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頭を下げ退室したルーナだったが、背後にパサリと何かを投げられて振り向く。
これは……ステラお姉さまのドレス。
ステラの好みそうなフリフリとしたドレスが投げ捨てられていた。
これを、着て行けということなのでしょうね。
ため息をついたルーナはドレスを拾い上げ、屋根裏部屋に桶を取りに行く。
身体を洗う為に川に水を汲みにいくのだ。
魔力のないルーナは、浴室の蛇口は使えない。貴族邸の器具はほとんどが魔力で作動するものだった。
幸い洗面所は使用人部屋のものは魔力なくても作動する。けれど、浴室はダメだった。
「よいしょ、よいしょ」
何往復しただろうか。これで最後にしようと川の水を汲み上げたルーナは水面に映る自身の姿を見てぴたりと動きを止める。
埃まみれの灰色の髪は、所々絡まりボサボサだった。
「ひどい顔……」
頬は痩せこけ、瞳だけがぎろりと目立っており、初対面の人は怖がるであろう容姿だった。
母に似ていると言われたあの頃のルーナは、もういない。
桶を持ち上げて、踵をかえした瞬間、何かに足元を掬われて転倒した。
「きゃあ!」
「うぐっ!」
バシャーンと桶から水が溢れていき、ルーナと、行き倒れている人物にかかる。
「あ、あの、ごめんさい!だ、大丈夫ですか?あの、どこか具合が悪いのですか?」
地面にうつ伏せで倒れている人物の背中を、ゆさゆさと揺するものの返答はない。
真っ白な髪、スラリとした体躯
ご老人かしら? とにかく邸まで連れていこう
ルーナはその人物を抱え起こそうと必死だった。
「んん……」
うっすら意識があるようで、その人物はルーナの肩にもたれかかるように立ち上がると、一緒に邸の屋根裏部屋まで歩いてくれた。
「よいしょ」
ルーナはベッドに横たえると、濡れた衣服を脱がし始める。
プチプチとボタンを外し、露わになった肉体を見てルーナはぼっと赤面する。
スラリとした体躯は、意外に胸板が厚く腹筋も割れていたからだ。
男性に免疫のないルーナは、妙な汗も出て緊張してくる。
お、おじいさん、だもの……変に意識してはだめ……
自分に言い聞かせながら、身体をタオルで拭いて、邸の使用人部屋に残っていた衣服を着せ終える。
髪も拭こうとまじまじと男性の顔を見て不思議に思うルーナ。
髪は真っ白だけれど、顔に皺はない。
身体もまるで若者のよう。細マッチョという感じだった。
おじいさんよね……?
自分も濡れた衣服を着替えようとした時に、勢いよく扉が開かれた
「まだいたのか!さっさと荷物をまとめるんだ!ん……?なんだそのじじいは⁉︎」
「お、お父さま……申し訳ありません…あの、倒れていたのです。この方が回復されるまでいさせていただけませんか?気を失っておられるようです。お医者さを……」
「医者を呼べだと⁉︎ そんな老人に払う金などないわ!」
「で、でしたら、私が看病しますので!どうか、この方が起き上がれるまでお願いします」
「イエール侯爵との約束がある。明日にはここから出て行けいいな!」
用件だけ言い終えるとハワード伯爵は去って行った。
明日まで……、時間がない、急がないと。
ルーナは急いで入浴を済ませると、厨房にいきスープを作り始める。
馬車が出て行く音がしたので、伯爵達は食事をしに出かけたのだろう。結納金も入り余裕がでてきたのだろう。
もう、あの人たちに食事を作らなくてもいいのね。
部屋に戻るとルーナは、男性に水を飲ませたり、スープを一口づつ飲ませたり、一晩中つきっきりで看病した。
久々に入浴して清潔になった髪の毛を、一本プチッと引き抜くと、男性の手首にリポン結びをする。そして、両手を胸の前で組み祈りを捧げる。
「どうか、元気になりますように」と。
この地方に伝わるおまじないだった。
本来はリボンを大切な人の手首に結び、祈りを捧げる。
戦地に赴くときや、病気の時、旅行に行く時、恋人や家族が相手の無事を祈ってリボンを手首に結ぶ。
ルーナはリボンを持っていないので、髪の毛を結んだ。
気持ち悪がられるかなという不安もあったけれど、なぜか、どうしてもそうしたい衝動に駆られたのだ。
そのおかげか翌朝にはすっかり元気を取り戻していた。けれど、声を発することができないようだった。
何度も頭を下げ感謝の気持ちを表す男性を見て、ルーナは回復して本当に良かったと微笑んだ。
「最後に人助けができてよかったです」
「最後?」
口の動きで言葉を読み取ったルーナは、もう二度とここへは戻らない覚悟を決めていたこともり、自分の境遇を愚痴るように打ち明け始めた。
これは……ステラお姉さまのドレス。
ステラの好みそうなフリフリとしたドレスが投げ捨てられていた。
これを、着て行けということなのでしょうね。
ため息をついたルーナはドレスを拾い上げ、屋根裏部屋に桶を取りに行く。
身体を洗う為に川に水を汲みにいくのだ。
魔力のないルーナは、浴室の蛇口は使えない。貴族邸の器具はほとんどが魔力で作動するものだった。
幸い洗面所は使用人部屋のものは魔力なくても作動する。けれど、浴室はダメだった。
「よいしょ、よいしょ」
何往復しただろうか。これで最後にしようと川の水を汲み上げたルーナは水面に映る自身の姿を見てぴたりと動きを止める。
埃まみれの灰色の髪は、所々絡まりボサボサだった。
「ひどい顔……」
頬は痩せこけ、瞳だけがぎろりと目立っており、初対面の人は怖がるであろう容姿だった。
母に似ていると言われたあの頃のルーナは、もういない。
桶を持ち上げて、踵をかえした瞬間、何かに足元を掬われて転倒した。
「きゃあ!」
「うぐっ!」
バシャーンと桶から水が溢れていき、ルーナと、行き倒れている人物にかかる。
「あ、あの、ごめんさい!だ、大丈夫ですか?あの、どこか具合が悪いのですか?」
地面にうつ伏せで倒れている人物の背中を、ゆさゆさと揺するものの返答はない。
真っ白な髪、スラリとした体躯
ご老人かしら? とにかく邸まで連れていこう
ルーナはその人物を抱え起こそうと必死だった。
「んん……」
うっすら意識があるようで、その人物はルーナの肩にもたれかかるように立ち上がると、一緒に邸の屋根裏部屋まで歩いてくれた。
「よいしょ」
ルーナはベッドに横たえると、濡れた衣服を脱がし始める。
プチプチとボタンを外し、露わになった肉体を見てルーナはぼっと赤面する。
スラリとした体躯は、意外に胸板が厚く腹筋も割れていたからだ。
男性に免疫のないルーナは、妙な汗も出て緊張してくる。
お、おじいさん、だもの……変に意識してはだめ……
自分に言い聞かせながら、身体をタオルで拭いて、邸の使用人部屋に残っていた衣服を着せ終える。
髪も拭こうとまじまじと男性の顔を見て不思議に思うルーナ。
髪は真っ白だけれど、顔に皺はない。
身体もまるで若者のよう。細マッチョという感じだった。
おじいさんよね……?
自分も濡れた衣服を着替えようとした時に、勢いよく扉が開かれた
「まだいたのか!さっさと荷物をまとめるんだ!ん……?なんだそのじじいは⁉︎」
「お、お父さま……申し訳ありません…あの、倒れていたのです。この方が回復されるまでいさせていただけませんか?気を失っておられるようです。お医者さを……」
「医者を呼べだと⁉︎ そんな老人に払う金などないわ!」
「で、でしたら、私が看病しますので!どうか、この方が起き上がれるまでお願いします」
「イエール侯爵との約束がある。明日にはここから出て行けいいな!」
用件だけ言い終えるとハワード伯爵は去って行った。
明日まで……、時間がない、急がないと。
ルーナは急いで入浴を済ませると、厨房にいきスープを作り始める。
馬車が出て行く音がしたので、伯爵達は食事をしに出かけたのだろう。結納金も入り余裕がでてきたのだろう。
もう、あの人たちに食事を作らなくてもいいのね。
部屋に戻るとルーナは、男性に水を飲ませたり、スープを一口づつ飲ませたり、一晩中つきっきりで看病した。
久々に入浴して清潔になった髪の毛を、一本プチッと引き抜くと、男性の手首にリポン結びをする。そして、両手を胸の前で組み祈りを捧げる。
「どうか、元気になりますように」と。
この地方に伝わるおまじないだった。
本来はリボンを大切な人の手首に結び、祈りを捧げる。
戦地に赴くときや、病気の時、旅行に行く時、恋人や家族が相手の無事を祈ってリボンを手首に結ぶ。
ルーナはリボンを持っていないので、髪の毛を結んだ。
気持ち悪がられるかなという不安もあったけれど、なぜか、どうしてもそうしたい衝動に駆られたのだ。
そのおかげか翌朝にはすっかり元気を取り戻していた。けれど、声を発することができないようだった。
何度も頭を下げ感謝の気持ちを表す男性を見て、ルーナは回復して本当に良かったと微笑んだ。
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