7 / 7
魔剣三代目の章
魔剣は新たな主人の手に渡る
しおりを挟む──とある鍛冶師が打った剣は、若い騎士の手に渡り。
その手に揮われる魔剣は見ていた。
オーク達半獣人による奇襲によって討伐隊の騎士達が成す術もなく撤退を余儀なくされるその姿を。
【ブゴォォオッ!】
「ッ! ぐ、ハァァッ!!」
想定外の規模に加えてオーガを従えている事実を王都に伝える為、たった一人で殿となる若き騎士。
魔剣は聞いていた。
味方を思う余り、自らの退路が失われて行く状況の中で吼える主の声。そして重い棍棒が剣と打ち合わせる音を。
如何に優秀な騎士といえど多勢に無勢。更に、そこへ加わる異質な敵。
────ガギィンッ!!
「──ッ、ァが!?」
(なんだ? この乱戦の中で時折、正確に死角を狙って来る敵がいる……それに!)
明らかな異物。
オーガではない、しかし騎士でさえ知覚出来ぬ速度で死角を狙える個体がオークに居るとも考え難い。
味方の殆どが離脱した事でより濃密になる集団の暴力。若き騎士の膂力と銀の剣を恐れたオークとオーガは揃って投石を繰り返す様になる。
打ち鳴らされる鎧への衝撃音。騎士クリフォードの剣捌きも限界を迎える時が近づいていた。
【ブゴォォオッ!! ブゴォォオッ!!】
【ゴァアアアッ!!】
魔剣は初めて死と戦場の雄叫びを感じ取る。
自らを手にした主が、その生命の花弁を散らそうとしているのが確かに伝わっていた。
「~~~ッッ────!!!」
やがて生存を諦めた騎士は、一体でも多くの魔物を討とうと我武者羅に剣を振り始める。
獣染みた動き。だが、獣へと堕ちたが故に彼の動きは同じ獣達に読まれてしまう。
最初こそ千切り飛ばせていた首が落とせなくなり、刃が棍棒と打ち合う数が増して、鎧を拳大の礫に打たれる音が鳴り響く。
死の足音を、魔剣は認識する。
或いは、それは恐怖から迫り来る震えだったのかもしれない。
【ブゴーッ!!】
「ぐぁああァッ……!?」
だが、その恐怖が若き騎士の心を折ることは無かった。
戦いの最中に訪れる死は突然である。不意を衝いて投擲された斧が騎士の胸を割ったのだ。
零れ落ちる赤い雫。自らが放り投げた斧が敵を貫いたと知ったオークは、誰よりも先に駆けつけて若き騎士の手から魔剣を奪い取った。
そして。
【ブゴォオオ──ッ!!】
勝鬨の雄叫びが戦場に一幕の終わりを告げる。
魔剣を奪ったオークは歓喜に喉を震わせ、仲間に見せびらかす様にその輝きを掲げる。だが他の個体はまるで意に介さず、群がる様に息絶えた騎士の亡骸へ我先にと飛び込んで行った。
魔剣は、半獣人達に囲まれて見えなくなっていく騎士から『次の主』へと意識を移す。
並みの人間より頭二つ体躯が大きく、毛並みは亜麻色。比較的全身の筋肉は他の個体に比べ肥大化していない代わりに、まるで手甲と脚甲でも着けたかのように腕部と脚部が膨れ上がっている。
些か握りが細いであろう魔剣はオークの手に馴染まないだろう。にも拘わらずその個体は魔剣を酷く気に入った様子で見つめていた。
やがてオークとオーガ達は一悶着の末に騎士の亡骸を自らの手柄の様に抱えると、こぞって森へと戻って行った。
見れば、森の入口には二体の白毛のオークとオーガが並んでいた。
数百年に一度生まれる特異個体。オーガの王とオークの女王が人知れず番となっていたのである。
両者は自らの同胞が人間の戦士に勝った事に満足し、手柄を立てた者達を褒め称える様に咆哮した。
【ブゴッ♪ ブゴッ♪】
一匹のオークはそんな仲間達を遠巻きに眺めながら、自身は夢中になって魔剣を振っている。
それは偶然だった。
そのオークは剣の装飾や刃から感じる魔剣の微弱な魔力に、直感的に気づいたのだ。
不思議で綺麗な剣だ──持って行こう。
そんな事を思いながらオークは仲間を追いかけて行く。
……一本の魔剣を携えて。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる