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第2話「ひょっとしてワンチャン、ある?」
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神秘と冒険の大陸、ソロモニア。
魔法文明が栄華を極め、人類は自然との調和の中で繁栄していた。
しかし、百年前……突如として魔王アモンと闇の軍勢が襲ってきたのである。魔王軍はあっという間にソロモニアを支配し、抵抗虚しく多くの国々が地図から消えていった。
だが、今から三年前……異世界トウキョウから光の勇者が舞い降りた。
彼は最強の冒険者達を引き連れ、ついに魔王アモンを倒したのである!
――というのが、ヨシュアが引きこもってる間に終わった英雄譚だった。
「くっそー、魔王はもう倒されてんのかよぉ……あーもぉ、俺様としたことが!」
ガタゴトと揺れる荷馬車の中で、ヨシュアは一人でふてくされていた。
その隣には、妙に薄着で肌もあらわなセーレがお酒を飲んでいる。見事な起伏を象る女性的なラインが、隠すことで逆に浮き出ていた。満員御礼の車中で、冒険者達の視線は彼女のナイスバディに釘付けである。
ヨシュアも驚いている。
魔王城は既に、勇者と妹のディアナ達が攻略済みの筈である。
主を失った魔王城へ向かう者達は、なにが目的なのだろうか?
「それにしても……なあ、セーレ! 願い事、変更してもいいか?」
「んー? なぁに、ヨシ君」
「……なんだそのヨシ君って」
「ヨシュアだから、ヨシ君。かーわいー!」
「ブン殴るぞっ! このエロ悪魔!」
「いたっ、殴ってからそう言うの、なしじゃないー? でも、痛いのも……イイワヨ」
「う、うるさいっ!」
なにやら先が思いやられる。
ディアナによってヨシュアは無理やり魔王城へ向かわされていた。引きこもりの無魔力体質でも、どうやらできる仕事が待っているらしい。
だが、ヨシュアはそのことよりも、決戦のラストダンジョンとなった魔王城に興奮を隠せない。
「セーレ、お前……ちょっと今から魔王になれ」
「ええー? それってどういう」
「俺が倒すから、お前が魔王になるんだよ!」
「やーだ。めんどいもん。あのアモンでも倒されちゃったんでしょ? ヨシ君じゃなくても、また勇者とかが来てやられちゃうよお」
「大丈夫だ、その前に俺が」
「ヨシ君になら私、ぜーったいに負けない自信あるなあ」
ぐびびと酒を瓶から直接飲みながら、セーレがへらりと笑った。
かわいい顔して、言うことは辛辣である。
そうこうしているうちに、馬車は停車し周囲の冒険者達が降り出した。
ヨシュアも幌の外へと出て、思わず息を飲む。
眼の前には、荘厳な城塞がそびえ立っていた。無数の尖塔が、暗雲渦巻く空へと突き立っている。周囲にはワイバーンや蝙蝠が飛び交い、不気味な雰囲気は酷く寒い。
そして何故か、冒険者達で大混雑していた。
「すげえ人だな……なんだこりゃ?」
「なんかお祭りみたいだねー? あっ、露天! お肉だよ、ヨシ君! お肉っ!」
「あっ、待てセーレ! 待てって!」
酒瓶を片手に、フラフラとセーレは出店の方へと行ってしまった。
おいおい大丈夫かあの悪魔……本当に序列七十の座を占める地獄の君主なのだろうか。そもそも、ヨシュアが調べた古文書には七十二体の魔神が記載されていた。その中で序列七十……かなり下だ。ひょっとして、召喚術は失敗したのかもしれない。
そんなことを考えつつ、周囲を見渡せば……人、人、人。
ちょっとしたお祭りみたいな雰囲気だ。
そんな中で、突然元気な声が響いた。
「明日、開店予定ですっ! 巷で噂の激戦区、あのダンジョンにオープンですっ!」
見れば、巨大な荷物を背負った少女がなにやら紙を配っている。
この時代、活版印刷と製紙技術は普及して久しい。それでも、仕事を斡旋するギルドと違って、個人ではまだまだ高価だ。魔導師達は魔術的な親和性も手伝って、羊皮紙の巻物を使ったりしている。
そんな中で、少女は大盤振る舞いでチラシを配っていた。
背の荷物はまるで、ちょっとした小屋を背負い込んでいるようにも見えた。
「あの、えっと……ちょっといいかな?」
「あっ、こんにちは! 冒険者さん、ですね。なんでしょうか」
冒険者……なんていい響きなんだ。
思わずジーンとしてしまったが、無理もない。今のヨシュアは、妹が選んでくれた一張羅にマント姿だ。魔導師の資格を持ってないため、ギルド公認のやたら格好いいローブは着ることが許されない……よって、職業不明の動きやすいいでたちである。
だが、そんな彼を見て少女は冒険者だと微笑んでくれたのだ。
「この人出、なにかな? ここ……魔王アモンは倒されちゃったんだよね?」
「はいっ! でも、トモキ君が……じゃない、勇者様が回収しなかった宝箱が沢山残ってるらしいです。それと、もう一つ――」
トモキというのは確か、例のディアナと一緒に魔王アモンを討伐した勇者の名前だ。なんでも、助け出した某王国の姫君に見初められ、結婚することになったらしい。
だが、物語には必ず終わりが訪れる。
使命を果たした勇者トモキは、結婚式で誓いのキスの直前……光に包まれた。
恐らく、彼を遣わした神が本来の世界へと帰したのだろう。
この悲恋の物語は、旅路の途中で何度もヨシュアの耳に入ってきた。
そして、勇者が去ったあとには、冒険者達のダンジョン探索だけが残ったという訳だ。だが、眼前の少女はそれ以外にもここが賑わう理由があるという。
「実は、この魔王城の地下深くに新しいダンジョンへの入口が見つかったんです」
「……へ?」
「その名もズバリッ! 祭終迷宮……ディープアビス!」
「ディープアビス……深淵なる奈落、か」
「すぐに探索が始まりましたが、それはまるで地獄へ降りる黄泉路のようなんです! すっごくモンスターが強くて、一流冒険者達でも全然攻略が進まなくて!」
「み、見てきたような口ぶりだね」
「ええ、一応下見してきましたから。だって、これからお店を開くんですから」
店を開く? 下見してきた?
改めてヨシュアは、目の前の少女を見やる。
少しくたびれ色褪せたマントに、胸当て等の軽装備。腰には造りの豪奢な剣をはいている。それだけだと駆け出しの冒険者みたいに見えるが、背中の大荷物は見上げる高さだ。
なにより、長い黒髪が艶めいていて、精緻な小顔の美貌を飾っている。
髪と同じ黒い瞳が、少し日焼けした顔に輝いていた。
思わずゴクリと喉を鳴らしてしまうくらい、美少女である。
「そ、その、ディープアビスには……魔王はいるか? ドラゴンでもいい、敵は……世界を脅かす巨悪はいるのか!?」
「えっと……今、地下七階まで攻略が進んでますけど、なにも。ただ、未知の鉱石や植物が見つかってて、職人さんや学者さんは大騒ぎで」
「強いモンスターがいるって言ってたな。それは――」
その時だった。
周囲が騒がしくなり、連鎖する悲鳴にどよめきが広がっていった。
振り向けば、魔王城から担架が運ばれてきた。
それを見た少女は、突然荷物を放り投げて走り出す。
咄嗟にヨシュアも追ったが、恐るべき健脚で少女は怪我人に駆け寄った。
少し走っただけでも息が切れる、ずっと引きこもってたから運動不足のヨシュアがへばる。それでもなんとか追いつき呼吸を貪っていると……出入りする空気に濃密な血の臭いが入り混じった。
担架の上には、屈強なドワーフの戦士が身を横たえている。
砕かれた鎧のあちこちから、ドス黒い血が溢れ出ていた。
その男が「止めてくれや」と言うと、苦しげに少女を見上げる。
「よぉ、リョウカちゃん。久しぶりだなあ……元気じゃったかのう」
「おじさんっ! バルカのおじさん……酷い傷。誰に? まさか、ディープアビスで」
「ああ……トモキも帰っちまって、パーティが解散になったからな。またソロで冒険者家業と思ったんじゃが、ありゃやべぇな。この老いぼれも、いよいよ引退かってな、ガハハ!」
「笑い事じゃないよ、もぉ……」
どうやら少女の名はリョウカ、バルカと呼ばれたドワーフとは知り合いらしい。
バルカという名は、どこかで聞いたことがあるような気がする……そう思ったヨシュアは、すぐに思い出した。ドワーフの戦士バルカは、勇者トモキのパーティに所属するベテランの戦士だ。魔導師ディアナ、精霊使いのエルフとレンジャーのホビット、そして教会の司祭……この六人が英雄様御一行である。
バルカといえば、大陸一と言われた剛の者だ。
それが今、苦しげに息も絶え絶えだ。
「リョウカちゃん……悪かったのう、その……ワシ等が間違ってたとは思わんが、じゃが」
「いいんです! そんなこと……いいんです、もう」
「……優しい子じゃなあ、リョウカちゃんは。グッ! イチチ……ワシは故郷に帰ることにするかのう。ふんぎりもついたわい。いつか遊びにくるんじゃぞ、リョウカちゃん」
リョウカを手で制して、救護班と思しき兵士達がバルカを運んでゆく。
ヨシュアは、唖然としながらそれを見送った。
まだ自分にも、英雄になれるチャンスがある……妹に代わって、名門クライスター家の男としてやるべきことはある。そう思った瞬間に、決意はあっさり砕かれた。
セーレを従え太古の召喚術を身に着けたとはいえ、無理だ。
あのバルカをこうも打ちのめす敵が、ディープアビスにはひしめいているのだろう。
立ち尽くすリョウカは、風に髪をなびかせながら……ずっとバルカの消えた方を見詰めていた。その手から、一枚のビラが舞い上がる。
慌ててそれをキャッチしたヨシュアは、刷られている内容に驚いた。
「これは……ブレイブマート一号店、ディープアビス地下五階にオープン? ……冒険者の頼れるコンビニエンスストア……げっ、コンビニ!? ってことは」
振り返るリョウカは、ニコリと笑った。
この陰気な魔王城の門前で、光差す中に芽吹いた一輪の花に見えた。
「わたし、八十宮良華です! リョウカって呼んでください! えっと、キミは」
「お、俺様はヨシュア・クライスター。その、コンビニ? ってので働くために来た! けどな、ディープアビスなるダンジョンがあるなら、今こそ俺は真の冒険を――」
「わあっ、キミがヨシュア君っ! よろしくね! よかったぁ、バイトの子が優しそうで」
突然、リョウカは抱きついてきた。
こうしてヨシュアは、波乱万丈のコンビニ生活を始めることになるのだった。
魔法文明が栄華を極め、人類は自然との調和の中で繁栄していた。
しかし、百年前……突如として魔王アモンと闇の軍勢が襲ってきたのである。魔王軍はあっという間にソロモニアを支配し、抵抗虚しく多くの国々が地図から消えていった。
だが、今から三年前……異世界トウキョウから光の勇者が舞い降りた。
彼は最強の冒険者達を引き連れ、ついに魔王アモンを倒したのである!
――というのが、ヨシュアが引きこもってる間に終わった英雄譚だった。
「くっそー、魔王はもう倒されてんのかよぉ……あーもぉ、俺様としたことが!」
ガタゴトと揺れる荷馬車の中で、ヨシュアは一人でふてくされていた。
その隣には、妙に薄着で肌もあらわなセーレがお酒を飲んでいる。見事な起伏を象る女性的なラインが、隠すことで逆に浮き出ていた。満員御礼の車中で、冒険者達の視線は彼女のナイスバディに釘付けである。
ヨシュアも驚いている。
魔王城は既に、勇者と妹のディアナ達が攻略済みの筈である。
主を失った魔王城へ向かう者達は、なにが目的なのだろうか?
「それにしても……なあ、セーレ! 願い事、変更してもいいか?」
「んー? なぁに、ヨシ君」
「……なんだそのヨシ君って」
「ヨシュアだから、ヨシ君。かーわいー!」
「ブン殴るぞっ! このエロ悪魔!」
「いたっ、殴ってからそう言うの、なしじゃないー? でも、痛いのも……イイワヨ」
「う、うるさいっ!」
なにやら先が思いやられる。
ディアナによってヨシュアは無理やり魔王城へ向かわされていた。引きこもりの無魔力体質でも、どうやらできる仕事が待っているらしい。
だが、ヨシュアはそのことよりも、決戦のラストダンジョンとなった魔王城に興奮を隠せない。
「セーレ、お前……ちょっと今から魔王になれ」
「ええー? それってどういう」
「俺が倒すから、お前が魔王になるんだよ!」
「やーだ。めんどいもん。あのアモンでも倒されちゃったんでしょ? ヨシ君じゃなくても、また勇者とかが来てやられちゃうよお」
「大丈夫だ、その前に俺が」
「ヨシ君になら私、ぜーったいに負けない自信あるなあ」
ぐびびと酒を瓶から直接飲みながら、セーレがへらりと笑った。
かわいい顔して、言うことは辛辣である。
そうこうしているうちに、馬車は停車し周囲の冒険者達が降り出した。
ヨシュアも幌の外へと出て、思わず息を飲む。
眼の前には、荘厳な城塞がそびえ立っていた。無数の尖塔が、暗雲渦巻く空へと突き立っている。周囲にはワイバーンや蝙蝠が飛び交い、不気味な雰囲気は酷く寒い。
そして何故か、冒険者達で大混雑していた。
「すげえ人だな……なんだこりゃ?」
「なんかお祭りみたいだねー? あっ、露天! お肉だよ、ヨシ君! お肉っ!」
「あっ、待てセーレ! 待てって!」
酒瓶を片手に、フラフラとセーレは出店の方へと行ってしまった。
おいおい大丈夫かあの悪魔……本当に序列七十の座を占める地獄の君主なのだろうか。そもそも、ヨシュアが調べた古文書には七十二体の魔神が記載されていた。その中で序列七十……かなり下だ。ひょっとして、召喚術は失敗したのかもしれない。
そんなことを考えつつ、周囲を見渡せば……人、人、人。
ちょっとしたお祭りみたいな雰囲気だ。
そんな中で、突然元気な声が響いた。
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この時代、活版印刷と製紙技術は普及して久しい。それでも、仕事を斡旋するギルドと違って、個人ではまだまだ高価だ。魔導師達は魔術的な親和性も手伝って、羊皮紙の巻物を使ったりしている。
そんな中で、少女は大盤振る舞いでチラシを配っていた。
背の荷物はまるで、ちょっとした小屋を背負い込んでいるようにも見えた。
「あの、えっと……ちょっといいかな?」
「あっ、こんにちは! 冒険者さん、ですね。なんでしょうか」
冒険者……なんていい響きなんだ。
思わずジーンとしてしまったが、無理もない。今のヨシュアは、妹が選んでくれた一張羅にマント姿だ。魔導師の資格を持ってないため、ギルド公認のやたら格好いいローブは着ることが許されない……よって、職業不明の動きやすいいでたちである。
だが、そんな彼を見て少女は冒険者だと微笑んでくれたのだ。
「この人出、なにかな? ここ……魔王アモンは倒されちゃったんだよね?」
「はいっ! でも、トモキ君が……じゃない、勇者様が回収しなかった宝箱が沢山残ってるらしいです。それと、もう一つ――」
トモキというのは確か、例のディアナと一緒に魔王アモンを討伐した勇者の名前だ。なんでも、助け出した某王国の姫君に見初められ、結婚することになったらしい。
だが、物語には必ず終わりが訪れる。
使命を果たした勇者トモキは、結婚式で誓いのキスの直前……光に包まれた。
恐らく、彼を遣わした神が本来の世界へと帰したのだろう。
この悲恋の物語は、旅路の途中で何度もヨシュアの耳に入ってきた。
そして、勇者が去ったあとには、冒険者達のダンジョン探索だけが残ったという訳だ。だが、眼前の少女はそれ以外にもここが賑わう理由があるという。
「実は、この魔王城の地下深くに新しいダンジョンへの入口が見つかったんです」
「……へ?」
「その名もズバリッ! 祭終迷宮……ディープアビス!」
「ディープアビス……深淵なる奈落、か」
「すぐに探索が始まりましたが、それはまるで地獄へ降りる黄泉路のようなんです! すっごくモンスターが強くて、一流冒険者達でも全然攻略が進まなくて!」
「み、見てきたような口ぶりだね」
「ええ、一応下見してきましたから。だって、これからお店を開くんですから」
店を開く? 下見してきた?
改めてヨシュアは、目の前の少女を見やる。
少しくたびれ色褪せたマントに、胸当て等の軽装備。腰には造りの豪奢な剣をはいている。それだけだと駆け出しの冒険者みたいに見えるが、背中の大荷物は見上げる高さだ。
なにより、長い黒髪が艶めいていて、精緻な小顔の美貌を飾っている。
髪と同じ黒い瞳が、少し日焼けした顔に輝いていた。
思わずゴクリと喉を鳴らしてしまうくらい、美少女である。
「そ、その、ディープアビスには……魔王はいるか? ドラゴンでもいい、敵は……世界を脅かす巨悪はいるのか!?」
「えっと……今、地下七階まで攻略が進んでますけど、なにも。ただ、未知の鉱石や植物が見つかってて、職人さんや学者さんは大騒ぎで」
「強いモンスターがいるって言ってたな。それは――」
その時だった。
周囲が騒がしくなり、連鎖する悲鳴にどよめきが広がっていった。
振り向けば、魔王城から担架が運ばれてきた。
それを見た少女は、突然荷物を放り投げて走り出す。
咄嗟にヨシュアも追ったが、恐るべき健脚で少女は怪我人に駆け寄った。
少し走っただけでも息が切れる、ずっと引きこもってたから運動不足のヨシュアがへばる。それでもなんとか追いつき呼吸を貪っていると……出入りする空気に濃密な血の臭いが入り混じった。
担架の上には、屈強なドワーフの戦士が身を横たえている。
砕かれた鎧のあちこちから、ドス黒い血が溢れ出ていた。
その男が「止めてくれや」と言うと、苦しげに少女を見上げる。
「よぉ、リョウカちゃん。久しぶりだなあ……元気じゃったかのう」
「おじさんっ! バルカのおじさん……酷い傷。誰に? まさか、ディープアビスで」
「ああ……トモキも帰っちまって、パーティが解散になったからな。またソロで冒険者家業と思ったんじゃが、ありゃやべぇな。この老いぼれも、いよいよ引退かってな、ガハハ!」
「笑い事じゃないよ、もぉ……」
どうやら少女の名はリョウカ、バルカと呼ばれたドワーフとは知り合いらしい。
バルカという名は、どこかで聞いたことがあるような気がする……そう思ったヨシュアは、すぐに思い出した。ドワーフの戦士バルカは、勇者トモキのパーティに所属するベテランの戦士だ。魔導師ディアナ、精霊使いのエルフとレンジャーのホビット、そして教会の司祭……この六人が英雄様御一行である。
バルカといえば、大陸一と言われた剛の者だ。
それが今、苦しげに息も絶え絶えだ。
「リョウカちゃん……悪かったのう、その……ワシ等が間違ってたとは思わんが、じゃが」
「いいんです! そんなこと……いいんです、もう」
「……優しい子じゃなあ、リョウカちゃんは。グッ! イチチ……ワシは故郷に帰ることにするかのう。ふんぎりもついたわい。いつか遊びにくるんじゃぞ、リョウカちゃん」
リョウカを手で制して、救護班と思しき兵士達がバルカを運んでゆく。
ヨシュアは、唖然としながらそれを見送った。
まだ自分にも、英雄になれるチャンスがある……妹に代わって、名門クライスター家の男としてやるべきことはある。そう思った瞬間に、決意はあっさり砕かれた。
セーレを従え太古の召喚術を身に着けたとはいえ、無理だ。
あのバルカをこうも打ちのめす敵が、ディープアビスにはひしめいているのだろう。
立ち尽くすリョウカは、風に髪をなびかせながら……ずっとバルカの消えた方を見詰めていた。その手から、一枚のビラが舞い上がる。
慌ててそれをキャッチしたヨシュアは、刷られている内容に驚いた。
「これは……ブレイブマート一号店、ディープアビス地下五階にオープン? ……冒険者の頼れるコンビニエンスストア……げっ、コンビニ!? ってことは」
振り返るリョウカは、ニコリと笑った。
この陰気な魔王城の門前で、光差す中に芽吹いた一輪の花に見えた。
「わたし、八十宮良華です! リョウカって呼んでください! えっと、キミは」
「お、俺様はヨシュア・クライスター。その、コンビニ? ってので働くために来た! けどな、ディープアビスなるダンジョンがあるなら、今こそ俺は真の冒険を――」
「わあっ、キミがヨシュア君っ! よろしくね! よかったぁ、バイトの子が優しそうで」
突然、リョウカは抱きついてきた。
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