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男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける
「ですからさっさと起きろ(このねぼすけ野郎)と申し上げております、閣下」
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「敵襲っ」
聖ティセニア公国における最北の防衛拠点、ノーラス。敵国ゾディアックとの国境線に位置し、激しくしのぎを削りあう難攻不落の大城砦である。
「敵襲!」
当直の伝令が騒然と触れ回るなか、投光台から強烈な光条の束が放たれた。城砦の周辺を舐めるように照らし出してゆく。
機銃歩兵が城砦の隔壁に駆け上がった。城門の格子戸が下ろされる。跳ね橋が上げられる。
砲手の合図とともに、鉄鎖を響動めかせる巨大な青銅砲が迫り出した。狭間胸壁の銃眼から、青光りする眼で眼下の森を睥睨する。
「閣下。緊急事態です」
城砦内のとある部屋に、純白の軍服を身につけた長身の将校が足早に訪れた。ドアを短くノックする。
ドアにはなぜか、《壊すな》《燃やすな》《爆破するな》《お願い!》と書かれたプレートが、やけくそみたいに釘で何枚も打ち付けられていた。
「閣下。ゾディアック軍の夜襲です」
だが、ドアをノックしても、声を高めにしても、返事どころか起きた気配すらない。無反応。
黒髪黒瞳、長身に映える黒のサーベルを腰帯に留めた、どこか機械的な表情の美青年は、せっかちにドアを叩く手をはたと止めた。顎に手を添え、しばし考え込む様子を見せる。
「ふむ」
「お、お待ち下さいホーラダイン中将」
なぜか焦った様子で追いかけてきた士官が、慌てふためいた様子で押しとどめた。ホーラダインと呼ばれた将校は、無表情に振り返る。
「なぜ止める、レゾンド大尉」
「いえっ」
今までそんな様子を見せたあとは必ず爆発が起きたではないか、などとは、とても当の本人を目の前にして言えるものではない。副官は、とにかく早くドアの向こうの張本人が起きてきて、この緊張を払ってはくれまいかと、ただそれだけを切に願った。
彼の上官であるザフエル・フォン・ホーラダイン中将がドアを爆破する前に。
「それ以外に彼を起こす方法があるとでも?」
「いや、でも、それはしかし」
レゾンド大尉は唇を引き結び、吹き出す脂汗をうんうんと流した。
叩いてもつねっても起きないねぼすけと、毎回起こすのにドアを爆破する中将と、どちらの言い分が正しいのかなんて判断できるはずがないではないか。
すると。
「う、うーん」
珍しいことに、部屋の中から、奇妙な声がした。
「誰? ザフエルさん?」
「はい閣下」
ザフエル・フォン・ホーラダインは、伏せていた黒い眼をすっと上げて答えた。
「ゾディアック軍の敵襲です」
「ん……ホントにそうなの?」
「ホントにそうです」
いつ聞いても緊迫感のない会話だ。呑気に会話している場合ではないというのに。副官はもう恐慌寸前である。
「ふうん。鍵、開いてるよ。勝手に入って」
ふにゃふにゃとあくびする声が聞こえた。と同時に、ザフエル・フォン・ホーラダインはドアを内側に押し開け、中に踏み込んだ。
月の見える窓際に、人影がひとつ、切り取られて浮かび上がっている。
ぶかぶかパジャマに同柄のナイトキャップ。足ははだしでスリッパ姿。お腹に枕を抱いている。ほっそりとした身体の線がかすかに透けて見えた。
「おはよう」
「おはようじゃありません」
「じゃあ、こんばんは、かなあ」
「それどころでもありません」
ナイトキャップを引き下げて取ったその下から、青みを帯びた珍しい色の髪、薔薇色の瞳が現れる。そこへ、ぐるぐるの瓶底メガネが装着された。
「この騒ぎは何事かね、参謀部の諸君」
寝起き直後のキリッとしたつもりな声が訊ねる。
「ですからさっさと起きろ(このねぼすけ野郎)と申し上げております、閣下」
聖ティセニア公国における最北の防衛拠点、ノーラス。敵国ゾディアックとの国境線に位置し、激しくしのぎを削りあう難攻不落の大城砦である。
「敵襲!」
当直の伝令が騒然と触れ回るなか、投光台から強烈な光条の束が放たれた。城砦の周辺を舐めるように照らし出してゆく。
機銃歩兵が城砦の隔壁に駆け上がった。城門の格子戸が下ろされる。跳ね橋が上げられる。
砲手の合図とともに、鉄鎖を響動めかせる巨大な青銅砲が迫り出した。狭間胸壁の銃眼から、青光りする眼で眼下の森を睥睨する。
「閣下。緊急事態です」
城砦内のとある部屋に、純白の軍服を身につけた長身の将校が足早に訪れた。ドアを短くノックする。
ドアにはなぜか、《壊すな》《燃やすな》《爆破するな》《お願い!》と書かれたプレートが、やけくそみたいに釘で何枚も打ち付けられていた。
「閣下。ゾディアック軍の夜襲です」
だが、ドアをノックしても、声を高めにしても、返事どころか起きた気配すらない。無反応。
黒髪黒瞳、長身に映える黒のサーベルを腰帯に留めた、どこか機械的な表情の美青年は、せっかちにドアを叩く手をはたと止めた。顎に手を添え、しばし考え込む様子を見せる。
「ふむ」
「お、お待ち下さいホーラダイン中将」
なぜか焦った様子で追いかけてきた士官が、慌てふためいた様子で押しとどめた。ホーラダインと呼ばれた将校は、無表情に振り返る。
「なぜ止める、レゾンド大尉」
「いえっ」
今までそんな様子を見せたあとは必ず爆発が起きたではないか、などとは、とても当の本人を目の前にして言えるものではない。副官は、とにかく早くドアの向こうの張本人が起きてきて、この緊張を払ってはくれまいかと、ただそれだけを切に願った。
彼の上官であるザフエル・フォン・ホーラダイン中将がドアを爆破する前に。
「それ以外に彼を起こす方法があるとでも?」
「いや、でも、それはしかし」
レゾンド大尉は唇を引き結び、吹き出す脂汗をうんうんと流した。
叩いてもつねっても起きないねぼすけと、毎回起こすのにドアを爆破する中将と、どちらの言い分が正しいのかなんて判断できるはずがないではないか。
すると。
「う、うーん」
珍しいことに、部屋の中から、奇妙な声がした。
「誰? ザフエルさん?」
「はい閣下」
ザフエル・フォン・ホーラダインは、伏せていた黒い眼をすっと上げて答えた。
「ゾディアック軍の敵襲です」
「ん……ホントにそうなの?」
「ホントにそうです」
いつ聞いても緊迫感のない会話だ。呑気に会話している場合ではないというのに。副官はもう恐慌寸前である。
「ふうん。鍵、開いてるよ。勝手に入って」
ふにゃふにゃとあくびする声が聞こえた。と同時に、ザフエル・フォン・ホーラダインはドアを内側に押し開け、中に踏み込んだ。
月の見える窓際に、人影がひとつ、切り取られて浮かび上がっている。
ぶかぶかパジャマに同柄のナイトキャップ。足ははだしでスリッパ姿。お腹に枕を抱いている。ほっそりとした身体の線がかすかに透けて見えた。
「おはよう」
「おはようじゃありません」
「じゃあ、こんばんは、かなあ」
「それどころでもありません」
ナイトキャップを引き下げて取ったその下から、青みを帯びた珍しい色の髪、薔薇色の瞳が現れる。そこへ、ぐるぐるの瓶底メガネが装着された。
「この騒ぎは何事かね、参謀部の諸君」
寝起き直後のキリッとしたつもりな声が訊ねる。
「ですからさっさと起きろ(このねぼすけ野郎)と申し上げております、閣下」
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