鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第三章 口舌り

第三十三話 開封 33 3-7-3/3 101

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「拝啓、この文を受け取った方へ。
 僕はラシノの村に住む錐と言います。
 本来なら将来の鴦と巡り合うための文なのですが、不躾な文面となることをお許しください。
 僕には弓という鴦がいます」

 間髪入れずユミはソラの手元を覗き込んだ。
 キリの手によって刻まれた「弓」という文字が確かにそこにある。目頭が熱くなっていくのを感じた。
 ソラの朗読を待てず、自ら読み進めようと試みたが既に眼の前が滲み始めている。
「ソラ……、続き……、お願い……」
 ソラの体側たいそくへ抱き着き、震える体を抑えつける。
「ユミ……。もう、しょうがないなぁ……」
 ソラは一旦文を文机へ置き、ユミの頭を撫でてやる。

「ソラさん……。ユミのお姉さんみたいだ」
 2人の間に流れる温かくも歯がゆい空気に触れ、ギンから笑顔が漏れた。
「うふふ。たまに言われるの。姉妹みたいとはよく言われるんだけど、どっちが姉か分からないって」
 少しずつユミの震えが収まっていくのを感じる。
「ユミ、続き読むよ。このままでいいから、最後までいい子で聞いててね」
 ユミの耳元へそっと囁くと、小さく頷き返してきたのが分かった。

「僕は訳あって弓とは久しく会えていません。
 こうして筆を取ったのは、僕の言葉が弓に届くのを願ってのことなのです。
 全く関係の無い方へ届いてしまったのなら本当にごめんなさい。
 鳩の方には合わない相手だったとだけ伝えて頂けると幸いです。
 僕と弓との関係を表向きにする訳にはいかないのです」

 ソラの体に身を委ねながらユミは考える。
 ユミにとってキリが鴛鴦文を書くのを待つことは賭けであった。
 またキリにとっても鴛鴦文に言葉を託したのは賭けの様であった。そして場合によっては、ユミが孵卵で成したことやユミの持つもりすについても明るみに出てしまう暴挙とも言える。
 しかし当然、キリの賭けを恨む気にはならない。むしろユミの意図を察してくれたのだと称賛するべきだろう。

「これ以降の言葉は弓に届いたものだと信じて綴ります。
 弓 大好き
 別れた後も弓のことを忘れたことはありません。
 弓と過ごした思い出があったから僕は今日まで乗り越えることが出来ました。本当にありがとう。
 弓は立派な鳩になって羽ばたいていることと思います。叶うことなら今すぐ会いたい」

「うわぁああああ! キリぃいいいいい!」
 我慢できなくなってユミは泣き叫ぶ。
「わだじもあいだいよぉおおおおお!!!!」
 顔をソラに押し付けたまま、抱き着く力が強くなった。

「ユミ! 落ち着いて! 私はキリくんじゃないよ!」
 ソラの一喝でユミは我に返る。
「ご、ごめん。最後までいい子でいる約束だったよね……。続けて、その後で話すから……」
 意味深長な言い方が気にはなるが、ソラは咳ばらいをして続きを読む。

「弓がラシノに来られない事情は把握しています。
 でもいつか迎えに来てくれる。その日までには僕も弓との約束を守ります。
 僕はいつまでも待っています。だから弓は精一杯鳩の務めを果たして下さい」

「うん、まっててね、キリ。近い内には必ず会いに行くから……」
 ソラにも聞こえないほどのか細い声で呟いた。

「この文が弓に届いているということは、きっと僕のお姉さんにも届いているのだと思います。
 空姉さん」

 読み上げてしまってからソラははっとしたように顔を上げる。抱き着いているユミの体がぴくっと動くのを感じたが、顔は体に貼りついたままだ。
 ソラがギンの方を見やると、彼は神妙な面持ちで構えていた。続きに何が書かれていても自分がちゃんと受け止めてやる、そんな思いが現れているようだ。
 強張っていた肩の力が緩むのを感じる。そのままゆっくりと文に眼を通していく。

「空姉さん
 姉さんのことは弓が話してくれました。あの時はまだ本当に姉さんかは分かりませんでしたが、今では確信しています。
 姉さんが弓と一緒にラシノへ辿り着いた時、母さんが弓と姉さんのことを空と呼ぶのを聞いたから。
 姉さんにとって、ラシノは危険な場所です。姉さんにもまた会いたいけど、近づかない方がいいです。
 どうかこれからもお元気で。弓と姉さんが幸せであることを願います。
 敬具
 ラシノの村の錐より」

 あっけない締め括り。そんな印象を受けた。
 しかしソラにとって大きな衝撃だった。
 
 ソラ自身もほとんど気づいていた。あの日ラシノで出会ったのは母と弟なのだろうと。
 分からないのは、何故自分がウラヤで暮らしているのかという点だ。
 一方で、その事情を知る者が身近にいるのだとは容易に推察できる。
 今まで無知でいられたのは、自ら答えに辿り着くのを避けていたからだ。

「終わったの? ソラ……」
「うん。終わったよ、ユミ。良かったね。キリくん、ユミのこと大好きだって」
「うん。ほんとに良かった……」
 ユミはようやく顔を上げる。間近にはソラの顔がある。
 
「うん、やっぱり似てる……」
「え?」
 ユミとソラは似ている。ギンがソラと初めて顔合わせした時の印象だ。
 しかし今は、ユミの視点からソラが誰かと似ていると語られている。
 ギンにもそれが何を意味するのかは察しがついた。
 
「私がキリを好きになったきっかけは可愛いと思ったから。そう、ソラに似て……」
 ソラ自身、ユミが鳩になるまで自分の顔を知らなかったし、容姿について気にしたことは無かった。
 ある日ギンから贈られた鏡を見て、ユミと姉妹だと言われる所以にようやく納得したものだった。

「キリを迎えに行くまでに、ソラの秘密を知らなきゃいけないと思う。だから聞こう? 先生にソラのことを」
 ユミはヤマが控えている隣の部屋へと視線を送った。
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