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大通り
しおりを挟む「ネル義兄さんと鉢合わせました」「どうだった?」
「死んだ姉ととてもよく似てました」
「ノーヒントだったら、血の繋がった兄妹に見えるだろうな」
ネルさん妹っすか。
コスタスさんは肉を優雅に切り分け、慣れた様子で口に運ぶ。カイゼル髭をまったく濡らさずにだ。毛皮を傷つけぬよう、アンドレアス・ヒヒに毒針を突き立てる方がまだ楽ではないかと思う。
所作を真似て肉を食った。あまりの美味さに驚愕する。この上品な味を言葉で表現するには、オレが今まで口に入れてきた肉はワイルド過ぎた。強いて言えば牛系の魔物に似てる。とすると高級牛肉ってヤツなのか? 確証はない。桁違いに柔らかいからだ。形を保っているのが不思議なくらい柔らけえ。
「やはりネルは、来ないか……」
空席に目をやって、コスタスさんは項垂れる。「部屋に食事を持っていってくれまいか?」と、後ろで控える青年に頼んだ。直後、空になった皿が下げられ、代わりに野菜スープが来た。具材が多くて白目を剥きかける。しかも、出汁の味が染み込むまでよく煮込まれていた。
ゴロツキ時代と比べて、食のクォリティに天地の差がある。オレの胃、幸せメーターが振り切ったせいで爆発しなければいいのだけど。
「そう言えば明日、ミナスの街を散策するんだったな?」
「はいっす」
「なら相応の小遣いがいるだろう。食後、彼に金貨三枚持たせてやってくれ」
「え」「かしこまりました」
「き、きんか」「ん? 不服かな? 足りないかね?」
「金貨、三枚…………?」
金貨なぞ人生で、数えるほどしか見たことねえ。それが三枚。つまり銅貨三百枚分。分不相応な大金だった。キャパシティオーバーだ。
思考が、星空の向こう側へとぶっ飛ぶ。
気づけば自室に戻っていた。
「キンカサンマイ」
考えるのめんどくせえ。秒で寝た。
朝になったので、朝ごはんを食したのち、街に繰り出す。ホントにもらえた金貨三枚。おまけでついてきた財布に仕舞い(後にこの財布だけで金貨七枚の価値があることを知る)、いつもの癖で、スラれぬよう袖に入れる。
大通りに出た。辺りを探る。姉と住んでたあの街には腐るほどいたスリが、ここミナスでは全然見かけねえ。目に入る人間は、皆が皆裕福そうだ。肉で緩んだ頬、突如襲われても何も出来なさそうな、だらしない歩き方。
スリや通り魔の危険はほとんどないようだ。あまり警戒しなくていい。開放感で溢れる。足取りは自然と軽く、かつ大らかになった。
観光を楽しもう。ヨルナさんと魔車で通った出入り口付近には、インフォメーションセンターなるものがあったはず。そこで地図をもらった。ざっくりと眺めてみる。
ミナスは綺麗な正六角形で、めちゃくちゃ広い。反対側の二辺は森に面しているそうだ。金になる魔物もたくさんいるだろうが、気軽に乗り越えられるほど、ミナスの城壁は低くない。別に金にも困らなさそうだし、一先ずスルー。
中央に噴水広場があり、そこまでの道中に家具屋と魔法具屋がある。本日の散歩ルートに当たりをつけ、賑やかでカラフルな大通りをゆっくりと進む。
昨日も感じたが、路上演劇が多い。さすが「演技の聖地」と言える。オレと同年代の少年少女だけで構成された劇団があり、足を止めて近づいた。客は他と比べて少ない。
演目は、狩人が主人公のショートストーリー。凄腕のハンターが、村の家畜を襲う悪いワイバーンを退治するよう依頼を受ける。仲間とともにワイバーンを殺すも、彼らは依頼を出した村人たちによる森林伐採のせいで住処を追われたことが判明。ハンターが夜な夜な木を切りに来る村人たちを懲らしめ、話は終わる。夜の森はとても危険で、木を切り運び出すなど正気の沙汰じゃない。そもそもワイバーンの群れは、たかが村人に住処を追われるほど弱くない。
話のリアリティは置いておこう。全員、自分の役を演じるので精一杯そうで、役者同士の間合い掛け合い空気の読み合いが無茶苦茶だと感じた。それでも、一生懸命やってるのは伝わってくる。
彼らは演劇が、大好きなんだ。エールの気持ちを込めて拍手する。オレも頑張らないと。
片付けを手伝ってやる。主人公を演じていた少年に声をかけられた。
「ありがとうございます、お兄さん」「こう見えても一週間後に十四だぜ」
「あれ? じゃあ僕とタメじゃん」「オレはラキってんだ」
「僕はジャック・ホロー。よろしく」
握手を交わす。ジャック以外とも話してみたかったが、残念ながら遠巻きにされちまった。特に女子からは。怖がられてるのかもしれねえ。
ワイバーンセットの解体に取り掛かる。革は本物を使っていた。ただし幼体だが。骨組みを見て唸る。色々と言いたいことはあるが、一番ダメなのは骨盤の辺りだ。
メガネをかけた美少年が近づいてきて、オレに問う。
「何か問題がありますか?」「足がおかしい」「そうなんですか?」
「トカゲやワニは横向きに付いてるけど、竜種は縦だ。じゃなきゃ、後ろ足だけでは歩けねえ」「なるほど。それは確かに。アドバイスありがとうございます」
こいつが設計者なのだろうか。お堅い口調だ。
撤収作業が終わり、彼らと別れる。同じ街に住んでいて、同じモノを志しているのだ、すぐに再会出来るような予感がする。
さあ、噴水広場に行こう。家具屋と魔法具屋を物色するのは帰りでいい。買ったら荷物になる。
また足を止めてしまった。興味を引く店がある。
「杖屋」
周りと比べて小ぢんまりとしていて、しかしシックでアンティークな、かっこいい雰囲気を醸し出していた。
魔法の杖。魔力・魔法をコントロールしやすくなるらしい。オレは使ったことないから、実態は知らない。本当に役に立つのか、しやすくなってる気がしているだけじゃないのかと疑ったもんだ。
にもかかわらず、入らなければ、という強い思いに囚われた。店内に引き寄せられ、真っ直ぐ中古品ワゴンに向かう。ごちゃごちゃした杖の群れから、迷いなく一本手に取る。
夏の落雷を象った、古びた焦茶色の杖。
こいつに呼ばれた。
銀貨五枚で購入し、そのまま噴水広場へ赴く。巨大な円形噴水正面の、長いベンチに腰掛けた。買った杖に話しかける。
「なんだテメエ」
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