女鍛冶師「魔剣の製造依頼?」

ちくわブレード

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魔剣三代目の章

魔剣は新たな主人の手に渡る

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 ──とある鍛冶師が打った剣は、若い騎士の手に渡り。
 その手に揮われる魔剣は見ていた。
 オーク達半獣人による奇襲によって討伐隊の騎士達が成す術もなく撤退を余儀なくされるその姿を。

【ブゴォォオッ!】

「ッ! ぐ、ハァァッ!!」

 想定外の規模に加えてオーガを従えている事実を王都に伝える為、たった一人で殿となる若き騎士。
 魔剣は聞いていた。
 味方を思う余り、自らの退路が失われて行く状況の中で吼える主の声。そして重い棍棒が剣と打ち合わせる音を。
 如何に優秀な騎士といえど多勢に無勢。更に、そこへ加わる異質な敵。

 ────ガギィンッ!!

「──ッ、ァが!?」
(なんだ? この乱戦の中で時折、正確に死角を狙って来る敵がいる……それに!)

 明らかな異物。
 オーガではない、しかし騎士でさえ知覚出来ぬ速度で死角を狙える個体がオークに居るとも考え難い。
 味方の殆どが離脱した事でより濃密になる集団の暴力。若き騎士の膂力と銀の剣を恐れたオークとオーガは揃って投石を繰り返す様になる。
 打ち鳴らされる鎧への衝撃音。騎士クリフォードの剣捌きも限界を迎える時が近づいていた。

【ブゴォォオッ!! ブゴォォオッ!!】

【ゴァアアアッ!!】

 魔剣は初めて死と戦場の雄叫びを感じ取る。
 自らを手にした主が、その生命の花弁を散らそうとしているのが確かに伝わっていた。

「~~~ッッ────!!!」

 やがて生存を諦めた騎士は、一体でも多くの魔物を討とうと我武者羅に剣を振り始める。
 獣染みた動き。だが、獣へと堕ちたが故に彼の動きは同じ獣達に読まれてしまう。
 最初こそ千切り飛ばせていた首が落とせなくなり、刃が棍棒と打ち合う数が増して、鎧を拳大の礫に打たれる音が鳴り響く。
 死の足音を、魔剣は認識する。
 或いは、それは恐怖から迫り来る震えだったのかもしれない。

【ブゴーッ!!】

「ぐぁああァッ……!?」

 だが、その恐怖が若き騎士の心を折ることは無かった。
 戦いの最中に訪れる死は突然である。不意を衝いて投擲された斧が騎士の胸を割ったのだ。
 零れ落ちる赤い雫。自らが放り投げた斧が敵を貫いたと知ったオークは、誰よりも先に駆けつけて若き騎士の手から魔剣を奪い取った。
 そして。

【ブゴォオオ──ッ!!】

 勝鬨の雄叫びが戦場に一幕の終わりを告げる。
 魔剣を奪ったオークは歓喜に喉を震わせ、仲間に見せびらかす様にその輝きを掲げる。だが他の個体はまるで意に介さず、群がる様に息絶えた騎士の亡骸へ我先にと飛び込んで行った。
 魔剣は、半獣人達に囲まれて見えなくなっていく騎士から『次の主』へと意識を移す。
 並みの人間より頭二つ体躯が大きく、毛並みは亜麻色。比較的全身の筋肉は他の個体に比べ肥大化していない代わりに、まるで手甲と脚甲でも着けたかのように腕部と脚部が膨れ上がっている。
 些か握りが細いであろう魔剣はオークの手に馴染まないだろう。にも拘わらずその個体は魔剣を酷く気に入った様子で見つめていた。

 やがてオークとオーガ達は一悶着の末に騎士の亡骸を自らの手柄の様に抱えると、こぞって森へと戻って行った。
 見れば、森の入口には二体の白毛のオークとオーガが並んでいた。
 数百年に一度生まれる特異個体。オーガの王とオークの女王が人知れずつがいとなっていたのである。
 両者は自らの同胞が人間の戦士に勝った事に満足し、手柄を立てた者達を褒め称える様に咆哮した。

【ブゴッ♪ ブゴッ♪】

 一匹のオークはそんな仲間達を遠巻きに眺めながら、自身は夢中になって魔剣を振っている。
 それは偶然だった。
 そのオークは剣の装飾や刃から感じる魔剣の微弱な魔力に、直感的に気づいたのだ。

 不思議で綺麗な剣だ──持って行こう。
 そんな事を思いながらオークは仲間を追いかけて行く。




 ……一本の魔剣を携えて。





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