてくる。

「誰か来るわ。もう帰るわね、ティナごめんね!でも、ロシュフォール伯爵様のお相手が私ではなくて本当に良かった‼︎手紙が入っているから読んでね」


「ちょっと、待って」

フィオーリは素早く立ち去って行く。
帽子からはわずかに金髪が垣間見える。

姉様、髪色は染めていないのですね。

フィオナは無理矢理渡された小袋を手に持ったまま、その姿を見送っていた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完結)お姉様、私を捨てるの?

青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・ 中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。 お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。 だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!  これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

処理中です...