ぼくの母さん

紫 李鳥

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「俺? うむ……逆ナンパ以上、知り合い未満てとこかな」

 ヒロトは一見、普通ぽいけど、どことなく不良ワルを感じさせる17~8歳です。顔は悪くないけど、イケメンまでいきません。普通の上ぐらいです。着てるモノも安っぽくて、わが家の家風にはちょっとそいかねます。

「ど、どこで知り合ったんですか?」

「そこの公園。ベンチで俺が求人見てたら声かけてきてさ。年上だけど美人だったから話したら、結構可愛いじゃん。俺が独り暮らしって言ったら、飯をごちそうしてくれるって言うからついてきたってわけ」

「フムフム……そうでしたか」

 ぼくが次の言葉をもさくしていると、

「ただいま~」

 玄関から母さんの声がしました。ぼくが“おかえり”と声をかけようとしたら、

「あ、ヒロトくん、お待たせ」

 ぼくの前を素通りして行ったんです。それに、いつもとようすが違ってたんです。なんて言うか……。

「ヒロトくんは、何が食べたい?」

「あ、さっちゃんにおまかせします」

(ゲ。母さんのこと、さっちゃんだって。なれなれしい。それより、母さんはぼくがここにいるの気づいてないのかなぁ……)

「じゃあ、私の得意料理を作るわね」

(いつもは黒っぽいエプロンなのに、きょうはピンクのエプロンなんかしちゃってる。あ、そうか。なんか違うと思ったら、言葉づかいが違うんだ。なんか、ぶりっ子してるみたいだ)

「じゃ、出来るまでテレビでも観てて」

「オッケー」

 ヒロトはテレビをつけると、父さんの指定席だったソファーのとこに座って、ドラマの再放送を観ています。

 母さんは母さんで、鼻歌まじりで、キャベツなんかきざんでいます。二人とも、ぼくの存在に気づいてないようです。

「ん! ん!」

 ぼくがせきばらいをしても、二人がふりむくことはありませんでした。悲しくなったぼくは、しょんぼりしながら自分の部屋に行きました。



 夕飯の時間になっても母さんは呼びに来ません。しかたなくリビングに下りると、

「うふふ……」

 母さんが少女のような笑いかたをしていました。二人は向かい合って食べながら、なにやら楽しそうです。ぼくはえんりょがちに自分のいすに座ると、

「……お母さん、……ごはん」

 小さな声で言いました。

「うふふ……」

 ぼくの声が聞こえなかったのか、母さんは少女のように笑ってばかりいました。

「お母さん、ごはん!」

「あら、雄大ちゃん、おかえり」

(ゲ。“雄大ちゃん、おかえり”だって。いつもは、“おう、息子、まだどうていか?”のくせに)

「あ、紹介するわね。江川裕人くん。息子の雄大です」

「ヨッ」

「どうも。……こんばんは」

 ぼくはしかたなく、初対面のふりをしました。

「裕人くんはね、大学1年生。バイトしながら大学行ってるんだって。偉いでしょ?」

 母さんは、とんかつや野菜サラダをぼくの前に置きながら、ヒロトのすじょうを話していました。

「独り暮らしだから、自分で料理作って食べてんだって。偉いでしょ?」

「……うん。えらい」

「だからね、お母ちゃんがごちそうしてあげてるの。いいでしょう?」

「……いいけどぉ」

「裕人くん、たくさん食べてね」

「はい。このロースかつ、めっちゃうまいです」

「ありがとう。よかったわ、お口に合って。うふふ……」

(また、ぶりっ子笑いしてる。いつもは、ゲヘッとかガッハッハなのに。……けど、なんだか幸せそうです)
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