鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第二章 雛

第二十一話 代償 21 2-8-1/3 62

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 3つの部屋に区分された鳩の学舎。その中央の部屋で、ユミら七班は座学の課程の最終日を迎えていた。
 部屋の中に4つの文机ふづくえが横並びになっている。奥から順にテコ、ギン、ユミ、サイが机の傍に腰を下ろす。特に指定されたわけでもないが、初日の席順がそのまま定位置となっていた。そしてその対面側には、大きな文机とともにトキがずっしりと構えている。
 
「よーしお前ら、先日の試験を返してやる。誰から返そうか。最高得点の奴から行くか、ビリのサイから行くか」
「言ってんじゃねぇよ!」
 サイは抗議をすると立ち上がり、トキが顔の前でひらひらとさせている答案用紙を分捕った。
 怒りの表情を浮かべていたサイだったが、試験結果を覗き込むや否やうげぇと顔をしかめる。
「ギリギリ合格だな。お前のおかげで残りのもんは安心して受け取れるってもんだ。ガハハハッ!」
「うう……、これでも頑張ったんだぞ……」
 彼女には似合わず落胆とした様子だ。
「確かにお前にしては頑張った方だと思うぞ。実習より座学の方がよっぽど心配だったからな。これでスナにも一歩近づいたな!」
「義兄さん!」
 その言葉がよっぽど嬉しかったのだろう。サイはぱあっと顔を輝かせた。
 トキは立ち上がり、てのひらをサイの頭の上にぽんと置く。そしてわしゃわしゃと撫でまわす。
 
「次はテコ。よくやった。最年長のサイより優秀だな。ガハハハッ!」
「ちぇっ、いつも一言余計だっつーの……」
 ころころと表情を変えながら呟くサイ。そんな彼女を眺めていたテコは、はっとしたようにトキへと眼を移す。
 のしのしと近づいてきトキに突き出された答案をテコは黙って受け取った。そして恐る恐るサイを見やると、恨めし気にテコを睨んでいるようだった。
 本当はサイに褒めてもらいたかったのだが、そうもいかないようなのでぶるぶると首を振る。
 
「次はギンだな。……お前、頭良かったんだな。多分、能ある鷹は爪を隠すというやつなんだろう」
「え……、別に隠してるつもりもないけど……」
 ギンは不思議そうな顔を浮かべつつ、渡された答案を受け取る。
「そうだな。隠していると言うより、隠れてしまっていると言った方がいいかもしれん。女の尻ばっかり追っかけているお前、実は策士か? ガハハハッ!」
「え? オレそんな感じ?」
 とっさに首を捻り、隣のユミに問いかける。ユミは何も言わなかったが、じとっとした眼差しがなんとも痛い。
「違うよ。ユミだけだからな、オレが……。はっ!」
 ギンは言ってしまったとばかりにあんぐり口を開ける。一方のユミはぷいとそっぽを向いてしまった。
 
「ははは、ギン。もう少し女についても頭が回れば良かったな!」
 いつの間に機嫌を直したのかサイが茶化しだす。
「……サイも少しは気づいてやれよ。男の気持ち」
「え? 百戦錬磨の私に男の気持ちが分からないとでも?」
「百戦錬磨って……、文字通りの意味で言ってんだろ……」
 胸を張るサイと呆れた様子のギン。こんなやり取りも何度目であろうか。傍から見ている分には面白いものだと、ユミから自然と笑みがこぼれた。
 
「最後はユミだ。やっぱりすごいんだなお前。クイから話聞いてた時はここまでとは思わなかった」
「あ……」
 トキは答案をユミに渡さず、胸の前で広げる。全体的に丸々としたユミの文字が綴られている。
 用紙の上部には「七班 弓」の署名があり、その右側には赤い文字で「百」が刻まれていた。
「すげぇ……」
 サイが吐き出すように言う。しかし、ユミにとっては当たり前のことを成しただけであった。
 問われたことに対して、知っていることを回答する。設問は全て講義で教わったことに基づいているので、知っているのは当然である。
「あの、トキ教官? 孵卵が試験である意義は理解しているつもりです。でも、この筆記の試験ってどういう……」
 意味があるんですかと問おうとした時、サイと眼が合う。その鋭い眼光はユミの背筋を凍らせ、二の句が継げなくなる。
「クイも言っていたな。ユミは教わったことなら細部まで覚えることが出来るようだが、教わってもいないことについてはどこか抜けているらしい。聞いたぞ、お前腹に赤子――」
「やめて!」
 ユミが顔を真っ赤にしてトキを制する。一体クイはどこまで話したのだろうか。さすがにユミの特別な能力についてまでは漏らしていないはずなのだが、うら若き乙女の秘密に言及するとは思慮に欠ける。今度ヤミに会った折には言いつけてやろうと決意した。
「え……、赤子……」
 隣で絶望的な表情を浮かべるギンに、ユミは平手打ちを食らわせた。
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