コンビニコンビの祭終迷宮《エクスダンジョン》

ながやん

文字の大きさ
21 / 23

第21話「逆転を呼ぶ羽撃き」

しおりを挟む
 ヨシュアの鼓膜こまくでる、りんとした声。
 世界のことわりそのものを自称する堕天使だてんしルシフェルに、はっきりと言葉を突きつける少女が歩み出る。
 リョウカは、愛用の魔剣を手に静かな怒りを告げていた。

「ヨシ君は、そんなことで喜ばないっ! 誰かの不幸、世界の混乱を喜ぶ子じゃない!」
「リョウカ、お前……」
「ルシフェル、あなたを倒して魔法がなくなるなら、それでもいい。人間は魔法を失っても、自分の力で生きていくもの。生き方を探して求め、なければ自ら創り出す! 魔法のない世界から来た、わたしだからわかるもん!」

 リョウカの意外な言葉に、巨大なサタンの中でルシフェルが表情を失った。
 そして、リョウカの力強い声に呼応する仲間達。

「そっ、そうよ! 魔法がなくなったなら、それを失った人達をあたしが錬金術れんきんじゅつで助ける! それにね、魔力がない不便さなんてあたしにはれっこだもの!」
「……お兄ちゃんが今、魔力を持たず、魔力に頼らずに戦ってる。お兄ちゃんにできて、妹のアタシにできないはずない!」
「魔法文明が崩壊し、世界が混乱におちいるなら……オレがこの剣で明日を切り開き、我が身を盾にして人々を守る。オレはそういう生き方を、リョウカから学んだから」

 シレーヌが、ディアナが、そしてシオンが叫んだ。
 その一言一言、一字一句がルシフェルをひるませる。
 異邦人のセーレやレギンレイヴでさえ、大きくうなずき闘志を燃やしていた。
 まだ誰も、心を折られていない。
 そして勿論もちろん、ヨシュアもだ。
 わずかに狼狽ろうばいするルシフェルが、震える声を絞り出した。

「なっ、何故なぜだ……どうして。君もそうなのか? 同じ意見なのか、ヨシュア」
「……ああ」
「わからない! 理解できないよ! 君は魔力を持たず生まれ、そのことで辛酸しんさんめてきた筈だ! この不公平、そして不条理! しゅたる神が人間を愛していない証拠だ! 君は」
「もういい、いいんだ……黙れよ、ルシフェル」

 静かにセーレの黒馬から降りると、ヨシュアはその場で真っ直ぐルシフェルを見据える。
 少し距離があったが、冷たく凍る空気は確かに言葉を伝えた。

「ルシフェル、俺を笑った奴が、こんどは俺と同じ魔力を持たぬ人間になる。世界は魔法を失う。それで俺が、なにを喜ぶ? ざまぁみろと言ったところで、それを誇れるかよ」
「少なくとも、主の生み出した不平等の一つを駆逐できる! 君を救える!」
「等しく魔力を持たぬ人間の社会は、また新たな力で文明を再建させるさ。その時、なにかが人間を上下にへだて、大小や高い低いで一喜一憂いっきいちゆうさせる」

 そういう意味では、神は平等だ。
 教会が主とあがめる唯一神は、全知全能ゆえに『誰もを等しく救わず助けない』という、逆説的な方法で見守っているのだ。一切の接触を絶ち、必要とあらば勇者や救世主を送り込む。
 神の意思は常に、人にたくされていた。
 それと同時に、人は人だけのエゴと欲を持つ。
 向上心や探究心、好奇心が世界を広げて豊かにするのだ。

「ルシフェル、不平等で不条理なのは神様じゃない……俺達人間一人一人さ。でも、俺達は神様じゃないから、それがわかった上で他者と接してゆける」
「だが、人の社会は生まれながらの敗者を生むぞ! 君がそうだ、ヨシュア!」
「人を勝手に負け犬にすんなって……安心しろよ、ルシフェル。神の愛は証明できないが、お前がそうやってジタバタしなくてもいい、するだけ無駄だと教えてやることはできる!」

 愛馬を消して地に降り立ったセーレの、伸べられた手を握る。
 再び、異界より強き者を召喚しなければいけない。
 だが、呼び出せてもセーレと同じ霊格マハトマ、それ以上は命に関わる。
 それでも、召喚中の霊格と同等の存在を、体力と精神力をにえに呼び出す理論は完璧だ。それは、魔法社会で魔力を持たぬヨシュアが、自分でつかんだ自分だけの力だから。

「決着をつけるっ! ルシフェル!」
「っ、どうして……」
「俺達が人間で、神の愛より欲しいもんがあるからだ! みんなが全員、沢山!」

 再びサタンの中へとルシフェルが消える。
 そして、恐るべき巨大な魔王が震え出した。背の十二翼じゅうによくを広げて浮かべば、周囲に無数の光が文字をきざむ。その輝き同士が結び合って、複雑怪奇な図式が現れた。
 それは、空中に描かれた巨大な魔法陣。
 もともと備わった能力で、呼吸をするように炎を操り、水を氷に変える神々……その中でも最強のルシフェルが、あたかも人間が魔法を使うように魔法陣を広げた。
 なにか強力な攻撃をしかけてくる、それは明らかだ。
 だが、セーレの手を引きヨシュアは走り出す。
 勝利を信じて、明日を求めてはしる。
 すぐにシオンが、気迫を叫んで横を追い越していった。

「みんな、あと一息だっ! ならば、命をける意味がある! その意義を見出せる!」

 怪我人けがにんとは思えぬそのスピードは、真っ赤な足跡を残して跳躍ちょうやくする。
 彼女が振り抜く巨大な剣が、鋭い刃でサタンの片足にめり込む。だが、そこで止まって、それ以上は切り込めない。勇者リョウカと共に戦ってきたシオンの業物わざものでも、切れ味が装甲の硬さに負けている。
 それでも、彼女は動かなくなった大剣を軸に一回転、そのままさらに上へと飛ぶ。
 手には、あの日ブレイブマートで買ったナイフが握られていた。

「もう一発っ!」

 あやしく光る魔法陣の照り返しを受けながら、シオンがナイフを突き立てる。
 やはり、致命傷にはならない。
 それがわかるのか、サタンに傲慢ごうまん不遜ふそんな笑みが浮かんだ。
 だが、それを見上げて落下するシオンもまた、不敵な笑みを浮かべる。

「……あとは任せた、リョウカ! オレの勇者、オレと共にある者……オレの先をく者、勇者リョウカ!」

 駆け寄るシレーヌとレギンレイヴに抱きとめられて、そのままシオンは倒れ込んだ。
 だが、彼女の攻撃が無駄ではなかったと、すでにヨシュアにはわかってる。
 迷わず疾駆しっくするリョウカの、その剣が光を帯びて光そのものになるのが、見える。
 リョウカは、今や光の刃となって膨れ上がる剣を手に、飛翔……そして、まずはシオンの大剣を足場に身を屈めた。そう、シオンの巨大過ぎる剣は、女の子一人が瞬発力を凝縮するには、丁度いい足場だった。
 そこからさらに、リョウカは頭上のナイフまで飛んで、それも踏み台にする。
 高い高い天井へと舞い上がった彼女は、大上段に魔剣を振り上げた。

「みんなの想いを、この一撃に! わたしのこれまでを、今こそ力にっ!」

 リョウカを見上げるサタンの顔が、恐怖に引きつっていた。
 サタン自身の憤怒ふんぬを含め、七つの悪徳を罪として象徴する、さびしい堕天使のよろいが震えていた。
 そして、向唐竹割こうからたけわりでリョウカは頭のてっぺんからサタンを縦に両断する。
 その時にはもう、ヨシュアは連れて走るセーレの力を自分に呼び込んでいた。

「セーレッ! お前と同じか、それより力関係の弱そうな魔神を教えろ! お前と一緒にもう一人、七十二柱の魔神が必要だ!」
「おっけぇ、ヨシ君! えっとぉ、まずはバエルには飲み会の貸しがあるしぃ、バルバトスは今の奥さんにこくる時協力したし、ああ、それと! あいつ! 私の着替えのぞいたから、その罰に――」

 欲した名を聞いて、すぐに理解する。
 その間もずっと、ヨシュアと共に走るセーレは七十二柱の名前を並べ続けた。
 序列とは別に、魔神は大半がセーレになにかしらの弱みを握られ、借りを作ってるようだ。
 よろけて左右にめくれ上がりながらも、サタンは最後の力を解放しようとする。
 着地したリョウカは、すぐに駆け寄りヨシュアのもう片方の手を握った。

「ヨシ君っ、今だよ!」
「おうっ! 魔神セーレがあるじ、ヨシュア・クライスターが命ずる。我が呼びかけに応えよ……羽撃はばたけっ! フェニックス!」

 セーレの霊格が、同等の力を励起れいきさせる。
 二人の手を握るヨシュアの前に、灼熱の炎が花咲はなさいた。それはすぐに鳥の姿をかたどり、突っ込むヨシュアを包む。手と手を結んだセーレとリョウカが、二人が真紅の翼になる。
 七十二柱の魔神、フェニックス……その姿は、不死鳥ふしちょう
 そのままヨシュアは、フェニックスそのものとなってサタンに飛び込んだ。

「終わりだっ、サタン! 終わらせろよ、こんなこと……ルシフェルッ!」
「にっ、人間が、こんな……ヨシュア! どうして! 君ならわかる、わかってくれると、僕は!」
愚痴ぐちなら聞くし、茶でも飲みながら話せるだろうが! 神様に構われたくて、勝手にこの世の中を終わらせようと、すんじゃあ! ねええええええっ!」

 だが、サタンからも魔法陣を介して巨大な光球フォトンが撃ち出される。
 白く燃える小さな太陽へと、そのままヨシュアは突っ込んだ。
 ――かに思えたが、その時セーレが手を離す。

「少しは自分で働かないとねぇ……ルシフェル、君も一緒にくればよかったんだよん? ソロモン王や私と一緒にさ、次の世界に。そういう訳で、ちょいやさっ!」

 セーレは、手にした大鎌デスサイズで……サタンの放った光球を切断した。横薙よこなぎに切り払えば、加速するヨシュアとリョウカの上下を強力な熱量が通り過ぎる。
 空中で大爆発するその風圧を背に受け、比翼ひよくの不死鳥はなおぶ。
 そして、最後にリョウカが強く手を握ってきた。

「ヨシ君っ、届けて……ルシフェルに! あとは、男の子同士で、拳でっ、語って! 頑張れっ、男の子っ!」

 リョウカはそのまま、ヨシュアをブン投げた。
 失速してゆく不死鳥の中から、流星のようにヨシュアは飛び出す。
 その先には、先程のリョウカの一刀両断であらわになった、ルシフェルの姿があった。

「おおおっ、ルシフェルッ! ぁ、しばれぇ!」

 繰り出したこぶしが、ルシフェルの手に掴まれる。
 だが、その時……その瞬間、
 初めて人を殴ろうと思った拳が、届かないまでも相手を動かしたのだ。

「そんな拳で、拳一つで僕が止まるものか! ……な、なんだ? これは」
「忘れたか、ルシフェル……俺は、俺の召喚術は、召喚した霊格に触れることで、同格の存在を召喚できる。忘れるなよ、おい……お前を召喚したのはっ、この、俺だっ!」

 かつて天界最強の天使長として君臨し、神に背を向け堕天使となった。そうしてまで戦い、神の愛を執拗しつように求めたルシフェル。彼の霊格と同等の存在は、ヨシュアが知る限り一人しかいない。
 ヨシュアとルシフェルを中心に、光が広がった。
 音を立ててサタンが崩れ始める、その中から……神話にさえ忘却されし創造王そうぞうおうが姿を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...