お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩

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回顧

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ブリュンヒルド・フュルトティン・フォン・ハーン様

朝焼けのように綺麗な緋色の髪を持つ美しきハーン侯爵家の令嬢。
アクラム様とは幼じみで戦に精通したハーン家は代々軍部に身を置いています。勿論アクラム様も軍関係者です。
ブリュンヒルド様はその名前のごとく勇ましい気性であらせられます。しかし、アクラム様と共に行動する時はとても穏やかでした。噂などあてに出来ないと思いました。



一度彼女とお話しをしたことがあります。
「ごきげんよう、マレーネ.・ヴァルト様。
わたくしはブリュンヒルド・フュルトティン・フォン・ハーンと申します。
以後お見知り置きを」

「 は... 初めまして、 マレーネ・ヴァルトと申します...」

突然、話しかけられた私は戸惑い…困惑しました。
彼女自身の美貌とその裏打ちされた自信から来る美しき所作が、私にはまぶしすぎて思わず目を細めてしまいました。


彼女はその美貌の顔をわずかに歪めながら私にこう言いました。



「あなたがアクラムの婚約者ね。薬学者としては精通しているのかもしれないけれども、あなたに果たしてアクラムの妻が務まるのかしら?」


私は最も痛いところをつかれたと思いました。
アクラム様との共通点と言えば、自分の兄がアクラム様の友人で、両家の両親の仲が良かったと言う事以外特に何もなかったからです。
それにこの当時、私はアクラム様に失恋をしていて研究に没頭している時期でもありました。


「女としての務めも果たさず研究ばかりしていてアクラムが可哀想だわ。親同士が決めたとは言え断ることもできたでしょう。あなたには自分と言うものがないのかしら?」


私はアクラム様に他に好きな人がいると知っていながらもアクラム様のそばを離れることができなかった浅ましい女です。
ブリュンヒルド様の言葉は私に剣のように突き刺さってきました。

何も言わなくなった私を彼女は興味を失ったかのように視線を外しながら

「あなたに言ってもしょうがないことね…わかったわ。でもこれだけは覚えておきなさい。アクラムに相応しいのは私であって貴女ではないと言うことを。私たちの関係に口を出さないでちょうだいね」

この時に私ははっきりとわかってしまいました。彼女とはアクラム様は恋人同士なのだと。それを邪魔するのが私なのだと。
それでも諦めきれなかった私は、アクラム様の婚約者と言う立場にしがみつきそのまま妻として居座り続けています。

そのことが罪悪感であり私を苛むのです。
彼と彼女の恋を私が壊しているのだと。世間に顔向けができない不倫と言う形を取らせてしまっていることを…
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