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第8話「魔法と科学が交わり擦れ違う」
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早朝に始まった迷宮探索は、順調に進んでいた。
魔王城をも上回る複雑怪奇な祭終迷宮……その名は、ディープアビス。まさに、奈落の深淵へと続くかのように、地中とは思えぬ構造物が下へ下へと続く。
今はヨシュアも、コンビニの店員である前に冒険者の一人だった。
「よし、ここが目的のポイントだな。な、なあ、レギン。あれ、なんとかならないか?」
「や、自分は別に、なーんも。我関せずッス」
ヨシュアは地図上の空白地帯を前に、改めてレギンレイヴと背後を振り返る。
そこには、片眼鏡の奥に瞳を輝かせながら、紙片にメモを取るシレーヌの姿がある。紙は貴重品で、繰り返し使っているのかボロボロだ。赤いマントに赤い羽根付き帽子、彼女は目の前の真っ赤な球体に何度も頷いている。
シレーヌの前にふわふわ浮いているのは、先程ヨシュアが召喚したサラマンデルである。炎の中級魔法と同程度の力を持つため、あのあとも何度か戦闘で頼らせてもらった。
ヨシュア達の視線に気付いたシレーヌは、フフンと鼻を鳴らした。
「ああ、これ? これは鉛筆といって、木炭を中心とした素材で作った筆記用具よ。便利でしょう? 錬金術っていうのは、自然界にある物質同士の、その根源を重ねて紡ぐことで――」
「誰もそんなこと、聞いてねえよ。なあ、サラマンデルを帰してやってもいいか?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 勝手にあたしの探究心を奪わないで!」
「……勝手もなにも、お前なあ」
そう、サラマンデルはレギンレイヴの霊格を元にして、ヨシュアが召喚したものだ。この世に満ちる四大元素を司る、いわゆる四大精霊である。エルフの精霊使いなんかは、魔力を元に呼び出すが、ヨシュアにはそれはできない。代わりに、習得した召喚術とレヴィンレイヴのおかげで自由自在に助けてもらうことができた。
四大精霊くらいなら、体力の消耗はそうでもない。
レギンレイヴくらいの霊格ならば体力が尽きてしまうし、七十二柱の悪魔ことセーレのようなレベルになれば、生死を賭けて召喚に挑まねばならない。
シレーヌの質問攻めからサラマンデルを解放し、ヨシュアは元の世界へ帰してやった。
勿論、召喚の元となった霊格である、レギンレイヴの協力が必須だ。
「ああん、もぉ……でも凄いわ、大発見よ! 炎は燃焼するために酸素というものを使うのね。流石は火の精霊、詳しいわ。これでようやく、四大元素の実態がわかってきたっ」
「そりゃよかったな。さて、この奥にどう進むか」
改めてヨシュアは、目の前の扉に向き直る。
そう、扉……周囲の壁と同様に、真っ白な扉がある。
形からして、引き戸だ。
しかし、引こうにも手をかける場所がない。
この第一階層『白亜ノ方舟回廊』には、無数の部屋がある。そのどれもが、目の前に立つだけで勝手に開くのだ。いわば、自動ドアとでも言うべき不思議な代物である。
だが、開かないものも多い。
いわば開かずの扉だ。
「ふむ。まあ、予想してたんだけどな。この先に入れないから、地図の空白地帯になってる訳だしよ」
腕組みヨシュアは考え込む。
レギンレイヴは退屈してるのか、槍にだらしなくよりかかっている。本当に彼女は、いつものだるそうな、心底面倒臭そうな顔をしていた。
だが、ならばと歩み出たのはシレーヌだった。
「お、お得意の錬金術でなんとかしてくれんのか?」
「当然よ! 錬金術に不可能はないわ!」
そう言い放ち、彼女は腰から無数の試験管を引き抜いて、
「爆破しましょう!」
「おい待て!」
「下がって、ヨシュア。レギンも。この間作ったやつ、そう……ニトログリセリンと名付けたわ。この液体爆薬を試してみたいの!」
「他でやれ! ってか、なんだお前……さっきから爆薬しか見てねえぞ、俺ぁ」
ようやくヨシュアは理解した。
紅の錬金術師、それは彼女の得意分野を示していたのだ。
そのことを言われて、シレーヌは唇を尖らせふくれっ面になる。
「な、なによ、いいでしょ? 火薬の研究が一番好きなの! でも、それだけじゃないわ。硫黄やらなにやら掘ってたから、最近は土壌と地層、鉱物にも凝ってるの」
「意外に地味だな、錬金術」
「ああぁ!? なんつったコラ、ヨシュア! もういっぺん言ってみなさいよ!」
はいはい他所でやってねという顔で、レギンレイヴはそっぽを向いてしまった。
犬も食わぬなんとやらと思われたら、それは心外だ。
だが、扉を触って周囲を調べ始めたヨシュアは、背中で消え入りそうな声を聴く。
「だって……魔力がないんだもの、別の力が必要じゃない。勉強するしか、ないじゃない」
シレーヌの苦しみと痛み、それを超えた努力と研鑽をヨシュアは理解した。理解したなんて言ったら、失礼かもしれないが……自分と違う道を、同じ方向に走ったのだと感じた。何故なら、二人は同じ場所に最初は立っていたから。
誰もが無意識に使う魔法を、シレーヌもヨシュア同様に使えない体質だった。
「……そうだな、そうだよ。悪かった、お前は大したもんだよ」
「わっ、わかればいいのよ!」
「さて、と……なあ、シレーヌ。こういう時……普通の冒険者ならどうすると思う?」
「どう、って……決まってるじゃない。解錠の魔法があるわ。呪文も短いし、術式だって簡単なものよ」
魔法の呪文を唱えることによって、魔力を持った人間は太古の神々へと意識をつなげることができる。周囲には術式の文字列が光となって浮かび、それらが高速で処理されてゆくのだ。
だから普通の冒険者は、今のヨシュアのように地べたに這いつくばったりしない。謎の扉の全てを、直に触れて隅々まで調べたりはしない筈だ。
「だよなあ……つまり、魔力を持たない俺達だからこそ、気付けることがさ……あった。あったけど、さてどうすっかな」
ヨシュアは立ち上がると、改めて今度は上を見上げた。
扉の上、天井の辺りに……小さな光が灯っている。
床を調べていたヨシュアは、赤い光点を見つけて、それが上からだとわかったのだ。
「なあ、こいつがなにか関係してると思わないか? ほら、この上のやつだ」
腰に手を当て、ヨシュアは謎の光を見上げる。
シレーヌは勿論、興味なさそうだったレギンレイヴまで身を寄せて同じものを見上げた。左右から挟まれ、ほうほうふむふむという声が近い。
ひっつくなと言いたかったが、二人の真剣さは嬉しい。
「……なによ、もう。こういうの、別の扉の上にもあるけど?」
「自分思うんスけど、あれは単に扉を開けたり閉めたりしてるんじゃないスかね」
それはヨシュアも承知の上だ。
おそらく、この迷宮の扉は全て、頭上からの光によって開閉を判断しているのだ。恐らく、扉の前に人が立つと光が反応するのだ。では、この開かない扉は? 第一階層に点在する、開かずの扉の原理は他とは違うのか?
恐らく、そうではない……さして変わらぬものではとヨシュアは思う。
「普通の扉は、人がいるかいないかを判断している。そして、開かない扉は……それ以外にもう一つ判断条件があると見たね」
「なるほど……例えば、特定の人間じゃないと開かないとか、そういうのね?」
シレーヌの言葉にヨシュアは頷く。
問題は、どういった条件付がされているかだ。
だが、それを考えている時間が惜しい。
そして、ヨシュアにはもっと手っ取り早い方法があった。
彼はもう一度、難しそうな顔のレギンレイヴを手招きする。
「なんスか、また召喚するッスか」
「そゆこと。んじゃま……戦乙女レギンレイヴが主、ヨシュア・クライスターが命ずる。我が呼びかけに応えよ……来いっ! シルフィード!」
ふわりと旋風が巻いて、目の前に小さな女の子が現れた。背の羽根に風をはらませ羽撃く、風の妖精シルフィードだ。四大精霊の一角で、先程のサラマンデル同様に御しやすい。ただ、いたずら好きなのが玉に瑕である。
すぐにヨシュアは、シルフィードに考えを打ち明けた。
「あの天井の光が見えるだろう? お前の風で空気の層を作って、光の行き来を屈折、偏光できないかな? とりあえず、何パターンか試してみてくれ!」
ヨシュアは知っている。
そして、シレーヌもはっとしたあとで頷いた。
シルフィードが操る風は、空気の層を自在に操る。そして、ヨシュア達が吸って吐く空気は、その密度や高低差のようなもので、時には光さえも捻じ曲げるのだ。
恐らく、天井の光は普通に遮られたのでは駄目だ。
もっと、遮り方にコツが必要だとヨシュアは思ったのだ。
早速シルフィードは、天井へ舞い上がって両手を広げる。
「よしよし、いい感じだ……シルフィード、なにか光り方や音が変わったら教えてくれ」
「無理なら言ってよね? 爆破するから」
「だーかーら、お前なあ。こんなとこで派手に爆発させてみろ。どうなると思う?」
「……どうなるのよ。さっきの戦闘見たでしょ? 黒色火薬じゃ傷一つつかないわよ、この壁も扉も。だから、ニトログリセリン! これよ、これっ!」
レギンレイヴが眠そうな目で呟いたのは、そうして二人がお馴染みになりつつある問答を続けていた時だった。
「なんか……ヨシっち。シレぬんも」
「誰がシレぬんですって!? 却下よ、却下! その呼び方、却下! あたしが痴れ者みたいじゃないの!」
「や、それはいいんスけど……」
「よくないわっ! ……あら?」
不意に周囲から、耳障りな金属音が唸り声を連れてくる。これはそう、この迷宮で刻を忘れた守護者達の駆動音だ。それも、尋常な数ではない。
「ゲート842ノセンサーニ、不正ヲ感知! ハッキングノ可能性アリ! 全小隊集合!」
「侵入者ノ可能性アリ! 第七エレベーターヲ閉鎖セヨ! ……第七エレベーター、電源ヲ既ニ喪失……閉鎖完了! 閉鎖完了!」
モビルガードナーの群が押し寄せた。
しかも、通路の高さと幅をいっぱいに使う大型種もいる。ずんぐりとした人型の通常種と違って、大型モビルガードナーはまるで二足歩行の鳥走竜みたいだ。太古の昔にいたという、恐竜みたいなやつである。
「やべぇ! なんかすげえ数だぞ! レギン! シレーヌも!」
「……自分、帰ってもいいスか? もしくは、早退。もち、有給扱いで」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ、次々来る……急いで爆破しな、きゃっ!? ちょ、ちょっと――ちょい待ち、タンマ! ヨシュアッ!」
突然、頭上のシルフィードがニコリと笑って振り向いた。
同時に、扉が開いて真っ暗な空間が現れた。寄りかかるように立っていたシレーヌが、その中へ落ちて……彼女の手がヨシュアをも道連れに、奈落にも思える闇の底へと突き落としたのだった。
魔王城をも上回る複雑怪奇な祭終迷宮……その名は、ディープアビス。まさに、奈落の深淵へと続くかのように、地中とは思えぬ構造物が下へ下へと続く。
今はヨシュアも、コンビニの店員である前に冒険者の一人だった。
「よし、ここが目的のポイントだな。な、なあ、レギン。あれ、なんとかならないか?」
「や、自分は別に、なーんも。我関せずッス」
ヨシュアは地図上の空白地帯を前に、改めてレギンレイヴと背後を振り返る。
そこには、片眼鏡の奥に瞳を輝かせながら、紙片にメモを取るシレーヌの姿がある。紙は貴重品で、繰り返し使っているのかボロボロだ。赤いマントに赤い羽根付き帽子、彼女は目の前の真っ赤な球体に何度も頷いている。
シレーヌの前にふわふわ浮いているのは、先程ヨシュアが召喚したサラマンデルである。炎の中級魔法と同程度の力を持つため、あのあとも何度か戦闘で頼らせてもらった。
ヨシュア達の視線に気付いたシレーヌは、フフンと鼻を鳴らした。
「ああ、これ? これは鉛筆といって、木炭を中心とした素材で作った筆記用具よ。便利でしょう? 錬金術っていうのは、自然界にある物質同士の、その根源を重ねて紡ぐことで――」
「誰もそんなこと、聞いてねえよ。なあ、サラマンデルを帰してやってもいいか?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 勝手にあたしの探究心を奪わないで!」
「……勝手もなにも、お前なあ」
そう、サラマンデルはレギンレイヴの霊格を元にして、ヨシュアが召喚したものだ。この世に満ちる四大元素を司る、いわゆる四大精霊である。エルフの精霊使いなんかは、魔力を元に呼び出すが、ヨシュアにはそれはできない。代わりに、習得した召喚術とレヴィンレイヴのおかげで自由自在に助けてもらうことができた。
四大精霊くらいなら、体力の消耗はそうでもない。
レギンレイヴくらいの霊格ならば体力が尽きてしまうし、七十二柱の悪魔ことセーレのようなレベルになれば、生死を賭けて召喚に挑まねばならない。
シレーヌの質問攻めからサラマンデルを解放し、ヨシュアは元の世界へ帰してやった。
勿論、召喚の元となった霊格である、レギンレイヴの協力が必須だ。
「ああん、もぉ……でも凄いわ、大発見よ! 炎は燃焼するために酸素というものを使うのね。流石は火の精霊、詳しいわ。これでようやく、四大元素の実態がわかってきたっ」
「そりゃよかったな。さて、この奥にどう進むか」
改めてヨシュアは、目の前の扉に向き直る。
そう、扉……周囲の壁と同様に、真っ白な扉がある。
形からして、引き戸だ。
しかし、引こうにも手をかける場所がない。
この第一階層『白亜ノ方舟回廊』には、無数の部屋がある。そのどれもが、目の前に立つだけで勝手に開くのだ。いわば、自動ドアとでも言うべき不思議な代物である。
だが、開かないものも多い。
いわば開かずの扉だ。
「ふむ。まあ、予想してたんだけどな。この先に入れないから、地図の空白地帯になってる訳だしよ」
腕組みヨシュアは考え込む。
レギンレイヴは退屈してるのか、槍にだらしなくよりかかっている。本当に彼女は、いつものだるそうな、心底面倒臭そうな顔をしていた。
だが、ならばと歩み出たのはシレーヌだった。
「お、お得意の錬金術でなんとかしてくれんのか?」
「当然よ! 錬金術に不可能はないわ!」
そう言い放ち、彼女は腰から無数の試験管を引き抜いて、
「爆破しましょう!」
「おい待て!」
「下がって、ヨシュア。レギンも。この間作ったやつ、そう……ニトログリセリンと名付けたわ。この液体爆薬を試してみたいの!」
「他でやれ! ってか、なんだお前……さっきから爆薬しか見てねえぞ、俺ぁ」
ようやくヨシュアは理解した。
紅の錬金術師、それは彼女の得意分野を示していたのだ。
そのことを言われて、シレーヌは唇を尖らせふくれっ面になる。
「な、なによ、いいでしょ? 火薬の研究が一番好きなの! でも、それだけじゃないわ。硫黄やらなにやら掘ってたから、最近は土壌と地層、鉱物にも凝ってるの」
「意外に地味だな、錬金術」
「ああぁ!? なんつったコラ、ヨシュア! もういっぺん言ってみなさいよ!」
はいはい他所でやってねという顔で、レギンレイヴはそっぽを向いてしまった。
犬も食わぬなんとやらと思われたら、それは心外だ。
だが、扉を触って周囲を調べ始めたヨシュアは、背中で消え入りそうな声を聴く。
「だって……魔力がないんだもの、別の力が必要じゃない。勉強するしか、ないじゃない」
シレーヌの苦しみと痛み、それを超えた努力と研鑽をヨシュアは理解した。理解したなんて言ったら、失礼かもしれないが……自分と違う道を、同じ方向に走ったのだと感じた。何故なら、二人は同じ場所に最初は立っていたから。
誰もが無意識に使う魔法を、シレーヌもヨシュア同様に使えない体質だった。
「……そうだな、そうだよ。悪かった、お前は大したもんだよ」
「わっ、わかればいいのよ!」
「さて、と……なあ、シレーヌ。こういう時……普通の冒険者ならどうすると思う?」
「どう、って……決まってるじゃない。解錠の魔法があるわ。呪文も短いし、術式だって簡単なものよ」
魔法の呪文を唱えることによって、魔力を持った人間は太古の神々へと意識をつなげることができる。周囲には術式の文字列が光となって浮かび、それらが高速で処理されてゆくのだ。
だから普通の冒険者は、今のヨシュアのように地べたに這いつくばったりしない。謎の扉の全てを、直に触れて隅々まで調べたりはしない筈だ。
「だよなあ……つまり、魔力を持たない俺達だからこそ、気付けることがさ……あった。あったけど、さてどうすっかな」
ヨシュアは立ち上がると、改めて今度は上を見上げた。
扉の上、天井の辺りに……小さな光が灯っている。
床を調べていたヨシュアは、赤い光点を見つけて、それが上からだとわかったのだ。
「なあ、こいつがなにか関係してると思わないか? ほら、この上のやつだ」
腰に手を当て、ヨシュアは謎の光を見上げる。
シレーヌは勿論、興味なさそうだったレギンレイヴまで身を寄せて同じものを見上げた。左右から挟まれ、ほうほうふむふむという声が近い。
ひっつくなと言いたかったが、二人の真剣さは嬉しい。
「……なによ、もう。こういうの、別の扉の上にもあるけど?」
「自分思うんスけど、あれは単に扉を開けたり閉めたりしてるんじゃないスかね」
それはヨシュアも承知の上だ。
おそらく、この迷宮の扉は全て、頭上からの光によって開閉を判断しているのだ。恐らく、扉の前に人が立つと光が反応するのだ。では、この開かない扉は? 第一階層に点在する、開かずの扉の原理は他とは違うのか?
恐らく、そうではない……さして変わらぬものではとヨシュアは思う。
「普通の扉は、人がいるかいないかを判断している。そして、開かない扉は……それ以外にもう一つ判断条件があると見たね」
「なるほど……例えば、特定の人間じゃないと開かないとか、そういうのね?」
シレーヌの言葉にヨシュアは頷く。
問題は、どういった条件付がされているかだ。
だが、それを考えている時間が惜しい。
そして、ヨシュアにはもっと手っ取り早い方法があった。
彼はもう一度、難しそうな顔のレギンレイヴを手招きする。
「なんスか、また召喚するッスか」
「そゆこと。んじゃま……戦乙女レギンレイヴが主、ヨシュア・クライスターが命ずる。我が呼びかけに応えよ……来いっ! シルフィード!」
ふわりと旋風が巻いて、目の前に小さな女の子が現れた。背の羽根に風をはらませ羽撃く、風の妖精シルフィードだ。四大精霊の一角で、先程のサラマンデル同様に御しやすい。ただ、いたずら好きなのが玉に瑕である。
すぐにヨシュアは、シルフィードに考えを打ち明けた。
「あの天井の光が見えるだろう? お前の風で空気の層を作って、光の行き来を屈折、偏光できないかな? とりあえず、何パターンか試してみてくれ!」
ヨシュアは知っている。
そして、シレーヌもはっとしたあとで頷いた。
シルフィードが操る風は、空気の層を自在に操る。そして、ヨシュア達が吸って吐く空気は、その密度や高低差のようなもので、時には光さえも捻じ曲げるのだ。
恐らく、天井の光は普通に遮られたのでは駄目だ。
もっと、遮り方にコツが必要だとヨシュアは思ったのだ。
早速シルフィードは、天井へ舞い上がって両手を広げる。
「よしよし、いい感じだ……シルフィード、なにか光り方や音が変わったら教えてくれ」
「無理なら言ってよね? 爆破するから」
「だーかーら、お前なあ。こんなとこで派手に爆発させてみろ。どうなると思う?」
「……どうなるのよ。さっきの戦闘見たでしょ? 黒色火薬じゃ傷一つつかないわよ、この壁も扉も。だから、ニトログリセリン! これよ、これっ!」
レギンレイヴが眠そうな目で呟いたのは、そうして二人がお馴染みになりつつある問答を続けていた時だった。
「なんか……ヨシっち。シレぬんも」
「誰がシレぬんですって!? 却下よ、却下! その呼び方、却下! あたしが痴れ者みたいじゃないの!」
「や、それはいいんスけど……」
「よくないわっ! ……あら?」
不意に周囲から、耳障りな金属音が唸り声を連れてくる。これはそう、この迷宮で刻を忘れた守護者達の駆動音だ。それも、尋常な数ではない。
「ゲート842ノセンサーニ、不正ヲ感知! ハッキングノ可能性アリ! 全小隊集合!」
「侵入者ノ可能性アリ! 第七エレベーターヲ閉鎖セヨ! ……第七エレベーター、電源ヲ既ニ喪失……閉鎖完了! 閉鎖完了!」
モビルガードナーの群が押し寄せた。
しかも、通路の高さと幅をいっぱいに使う大型種もいる。ずんぐりとした人型の通常種と違って、大型モビルガードナーはまるで二足歩行の鳥走竜みたいだ。太古の昔にいたという、恐竜みたいなやつである。
「やべぇ! なんかすげえ数だぞ! レギン! シレーヌも!」
「……自分、帰ってもいいスか? もしくは、早退。もち、有給扱いで」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ、次々来る……急いで爆破しな、きゃっ!? ちょ、ちょっと――ちょい待ち、タンマ! ヨシュアッ!」
突然、頭上のシルフィードがニコリと笑って振り向いた。
同時に、扉が開いて真っ暗な空間が現れた。寄りかかるように立っていたシレーヌが、その中へ落ちて……彼女の手がヨシュアをも道連れに、奈落にも思える闇の底へと突き落としたのだった。
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