上 下
5 / 5

数学の基本−5 幾何

しおりを挟む
俺はぷかぷか浮かぶマス・ガイドと共に畑の上に立っていた。
「畑に連れてきて何するつもり?」
「ご覧ください中島様。この畑には他にどんな問題があると思いますか?」
「どんなって、畑の間の線?みたいなのがすごく曲がっているっていうか…。」
「その通り!畑の線が曲がっていると、農地の収穫効率が悪くなってしまいます。ではなぜこんなふうに曲がってしまっていると思いますか?」
「なんでだろう?」
「ヒントを差し上げましょう。中島様は真っ直ぐな線といったら何を思い浮かべますか?」
「直線…、垂直とか?」
「垂直!いい言葉が出ましたね。中島様は京都の街並みを見たことがありますか?」
「ああ、通りが全部垂直に交わってる『碁盤の目』ってやつだろ。」
「そうです。畑もあんな感じだったら、作業効率が上がると思いませんか?」
「確かに。じゃあなんでこの畑はそうなってないんだよ。」
「説明していきましょう。垂直を満たす条件はわかりますか?」
「直線同士が直角に交わっていること?」
「その通り。では直角はどのようにして作ることができるでしょうか?」
「直角をつくる?大体で書けば…。」
「小さな範囲ならばそれでいいでしょう。しかし大きな物となると話は別です。より正確に直角を測る必要があります。」
「どうやってやるんだよ。」
「思い出してみてください。直角における重要な定義を授業で習って言いませんか?」
「直角について…?」
「直角三角形についてといったほうがいいかもしれません。」
「あ!三平方の定理?」
「大正解!そう、三平方の定理です。三平方の定理とは直角三角形における定理ですが、もちろんその逆も成り立ちますね。では最も有名な、三平方の定理を満たす三角形は分かりますか?」
「3、4、5のやつでしょ。」
「その通り。もう分かりましたよね?」
「なるほど、3対4対5の三角形を作ればそれが直角になるってことか!」
「その通り。これを使うことにより人類は直角を作り出すことに成功したのです。さて、理解していただけたと思うので、数学の知識を彼らに戻してあげましょう。えいっ!」
またマス・ガイドの掛け声と共に、世界がぐるっと回転した。

「ご覧ください中島様。これが数学のある世界です。」
そこにはきれいな農地とそこで働く農民たちの姿があった。
「数学があるだけでこんなに変わるんだ。」
「はい。あそこに見える大きな建造物が見えますか?」
「あれは…、ピラミッド?」
「そうです。ピラミッドの建設には数学が欠かせませんでした。初歩的な三角比まで使われていたと言います。」
「数学って大事なんだな。」
「おっ、わかっていただけましたか。」
「ちょっとはわかった気がするよ。でもやっぱ学校の授業で習うような数学はいるとは思えないよ。三角関数とか微分積分とか、軌跡とか…。」
「分かりました。次はそれを学んでいきましょう。」
「ちょっと待って!帰してくれないの?」
「もちろん。数学の本当の楽しさはまだまだこれからです。では次の授業でお会いしましょう。」
「ちょっ、ふざけんなぁー!」
そうして俺の視界はまた白く歪み出した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...