鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第二章 雛

第二十話 休日 20 2-7-1/3 57

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 鳩の導入研修である雛。
 その期間の初めは座学が主となり、5日間の講義と2日間の休日とが繰り返される。
 ある休前日となる日の講義の終わり、ユミはギンに明日トミサ一帯を一緒に歩かないかと声をかけられた。
 ギンから下心を感じないわけではなかったが、生涯の仲間とも言われる班員を無下にも出来ず、ユミは首を縦に振ることとなった。
 
 約束の当日、母親は仕事で夕方まで帰らないことになっていたため、余計な勘繰りを入れられずに済んだ。
 ギンは家まで迎えに行くと言っていたが、ユミは断固として拒否をした。代わりに、鳩の学舎の傍にある半鐘の下を待ち合わせ場所に指定した。
 その場所はトミサのほぼ中心に位置しており、居住地を特定されにくいだろうと踏んでいたためだ。
 
 約束の刻限の10分程前、ユミは待ち合わせ場所近くまでやってきた。ところが、既にギンは鐘の下に佇んでいた。心なしかそわそわした様子である。行き交う人々も不審そうな眼で彼を一瞥しては通り過ぎていく。
 なんとなく危険を感じたユミは、とっさに近くにあった食堂の軒下に身を潜めてしまった。母から教わった男のさがを思い出すと身も震えてくる。
「何やってんだいあんた?」
 突如、ユミの背後へと声が投げられる。振り向くとそこには既に顔なじみとなった店の女が居た。
「お、おばちゃん」
「食べに来たのかい? 店なら今から開けるとこだけど……」
 暖簾のれんを掲げながら言う。ギンがこの時間を指定してきたのは昼を共にしようということなのだろう。
 ユミは束の間の逡巡の後、問いかける。
「ねえ、おばちゃんは鴛以外の男の人から食事に誘われたらどうする?」
「うちの人以外? そうねぇ、若い子だったら喜んで着いていっちゃうかな?」
 そういうと女はきょろきょろ辺りを見渡す。そしてギンの姿を認めるとにやにやとしだした。
「あら、ギン。相変わらずね~」
「相変わらず?」
 ユミは怪訝そうな顔をする。
「ええ、あの子は昔から女の子に好かれたくてしょうがないのよ。うまくいった試しはないみたいだけど……。ユミちゃん、何も気にすることはないわ。適当にご飯でもご馳走させてお別れしちゃいなさい」
「なぁんだ……」
 ユミはミズとともにウラヤへ帰った日のことを思い出す。ミズはユミと鴛鴦繋おしつなぎまでしたがっていたのに、ソラと対面するや否や彼女へと好意を向けた。その時と似たような感覚だ。ミズは男ではなかったのだが同じことだろう。

 キリ以外の者と懇意になる気などさらさらないのだが、好意を向けられること自体は気分が良い。
 鴛鴦文で既に結ばれた者が目移りなどした場合、ナガレあるいはカトリへ送られるとトキは言っていた。しかし、その優越感と罪悪感が何とも言えない刺激となり、実行に移してしまう者もいるのかもしれない。縛められれば縛められるほどやりたくなるのが人のさがなのだろうか。
 ギンに嫌悪感を覚えながらも、危険な橋を渡りかねない思考に陥っていたところを救われたと言っても良いだろう。

 ごおおおおおおん……。
 
「あ、行かなきゃ……」
 足を踏み出すのを躊躇っていたユミに、時間切れを告げる鐘が鳴る。既に彼女を妨げるものは何もない。
「ところでユミちゃん。もしかしてギンじゃない鴛がいるの? ……ちょっと早すぎないかしら?」
「えへへへ……」
 ごまかすように笑みを浮かべたユミは、勇気を振り絞りギンの元へと歩を進めるのだった。

 ――――

 一方のギンは気が気でなかった。
 ユミがやって来る瞬間を今か今かと待ちわびていたのだ。
 
 ギンはかつて、寝坊により女子おなごとの約束をすっぽかした結果、平手打ちをもらったことがある。
 それ以来、刻限より早く来ることを心がけていたのだが、待てど暮らせど相手が現れず泣く泣く家路につくこともあった。
 自分に何が足りないのだろうと、とぼとぼと歩いていたところ、女を両手に抱えた男の鳩とすれ違う。良く言えば男前、悪く言えば悪人面。そんな印象の彼だったが、それはギンにとって大きな起点となった。いつか機を見て鳩になろう、そう決意したのだった。
 
 ところが、いざ孵卵に合格してみると思い描いていたものとはどうにも結果が違う。相変わらず眼をつけた女はことごとく手をすり抜けていった。これでは何のために森の脅威へ挑んだのか分からない。しかし雛の講義の初日、鳩になって良かったと自らを称えることとなる。
 緊張した面持ちで隣の席につくユミを見て衝撃を受けた。これまで見た誰よりも可憐だ、そう思った。その日の内に、彼女にはべーと舌を出された気もするが、気にしないことにした。
 
 これまでの失敗を決して無駄にはしない。そう決意したギンはまずはサイへ近づくことにした。ユミが不自然なまでに彼女と関わりを持とうとしていることに気づいたからだ。
 初対面の際に感じたように、サイには女としての魅力がまるで無かった。そのため下心なく彼女へ近づき、ユミの好みなどを聞き出すことが出来た。サイとしてもギンの第一印象は最悪だったはずだ。とは言えやはり姉後肌と言うべきなのか、ギンがしおらしい態度でいる限りは快く接してくれた。

 改めて本日の計画を頭に巡らせる。
 まずは食事だ。ユミは獣肉の類を好むらしい。そして食後にはあんみつを。その両方の叶う店は押さえてある。店を梯子することだって可能だ。
 サイに教わるまでも無いことだったが、ユミは知的好奇心が旺盛なようだ。書物の店や雑貨屋などを案内してやれば興味を引くことが出来るかもしれない。
 少し足を伸ばしてトミサの一角にあるスイカ畑を見せてやるのも良いだろう。ユミは生まれであるウラヤにおいても畑仕事を手伝っていたと聞くので、新たな発見を提供できるのではないだろうか。願わくばギンの半身とも言うべきスイカを、ユミの心へと刻みつけてもらいたい。
 
 ごおおおおおおん……。
 
 待ち合わせの時間を告げる鐘の音だ。1刻に1度奏でられるこの音であるが、これまでの経験通りあと2回鳴るまでは希望を捨てずに待とうと思っていた。にもかかわらず、あっさりとユミが姿を現したので拍子抜けしてしまった。
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