魔法俳優

オッコー勝森

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誤差率

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術式筺体コンピュータは、とりあえず五つ持ってきましたので。グループを五つ作ってください。使い方は後で伝えます」

 そう言って、ジャクソン先生は持ってきたパイプ椅子に座った。難しそうな本を開く。
 気後れしつつも、動き出す生徒がちらほら出始めた。

「一グループに付き五、六人ってところか」
「ラキ、フレアさん。組もうぜ」「ああ」「問題ないわ」
「あ、グループ組みに問題ありそうなのを一人連れてくる」

 植木鉢の横で灰色になってるメルの手を引く。授業が終わるまで、隅でじっとしているつもりだったのかもしれない。徐々に生気が戻ってくる。
 フレアの目つきが鋭くなった。

「誰よその女は。捨ててきて」
「犬猫じゃねーんだから。オレの友達なんだ。引っ込み思案で、自分から人に声かけにくいタイプ」「それは、かわいそうだな。入れてやろうよフレア」
「仕方ないわね」
「あ、わ、わ、わたし、メリュ・マニョと言っっ」

 噛んでる。「メル・マノな」と訂正を入れておいた。
 周りを見渡す。オレたちのグループ込みですでに五つの塊が出来上がっていたが、あぶれている者もちらほらと見受けられる。あと一人か二人は引き受けられると意思表示したところ、二人の少女が来た。
 よく似ている。

「双子?」「そー。あたしキャシー」「あたしマリー」
「決まったようですね。では、術式筺体を配ります」

 角の丸い、金属製の箱が渡される。副団長の物とは機種が異なるものの、起動や操作の方法は予測出来た。が、先走らず、おとなしく説明を待つ。貴族はともかく、庶民には手が出ないほど高いんだ。貴族にもあまり普及してないはず。現にベスティン家にはない。
 すぐ近くにあるだけで緊張するぜ。

「まずは、右後ろのボタンを押してください」

 言われた通りにする。のっぺりとした面の上に、ホログラムが浮かび上がった。右下と左下に赤い枠、その奥に文字盤、さらにその上にエディターが開かれている。赤枠に手を入れると、ホログラムが操作出来るようになる。入れなければ出来ない。赤枠は増やせる。消し、周りにいる皆が誰でも術式筺体を使えるようにする設定も可能。
 今回は消す。

「次に、analyzeとQを同時押ししてください。ファイルフォルダオープンのショートカットキーです。”Paint_Studio.txt”という名前のファイルを選び、エディターにドラッグしてください」
「え、なに? 今の」「呪文?」

 キャシーとマリーの双子が、仲良く首を傾げた。周りを見ても、意味が分かったのはごく一部だけだった。オレも、副団長から指南を受けてなきゃ、さっぱりだったに違いねえ。少し大きめの声で、先公の言葉を噛み砕く。双子向けの説明を装って。

「文字盤左に”analyze”と書かれたキーがあるだろ? それとQを一緒に押すと、たくさんのデータが並ぶ、術式筺体上の収納箱が現れる。その中から、”Paint_Studio”と銘打たれたモノを指で――」
「すると、プログラムが実行されて、ホログラム関数データが生成されます。エディターに”show Paint_Studio.hlf”と入力してください」

 遮られた。この授業、「術式筺体の基本的な操作は出来る」ことが参加の条件だったりするのか? 不親切だな。あの厳しい副団長ですら、そこから丁寧に教えてくれたぞ。千里の道を、いきなり大ジャンプは出来ない。
 言われた通りにする。筺体正面についていた謎のランプから、横長な緑の光が発された。上から下まで、オレの体をスーッと降りていく。後ろ側にもランプがついていたようだ。青白い光とともに、簡素な服を着たオレのホログラムが映し出される。
 Paint_Studioのテキストデータが筺体の上に表示された。絵描きの青年が、完成させた裸婦画を眺め、上手く描けた胸辺りの曲線にほくそ笑むも、局部の陰影に納得が行かず作品を蹴り飛ばすシーン。
 情緒不安定だね。インパクトはあるけど、一回目の授業でやる内容だろうか。
 オレのホログラムが、描写に合わせてぬるぬる動く。機微の一つ一つから、何をやっているのか、何を思っているのかは理解可能。動作は完璧だ。しかし、言語化しにくいモノが欠落している。心に伝わってこない。
 虚実の狭間の、空色の世界に入れない。

「…………」「お手本は見ましたね?」

 元の位置に戻り、それきり突っ立って固まったホログラムを睨みつけていると、背後から声をかけられた。振り返る。

「術式筺体の前で、ホログラムの動きからなるべくズレぬよう、絵描きの演技・・を行ってください」

 誰もがオレに注目していた、らしい。後でシャビオに聞いた。しかしこの時、頭の中は、お手本からズレないように動くことが、果たして演技と言えるのかという疑問でいっぱいだった。少なくとも、サージェント先生の教えとは全く異なる考え方だと思う。理想の演技との誤差測るという発想は、とても機械的で、寒気すら覚える。
 でも、まだまだ初心者、素人であるオレに、「演技とは何か」という深遠な問いに対する答えなどあるはずもねえ。とりあえずは流れに従う。
 裸婦像を描いた青年の、自己満足と失望を想像し、自ら表現しろと言われても、すぐには無理だ。目の前に完成したばかりの絵画があると仮定するのも難しい。本格的な絵なんて描いたことないし。とはいえ、メル・マノを演技する練習の成果か、探求の時間をもらえればある程度出来る自信はある。画家が主人公の作品をチェックしておかねばなるまい。
 が、ホログラムの動きをなぞるだけなら簡単だ。傭兵時代に訓練として、もっと難しい動きを何度もやった。影に合わせてだ。立体な分、平面の影より直感的なのだ。表情まで追うのは自信ないけど、手本を見た記憶を頼りになるべく努力する。
 眺める姿勢、欺瞞の微笑み、上手く行かない嘆き、激情の蹴り。
 結果が表示される。誤差率1%。

「素晴らしい数字ですね。良い演技・・でした」

 ジャクソン先生が満足そうに頷く。
 素直に嬉しいが、本当にこれでいいの? 感が半端ない。他の生徒たちも挑戦していたが、平均誤差率は50%を超えた。メルに至っては、90%を叩き出したくらいだ。意外と言うと怒られるかもしれないが、フレアの誤差率は25%程度にとどまっていた。
 オレは、1-3%。周りからの視線が痛い。
 もやもやしたまま、合流初日の演技指導が終わる。
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