鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

文字の大きさ
73 / 181
第二章 雛

第二十五話 詰問 25 2-12-1/4 72

しおりを挟む
「ユミ! どこへ行ってた!」
 あわよくばギンだけを引き連れてテコの元へ。それはとんだ甘い考えであった。
 朝もやがかかる中、1人寝床へと戻ってきたユミをトキが激しい剣幕で叱責する。

「え、えっと……」
 いつもの癖で言い訳を考えてしまう。しかし妙案が浮かぶ訳もなく、身を固めたままトキに詰め寄られる。
 目の前に迫る顔がなんとも恐ろしい。鬼など見たことはないが、鬼の形相とはこういう物なのだろうとユミは身を縮めた。教官が怖いと発言したテコの気持ちが今ならよく分かる。ユミの目頭も熱くなっていく。

「テコ? テコはどこ!?」
 ユミとトキの間に流れる殺伐とした空気を裂くように、サイが声を上擦らせる。
 状況からして、ユミが何も関与していないとは考えにくい。サイはトキの体を突き飛ばし、ユミの胸倉を掴む。

「ユミ! テコをどこへやった!」
「あの……、えっとぉ……」
「えっとじゃない!」
 サイは怒声を飛ばすが、その眼は涙で潤んでいる。ユミにはこれ以上隠し通すことなどできなかった。

「森に……」
「森だと!? この広い?」
 胸倉を掴む手の力が少しずつ強くなっていくのが分かる。
「お願い……、ついて来て。テコのところまで……」

 ばちん。



 乾いた音ともに、ユミの視界がぐるんと回る。頬には焼けるような痛みが駆け巡る。
「ついて来いだと!? そんなことが出来たら姉さんだって……」
 ユミの頬をはたくために振りぬいたてのひらを、引き戻しながら握りこぶしを作っていく。
 次のユミの返答次第では、今度は本気で殴られかねないだろう。
「お願い……、私を信じてついて来て……。このままじゃほんとにテコが居なくなっちゃう……」
 涙ながらに訴える。同情を誘おうなどという気はさらさらない。
 しかしその態度が、かえってサイの忌諱ききに触れたようだ。
「泣きたいのはテコの方だ!」
 
「やめろ。サイ」
 
 立ち上がったトキが引き手になったサイの肘を掴む。
「ぐっ……」
 しばらくトキの手を振り払おうとする動作を見せていたが、やがて落ち着いたのか腕を下す。
「ユミについて行ってどうなるんだよ……」
「ユミを殴ったところでもどうにもならん」
 不貞腐れた様子のサイの頭を軽く撫でると、トキは改めてその大きな顔をユミに向ける。

「ユミ、お前、テコの場所が分かるのか?」
「……うん。テコと一緒に歩いてたんだけど、眠くて転んで……、足をくじいて動けなくなっちゃったみたいで……。助けを呼んでくるから動かずに待っててって……」
 余計な意図を読み取られない様に、誰を呼ぼうとしたか言及は避けた。

「サイ、ユミを信じてみないか? 俺達にテコの場所が分からん以上、そうするしかない」
「……ああ。だったら行動は早い方がいい」
 相変わらずユミを射るような、冷たいサイの視線だったが、ひとまずは話を聞き入れてくれたことに感謝した。

――――

「テコ!」
「サイぃいいいい!」
 ユミの言いつけ通り、テコは転んだ場所から動かずに待っていたようだ。
 尻もちをついた状態で座り込んでいた彼の姿を認めると、サイは一目散に駆け出し抱き締めた。

「怖かったろう? こんなところに一人で……」
「うん……。でもかーちゃん達にも会えたから」
「かーちゃん?」
 サイが素っ頓狂な声を上げると、トキとギンがユミの方へと眼を向ける。
 昨晩の寝床からここへ来るまでの間、何故テコを連れ出すような真似をしたのか真実を話すことが出来ないでいたのだ。
 
 ユミがもりす記憶を使い、鳩の縛めを犯すことの条件として、自ら掲げていた規律が2点あった。
 1つは他者の為の行動であること。
 もう1つは縛めを犯したことの責任は自らで負うことだ。
 
 モバラへ帰りたいと言い出したのはテコだったが、その背中を押したのはユミだ。それを肝に銘じなければならない。
 従って、あくまでもユミの意志でテコとともに夜の散歩にふける。そのような状況であったと説明していた。
 それを聞いたサイとトキは唖然とした様子だった。一方ギンだけは、場違いにも不満そうな顔を浮かべ「逢引きかよ」と呟いていた。

 「おれがモバラに帰りたいって言ったから、ユミがついて来てくれた」
「テコ、お前モバラに行ってたのか? それが許されざることだと分かっているのか?」
「……うん」
 トミサを介さずに村と村を渡り歩く。鳩の縛めに従えば禁じられていることだ。というよりも、トミサを出入りする際に行われる検分により原理上不可能とされる。
 ただし、渡りに関しては例外だ。トミサでない村へ帰巣本能を発現した者が、複数名同時に外へ出ることが許された機会となる。やろうと思えば村同士の移動も可能なのだ。
 また万が一はぐれてしまった時は、帰巣本能に従い生まれの村へ向かえば良い。トキはその様に指導もしていた。
「確かに出入りした門のことを考えれば、モバラがナガラの近くにあってもおかしくないが……」
 そこまではトキの理解が及ぶところではある。不可解なのはユミの行動だ。
 テコとともにモバラへ赴いたが、その帰り道でテコが動けなくなり、助けを呼びに寝床へと戻って来た。さらにはトキらを引き連れ、テコの居場所まで案内した。
 鳩の常識から考えてあり得ないことを成し遂げている。
「ユミ、お前……。クイが言っていた通り――」
「クイ?」
 何故その名前が飛び出したのか、テコを引き合わせることが出来た今では疑問に思う余裕が生まれていた。
「いや気にしないでくれ」
 トキ自身も、その安堵からか怒気が収まり始めているようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...