7 / 23
第7話「方舟の中に道標を探して」
しおりを挟む
祭終迷宮ディープアビス、第一階層『白亜ノ方舟迷宮』は静けさに満ちている。
かつてこの場所が、星の海を渡る巨大な戦艦だっったことは、誰も知らない。今はただ、かつて魔王アモンが君臨した城の底に沈んでいる。
外宇宙へと希望を見出した者達も、どうなったかは誰もしらない。
記録も記憶も既に、それを覚えていることさえ忘れていた。
「改めて来てみると、あれだな……降りてくる時は全速力で強行突破だったけど。だけど、うーむ……ま、目星はついてんだ。行ってみようぜ」
地図を広げて現在地を確認しながら、ヨシュアは周囲を見渡した。
迷宮内は、この早朝では人影もまばらだ。この場所に来るまでモンスターとのエンカウントもなかったし、擦れ違った冒険者も少ない。
彼はあのあと、朝食もそこそこに再びディープアビスに来ていた。
ブレイブマートでは現在、未完成ながら第一階層と第二階層の地図を販売している。これが意外と需要があって、今朝方マッコイ商会が来てくれて、ようやく売り切れだったものが補充されたのだ。
ヨシュアの地図を、左右から少女達が覗き込んでくる。
顔が近くて、微かに柑橘系のいい匂いがした。
「ヨシュア、どこ? どこよ、目星がついてる場所って。あんたね、このあたしが付いてきてあげてるんだから、空振りじゃすまないのよ? いい?」
「ヨシっち、まあ……自分がついてるから楽勝スよ。適当に頑張らない方向でいくッス」
今日は先程出会ったシレーヌと、なにも言わずについてきたレギンレイヴが一緒だ。
店番はリョウカにセーレを預けてきたから、多分大丈夫だろう。なにせセーレは、古の神々の中でも一際強力な、あの七十二柱の悪魔の一人なのである。
ただのゆるほわ痴女にしか見えないが、偉大な魔神だから……多分おそらく、絶対に大丈夫だ。
「まあ見てくれ、シレーヌ。レギンも。ここ……不自然な地図の空白地帯が何箇所かあるだろ?」
まだディープアビスは、攻略が始まって一週間程だ。だが、冒険者の多くは、以前から魔王打倒をと意気込んでた猛者揃いである。勇者トモキが魔王アモンを倒してしまったが、彼等はまだまだ戦いを、冒険を望んでいるのである。
そんな者達の熱心な探索で、既に最前線は第二階層『翠緑林ノ禁地』へ移りつつある。
この第一階層はもう、主要なエリアが攻略されていた。
だが、地図を見ればあちこちにまだ、未踏破の場所がある。
「これが地下五階、つまり俺達のブレイブマート側から入ったフロアの地図だ。で、これが地下四階、こっちは地下三階」
「ちょっとなによ! もったいぶらないで早く結論を言いなさい?」
シレーヌに小突かれた。
リョウカの親友を名乗るこの少女は、なにかとヨシュアには風当たりが強い。先程も、今日のことをリョウカに説明していたら、鋭い眼光で睨んできたのだ。
リョウカが心配だとヨシュアの手を握ってきた時など、今にも噛み付いてきそうな形相だった。
わからん……これだから女は難しい。
ともあれ、ヨシュアは第一階層の全てのフロアの地図をぴったりと重ねる。
そして、乳白色の光に満ちた天井へとそれをかざした。
「見ろ、わかるか? ここだよ、ここ」
「あら……なんだ、露骨に怪しいじゃない。早く言いなさいよね、まったく!」
「ほへー、ヨシっちよく気付いたスね」
伊達に引きこもって召喚術研究に没頭していた訳ではない。あらゆる古文書や文献を漁るうちに、ヨシュアは書籍や資料の解析、分析を効率よく進める能力が身についていた。地図も人より何倍も読めるし、迷宮のものとあらば立体的に考えることができた。
そして、第一階層の全フロアを頭の中に組み立てた時……奇妙な謎が浮かんだのである。
「この場所だけ、誰も手を付けていない。そして、ここは縦に地下一階から地下五階までを貫くなにかがある。同じ座標に空白地帯が重なってるだろ? この正方形の区画だけ」
それはおそらく、縦坑かなにかだ。
つまり、この第一階層『白亜ノ方舟回廊』は、階段とは別に垂直に貫くなにかがあるのだ。そのスペースにはいったいどんな意味があるのか……それはこれから調べてみればわかるだろう。
地図をしまうと、ヨシュアは今日の冒険の目的をはっきり仲間に告げた。
「マッコイ商会の連中は、地下五階のブレイブマートまで商品を運ぶのが大変だからと、あの値段をふっかけてきた。じゃあ、その道程が危険のないものだったら?」
「まあ、値下げに応じるかもしれないスよねえ」
「だろ? もしかしたら、護衛の冒険者もいらなくなるかもしれない。そうやってコストが大きく下がれば、必然的に毎日の仕入れも安くなるんだよ」
ふむふむ、とレギンレイヴは眠そうな目を瞬かせる。
とにかく、これ以上マッコイ商会の言い値で仕入れていたら、ブレイブマートは自転車操業の末に破産してしまう。
リョウカも勿論、なにも考えていない訳ではなかった。
この謎の空白地帯が、縦に真っ直ぐ地上と行き来できるかもしれない……最初にそれを思いついたのは、彼女なのだ。そんじょそこらの冒険者より何倍も強いリョウカは、手の空いた時に調査しようと思っていたのである。
「オッケェ、じゃあ行くわよ! あたしについてきなさい!」
「……なんでお前が仕切るんだよ、シレーヌ」
「まあまあ、今はこれ、ツンなんスよヨシっち。いつかデレるから、それを待つッス」
早速シレーヌは、紅の錬金術師の名の通り、真っ赤なマントを揺らして歩き出した。
例の場所までは、小一時間も歩けばつきそうである。
当然、一歩足を踏み入れれば……ここは危険な祭終迷宮ディープアビス。
最新の注意を払いながら進むべきで、些細なミスが命取りになる。
だが、シレーヌはズカズカと無防備に、無駄に堂々と歩を進めるのだった。
「おい待て、シレーヌッ! 迂闊だぞ、もっと慎重に」
「うっさいわね! 急がないとリョウカが……あんたの連れてる、あの、下僕? 召喚した悪魔? あいつ、なんか頼りないもの」
「セーレは下僕じゃない、仲間だ。それと、ああ見えて意外とちゃんとしてるんだぜ?」
「どうだか! なんかふわふわ能天気だし、いつもニコニコしてるし、胸だって……ゴニョゴニョ」
シレーヌは平坦な自分の胸に手を当て、聞き取れない言葉を濁す。
その間もずっと、レギンレイヴは鼻歌混じりにのんびりあとをついてきた。
「そういやレギン、お前までついてくるなんてな」
「や、自分がいなきゃこのパーティ全滅必至スよ。それに」
「それに?」
「ワルキューレの仕事は、勇者の魂をヴァルハラに拉致……じゃない、スカウトすることなんス。なーんか、自分の長年のワルキューレ的な直感が告げてるんスよ」
この近くに、レギンレイヴの御眼鏡に叶う勇者がいるらしい。
ヨシュアは思わず照れたが、すかさず「ヨシっちじゃなくて」と、レギンレイヴが突っ込んでくる。それもそうだと思って、嬉しいような悲しいような、複雑な気分のヨシュアだった。
そして、すぐに自分が勇者ではないことを証明してしまう。
鳴り響く警報音と共に、周囲にはこの場所特有のモンスターが集まり始めていた。
「くっ、来たか! レギン、お前はシレーヌを守れ。俺は……落ち着け、落ち着くんだ、大丈夫。今日は体力的にも余裕があるし――」
「ヨシっち、わかりやすっ! ニャハハ、まあ……自分にある程度は任せるスよ」
ヒュン、と手にした槍を構えるや……レギンレイヴが風になる。
ジト目でけだるげなその表情は、今は戦いの高揚感で不気味な笑みを浮かべていた。そう、ちょっと怖い。フヒヒと笑って彼女は、並み居る金属の木偶人形達へと飛び込んでいった。
確か、こいつらはこの階層の墓守だ。
名は、モビルガードナー……破壊した残骸に名が古代語で刻印されており、一緒に通しの番号が振られていた。古代の技術で作られたゴーレムのようなものである。
通路の高さと幅を上手く使って、レギンレイヴが舞うように敵を蹴散らしてゆく。
「へえ、あの娘やるじゃない。……本当にあんたが召喚したの?」
「お、おう。それより、レギンを援護だっ!」
今回は、地上へ抜けていると思われる縦坑の調査が目的だ。そのためにも、ヨシュアは体力を温存する必要がある。
セーレや、彼女を介して召喚したレギンレイヴの霊格では、消耗が激しい。
もっと下位の、精霊レベルの霊格を召喚しようとした、その時だった。
「どいてなさい、ヨシュア! レギン、あんたも! ……一気に爆破するわっ!」
バサッ、とマントを翻して、シレーヌが前へと歩み出た。その手は、両の腰からいくつかの試験管を抜き取っている。なにか粉末状のものが入っているようだ。
彼女は、指と指との間にズラリ並んだ硝子の円筒の、その先から糸を引き出す。
どうやら導火線のようで、彼女はフフンと鼻を鳴らして勝ち気な瞳を輝かせる。
「木炭と硫黄、そして硝石……これが錬金術の力っ、爆薬よ!」
そして、レギンレイヴを下がらせ、彼女はポケットにもう片方の手を突っ込んだ。
「……あら? マッチが……ああ、マッチっていうのは同じ錬金術で作った、魔力がなくても火を起こせる――おかしいわね、マッチがないわ!」
レギンレイヴがすかさずフォローに入る。
迫るモビルガードナーの大軍に、ヨシュアも精神力を紡いだ。集中力を研ぎ澄まして、今度はレギンレイヴの霊格を介して炎の精霊へと呼びかける。
背後から肩に触れられたレギンレイヴは、ビクリ! と身を震わせた。
「戦乙女レギンレイヴが主、ヨシュア・クライスターが命ずる。我が呼びかけに応えよ……出ろぉ! サラマンデル!」
四大精霊の一つ、火蜥蜴サラマンデルがヨシュアの手の上に現れる。
燃え盛る火の玉そのものである小さな精霊を、ヨシュアはシレーヌへ向けて投げつけた。
「っと、あんた使えるじゃないの! これで火を……ふふ、爆ぜなさい……爆発よ、爆発! リア充爆発しなさいよ! オーホッホッホ! 錬金術は爆発よっ!」
なにやら奇っ怪な高笑いを響かせ、シレーヌは暗い情念と共に試験管を放る。火薬とかいうものが詰め込まれた容器は、導火線の火花を招いて爆発、あっという間に炎でモンスター達を包む。
その爆炎と黒煙の中を突っ切り、ヨシュア達は目的地へ向けて走り出したのだった。
かつてこの場所が、星の海を渡る巨大な戦艦だっったことは、誰も知らない。今はただ、かつて魔王アモンが君臨した城の底に沈んでいる。
外宇宙へと希望を見出した者達も、どうなったかは誰もしらない。
記録も記憶も既に、それを覚えていることさえ忘れていた。
「改めて来てみると、あれだな……降りてくる時は全速力で強行突破だったけど。だけど、うーむ……ま、目星はついてんだ。行ってみようぜ」
地図を広げて現在地を確認しながら、ヨシュアは周囲を見渡した。
迷宮内は、この早朝では人影もまばらだ。この場所に来るまでモンスターとのエンカウントもなかったし、擦れ違った冒険者も少ない。
彼はあのあと、朝食もそこそこに再びディープアビスに来ていた。
ブレイブマートでは現在、未完成ながら第一階層と第二階層の地図を販売している。これが意外と需要があって、今朝方マッコイ商会が来てくれて、ようやく売り切れだったものが補充されたのだ。
ヨシュアの地図を、左右から少女達が覗き込んでくる。
顔が近くて、微かに柑橘系のいい匂いがした。
「ヨシュア、どこ? どこよ、目星がついてる場所って。あんたね、このあたしが付いてきてあげてるんだから、空振りじゃすまないのよ? いい?」
「ヨシっち、まあ……自分がついてるから楽勝スよ。適当に頑張らない方向でいくッス」
今日は先程出会ったシレーヌと、なにも言わずについてきたレギンレイヴが一緒だ。
店番はリョウカにセーレを預けてきたから、多分大丈夫だろう。なにせセーレは、古の神々の中でも一際強力な、あの七十二柱の悪魔の一人なのである。
ただのゆるほわ痴女にしか見えないが、偉大な魔神だから……多分おそらく、絶対に大丈夫だ。
「まあ見てくれ、シレーヌ。レギンも。ここ……不自然な地図の空白地帯が何箇所かあるだろ?」
まだディープアビスは、攻略が始まって一週間程だ。だが、冒険者の多くは、以前から魔王打倒をと意気込んでた猛者揃いである。勇者トモキが魔王アモンを倒してしまったが、彼等はまだまだ戦いを、冒険を望んでいるのである。
そんな者達の熱心な探索で、既に最前線は第二階層『翠緑林ノ禁地』へ移りつつある。
この第一階層はもう、主要なエリアが攻略されていた。
だが、地図を見ればあちこちにまだ、未踏破の場所がある。
「これが地下五階、つまり俺達のブレイブマート側から入ったフロアの地図だ。で、これが地下四階、こっちは地下三階」
「ちょっとなによ! もったいぶらないで早く結論を言いなさい?」
シレーヌに小突かれた。
リョウカの親友を名乗るこの少女は、なにかとヨシュアには風当たりが強い。先程も、今日のことをリョウカに説明していたら、鋭い眼光で睨んできたのだ。
リョウカが心配だとヨシュアの手を握ってきた時など、今にも噛み付いてきそうな形相だった。
わからん……これだから女は難しい。
ともあれ、ヨシュアは第一階層の全てのフロアの地図をぴったりと重ねる。
そして、乳白色の光に満ちた天井へとそれをかざした。
「見ろ、わかるか? ここだよ、ここ」
「あら……なんだ、露骨に怪しいじゃない。早く言いなさいよね、まったく!」
「ほへー、ヨシっちよく気付いたスね」
伊達に引きこもって召喚術研究に没頭していた訳ではない。あらゆる古文書や文献を漁るうちに、ヨシュアは書籍や資料の解析、分析を効率よく進める能力が身についていた。地図も人より何倍も読めるし、迷宮のものとあらば立体的に考えることができた。
そして、第一階層の全フロアを頭の中に組み立てた時……奇妙な謎が浮かんだのである。
「この場所だけ、誰も手を付けていない。そして、ここは縦に地下一階から地下五階までを貫くなにかがある。同じ座標に空白地帯が重なってるだろ? この正方形の区画だけ」
それはおそらく、縦坑かなにかだ。
つまり、この第一階層『白亜ノ方舟回廊』は、階段とは別に垂直に貫くなにかがあるのだ。そのスペースにはいったいどんな意味があるのか……それはこれから調べてみればわかるだろう。
地図をしまうと、ヨシュアは今日の冒険の目的をはっきり仲間に告げた。
「マッコイ商会の連中は、地下五階のブレイブマートまで商品を運ぶのが大変だからと、あの値段をふっかけてきた。じゃあ、その道程が危険のないものだったら?」
「まあ、値下げに応じるかもしれないスよねえ」
「だろ? もしかしたら、護衛の冒険者もいらなくなるかもしれない。そうやってコストが大きく下がれば、必然的に毎日の仕入れも安くなるんだよ」
ふむふむ、とレギンレイヴは眠そうな目を瞬かせる。
とにかく、これ以上マッコイ商会の言い値で仕入れていたら、ブレイブマートは自転車操業の末に破産してしまう。
リョウカも勿論、なにも考えていない訳ではなかった。
この謎の空白地帯が、縦に真っ直ぐ地上と行き来できるかもしれない……最初にそれを思いついたのは、彼女なのだ。そんじょそこらの冒険者より何倍も強いリョウカは、手の空いた時に調査しようと思っていたのである。
「オッケェ、じゃあ行くわよ! あたしについてきなさい!」
「……なんでお前が仕切るんだよ、シレーヌ」
「まあまあ、今はこれ、ツンなんスよヨシっち。いつかデレるから、それを待つッス」
早速シレーヌは、紅の錬金術師の名の通り、真っ赤なマントを揺らして歩き出した。
例の場所までは、小一時間も歩けばつきそうである。
当然、一歩足を踏み入れれば……ここは危険な祭終迷宮ディープアビス。
最新の注意を払いながら進むべきで、些細なミスが命取りになる。
だが、シレーヌはズカズカと無防備に、無駄に堂々と歩を進めるのだった。
「おい待て、シレーヌッ! 迂闊だぞ、もっと慎重に」
「うっさいわね! 急がないとリョウカが……あんたの連れてる、あの、下僕? 召喚した悪魔? あいつ、なんか頼りないもの」
「セーレは下僕じゃない、仲間だ。それと、ああ見えて意外とちゃんとしてるんだぜ?」
「どうだか! なんかふわふわ能天気だし、いつもニコニコしてるし、胸だって……ゴニョゴニョ」
シレーヌは平坦な自分の胸に手を当て、聞き取れない言葉を濁す。
その間もずっと、レギンレイヴは鼻歌混じりにのんびりあとをついてきた。
「そういやレギン、お前までついてくるなんてな」
「や、自分がいなきゃこのパーティ全滅必至スよ。それに」
「それに?」
「ワルキューレの仕事は、勇者の魂をヴァルハラに拉致……じゃない、スカウトすることなんス。なーんか、自分の長年のワルキューレ的な直感が告げてるんスよ」
この近くに、レギンレイヴの御眼鏡に叶う勇者がいるらしい。
ヨシュアは思わず照れたが、すかさず「ヨシっちじゃなくて」と、レギンレイヴが突っ込んでくる。それもそうだと思って、嬉しいような悲しいような、複雑な気分のヨシュアだった。
そして、すぐに自分が勇者ではないことを証明してしまう。
鳴り響く警報音と共に、周囲にはこの場所特有のモンスターが集まり始めていた。
「くっ、来たか! レギン、お前はシレーヌを守れ。俺は……落ち着け、落ち着くんだ、大丈夫。今日は体力的にも余裕があるし――」
「ヨシっち、わかりやすっ! ニャハハ、まあ……自分にある程度は任せるスよ」
ヒュン、と手にした槍を構えるや……レギンレイヴが風になる。
ジト目でけだるげなその表情は、今は戦いの高揚感で不気味な笑みを浮かべていた。そう、ちょっと怖い。フヒヒと笑って彼女は、並み居る金属の木偶人形達へと飛び込んでいった。
確か、こいつらはこの階層の墓守だ。
名は、モビルガードナー……破壊した残骸に名が古代語で刻印されており、一緒に通しの番号が振られていた。古代の技術で作られたゴーレムのようなものである。
通路の高さと幅を上手く使って、レギンレイヴが舞うように敵を蹴散らしてゆく。
「へえ、あの娘やるじゃない。……本当にあんたが召喚したの?」
「お、おう。それより、レギンを援護だっ!」
今回は、地上へ抜けていると思われる縦坑の調査が目的だ。そのためにも、ヨシュアは体力を温存する必要がある。
セーレや、彼女を介して召喚したレギンレイヴの霊格では、消耗が激しい。
もっと下位の、精霊レベルの霊格を召喚しようとした、その時だった。
「どいてなさい、ヨシュア! レギン、あんたも! ……一気に爆破するわっ!」
バサッ、とマントを翻して、シレーヌが前へと歩み出た。その手は、両の腰からいくつかの試験管を抜き取っている。なにか粉末状のものが入っているようだ。
彼女は、指と指との間にズラリ並んだ硝子の円筒の、その先から糸を引き出す。
どうやら導火線のようで、彼女はフフンと鼻を鳴らして勝ち気な瞳を輝かせる。
「木炭と硫黄、そして硝石……これが錬金術の力っ、爆薬よ!」
そして、レギンレイヴを下がらせ、彼女はポケットにもう片方の手を突っ込んだ。
「……あら? マッチが……ああ、マッチっていうのは同じ錬金術で作った、魔力がなくても火を起こせる――おかしいわね、マッチがないわ!」
レギンレイヴがすかさずフォローに入る。
迫るモビルガードナーの大軍に、ヨシュアも精神力を紡いだ。集中力を研ぎ澄まして、今度はレギンレイヴの霊格を介して炎の精霊へと呼びかける。
背後から肩に触れられたレギンレイヴは、ビクリ! と身を震わせた。
「戦乙女レギンレイヴが主、ヨシュア・クライスターが命ずる。我が呼びかけに応えよ……出ろぉ! サラマンデル!」
四大精霊の一つ、火蜥蜴サラマンデルがヨシュアの手の上に現れる。
燃え盛る火の玉そのものである小さな精霊を、ヨシュアはシレーヌへ向けて投げつけた。
「っと、あんた使えるじゃないの! これで火を……ふふ、爆ぜなさい……爆発よ、爆発! リア充爆発しなさいよ! オーホッホッホ! 錬金術は爆発よっ!」
なにやら奇っ怪な高笑いを響かせ、シレーヌは暗い情念と共に試験管を放る。火薬とかいうものが詰め込まれた容器は、導火線の火花を招いて爆発、あっという間に炎でモンスター達を包む。
その爆炎と黒煙の中を突っ切り、ヨシュア達は目的地へ向けて走り出したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる