61 / 181
第二章 雛
第二十一話 代償 21 2-8-1/3 62
しおりを挟む
3つの部屋に区分された鳩の学舎。その中央の部屋で、ユミら七班は座学の課程の最終日を迎えていた。
部屋の中に4つの文机が横並びになっている。奥から順にテコ、ギン、ユミ、サイが机の傍に腰を下ろす。特に指定されたわけでもないが、初日の席順がそのまま定位置となっていた。そしてその対面側には、大きな文机とともにトキがずっしりと構えている。
「よーしお前ら、先日の試験を返してやる。誰から返そうか。最高得点の奴から行くか、ビリのサイから行くか」
「言ってんじゃねぇよ!」
サイは抗議をすると立ち上がり、トキが顔の前でひらひらとさせている答案用紙を分捕った。
怒りの表情を浮かべていたサイだったが、試験結果を覗き込むや否やうげぇと顔をしかめる。
「ギリギリ合格だな。お前のおかげで残りのもんは安心して受け取れるってもんだ。ガハハハッ!」
「うう……、これでも頑張ったんだぞ……」
彼女には似合わず落胆とした様子だ。
「確かにお前にしては頑張った方だと思うぞ。実習より座学の方がよっぽど心配だったからな。これでスナにも一歩近づいたな!」
「義兄さん!」
その言葉がよっぽど嬉しかったのだろう。サイはぱあっと顔を輝かせた。
トキは立ち上がり、てのひらをサイの頭の上にぽんと置く。そしてわしゃわしゃと撫でまわす。
「次はテコ。よくやった。最年長のサイより優秀だな。ガハハハッ!」
「ちぇっ、いつも一言余計だっつーの……」
ころころと表情を変えながら呟くサイ。そんな彼女を眺めていたテコは、はっとしたようにトキへと眼を移す。
のしのしと近づいてきトキに突き出された答案をテコは黙って受け取った。そして恐る恐るサイを見やると、恨めし気にテコを睨んでいるようだった。
本当はサイに褒めてもらいたかったのだが、そうもいかないようなのでぶるぶると首を振る。
「次はギンだな。……お前、頭良かったんだな。多分、能ある鷹は爪を隠すというやつなんだろう」
「え……、別に隠してるつもりもないけど……」
ギンは不思議そうな顔を浮かべつつ、渡された答案を受け取る。
「そうだな。隠していると言うより、隠れてしまっていると言った方がいいかもしれん。女の尻ばっかり追っかけているお前、実は策士か? ガハハハッ!」
「え? オレそんな感じ?」
とっさに首を捻り、隣のユミに問いかける。ユミは何も言わなかったが、じとっとした眼差しがなんとも痛い。
「違うよ。ユミだけだからな、オレが……。はっ!」
ギンは言ってしまったとばかりにあんぐり口を開ける。一方のユミはぷいとそっぽを向いてしまった。
「ははは、ギン。もう少し女についても頭が回れば良かったな!」
いつの間に機嫌を直したのかサイが茶化しだす。
「……サイも少しは気づいてやれよ。男の気持ち」
「え? 百戦錬磨の私に男の気持ちが分からないとでも?」
「百戦錬磨って……、文字通りの意味で言ってんだろ……」
胸を張るサイと呆れた様子のギン。こんなやり取りも何度目であろうか。傍から見ている分には面白いものだと、ユミから自然と笑みがこぼれた。
「最後はユミだ。やっぱりすごいんだなお前。クイから話聞いてた時はここまでとは思わなかった」
「あ……」
トキは答案をユミに渡さず、胸の前で広げる。全体的に丸々としたユミの文字が綴られている。
用紙の上部には「七班 弓」の署名があり、その右側には赤い文字で「百」が刻まれていた。
「すげぇ……」
サイが吐き出すように言う。しかし、ユミにとっては当たり前のことを成しただけであった。
問われたことに対して、知っていることを回答する。設問は全て講義で教わったことに基づいているので、知っているのは当然である。
「あの、トキ教官? 孵卵が試験である意義は理解しているつもりです。でも、この筆記の試験ってどういう……」
意味があるんですかと問おうとした時、サイと眼が合う。その鋭い眼光はユミの背筋を凍らせ、二の句が継げなくなる。
「クイも言っていたな。ユミは教わったことなら細部まで覚えることが出来るようだが、教わってもいないことについてはどこか抜けているらしい。聞いたぞ、お前腹に赤子――」
「やめて!」
ユミが顔を真っ赤にしてトキを制する。一体クイはどこまで話したのだろうか。さすがにユミの特別な能力についてまでは漏らしていないはずなのだが、うら若き乙女の秘密に言及するとは思慮に欠ける。今度ヤミに会った折には言いつけてやろうと決意した。
「え……、赤子……」
隣で絶望的な表情を浮かべるギンに、ユミは平手打ちを食らわせた。
部屋の中に4つの文机が横並びになっている。奥から順にテコ、ギン、ユミ、サイが机の傍に腰を下ろす。特に指定されたわけでもないが、初日の席順がそのまま定位置となっていた。そしてその対面側には、大きな文机とともにトキがずっしりと構えている。
「よーしお前ら、先日の試験を返してやる。誰から返そうか。最高得点の奴から行くか、ビリのサイから行くか」
「言ってんじゃねぇよ!」
サイは抗議をすると立ち上がり、トキが顔の前でひらひらとさせている答案用紙を分捕った。
怒りの表情を浮かべていたサイだったが、試験結果を覗き込むや否やうげぇと顔をしかめる。
「ギリギリ合格だな。お前のおかげで残りのもんは安心して受け取れるってもんだ。ガハハハッ!」
「うう……、これでも頑張ったんだぞ……」
彼女には似合わず落胆とした様子だ。
「確かにお前にしては頑張った方だと思うぞ。実習より座学の方がよっぽど心配だったからな。これでスナにも一歩近づいたな!」
「義兄さん!」
その言葉がよっぽど嬉しかったのだろう。サイはぱあっと顔を輝かせた。
トキは立ち上がり、てのひらをサイの頭の上にぽんと置く。そしてわしゃわしゃと撫でまわす。
「次はテコ。よくやった。最年長のサイより優秀だな。ガハハハッ!」
「ちぇっ、いつも一言余計だっつーの……」
ころころと表情を変えながら呟くサイ。そんな彼女を眺めていたテコは、はっとしたようにトキへと眼を移す。
のしのしと近づいてきトキに突き出された答案をテコは黙って受け取った。そして恐る恐るサイを見やると、恨めし気にテコを睨んでいるようだった。
本当はサイに褒めてもらいたかったのだが、そうもいかないようなのでぶるぶると首を振る。
「次はギンだな。……お前、頭良かったんだな。多分、能ある鷹は爪を隠すというやつなんだろう」
「え……、別に隠してるつもりもないけど……」
ギンは不思議そうな顔を浮かべつつ、渡された答案を受け取る。
「そうだな。隠していると言うより、隠れてしまっていると言った方がいいかもしれん。女の尻ばっかり追っかけているお前、実は策士か? ガハハハッ!」
「え? オレそんな感じ?」
とっさに首を捻り、隣のユミに問いかける。ユミは何も言わなかったが、じとっとした眼差しがなんとも痛い。
「違うよ。ユミだけだからな、オレが……。はっ!」
ギンは言ってしまったとばかりにあんぐり口を開ける。一方のユミはぷいとそっぽを向いてしまった。
「ははは、ギン。もう少し女についても頭が回れば良かったな!」
いつの間に機嫌を直したのかサイが茶化しだす。
「……サイも少しは気づいてやれよ。男の気持ち」
「え? 百戦錬磨の私に男の気持ちが分からないとでも?」
「百戦錬磨って……、文字通りの意味で言ってんだろ……」
胸を張るサイと呆れた様子のギン。こんなやり取りも何度目であろうか。傍から見ている分には面白いものだと、ユミから自然と笑みがこぼれた。
「最後はユミだ。やっぱりすごいんだなお前。クイから話聞いてた時はここまでとは思わなかった」
「あ……」
トキは答案をユミに渡さず、胸の前で広げる。全体的に丸々としたユミの文字が綴られている。
用紙の上部には「七班 弓」の署名があり、その右側には赤い文字で「百」が刻まれていた。
「すげぇ……」
サイが吐き出すように言う。しかし、ユミにとっては当たり前のことを成しただけであった。
問われたことに対して、知っていることを回答する。設問は全て講義で教わったことに基づいているので、知っているのは当然である。
「あの、トキ教官? 孵卵が試験である意義は理解しているつもりです。でも、この筆記の試験ってどういう……」
意味があるんですかと問おうとした時、サイと眼が合う。その鋭い眼光はユミの背筋を凍らせ、二の句が継げなくなる。
「クイも言っていたな。ユミは教わったことなら細部まで覚えることが出来るようだが、教わってもいないことについてはどこか抜けているらしい。聞いたぞ、お前腹に赤子――」
「やめて!」
ユミが顔を真っ赤にしてトキを制する。一体クイはどこまで話したのだろうか。さすがにユミの特別な能力についてまでは漏らしていないはずなのだが、うら若き乙女の秘密に言及するとは思慮に欠ける。今度ヤミに会った折には言いつけてやろうと決意した。
「え……、赤子……」
隣で絶望的な表情を浮かべるギンに、ユミは平手打ちを食らわせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる