1 / 1
ジェシカのプレゼント
しおりを挟むメグのママは病気でベッドにいます。治してあげたくても、薬を買うお金もありません。
どうしてもママの病気を治してあげたいメグは、庭に咲いているマーガレットを街まで売りに行きました。
パン屋の店先に立っていると、
「ジャマだ」
と店主に言われ、
ケーキ屋の前で売ろうとしても、
「向こうへ行け」
と追い払われました。
仕方なく、人通りのない路地裏で売ることにしました。
通る人に、
「……お花を買ってください」
と言っても、誰も立ち止まってくれません。
暗くなっても一本も売れず、花はしおれてしまいました。
次の日も、花は一本も売れませんでした。
とうとう、最後の5束になってしまいました。
「……お花はいりませんか?」
でも、誰も足を止めてくれません。
半分あきらめたそのときです。
「いくらかな?」
山高帽にステッキの紳士が値段を尋ねました。
びっくりしたメグは、
「えっ! ホントに買ってくれるの?」
うれしくて、思わず泣いてしまいました。
事情を聞いた紳士は、花をぜんぶ買う代わりに、娘の友だちになってもらえないかと頼みました。
メグは、笑顔でうなずきました。
ーー大きなおうちのリビングに通されると、車椅子に座った同年代の少女がほほえんでいました。
「こんにちは。私はジェシカ。よろしくね」
ジェシカは、ブロンドの長い髪にピンクのリボンがよく似合っていました。
「私はメグ。あなたのパパにお花を買っていただいたの」
「ジェシカ、ほら、おまえの好きなマーガレットだよ」
パパは、マーガレットの花束を手にしました。
「わぁー、きれい」
ジェシカは嬉しそうにマーガレットを見つめました。
「何色の花瓶がいいかな?」
パパが尋ねました。
「んとね、黄色の花瓶にさして」
「はい、はい。いま入れてくるからね」
パパはそう言って部屋を出て行きました。
「ね、メグ、私の宝物を見て」
ジェシカはそう言って、膝の上の、白地にバラの彫り物がある丸い箱の蓋を開けました。
「わぁー、きれ~」
そこには、アメジストやルビー、トパーズやガーネットなどの宝石が入っていました。
キラキラ輝いて、それはそれは美しく、まるでクリスマスツリーの電飾のようでした。
「どれが好き? ひとつあげる」
「えっ! こんな大切な物もらえないわ」
「私があげたいの。その代わり、ときどき遊びに来てね」
「うん」
ふたりは約束しました。
家に帰ると、ジェシカにもらったサファイアをママに見せました。
「まぁ~、きれいね。メグ見て、海の中にいるみたいよ」
ママが感動しています。
「わぁーっ、ホントだ」
メグが目を輝かせました。
今度は明かりに透かしてみました。
「ママ、見て、星空みたい」
「まぁー、ステキね」
そこには、サファイアを見つめる笑顔のママがいました。
すると、不思議なことが起きました。
ママはいつの間にか元気になって、ベッドから降りると、キッチンで料理を作り始めました。
数日後、丘に咲くヒナゲシを束にして、ジェシカに会いに行くと、ジェシカのパパが悲しい顔をしていました。
「……ジェシカは?」
「……天国に行ってしまったよ」
パパはそう言って、静かに目を閉じました。
「……ジェシカ、また遊ぼ、って約束したじゃない……」
メグの瞳から涙があふれました。
ジェシカは、自分の命と引き換えに、ママを助けてくれたのでしょうか……。
ジェシカ、私たち友だちだよね? ずっとずっと。ジェシカが生まれ変わって、また会うときも……。
メグはサファイアを手にして見つめると、
「ジェシカ、ありがとう」
と天国のジェシカにお礼を言いました。
すると、不思議です。
ほほえむジェシカの顔がサファイアに浮かび上がりました。
このとき、ふたりは本当の友だちになったのです。
メグは、ジェシカに会いたくなったら、サファイアを見つめます。
そして、お話をします。
だから、さみしくありません。
ジェシカは永遠の友だちです。
おわり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
青色のマグカップ
紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。
彼はある思い出のマグカップを探していると話すが……
薄れていく“思い出”という宝物のお話。
人柱奇譚
木ノ下 朝陽
児童書・童話
ひたすら遣る瀬のない、救いのない物語です。
※デリケートな方は、閲覧にお気を付けくださいますよう、お願い申し上げます。
昔書いた作品のリライトです。
川端康成の『掌の小説』の中の一編「心中」の雰囲気をベースに、「ファンタジー要素のない小川未明童話」、または「和製O・ヘンリー」的な空気を心掛けながら書きました。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
25匹の魚と猫と
ねこ沢ふたよ
児童書・童話
コメディです。
短編です。
暴虐無人の猫に一泡吹かせようと、水槽のメダカとグッピーが考えます。
何も考えずに笑って下さい
※クラムボンは笑いません
25周年おめでとうございます。
Copyright©︎
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる