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第1話 クリスマスプレゼント
「ごめんなさい。こんなところに呼び出して。実は、クリスマスプレゼントを受け取って欲しいの。みんなの前じゃ恥ずかしくって。はい! これ! メリークリスマス! えへへっ、実は、手編みの全身タイツなのっ! 頑張って編んだから絶対着てね!」
それだけ一方的に言って、巨大な包みを僕に押し付けると、彼女は去っていった。
隣のクラスの、えーっと、八神さん?
僕がクラスに戻ると、ちょっと注目を浴びた。かわいいラッピングだが巨大な包み。
日頃絡みがなければ聞けたもんではないが、そうでないなら話は別だ。
「おいおい、穏やかじゃねーなー、熊。女子に呼び出されて出て行ってプレゼント抱えて戻ってくるたぁ」
口火を切るのは、いつだって戸部だ。
そして、熊というのは僕の呼び名だ。熊谷だから熊。別にデカくもないしガタイもよくない。
「リア充になっても友達を見捨てたりしないよなぁ?」
リア・非リアに一番こだわってるのは入谷だ。
「えっ? なになに? 告白されたの?」
勘違い・早とちりが多いのは、早河だ。
「告白なんかされてないよ。ただ、クリスマスプレゼントをもらっただけだ」
僕はわざとウンザリという感じを出して言った。
「ほぅ? プレゼント?」
疑うように戸部。
「タダより高い物はない」
分かったような顔で入谷。
「見返りを求めていないと思うのかね?」
名探偵を気取るように早河。
「話を面白くしようとしてもムーダッ!」
僕は話を終わらせようとした。
「で、誰にもらったの?」
戸部には伝わらなかったようだ。
「A組の八神さん」
「A組にそんな人いたっけ?」
入谷にも伝わらなかったようだ。
「いや、体育はA組と合同だろ? 女子の様子が見えることもあるじゃん! そんとき、いつも1人で離れて立ってるちょっとかわいい感じの子が……」
「ほぉう? 聞いたかね? 諸君?」
どうやら何かが早河様の気に障ったらしい。
「彼も彼女に好意を抱いていた……と」
戸部が拳を固める。
「なんだよ。時間の問題じゃねぇか」
入谷がシャドウを始める。
こ、この空気を爆破できる威力のある物は……1つしかない。
「ところで、僕が何をもらったと思う?」
「なんだなんだ? あからさまにはぐらかす気か?」
早河が言ったが、
「いや、ちょっと待て、その包みデカ過ぎないか?」
戸部が冷静に指摘する。
「確かに、一番かさばると言われる手編みのセーターだって、その半分以下じゃないか?」
入谷も包みの巨大さの異常さ加減に気付いた。
「お前一体、何をもらったんだ?」
早河が聞いた。
僕は3人を手招きして十分近づいたのを確認して小声で言った。
「手編みの全身タイツ」
3人の耳に音声が届いてから、意味のある言葉に変換され、それを脳が受け入れるまでに、しばし時間がかかった。おかげで僕は包みを3人から守る位置に移動することができた。
一拍の静寂ののちに笑い転げる3人。そして、その後は案の定「着て見せろ!」の大合唱だった。
僕は、「1人で開けたい」「ウチで1人で着たい」を繰り返し、「必ず自撮りをLINEで送る」と約束して逃げるように下校した。
ウチに帰り、まっすぐ自分の部屋に入ると、はやる心を抑えつつ丁寧に包みを開けた。そこには、小山のような毛糸の山があった。グリーンだった。全身タイツと言えば黒だろ、と独り言ちてから、そこじゃない! と自分にツッコむ。
手に取ってみると、果たしてそれは、まがうかたなき全身タイツだった。これでもう逃げることは出来ない。
僕は、制服を脱ぎ、下着だけになると、手編みの全身タイツを着てみた。
まず、フィット感が物凄い。手足の長さ、胴の長さ、胴回りなど言うまでもない。
腕のどの部分をとっても加わる圧が一定で丁度良く心地良い。もちろん四肢体幹どこを取ってもそうなのだ。
これはもう、1回僕の身体のシリコン型を取ってレプリカを作ったんじゃないかと思うほどの正確さである。
しかし、これは、温い、気持ちいい、なんだこれ?
その瞬間、急に部屋のドアが開いた! 母さんだった。母さんがドアノブを持ったまま硬直している。僕は何か言おうとしたが、母さんはスーッとドアを閉めて行ってしまった。
僕は、すぐに追いかけようかと思ったが、何を何と言ったものか全く見当がつかず、追うことができなかった。
しかし、すぐにまたドアは開き、妹と母さんと婆ちゃんが雪崩れ込むように入って来た。そして、僕をじっと見て、今度は3人とも大爆笑した。
翌日の朝、いつも通りに登校すると、珍しく戸部、入谷、早河の3人が登校していた。
それだけでも十分不吉なのに3人とも変に自慢げなのである。
「どしたん? 3人とも」
僕は不安に耐え切れず質問した。
「調査報告1.あの女、精神科の病院に通っているらしい」
口火を切るのは戸部の仕事だもんなぁ。
「調査報告2.あの女、いつも飴舐めてて、授業中にも舐めてる。だけど、なぜか先生は注意しないらしい」
ああ、お前は規則にもうるさいんだったなぁ、入谷。
「調査報告3.あの女、学校でも全身タイツ編んでたらしくて、『花京院』とか、『ハイエロファントグリーン』とか呼ばれて気味悪がられてたらしい」
お前は、要らん情報ばっかり集めるよなぁ、早河。
「他には?」
僕の声が少し低くなってることになんか誰も気づきやしない。
「まぁ、ぼっちらしいね」
「クラスの人に八神さんって言っても、一発で話通じなかったり」
「情報集めるの苦労したんだぜぇ」
「で、だ!」
黙れ! という代わりに、そう語気荒く言った。
「お前たちのそういった行動を八神さんは知っているのか?」
さすがに黙り込む3人。
「どうなんだよ!」
「特に配慮はしていない」
こんな時でも口火を切ってくれるんだな、戸部。
僕は教室を飛び出した。
僕はA組に駆け込むと、手近にいた女子に、
「八神さんは?」
と聞くも分からないらしい。
そんなことを4,5回繰り返していると、2,3人の女子から、八神さんが泣きながら教室から出て行ったという証言が得られた。でも、どこに行ったかは分からないという。
はてさて一体どうしよう?
いや、ちょっと、待てよ!
その前に、一体どうしたいんだ? 僕?
もし、運よく見付けて、それで、なんて声かけんの?
だいたい、八神さん、校内にいるの? 校外にいるの?
だいたい、話したのだって、クリスマスプレゼントもらった時が、ほぼ初めて……?
いや……、違うぞ?
小さな記憶のかけら達が炭酸水の気泡のように駆け抜けていく!
放っておいていい人じゃない! 行こう!
会えなきゃ縁が無かったんだ。会えればきっと縁があるんだ。
僕は自転車置き場へ駆け出した!
必死で自転車を漕いでいるというのに、八神さんとの思い出が浮かんでは消えていく。
僕はその日、足を怪我していて体育を見学していた。
一緒に見学していた女子の1人が、ポツンと離れて飴を舐めているのに気付いた。
「体育の見学中とはいえ、授業中に飴舐めてていいの?」
「私は基地外なのだよ。だから、先生も見て見ぬふりなのさ。ヒッヒッヒッ」
「基地外と飴の関係を140文字以内で説明せよ」
「あれ? ひかないの?」
「なぜ、ひかせたいのか、140字以内で説明せよ」
「あー、いや、ごめん。ひかせたいわけじゃなくて、1人でいる事の方が多くて、なんかそれに慣れちゃって」
「おれは、B組の熊谷。熊でいいよ。君はA組の何さん?」
「八神ですっ!」
「それで、飴の説明は?」
「あー、私、実は、抗うつ剤飲んでてさ、副作用でメッチャ口乾くんで飴舐めてんの」
彼女は少しうつむいた。
「なるほど」
「あれ? リアクション薄くない?」
「んー、うちの妹もちょっとね」
「あ、そうなんだ」
八神さんは、校庭に落ちていた木の棒を砂場にガヂガヂと突き立てながら言った。
「うちの砂場ってさー、カッチカチで草まで生えてんでしょう?」
「なんでだろ?」
「体育でも使わないし、陸上部にも幅跳びやる人がいないんだってー」
「ふーん」
「砂場で砂遊びしたいなー」
「いや、そういう砂場じゃないから、これ」
とりあえず、自転車で砂浜についた。砂浜に下りる階段の近くに自転車を置き、砂浜を見渡す。
砂浜にしゃがみこんでいる人影が見える。頭が確信を持つよりも早く心拍数が跳ね上がる。
駆けて行きたいが、ゆっくりと近づく。ほら、やっぱり君だ。
「寒くないかい?」
そう言って彼女に制服の上着をかける。彼女はこちらを見ようとしない。
「寒くないかい?」
再び、僕が言うと、
「寒かったらどうすっていうのよ?」
君が言うそばから、カチャカチャと僕がズボンを脱ごうとする音。
「ちょっと! ズボン脱いでどうする気よ?」
慌てて振り向いた君の瞳に移るのは、全身タイツを着た僕。
「何やってるの? 馬鹿じゃない?」
「馬鹿がここに来れるかな?」
「……どうしてここだってわかったの?」
「『砂場で砂遊びしたいなー』」
「ちょっと待って、それ、私の声真似?」
「『そだねー』」
「いや、私、『そだねー』とか言わないし、もっとカワボだし」
「そだねー」
「それもういいから」
彼女は嬉しいようなはにかんだような表情を見せてくれたけど、すぐにそれは陰りを見せた。
「あいつらに色々きいたんでしょう?」
「まぁね、でも、前も言ったけど、うちの妹で大体のことは学習済み……と言いたいけど」
「何……?」
「説明がつかないのは、この全身タイツの完璧なフィット感なんだけど……」
「ああ、それ……」
何かを思い出して、彼女が笑い出す。
「一度、あなたの後をつけてあなたの家まで行っちゃったの。そしたら、お母さんに捕まっちゃって。お母さんって聞き上手ねー。気が付いたら私全部話しちゃってて。そしたら、お母さん、妹さんとお婆ちゃん連れてきて、『全力で協力します』って。私笑っちゃった」
あいつらは、そこまでやっといて完成品であそこまで笑えるのか。なんつーか、もう!
僕は右手をスッと差し出して、
「お嬢様、お手をどうぞ」
と言った。
彼女がおずおずと手につかまる。
彼女が立ち上がるのに合わせて、思い切り手をグイッと引くと顔と顔が急接近した。
その瞬間、彼女の耳元で、
「目を閉じて」
と囁いた。
彼女が目を閉じると、僕は両手を握り拳にして、彼女の両耳のちょっと上、頭蓋骨の出っ張っているところを両の拳で両側からギリギリと押した。
「痛い痛い痛い痛い痛い」
当然、痛がる彼女。
「ちょっと痛い。なんなのこれ?」
「これは『うめぼし』という対お子ちゃまおしおき技だ。君のプレゼントのおかげで僕がどれだけ笑われたと思う?」
「痛い痛い……」
「そして、君がいなくなって、僕がどれだけ心配したと思う?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「そして、君のおかげで、僕がどれだけ幸せだと思う?」
僕はうめぼしを極めたまま彼女の唇に唇を重ねた。
そして、唇を重ねたまま、今度は彼女を抱きしめた。
彼女も僕を抱きしめてくれた。
唇を離して僕は言った。
「僕と付き合ってください」
「順番逆じゃない?」
「うるさいよ。僕みたいなんじゃなきゃ、君の相手なんざ務まんねーよ」
「……それもそうだね」
「んじゃ、よろしくお願いします」
「初詣行こうね!」
「その前にもっとデートしますぅ」
「えーっ! 本当? 夢みたい!」
「夢じゃねー証拠に手ぇつないでかえるぞ」
「きゃー! 触れるー! あったかーい!」
そして、他愛のないことを言い合いながら、2人で砂浜を引き返した。
それだけ一方的に言って、巨大な包みを僕に押し付けると、彼女は去っていった。
隣のクラスの、えーっと、八神さん?
僕がクラスに戻ると、ちょっと注目を浴びた。かわいいラッピングだが巨大な包み。
日頃絡みがなければ聞けたもんではないが、そうでないなら話は別だ。
「おいおい、穏やかじゃねーなー、熊。女子に呼び出されて出て行ってプレゼント抱えて戻ってくるたぁ」
口火を切るのは、いつだって戸部だ。
そして、熊というのは僕の呼び名だ。熊谷だから熊。別にデカくもないしガタイもよくない。
「リア充になっても友達を見捨てたりしないよなぁ?」
リア・非リアに一番こだわってるのは入谷だ。
「えっ? なになに? 告白されたの?」
勘違い・早とちりが多いのは、早河だ。
「告白なんかされてないよ。ただ、クリスマスプレゼントをもらっただけだ」
僕はわざとウンザリという感じを出して言った。
「ほぅ? プレゼント?」
疑うように戸部。
「タダより高い物はない」
分かったような顔で入谷。
「見返りを求めていないと思うのかね?」
名探偵を気取るように早河。
「話を面白くしようとしてもムーダッ!」
僕は話を終わらせようとした。
「で、誰にもらったの?」
戸部には伝わらなかったようだ。
「A組の八神さん」
「A組にそんな人いたっけ?」
入谷にも伝わらなかったようだ。
「いや、体育はA組と合同だろ? 女子の様子が見えることもあるじゃん! そんとき、いつも1人で離れて立ってるちょっとかわいい感じの子が……」
「ほぉう? 聞いたかね? 諸君?」
どうやら何かが早河様の気に障ったらしい。
「彼も彼女に好意を抱いていた……と」
戸部が拳を固める。
「なんだよ。時間の問題じゃねぇか」
入谷がシャドウを始める。
こ、この空気を爆破できる威力のある物は……1つしかない。
「ところで、僕が何をもらったと思う?」
「なんだなんだ? あからさまにはぐらかす気か?」
早河が言ったが、
「いや、ちょっと待て、その包みデカ過ぎないか?」
戸部が冷静に指摘する。
「確かに、一番かさばると言われる手編みのセーターだって、その半分以下じゃないか?」
入谷も包みの巨大さの異常さ加減に気付いた。
「お前一体、何をもらったんだ?」
早河が聞いた。
僕は3人を手招きして十分近づいたのを確認して小声で言った。
「手編みの全身タイツ」
3人の耳に音声が届いてから、意味のある言葉に変換され、それを脳が受け入れるまでに、しばし時間がかかった。おかげで僕は包みを3人から守る位置に移動することができた。
一拍の静寂ののちに笑い転げる3人。そして、その後は案の定「着て見せろ!」の大合唱だった。
僕は、「1人で開けたい」「ウチで1人で着たい」を繰り返し、「必ず自撮りをLINEで送る」と約束して逃げるように下校した。
ウチに帰り、まっすぐ自分の部屋に入ると、はやる心を抑えつつ丁寧に包みを開けた。そこには、小山のような毛糸の山があった。グリーンだった。全身タイツと言えば黒だろ、と独り言ちてから、そこじゃない! と自分にツッコむ。
手に取ってみると、果たしてそれは、まがうかたなき全身タイツだった。これでもう逃げることは出来ない。
僕は、制服を脱ぎ、下着だけになると、手編みの全身タイツを着てみた。
まず、フィット感が物凄い。手足の長さ、胴の長さ、胴回りなど言うまでもない。
腕のどの部分をとっても加わる圧が一定で丁度良く心地良い。もちろん四肢体幹どこを取ってもそうなのだ。
これはもう、1回僕の身体のシリコン型を取ってレプリカを作ったんじゃないかと思うほどの正確さである。
しかし、これは、温い、気持ちいい、なんだこれ?
その瞬間、急に部屋のドアが開いた! 母さんだった。母さんがドアノブを持ったまま硬直している。僕は何か言おうとしたが、母さんはスーッとドアを閉めて行ってしまった。
僕は、すぐに追いかけようかと思ったが、何を何と言ったものか全く見当がつかず、追うことができなかった。
しかし、すぐにまたドアは開き、妹と母さんと婆ちゃんが雪崩れ込むように入って来た。そして、僕をじっと見て、今度は3人とも大爆笑した。
翌日の朝、いつも通りに登校すると、珍しく戸部、入谷、早河の3人が登校していた。
それだけでも十分不吉なのに3人とも変に自慢げなのである。
「どしたん? 3人とも」
僕は不安に耐え切れず質問した。
「調査報告1.あの女、精神科の病院に通っているらしい」
口火を切るのは戸部の仕事だもんなぁ。
「調査報告2.あの女、いつも飴舐めてて、授業中にも舐めてる。だけど、なぜか先生は注意しないらしい」
ああ、お前は規則にもうるさいんだったなぁ、入谷。
「調査報告3.あの女、学校でも全身タイツ編んでたらしくて、『花京院』とか、『ハイエロファントグリーン』とか呼ばれて気味悪がられてたらしい」
お前は、要らん情報ばっかり集めるよなぁ、早河。
「他には?」
僕の声が少し低くなってることになんか誰も気づきやしない。
「まぁ、ぼっちらしいね」
「クラスの人に八神さんって言っても、一発で話通じなかったり」
「情報集めるの苦労したんだぜぇ」
「で、だ!」
黙れ! という代わりに、そう語気荒く言った。
「お前たちのそういった行動を八神さんは知っているのか?」
さすがに黙り込む3人。
「どうなんだよ!」
「特に配慮はしていない」
こんな時でも口火を切ってくれるんだな、戸部。
僕は教室を飛び出した。
僕はA組に駆け込むと、手近にいた女子に、
「八神さんは?」
と聞くも分からないらしい。
そんなことを4,5回繰り返していると、2,3人の女子から、八神さんが泣きながら教室から出て行ったという証言が得られた。でも、どこに行ったかは分からないという。
はてさて一体どうしよう?
いや、ちょっと、待てよ!
その前に、一体どうしたいんだ? 僕?
もし、運よく見付けて、それで、なんて声かけんの?
だいたい、八神さん、校内にいるの? 校外にいるの?
だいたい、話したのだって、クリスマスプレゼントもらった時が、ほぼ初めて……?
いや……、違うぞ?
小さな記憶のかけら達が炭酸水の気泡のように駆け抜けていく!
放っておいていい人じゃない! 行こう!
会えなきゃ縁が無かったんだ。会えればきっと縁があるんだ。
僕は自転車置き場へ駆け出した!
必死で自転車を漕いでいるというのに、八神さんとの思い出が浮かんでは消えていく。
僕はその日、足を怪我していて体育を見学していた。
一緒に見学していた女子の1人が、ポツンと離れて飴を舐めているのに気付いた。
「体育の見学中とはいえ、授業中に飴舐めてていいの?」
「私は基地外なのだよ。だから、先生も見て見ぬふりなのさ。ヒッヒッヒッ」
「基地外と飴の関係を140文字以内で説明せよ」
「あれ? ひかないの?」
「なぜ、ひかせたいのか、140字以内で説明せよ」
「あー、いや、ごめん。ひかせたいわけじゃなくて、1人でいる事の方が多くて、なんかそれに慣れちゃって」
「おれは、B組の熊谷。熊でいいよ。君はA組の何さん?」
「八神ですっ!」
「それで、飴の説明は?」
「あー、私、実は、抗うつ剤飲んでてさ、副作用でメッチャ口乾くんで飴舐めてんの」
彼女は少しうつむいた。
「なるほど」
「あれ? リアクション薄くない?」
「んー、うちの妹もちょっとね」
「あ、そうなんだ」
八神さんは、校庭に落ちていた木の棒を砂場にガヂガヂと突き立てながら言った。
「うちの砂場ってさー、カッチカチで草まで生えてんでしょう?」
「なんでだろ?」
「体育でも使わないし、陸上部にも幅跳びやる人がいないんだってー」
「ふーん」
「砂場で砂遊びしたいなー」
「いや、そういう砂場じゃないから、これ」
とりあえず、自転車で砂浜についた。砂浜に下りる階段の近くに自転車を置き、砂浜を見渡す。
砂浜にしゃがみこんでいる人影が見える。頭が確信を持つよりも早く心拍数が跳ね上がる。
駆けて行きたいが、ゆっくりと近づく。ほら、やっぱり君だ。
「寒くないかい?」
そう言って彼女に制服の上着をかける。彼女はこちらを見ようとしない。
「寒くないかい?」
再び、僕が言うと、
「寒かったらどうすっていうのよ?」
君が言うそばから、カチャカチャと僕がズボンを脱ごうとする音。
「ちょっと! ズボン脱いでどうする気よ?」
慌てて振り向いた君の瞳に移るのは、全身タイツを着た僕。
「何やってるの? 馬鹿じゃない?」
「馬鹿がここに来れるかな?」
「……どうしてここだってわかったの?」
「『砂場で砂遊びしたいなー』」
「ちょっと待って、それ、私の声真似?」
「『そだねー』」
「いや、私、『そだねー』とか言わないし、もっとカワボだし」
「そだねー」
「それもういいから」
彼女は嬉しいようなはにかんだような表情を見せてくれたけど、すぐにそれは陰りを見せた。
「あいつらに色々きいたんでしょう?」
「まぁね、でも、前も言ったけど、うちの妹で大体のことは学習済み……と言いたいけど」
「何……?」
「説明がつかないのは、この全身タイツの完璧なフィット感なんだけど……」
「ああ、それ……」
何かを思い出して、彼女が笑い出す。
「一度、あなたの後をつけてあなたの家まで行っちゃったの。そしたら、お母さんに捕まっちゃって。お母さんって聞き上手ねー。気が付いたら私全部話しちゃってて。そしたら、お母さん、妹さんとお婆ちゃん連れてきて、『全力で協力します』って。私笑っちゃった」
あいつらは、そこまでやっといて完成品であそこまで笑えるのか。なんつーか、もう!
僕は右手をスッと差し出して、
「お嬢様、お手をどうぞ」
と言った。
彼女がおずおずと手につかまる。
彼女が立ち上がるのに合わせて、思い切り手をグイッと引くと顔と顔が急接近した。
その瞬間、彼女の耳元で、
「目を閉じて」
と囁いた。
彼女が目を閉じると、僕は両手を握り拳にして、彼女の両耳のちょっと上、頭蓋骨の出っ張っているところを両の拳で両側からギリギリと押した。
「痛い痛い痛い痛い痛い」
当然、痛がる彼女。
「ちょっと痛い。なんなのこれ?」
「これは『うめぼし』という対お子ちゃまおしおき技だ。君のプレゼントのおかげで僕がどれだけ笑われたと思う?」
「痛い痛い……」
「そして、君がいなくなって、僕がどれだけ心配したと思う?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「そして、君のおかげで、僕がどれだけ幸せだと思う?」
僕はうめぼしを極めたまま彼女の唇に唇を重ねた。
そして、唇を重ねたまま、今度は彼女を抱きしめた。
彼女も僕を抱きしめてくれた。
唇を離して僕は言った。
「僕と付き合ってください」
「順番逆じゃない?」
「うるさいよ。僕みたいなんじゃなきゃ、君の相手なんざ務まんねーよ」
「……それもそうだね」
「んじゃ、よろしくお願いします」
「初詣行こうね!」
「その前にもっとデートしますぅ」
「えーっ! 本当? 夢みたい!」
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