二度殺された女

紫 李鳥

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 必死で逃げ帰った。恐ろしくて死に顔は見てないが、確かに朋江は動かなかった。必ず死んでいるはずだ。小心者の傑は、そう自分に言い聞かせた。

 だが、翌朝のニュースで傑は愕然がくぜんとした。

「――△病院で死亡していた女性は、山野忠子さん――」

 えっ! 山野? 傑は咄嗟とっさにテレビの画面に目を遣ると、女の顔写真を食い入るように視た。

 ち、違う! 朋江じゃない。傑は狼狽うろたえた。

「――山野さんの死因は窒息死と見られ、病院の関係者から事情を聴くとともに、事件と事故の両面から捜査が行われています――」

 ……別人を殺してしまった。傑は、血の気が引くのを感じていた。

「……あなた?」

 箸を持ったままで呆然としている傑に、成美が眉をひそめた。

「……え?」

「どうしたの? 最近、なんか変よ」

「なんでもない。今日も麻雀で遅くなるから」

 傑は茶漬けを流し込むと、慌ただしく腰を上げた。

 違う女を殺してしまった。……どうする。早くしないと、朋江の親類や知り合いが先に漕ぎ着けるかもしれない。……どうすればいいんだ。傑は焦燥感に駈られ、手っ取り早い手段に走った。――


「もしもし、お電話代わりました」

 間違いなく朋江の声だ。

「……あなたを知ってるという人から言伝ことづてを頼まれました」

 公衆電話の受話器にハンカチを当てると、傑は声色こわいろを使った。

「えっ! ほんとですか?」

 俺だとは気付いていない。傑はしめたと思った。

「今夜の八時に、病院にある広場のベンチに来てほしいとのことです」

「はい、分かりました。そのかたのお名前は」

「……鈴木ひろし」

 あらかじめ考えておいた名前を言った。

「鈴木さんですね? はい、分かりました。八時に行きます」

「それと、……彼は僕の友人なんですが、妻子があるんですよ。あなたと付き合っていたことは内緒にしたいわけです。だからあなたも、彼と会うことは誰にも言わないで来てください。そうしないと、万が一にもマスコミに名前がバレたら彼の家庭が崩壊しますので。勿論、あなたが会いたくなければ、そう伝えますが――」

「いいえ、行きます」

 記憶にない男に会う恐怖感より、自分の正体を知りたいほうが先決なのか、朋江に躊躇ためらいはなかった。


 早めにそこに行くと、木陰に隠れて朋江が来るのを待った。
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