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男装メガネっ子元帥、お楽しみの真っ最中を覗いてダメージを受ける
「お、お楽しみっ!? まままま真っ最中っ!? ああああ」
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ふと、ニコルは顔を上げた。チェシーの声が耳をかすめたような気がした。息を吸い止めて、耳を澄ます。
「声がしました。ザフエルさんにも聞こえたでしょ」
焦って周囲を見回す。ザフエルは無言でかぶりを振った。
「いや、確かに聞こえました。この近くです」
ニコルは断言する。
ノーラス城砦は広い。普段、兵士たちが行き来する練兵場から兵舎や工廠へとつながる道は、すっきりとして見晴らし良く、遮蔽物になる植栽もほとんどない。が、山側の裏手となると、険しい斜面を背にしているだけあって滅多に人通りもなく静まり返っている。
その、しんとして人目につかない場所にある、今は使われもしていない古びた物見櫓の近く。
まるで、不義の落ち合い場所でもあるかのように――
互いに声を押し殺し、何事か言葉を交わし合っている者がいる。
ひそやかに、それでいてただならぬほど汗ばんだ息づかいを繋ぎながら。
「誰にも見つからなかったろうね」
チェシー・エルドレイ・サリスヴァールの低い声がした。
「はい」
応じる声は、女だ。
ニコルは立ちすくんだ。
まさか、本当に――
ザフエルも異変に気付いたらしい。声を出すなとくちびるに指をたて、じりじり忍び寄っていく。
緑廊の向こうにいくつも、小さなまるい純白の花房が咲きこぼれていた。
優雅に垂れ下がった蔓の葉がさらさらと風にそよぐ。優しい香りが、日差しの落ちる庭の狭間に艶めく霞みを添える。
その、花簾の下から。
「……ぁっ……いや……何もこんなところでそんな、ぁぁん」
とんでもない台詞が聞こえた。
「なっ……!?」
血の気が引いた。頭の中が真っ白だ。
「ふむ」
頭に藁のカツラ、両手に擬装の枝葉を持ったザフエルが、顔だけはまじめなまま、一心不乱に声の方向を見つめている。
「お楽しみの真っ最中だったとは」
「お、お楽しみっ!? まままま真っ最中っ!? ああああ」
ニコルは顔色を赤青白とめまぐるしく回転させた。
「閣下は見てはいけません。お子さまには目の毒です」
頭のてっぺんを、上からぎゅうぎゅうと茂みの陰へと押さえ込まれる。
「どっどっ毒って、脱走したんじゃなかったんですか」
もう、顔色だけではすまない。訳の分からない妄想やらいけない想像やらが、笛吹ケトルのようにぴーっと噴出して、頭の中をぐるぐる暴走し出す。
瞬く間にかぁっと頬が赤くなった。目の毒って何なのだ。もしかして。もしかして。あんなことやこんなことを。
「ば、馬鹿っ、それどころじゃ……!」
じたばた悶える。ほっぺたが熱い。心臓がはじけそうだ。
「嫌だと言ってもやめるわけにはいかないな」
物陰にひそむ覗き屋たちの焦燥には全く気付かず、チェシーは余裕たっぷりに女性を口説いていた。
「まるで子供のように恥ずかしがって、頬を染める君を目の前にして。可憐でいて、妖艶だ。声を聞けば聞くほど、君が欲しくなる。……くちびるを私にゆるしてくれるね? 男を酔わせて、焦らせて……その気にさせる。まるで恋の魔女だ、君は」
「ぁ、ぁん……サリスヴァールさま……そんな……恥ずかしい……っ」
「だっ、だっ、だめえぇぇええ!」
耐えきれず、ニコルはその場から飛び出した。頭に葉っぱとくっつき虫を大量に乗っけ、両手に泥つきニンジンとカブを持った素っ頓狂な格好で走り出す。
「それ以上はだめーーーーーっ!!!」
「声がしました。ザフエルさんにも聞こえたでしょ」
焦って周囲を見回す。ザフエルは無言でかぶりを振った。
「いや、確かに聞こえました。この近くです」
ニコルは断言する。
ノーラス城砦は広い。普段、兵士たちが行き来する練兵場から兵舎や工廠へとつながる道は、すっきりとして見晴らし良く、遮蔽物になる植栽もほとんどない。が、山側の裏手となると、険しい斜面を背にしているだけあって滅多に人通りもなく静まり返っている。
その、しんとして人目につかない場所にある、今は使われもしていない古びた物見櫓の近く。
まるで、不義の落ち合い場所でもあるかのように――
互いに声を押し殺し、何事か言葉を交わし合っている者がいる。
ひそやかに、それでいてただならぬほど汗ばんだ息づかいを繋ぎながら。
「誰にも見つからなかったろうね」
チェシー・エルドレイ・サリスヴァールの低い声がした。
「はい」
応じる声は、女だ。
ニコルは立ちすくんだ。
まさか、本当に――
ザフエルも異変に気付いたらしい。声を出すなとくちびるに指をたて、じりじり忍び寄っていく。
緑廊の向こうにいくつも、小さなまるい純白の花房が咲きこぼれていた。
優雅に垂れ下がった蔓の葉がさらさらと風にそよぐ。優しい香りが、日差しの落ちる庭の狭間に艶めく霞みを添える。
その、花簾の下から。
「……ぁっ……いや……何もこんなところでそんな、ぁぁん」
とんでもない台詞が聞こえた。
「なっ……!?」
血の気が引いた。頭の中が真っ白だ。
「ふむ」
頭に藁のカツラ、両手に擬装の枝葉を持ったザフエルが、顔だけはまじめなまま、一心不乱に声の方向を見つめている。
「お楽しみの真っ最中だったとは」
「お、お楽しみっ!? まままま真っ最中っ!? ああああ」
ニコルは顔色を赤青白とめまぐるしく回転させた。
「閣下は見てはいけません。お子さまには目の毒です」
頭のてっぺんを、上からぎゅうぎゅうと茂みの陰へと押さえ込まれる。
「どっどっ毒って、脱走したんじゃなかったんですか」
もう、顔色だけではすまない。訳の分からない妄想やらいけない想像やらが、笛吹ケトルのようにぴーっと噴出して、頭の中をぐるぐる暴走し出す。
瞬く間にかぁっと頬が赤くなった。目の毒って何なのだ。もしかして。もしかして。あんなことやこんなことを。
「ば、馬鹿っ、それどころじゃ……!」
じたばた悶える。ほっぺたが熱い。心臓がはじけそうだ。
「嫌だと言ってもやめるわけにはいかないな」
物陰にひそむ覗き屋たちの焦燥には全く気付かず、チェシーは余裕たっぷりに女性を口説いていた。
「まるで子供のように恥ずかしがって、頬を染める君を目の前にして。可憐でいて、妖艶だ。声を聞けば聞くほど、君が欲しくなる。……くちびるを私にゆるしてくれるね? 男を酔わせて、焦らせて……その気にさせる。まるで恋の魔女だ、君は」
「ぁ、ぁん……サリスヴァールさま……そんな……恥ずかしい……っ」
「だっ、だっ、だめえぇぇええ!」
耐えきれず、ニコルはその場から飛び出した。頭に葉っぱとくっつき虫を大量に乗っけ、両手に泥つきニンジンとカブを持った素っ頓狂な格好で走り出す。
「それ以上はだめーーーーーっ!!!」
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