魔法俳優

オッコー勝森

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俳優塾

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 三月末日。ネル義兄さんがミナス俳優学校の寮に引っ越しちまった。コスタスさんと二人で寂しがる。クリーチャー騒ぎでハントがオジャンになったのを挽回すべく、ボードゲームしたり街を一緒に散歩したり、あと、ホウキ飛行とフリスビーを組み合わせたゲーム「ピンノッカー」(フリスビーかホウキを使って敵陣のピンを倒し、かつ自陣のピンを守って遊ぶ)をしたりして遊んだ。
 絆が深まってきたところでの別れ。悲しくもなる。
 時空間異常現象が起きてこの家と寮が繋がったりしねえかな。

「ああ。こんな時は、酒が飲めない体質に文句を言いたくなるな」
「奇遇っすねえ。オレも飲めないんすよ」
「ラキはこの前十四になったばかりだろ。そもそも選択肢に入れるな」
「都会人って、悲しみを紛らわす時なにするんすか?」
「そりゃお前……筋トレだろ」「やっぱりそこは人類共通なんすね……」
「解放するか……ありのままの人間が持つ。唯一の資本を」
「生まれた時からずっと一緒の相棒……閉じ込めてちゃ可哀想っす」
「ぬおんっ」「んあっ」
「お館様、ラキ様。ヨルナ・シャウィーノ様がお待ちです」

 気の利くボーイがそう声をかけてくる。危ない。一瞬遅れていたら、パンプアップした筋肉が服を弾き飛ばしていたぜ。さらに十秒遅れていたら、オレとコスタスさんの筋脈パルスが共鳴して空間が割れていたかもしれねえ。
 二人で玄関まで赴く。青髪の美女がいた。つまりヨルナさんだ。

「待たせましたか?」「いいえそれほど」「どういったご用件で」
「ラキくんに、塾を紹介しようかと思いまして」

 そろそろ来る頃だと思っていた。ヨルナさんに一人でついていく。
 大通りを直進し、噴水広場を過ぎてすぐの場所に塾はある。歩いて四十分、悪くない。オレとしては。
 かつて戦場を駆け抜けた兵士として、なりふり構わなければ二分未満で到着する自信はあれど、明らかに迷惑行為だ。
 自動ドアを潜ると、狭い通路に出迎えられる。観葉植物の植木鉢付近には、小さく無邪気そうな妖精たちが飛び回っていた。
 少し進んだ先にある受付は、それなりに広い。やってきた客になんとなくの安心感を与える設計。窓口奥の部屋に連れて行かれ、塾長のおっさんに軽く挨拶した。彼がヨルナさんの言いなりなのは理解出来た。
 五分後には案内が始まる。

「二階と三階は演技指導のスペース。この塾の核と言っていい場所です。衣装などの小道具は揃ってますし、メイクルームもありますが、普段は使わないでしょう」「はい」
「四階はダンス練習のスペース。バレエやディスコなど、すべてここで出来ます。五階は歌唱練習のスペース。基本はコーラスに使われてますかね。どちらも、必ずしも俳優に求められる技能ではないですけれど、ラキくんには出来るようになってもらいます」「はい……え?」
「六階は座学スペース。みんなここで勉強します。あと、今日は鍵がかかってるので案内出来ませんが、地下に魔法やスポーツの演習ルームがあります。これらはラキくんなら問題ないでしょ。はい。では、今からラキくんには、基礎知識の確認テストをやってもらいます」
「展開が急過ぎません?」「君の時間にそう余裕はありませんよ」

 グウの音も出ない。一次試験まで十ヶ月を切っている。オレには、俳優になるため積み立ててきたものなど何もないのだ。
 テストは、とりあえず頑張った。

「やっぱり、意外とよく出来るね。特に計算問題」「あざっす」
「課題は読解力かなぁ。これは仕方ないですね。おいおい伸ばしましょう」
「うす」
「では、最後に、君を担当する教師を紹介して、今日は解散としようか。気が合いそうな人を用意しました。彼にはもう一人生徒がいるから、君だけ見てくれるというわけではないけれど。ごめんね」
「いえ、もう十分過ぎるくらいですが」

 ヨルナさんには優しくしてもらっている。オレにそっくりな生き別れの弟でもいたのかと思うほどに。将来代価を請求されそうで怖い。
 彼女は通信精霊を取り出し、呼びかける。

「サージェント先生、来てください」『おう』

 程なくして、部屋に老戦士風の男が入ってくる。短く刈り上げられた髪、整えられた長い髭は真っ白。老齢にも関わらず、体は筋肉ゴリゴリで、めちゃくちゃ強そうだ。しかも、オレより頭一つ分でかい。
 歴戦のつわもの。即戦争に連れて行かれても不思議じゃない。

「フハハ。ヨルナちゃんよ。どこでこんな活きの良さそうなガキを捕まえた?」
「ゴミ溜めみたいな街で燻っていたのを拾いました」

 間違ってないけど。間違ってないけど。

「あんまり危ねえとこ行っちゃダメだぜヨルナちゃん。小僧。俺はフリューゲル・サージェント。軍人から俳優に転向した。もう引退したがな。今はここで講師をやっておる。シルバーワーク制度を使っての」
「オレはラキ。元傭兵っす。あんたはまだゴールドでも通りそうだが」
「フハハハハッ! ワシもそう思っておったところよ。優しくはせんぞ?」
「乙女じゃあるまいし」

 握手する。筋肉の波動を通じて、相手の思いが伝わってくる。まだ様子見の段階だが、期待してくれていると感じた。
 これから、新しい生活が始まる。
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