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第四章 巣立ち
第四十一話 眼 41 4-2-3/3 127
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「ねえユミ。……私がアイさんの元へ行けばキリくんを助けられるの?」
ソラは伏し目がちに問うてみる。
「バカなこと言わないで!」
対するユミはおぞましい提案を全力で拒否する。
アイの文に従えばソラの言う通りである。しかし、当然ながら受け入れられるような要求ではない。
「アイはソラのことなんて求めてない。……本質的には」
「そうなの?」
ユミの言葉はあまりにも酷だが、ソラは気にしていない様子である。
「思い出して。アイにとってソラって誰のことか」
ソラの中でのアイの記憶は、6年前の邂逅に集約される。
「アイさんにとってのソラ……、あっ! アイさんの言うソラってどっちのこと? 私? それともユミ?」
「多分、どっちもなんだと思う」
ユミは即答する。ユミの中では既に結論づいていたのだが、ウラヤに舞い戻って来たのはそれをソラに納得してもらうためだった。
「覚えてる? ラシノに辿り着いちゃった時、アイが私達2人を見てどっちも欲しいって言ってたこと」
「うん。今でも訳が分からないけど、それがアイさんの認識ってことだよね。つまりアイさんは私じゃなくてもいいってことか……」
「そう。本質的に求めてないってのはそういうこと」
ソラのアイに対する感情は複雑だ。彼女に唯一評価を与えられるとすれば、ソラを我が子だと認識していたことである。その立場さえもユミに奪われてしまいそうなのだが、この件についてユミに嫉妬するのもお門違いと言うものだ。
「なあ、私にも分かるように説明してくんないか? 確かにアイ、気が狂ったようにソラって叫んでたよな。あれってユミに向けて言ってたのか?」
サイは不審そうに問いかける。
「そうだよ! 他にいないでしょ!」
ユミはつい口調を荒げてしまう。
「なんでだよ!?」
それに乗じる様に、サイの声色も強くなる。
「なんでって……。分かんないのサイ?」
「分かるかっ! お前ソラなのか!?」
「そんな訳ないでしょ! はぁ……、やっぱりダメだねサイは」
「んだと? こんにゃろう!」
サイは立ち上がり、ユミとの間合いを詰める。
「ま、待ってよ2人とも! 言い争ってる場合じゃないでしょう?」
既にユミの胸倉を掴んでいたサイの右手を、ソラは必死で引き剥がそうとする。しかししっかりと握られたそれは、ソラの力では遠く及ばない。
「わっ!」
サイがソラに顔を振ったかと思うと、その瞬間にはソラの体が横抱きに抱え上げられていた。
そして自分の物だと言わんばかりに、ユミから離れた場所へとソラを運ぶ。
「撫でさせろソラ。テコの代わりだ。なんかいらいらする」
サイはその場であぐらをかくと、その上にソラを座らせた。サイの左膝へソラの背を持たれさせ、その頭を乱暴に撫でまわす。
「ちょ、サイさん……。テコくんてサイさんの? いつもこんなことしてるの?」
ソラは胸元で両拳を握り、サイにされるがままである。
「ああ、可愛いものは可愛がってこそ可愛いからな」
ぐらぐらと首を振り回されながら、ソラはその言葉の意味を考える。しかし真相に辿り着くことは出来なかった。
「サイ、一旦手を止めて」
「あ?」
相変わらず不愛想な口調だったが、ユミの真剣な眼差しに射貫かれ、サイの手は動きを止める。
それに伴い、ソラの首の動きもぴたりと止まる。ちょうどサイの顔を見上げる角度だった。
ソラの美貌に見つめられると、サイの視線も自然と引き寄せられる。そして思わずソラの顎を掴んでしまう。
その2人の位置関係はユミにとって都合が良かった。
「空の眼は今誰を見てるの誰に見られてるの」
「サイさん……」
ユミに読み上げられたアイの文の一文。ソラは無意識のままに答えていた。
「サイ、何か気づかない? ソラの眼を見て」
「こいつぁ綺麗だなぁ……」
ため息混じりの呟き。ユミは嬉しくなってしまう。
「その綺麗な眼、他でも見たことない?」
「他でも? こんな綺麗なもん……」
呟きながらサイはユミへと視線を移す。
――そして息を飲んだ。
「ユミ、お前……」
もう一度、手元のソラの眼を見る。そこでようやくユミが言わんとしていることを理解する。
納得した様子で大きく頷くと、ソラの体をユミの隣に運び、座らせた。
そこには、赤い瞳に目尻の切れた眼が4つ並んでいる。
「同じだ……」
「やっと分かった? ギンも気づいてたみたいだよ。ソラの顔を初めて見た時から」
「いや、あいつは女ばっか見てたから気づくだろ」
「もーギンくんったら……」
まるで自分のことのように、ソラに羞恥心が芽生え出す。
「もう1人、同じ眼を持つ人を知ってるよ」
「え? ……あっ!」
「そうだよソラ。先生言ってたよね。ソラは父親と眼がそっくりだって」
子が親と似るのは普遍の真理である。
「お母さんも言ってた。私の眼がお父さんそっくりだって」
普遍の真理が重なり、新たな事実が明らかになる。
ユミは一度眼を閉じる。答えを勿体ぶろうとしての行動だったが、かつてアイには閉じた眼もそっくりだと言われたことを思い出す。
それがバカらしくなり、覚悟を決めて両眼を開いた。
「ソラは私の妹だ」
ソラは伏し目がちに問うてみる。
「バカなこと言わないで!」
対するユミはおぞましい提案を全力で拒否する。
アイの文に従えばソラの言う通りである。しかし、当然ながら受け入れられるような要求ではない。
「アイはソラのことなんて求めてない。……本質的には」
「そうなの?」
ユミの言葉はあまりにも酷だが、ソラは気にしていない様子である。
「思い出して。アイにとってソラって誰のことか」
ソラの中でのアイの記憶は、6年前の邂逅に集約される。
「アイさんにとってのソラ……、あっ! アイさんの言うソラってどっちのこと? 私? それともユミ?」
「多分、どっちもなんだと思う」
ユミは即答する。ユミの中では既に結論づいていたのだが、ウラヤに舞い戻って来たのはそれをソラに納得してもらうためだった。
「覚えてる? ラシノに辿り着いちゃった時、アイが私達2人を見てどっちも欲しいって言ってたこと」
「うん。今でも訳が分からないけど、それがアイさんの認識ってことだよね。つまりアイさんは私じゃなくてもいいってことか……」
「そう。本質的に求めてないってのはそういうこと」
ソラのアイに対する感情は複雑だ。彼女に唯一評価を与えられるとすれば、ソラを我が子だと認識していたことである。その立場さえもユミに奪われてしまいそうなのだが、この件についてユミに嫉妬するのもお門違いと言うものだ。
「なあ、私にも分かるように説明してくんないか? 確かにアイ、気が狂ったようにソラって叫んでたよな。あれってユミに向けて言ってたのか?」
サイは不審そうに問いかける。
「そうだよ! 他にいないでしょ!」
ユミはつい口調を荒げてしまう。
「なんでだよ!?」
それに乗じる様に、サイの声色も強くなる。
「なんでって……。分かんないのサイ?」
「分かるかっ! お前ソラなのか!?」
「そんな訳ないでしょ! はぁ……、やっぱりダメだねサイは」
「んだと? こんにゃろう!」
サイは立ち上がり、ユミとの間合いを詰める。
「ま、待ってよ2人とも! 言い争ってる場合じゃないでしょう?」
既にユミの胸倉を掴んでいたサイの右手を、ソラは必死で引き剥がそうとする。しかししっかりと握られたそれは、ソラの力では遠く及ばない。
「わっ!」
サイがソラに顔を振ったかと思うと、その瞬間にはソラの体が横抱きに抱え上げられていた。
そして自分の物だと言わんばかりに、ユミから離れた場所へとソラを運ぶ。
「撫でさせろソラ。テコの代わりだ。なんかいらいらする」
サイはその場であぐらをかくと、その上にソラを座らせた。サイの左膝へソラの背を持たれさせ、その頭を乱暴に撫でまわす。
「ちょ、サイさん……。テコくんてサイさんの? いつもこんなことしてるの?」
ソラは胸元で両拳を握り、サイにされるがままである。
「ああ、可愛いものは可愛がってこそ可愛いからな」
ぐらぐらと首を振り回されながら、ソラはその言葉の意味を考える。しかし真相に辿り着くことは出来なかった。
「サイ、一旦手を止めて」
「あ?」
相変わらず不愛想な口調だったが、ユミの真剣な眼差しに射貫かれ、サイの手は動きを止める。
それに伴い、ソラの首の動きもぴたりと止まる。ちょうどサイの顔を見上げる角度だった。
ソラの美貌に見つめられると、サイの視線も自然と引き寄せられる。そして思わずソラの顎を掴んでしまう。
その2人の位置関係はユミにとって都合が良かった。
「空の眼は今誰を見てるの誰に見られてるの」
「サイさん……」
ユミに読み上げられたアイの文の一文。ソラは無意識のままに答えていた。
「サイ、何か気づかない? ソラの眼を見て」
「こいつぁ綺麗だなぁ……」
ため息混じりの呟き。ユミは嬉しくなってしまう。
「その綺麗な眼、他でも見たことない?」
「他でも? こんな綺麗なもん……」
呟きながらサイはユミへと視線を移す。
――そして息を飲んだ。
「ユミ、お前……」
もう一度、手元のソラの眼を見る。そこでようやくユミが言わんとしていることを理解する。
納得した様子で大きく頷くと、ソラの体をユミの隣に運び、座らせた。
そこには、赤い瞳に目尻の切れた眼が4つ並んでいる。
「同じだ……」
「やっと分かった? ギンも気づいてたみたいだよ。ソラの顔を初めて見た時から」
「いや、あいつは女ばっか見てたから気づくだろ」
「もーギンくんったら……」
まるで自分のことのように、ソラに羞恥心が芽生え出す。
「もう1人、同じ眼を持つ人を知ってるよ」
「え? ……あっ!」
「そうだよソラ。先生言ってたよね。ソラは父親と眼がそっくりだって」
子が親と似るのは普遍の真理である。
「お母さんも言ってた。私の眼がお父さんそっくりだって」
普遍の真理が重なり、新たな事実が明らかになる。
ユミは一度眼を閉じる。答えを勿体ぶろうとしての行動だったが、かつてアイには閉じた眼もそっくりだと言われたことを思い出す。
それがバカらしくなり、覚悟を決めて両眼を開いた。
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