鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

文字の大きさ
103 / 181
第三章 口舌り

第三十四話 出自 34 3-8-1/4 102

しおりを挟む
「すまないねソラ。本当はあんたが大人になった時に話してやろうと思ってたんだが、すっかり遅くなっちまった」
 ヤマは座椅子へと身を委ねながら口を開く。
「さて、何から話したものか……」
 ヤマの手には1通の封筒が携えられている。どこにでもあるような封筒のはずなのだが、ユミはそれが何か勘付いてしまった。
 
 ユミはヤマと対面する位置に正座している。そしてユミの隣にはソラ、さらにその隣にはギンが腰を下ろす。
 ギンは触れ合うソラの肩から震えを感じていた。その体を抱き留めてやりたくもなるが、それは場違いな行為だと思い動けなくなっていた。
 しかしソラの方からのギンの膝の上へと手を乗せてきたので、ゆっくりとその上に手を重ねてやる。
 ギンの温もりに触れソラは決心がついたのだろう。こくんと喉を鳴らして固唾を飲み、ヤマに向かって問いかける。

「先生は私の親を知っているの?」
 伝えるべき第一声を考えあぐねていたヤマにとって、ある意味その問いは救いの手だったとも言える。
 真剣なソラの眼差しに応じる様に、重々しく返答する。
「ああ、よく知っているよ」
 
 やはりか、ソラの表情がその心証を物語っていた。
 ソラにとってこれは問いかけというより答え合わせなのだ。
 しかし次のヤマの言葉は、想定していた答えとは異なるものだった。

「あんたの父親のことはよく知ってるよ」
「え? そっち?」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「……お父さんのことは全然頭に無かった。てっきり先生がお母さんの知り合いなのかと……。」

 動揺を見せるソラを横目に、ユミはキリの父親から聞いた話を思い出していた。
 カラによればソラはアイの娘ではあるが、彼自身の娘では無いそうなのだ。それにもかかわらず、露骨にソラの父親のことを隠そうとしていた。そのことを考えれば、それが誰なのかも推し量ることが出来た。

 一方のヤマは指で頭を搔いていた。ソラの反応が意味することを思惑していた様子だったが、やがて思い至ることがあり眼を見開いた。
「ソラ、お前……、母親に会ったことがあるのかい?」
「うん……。あれが本当にお母さんだったらの話だけど……」
 ギンの膝に乗せられた手に力がこもる。沸き立つ恐怖から逃れようと、何かに縋りつきたいという思いが伝わっていく。
「ソラさん……」
 ギンにはソラの事情が分からない。せめて支えになれるよう、ソラに重ねた手をゆっくりと撫でてやる。
「ありがとうギンくん」
 上目遣いにギンを見つめ、ソラは体を委ねていく。

阿呆鴛鴦あほうどり
 ソラを相手にこの言葉を使うことになろうとは、ユミは思っていなかった。
 呆れた表情を浮かべつつ、阿呆鴛鴦の戯れが長くなりそうだったのでユミから説明を試みる。

「先生、5年前……。私がトミサに旅立つ前日だけど、ソラが森へ飛び出していったの覚えてる?」
「ああ、やっぱりその時か……」
 ヤマの仮説を裏付ける問いかけだったようだ。
「ごめんな、ソラ。もっとソラの悩みに気づいてやれれば……」

「違うの!」
 ソラの声。
「先生のせいじゃない!」
 ユミもほぼ同時に声を発する。
 ソラにはもっとハコのことを信じることが出来ればという思いがあった。そしてユミには、ソラの帰巣本能を試してみようなどと提案してしまった後悔がある。
 しかし、責任の所在を問うても仕方のないことである。重要なのはその事実を受け止め、次にどう動くかだ。

 「やっぱりあの人……、アイさんが私のお母さんなの?」
 ヤマはゆっくりとそして厳かに頷いた。
「ああ、確かそんな名前だったな……」
「そんな名前だった? 先生はアイさんのことはあまり知らないの?」
 少しずつソラの口が滑らかになっていく。恐怖心よりも真実を知りたいという気持ちが勝ってきたようだ。

「私がアイと会ったのは1度きりだ。あんたを救い出し……、なんてのは詭弁か。あんたを奪い取った時の1回だけだ」
「救い出した? 奪い取った?」
 ソラは眼を丸くする。
「ああそうだ。お前がまだ生まれて間もない頃にな」
「なんでそんなことを……」
 ヤマが詭弁だと言うからには少なからず後悔があると言うことだろうか。

 ソラが居なくなったからアイがあんな風なのか、アイがあんな風だからソラが奪われたのか。
 ヤマは後者だと認識しているようだ。

「私に後悔があるとすれば、あんたに帰巣本能を目覚めさせてしまったことだ。ああ、ソラは本当はアイの元へ行きたいんだなって……」
「そんなことない! アイさん怖かった……。キリくんをいじめてたみたいだし、私の眼がどうのって……」
 ギンに委ねられた体がぐっと重くなる。ギンは今度こそ、ソラの肩を抱いてやる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...