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八話
しおりを挟む「……なんで」
「土手のとこに行ったら、ニジコさんが歩かなくなって。どうしたの?ってきいたら、おどろいた顔をしたまま何も言わないんだ。なんか不吉な予感がしたから、ニジコさんの手を引いて帰ってきた」
「…………」
「……きおくがもどってほしくないな」
「どうして」
「だって、きおくがもどったら帰っちゃうでしょ?」
「……ああ」
「土手のとこに行かなきゃよかった……」
落ち込んだ大輝の様子を背中に感じていた。
虹子は客間に籠っていた。虹子の判断に任せようと思い、声を掛けなかった。
ところが、昼近くになると、何事も無かったかのように虹子が台所にやって来た。テーブルでお茶を飲んでいた俺は、前で宿題をしていた大輝と共に虹子の挙動を目で追っていた。
「お昼は何にしようか……」
冷蔵庫を覗きながら、虹子が独り言のように言った。
「ナポリタンと素うどん、どっちがいい?素うどんがいい人」
虹子が俺たちを見ながら聞いた。俺が挙手した。
「ナポリタンがいい人」
「ハイハイっ!」
大輝が手を挙げると、虹子も挙げた。
「二対一でナポリタンに決まりました」
虹子はそう言って、前掛けをすると、手を洗った。目の前には、大輝の笑顔があった。
それから間も無くしてだった。虹子は居間の掃除をしていた。
「こんにちはっ!」
声と同時に戸が開いた。
「はーいっ」
書斎から玄関を覗くと、駐在所の西山巡査だった。
「先生、どうも、こんにちは」
「あ、こんにちは」
俺が挨拶すると、居間から虹子が玄関を覗いた。西山を見た途端、慌てて奥に引っ込んだ。
「どなたですか?」
虹子のことを西山が尋ねた。
「あ……姪っ子です」
虹子の挙動で、何かしら不安を感じた俺は、咄嗟に出任せを言った。
「ほーう、姪っ子さんがいらしてたんですかぁ……忙しいとこすまんです。実は先月になりますが、この先の渓流のとこに老人が倒れてまして。今、〈白井医院〉に入院してるんですが、どうも記憶をなくしてるみたいでな」
「!……」
「名前も住所も思い出せん状態で。何か犯罪に巻き込まれたんではないかと、事件と事故の両面から捜査してるんですが、何か変わったことや気付いたことは無いかと思って訪ねた次第です」
「さあ……特に変わったことは無いですね。姪っ子が遊びに来たのは今週ですし」
その老人と虹子の繋がりを避けるために、故意に虹子の来た日を偽った。
「いつものように、執筆に追われている毎日です」
「そうですか。じゃ、何か気付いたことや思い出したがありましたら電話を頼みます」
西山が背を向けた。
「分かりました。ご苦労さまです」
……その老人と虹子とは何か関係があるのだろうか。
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