男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける exile

上原

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レイディ・ニコラ、忘れ得ぬ夜に君と、偽りの愛を

「さ、さては何か仕掛け……あっ、分かったぞふああああ。みんなグルだったんですねふあああ。チェシーさんまで何で、ふわわああ。ひどい」

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「気にしなくていい。独り言だ」
「ふうん」

 これでごまかせるのだからのんきなものだ。チェシーはさりげなく話をすり替える。
「治りそうになければ、査問会は出なくていいらしいぞ」

 とたんにニコルは頬をふくらませた。
「だめですよチェシーさんおひとりでなんて。どうせバラルデス卿あたりが寄ってたかってちょっかいを」
「名にしおうタカ派だな。よほど私の存在を前例として認めたくないらしい」

 組んだ足をぶらぶらと揺らす。ニコルは眉をひそめた。
「何かあったんですか」
「さあな。何とかするさ」

 チェシーはしらじらしくとぼけて、視線をはずす。
 ニコルは、ついうとうとしてしまいがちになるのを、無理にカッ、と眼を見開くことで耐えた。

「だったらなおさらです。根性で熱下げますから、もうちょっと待っててください。ええと、熱冷まし、熱冷ましはと」
「そんなにすぐ下がるわけないだろう」

 チェシーは、皿の丸薬と水とをトレイごとニコルの側へと押しやった。

「いいや分かりませんよ。もしかしたら、一気にどーんと景気良く三十度ぐらい下がるかも」
 ニコルは丸薬を手のひらに乗せ、グラスを片手に持った。目を閉じて薬を口へ放り込む。即座にグラスをあおって水を飲んだ。ごく、と、喉が音を立てる。

「景気は良くても縁起は悪そうだな。ほぼ死体だぞ、それは」
「いいんですよ、熱さえ下がれば」

 ニコルはメガネをかけた。体温計を取り出し、焦点を真ん中に寄せて、ためつすがめつ目盛りを読む。
「ひゃくっ」

 どうやら心外だったらしい。ごしごしと目をこすり、再度確認。
 体温計の目盛りは、華氏百十五をさしたまま、完全に振り切れている。
「ひゃ、百十五度」

 ここまでくればもはやユデダコ。人間の体温ではない。

「こりゃだめだな。さて、私は先に失礼するとしよう」
 さすがに仕掛けがバレる頃合いと見て、チェシーは早々に退散すべく、腰をあげた。

「さ、さては何か仕掛け……あっ、分かったぞふああああ。みんなグルだったんですねふあああ。チェシーさんまで何で、ふわわああ。ひどい、一緒に行くって約束したじゃないれすか……」

 ニコルは抗議した。重たげに下がってくるまぶたに逆らえず、あくびを連発させている。
 チェシーは薄く笑った。
「冤罪だ。私は何もしていないぞ」

 ニコルの手が、体温計とメガネを握ったまま、胸の上にくたりとなった。

 チェシーは、なんの抵抗もないニコルの手から、体温計とメガネをとりあげた。テーブルに戻す。
 取るついでに引きずられたのか。やわな手の先が、ベッドの端から柳のようにしなだれた。
 チェシーは垂れた手をしばし眺めた。冷静に観察する。子供の手に見えた。まだ人を殺したことのない手。

 闇属性の《カード》をあやつる手には見えない。

 ブーツのつま先に手を乗せ、目標を定め、ひょいと蹴り上げる。
 ニコルの手は、おとなしく所定の位置に戻った。

「心配無用だ。私には悪魔がついてる。それも極上の」

 薄暗い笑みに陰りが差す。ニコルはむにゃむにゃと寝返りを打った。
「だめれすよ。みんなに分かってもらえるまで言わなくちゃ……ノーラスは防衛の要だから……傭兵を入れるわけにはいかない、盤石の地盤でなければならないって」

 睡魔に連れてゆかれつつ、半分泣きべそをかいた声でつぶやいている。
 一瞬、チェシーの表情がはがれ落ちた。仮面のような顔に取って代わる。

「私が地盤を割るくさびになるとでも」
 抑揚のない声でたずねる。
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