鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

文字の大きさ
52 / 181
第二章 雛

第十八話 鴛鴦文 18 2-5-1/3 51

しおりを挟む
 自己紹介の最後に指名された少年は、ゆっくりと口を開いた。
「おれ、テコ。12歳」
 12歳。キリと同じ年齢だ。まだ声が幼い。しかし、先ほどのユミよりもよっぽど落ち着いている。
「生まれはモバラってとこ。おれには兄ちゃんと姉ちゃんがいっぱいいて……、家族を助けるために……」
「テコも家族と一緒にトミサへ来たの?」
 家族と聞き、ユミは文机ふづくえに突っ伏していた顔を上げた。
「いや、おれだけ」
 テコはぽつりと呟く。ユミにはそれがどうして家族への助けになるのか分からない。
「おれが頑張れば、家族にもお金が入るって……」
 鳩と言えば、このイイバの地の要だ。業務に対する相応の見返りがあってもおかしくない。
「兄ちゃん姉ちゃんも頑張ったんだけど、鳩になれたのはおれ1人だけ」
 テコにとってそれは幸か不幸か。家族を助けるために家族と別れた。
「この雛が終われば、また帰れるって監督さんも言ってた……」
 テコは唇を嚙みしめる。また家族に会える見込みがあるとは言え、12歳の少年にとってこの状況は酷な物であるだろう。

「うおおおおおお! テコおおおおおおおおおおおおおおお!」
 ユミの隣から興奮を帯びた声が聞こえる。サイが立ち上がったようだ。今度はユミが制する間もなかった。
「お前は優しいなぁ。一緒に頑張ろうなぁ」
 テコに駆け寄ったサイが力強くその体を抱き締める。
「寂しいよなぁ。1人でこんなところまで……。今日から私がお前の家族だ」
 この言動も、初めの内は冗談だろうと眺めていたユミだったが、やがてサイの眼から大粒の涙が零れ落ちるのが見えた。
「サイ……、ありがとう。おれ、頑張る」
 テコの腕もサイの腰へと回されていた。
 やはりサイは、家族に対する思いが人一倍強いのだろうとユミは感じたのだった。

 「よーし、ありがとなテコ。改めて、お前ら七班の担当のトキだ。歳は34だ。ナガラって村からきた。見ての通りのこの体でな。部屋に入りきらんから家から出てけって言われたんだ。ガハハハハハっ!」
 テコを抱き締めたままサイがトキを睨む。
「テコの前で楽しげに言うな!」
 テコの故郷には兄と姉がたくさんだ。場所も取るし、食い代もかかる。言ってしまえばテコは口減らしだ。
 鳩としての才能を持ってしまったがための災難とも言える。
 家を追い出されたと言う無神経な言葉を、サイは許せなかったのだろう。

「だがな、このトミサにいる奴らは俺を受け入れてくれた。でかいやつもちっこいやつもここでは関係ない。誰もがどこか違うんだ。そこの怪力女は分かりやすい例だが」
 トキがサイを顎で示す。
「サイはトミサの生まれだから、この感覚は分からんかも知れん。しかし、お前がしれっとテコのことを家族だと言ったのはすごいことなんだ」
「義兄さん……」
 サイはテコに回していた腕を解いた。体の密着が失われたテコは名残惜しそうな顔を見せる。
「お前と俺のつながりも、きっかけはスナだった。それでも今も変わらず家族だと思ってる」
「にいさあああああん」
 サイはトキに向かって駆け出して行った。
「ちょ、お前引っ付くなって。お前の力じゃ腕が折れる……」
 トキは右腕にしがみついたサイを鬱陶しそうにする。それでも残りの3人に向かって笑顔を湛えた。
「テコも俺のことを兄貴……、にしちゃでかすぎるか。親父でも良い、家族だと思ってくれ」
「父ちゃん……」
 テコは遠い眼をする。思い浮かべているのは故郷の父親のことだろうか。一体、何と言われて送り出されたのか。
 少なくともテコの眼からは恨みのような気配は感じない。しかしそれも現時点での話だ。雛が辛いものとなれば、自身を送り出した家族に対して憎しみを覚えるかもしれない。トミサの思い出は苦く、故郷の家族は薄情。そんな心情がテコに渦巻けば、自身の居場所を見失ってしまうだろう。
 一方で、この七班で家族の様にテコを支えることが出来るのなら、雛の困難も乗り越えられるかもしれない。胸を張ってモバラへ帰れるはずだ。
 
「ユミ、お前もだ。確かにお前は普通の鳩とは違うらしい。しかし、人より孵卵に時間がかかったと言うだけで、クイが鳩の適性があると判断したんだから何も問題はない。それにお前より有名な奴らなんていくらでもいる。あまり自分が特別だと思うな」
 特別。それは一見誉め言葉の様にも感じる。しかし、他者からの疎外感もある。昨日、トミサを歩いた時にユミが感じていたのはこれだろう。
 特別だと思うなと言うトキの言葉には、温かみを孕んでいた。それこそ家族の様な。

「ギン……、お前にも何か人と違うことがあるはずだ。特に帰巣本能に目覚めるきっかけとかな」
 それを聞いたギンの顔が、みるみる内に赤くなっていく。
「それが恥ずかしいのは仕方ない。でも皆同じだ。大概の者はそれを語りたがらない。その一方で、むしろ誰かに聞いて欲しくなる瞬間があるかもしれん。辛いことを1人で抱えるのは重いからな。そんな時、この七班でも思い出してくれ」
 口には出さなかったが、俺たちはもう家族なのだから、と言っているような気がした。

 ユミはウラヤの村ですら、同年代の子供たちと馴染めないでいた。しかし、人と人とを繋ぐのが鳩の務めだ。人付き合いが苦手だからと避けて通れるものではない。
 まずは、この七班での絆を確かなものにすること。それがユミへ与えられた雛での最初の課題だった。

「よし、サイ。いい加減席につけ。講義を始める」
 トキは無遠慮にも左の掌でサイの顔を押しやる。それは気心が知れた仲であるからこその所作なのだと感じさせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...