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第二章 雛
第二十五話 詰問 25 2-12-2/4 73
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「なあ、テコ。お前、かーちゃんに会いたくなったのか?」
「ごめん……」
サイの顔が曇る。そしてより一層テコを抱き締める力が強くなる。
「私がもっと寄り添ってやれてたら……」
サイはテコとの初見の頃より、終始家族であろうと心がけていた。家族から離れて暮らすテコの心の隙間を埋めるために。また自身の心の拠り所を見出すように。
テコの行動は自身の至らなさを突きつけられた気分なのであろう。
「違う! サイは悪くない! だってサイはおれの……。それにユミだっておれのねーちゃんとして動いただけなんだ!」
ユミが本件について自らが責任を取ろうとするように、テコもまた自身の非を強調する。
「だったら私を頼ってくれたら良かったじゃないか!」
「最初はサイを呼んだんだよぉ……」
その時の状況を思い出し、ユミは不謹慎にもふふふと声を漏らした。
しばらく抱き合っていたサイとテコだったが、不意にぐーという音が鳴る。
「義兄さん、朝飯にしようぜ! いいだろ?」
「……まあいいだろ。だが、ここは隙間じゃないみたいだからあまり離れるなよ」
「よし来た!」
サイは胸元のテコの頭を軽く撫で、立ち上がる。
――――
食材を炙るために起こした火。その周りに一同が腰を下ろし、食後の余韻に浸っていた。
「お前のこと話してくれるか、ユミ?」
少しだけ弛緩した空気が流れる中、トキが問いかける。努めて優しい声である。
クイからは自身の特異性を他言しない様に釘を刺されている。しかし、通常の帰巣本能では説明できないことを眼の前で披露してしまった。
状況としては孵卵の際、故郷のウラヤからヤミの囚われたナガレへ、ミズとクイとを案内した時と似ている。あの時はそれが異常なことであるとは知る由も無かったのだが。
しかし今となっては自身の持つもりす記憶が、鳩の縛めを踏みにじるものであることにはいい加減気づいている。
話してくれと言われてもどこから話したものか。もはや言い訳の余地はない。
結論から述べようと言葉を紡ぎ始めた。
「私は歩いた道のりを覚えることが出来ます。それが森の中であっても」
「森の中でも道を覚えられる? ……あり得ない」
サイは眼を丸くする。それも当然の反応だ。
百聞は一見にしかず。ユミは記憶力を証明するため語りだした。
「人のことを手がかかる赤子みたいな扱いしてんじゃねぇ。自分で食う分ぐらいなんとかするよ。いいか、お前ら。確かに私は人の数倍食う。だけど食べるのは大好きだ。代償だとも思ってない。むしろこの体質は恩恵だと思ってる。うまいもんいっぱい食えるからな。お前らも、何か困ってることがあったらまずはそれを受け入れろ。そして活かせ。そしたらバカみたいに生きていける。そう、私の様に。……って誰がバカだ」
「ユミ?」
「私が覚えられるのは道のりだけじゃないみたい。これが特別なこととも思ってなかったんだけど、できないのが普通みたいだね」
「なんでその言葉を選ぶんだよ……」
渡りの出発前、サイが演説して見せた食への執着。ユミに暗唱され改めて客観的に見たためか、その頬を赤く染める。
「記憶力だけじゃ説明もつかない気がするけど、現にテコを助けて見せたんだもんな。お前のその能力、何か人とは違う……」
「もりす記憶」
「もりすきおくぅ?」
ユミは腰につけていたがま口から例の覚書を取り出し、サイの顔の前へと持って行く。不気味だとは感じていたが、捨てるに捨てられなかったものだ。
サイは突きつけられた4つ折りの紙を開き、綴られた文字を読み上げていく。
「もりす記憶、森を意のままに歩ける力、トミサの門の外では使うも自由……。何だこりゃ?」
「いつの間にか私の懐に入ってた。まるで、この力を使えと言ってるみたいに――」
「ユミ!」
腕組みしながら黙って話を聞いていたトキだったが、聞き捨てならぬとばかりに声を上げる。
「何故そんなことを黙っていた! 一体誰に!? さらには唆されるままに行動したと言うのか!」
「トキ教官!」
テコは精いっぱい声を上げる。
「お願い、ユミを怒らないで! 教官に怒鳴られると、話せることも話せなくなっちゃう……」
「む……。すまん。ユミ、ゆっくりでいい、話せるとこから話してくれ」
「はい、まずは……」
何故黙っていたか、トキの剣幕を見てもっと早く伝えるべきだったと反省する。
「ごめんなさい……」
適切な言葉が見つからないまま謝ってしまう。
「謝らなくていい。お前の気持ちになってみれば分かる。自分のことを特別だと思うなとは言ったが、お前の力は間違いなく特別だ。内に秘めておきたい物があったんだろう。簡単に話せなくても無理はない」
「ごめん……」
サイの顔が曇る。そしてより一層テコを抱き締める力が強くなる。
「私がもっと寄り添ってやれてたら……」
サイはテコとの初見の頃より、終始家族であろうと心がけていた。家族から離れて暮らすテコの心の隙間を埋めるために。また自身の心の拠り所を見出すように。
テコの行動は自身の至らなさを突きつけられた気分なのであろう。
「違う! サイは悪くない! だってサイはおれの……。それにユミだっておれのねーちゃんとして動いただけなんだ!」
ユミが本件について自らが責任を取ろうとするように、テコもまた自身の非を強調する。
「だったら私を頼ってくれたら良かったじゃないか!」
「最初はサイを呼んだんだよぉ……」
その時の状況を思い出し、ユミは不謹慎にもふふふと声を漏らした。
しばらく抱き合っていたサイとテコだったが、不意にぐーという音が鳴る。
「義兄さん、朝飯にしようぜ! いいだろ?」
「……まあいいだろ。だが、ここは隙間じゃないみたいだからあまり離れるなよ」
「よし来た!」
サイは胸元のテコの頭を軽く撫で、立ち上がる。
――――
食材を炙るために起こした火。その周りに一同が腰を下ろし、食後の余韻に浸っていた。
「お前のこと話してくれるか、ユミ?」
少しだけ弛緩した空気が流れる中、トキが問いかける。努めて優しい声である。
クイからは自身の特異性を他言しない様に釘を刺されている。しかし、通常の帰巣本能では説明できないことを眼の前で披露してしまった。
状況としては孵卵の際、故郷のウラヤからヤミの囚われたナガレへ、ミズとクイとを案内した時と似ている。あの時はそれが異常なことであるとは知る由も無かったのだが。
しかし今となっては自身の持つもりす記憶が、鳩の縛めを踏みにじるものであることにはいい加減気づいている。
話してくれと言われてもどこから話したものか。もはや言い訳の余地はない。
結論から述べようと言葉を紡ぎ始めた。
「私は歩いた道のりを覚えることが出来ます。それが森の中であっても」
「森の中でも道を覚えられる? ……あり得ない」
サイは眼を丸くする。それも当然の反応だ。
百聞は一見にしかず。ユミは記憶力を証明するため語りだした。
「人のことを手がかかる赤子みたいな扱いしてんじゃねぇ。自分で食う分ぐらいなんとかするよ。いいか、お前ら。確かに私は人の数倍食う。だけど食べるのは大好きだ。代償だとも思ってない。むしろこの体質は恩恵だと思ってる。うまいもんいっぱい食えるからな。お前らも、何か困ってることがあったらまずはそれを受け入れろ。そして活かせ。そしたらバカみたいに生きていける。そう、私の様に。……って誰がバカだ」
「ユミ?」
「私が覚えられるのは道のりだけじゃないみたい。これが特別なこととも思ってなかったんだけど、できないのが普通みたいだね」
「なんでその言葉を選ぶんだよ……」
渡りの出発前、サイが演説して見せた食への執着。ユミに暗唱され改めて客観的に見たためか、その頬を赤く染める。
「記憶力だけじゃ説明もつかない気がするけど、現にテコを助けて見せたんだもんな。お前のその能力、何か人とは違う……」
「もりす記憶」
「もりすきおくぅ?」
ユミは腰につけていたがま口から例の覚書を取り出し、サイの顔の前へと持って行く。不気味だとは感じていたが、捨てるに捨てられなかったものだ。
サイは突きつけられた4つ折りの紙を開き、綴られた文字を読み上げていく。
「もりす記憶、森を意のままに歩ける力、トミサの門の外では使うも自由……。何だこりゃ?」
「いつの間にか私の懐に入ってた。まるで、この力を使えと言ってるみたいに――」
「ユミ!」
腕組みしながら黙って話を聞いていたトキだったが、聞き捨てならぬとばかりに声を上げる。
「何故そんなことを黙っていた! 一体誰に!? さらには唆されるままに行動したと言うのか!」
「トキ教官!」
テコは精いっぱい声を上げる。
「お願い、ユミを怒らないで! 教官に怒鳴られると、話せることも話せなくなっちゃう……」
「む……。すまん。ユミ、ゆっくりでいい、話せるとこから話してくれ」
「はい、まずは……」
何故黙っていたか、トキの剣幕を見てもっと早く伝えるべきだったと反省する。
「ごめんなさい……」
適切な言葉が見つからないまま謝ってしまう。
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