鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第四章 巣立ち

第四十二話 活路 42 4-3-1/3 128

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「ソラが、ユミの妹?」
 サイは眼を点にして呟いた。
「そう、腹違いのね」
「つまり……、私のお父さんはユミのお父さんでもあるってこと?」
 ソラは首を傾げる。
「うん、ケンのこと。昔からソラとは姉妹みたいって言われてたけど、本当に姉妹だったんだよ」
 依然として残る父への嫌悪感から、ユミの言葉には棘が含まれている。
 
「ソラの父親って言えば、今ナガレにいるんだっけ? ギンが挨拶しに行くんだって言ってたよな?」
「そう、それがケン。先生の知り合いでもあるみたいだね」
 改めて口にしてみれば、不思議な縁だと感じてしまう。

「私、ユミと姉妹だって言われる度にお母さん――ハコさんが私のお母さんなんだって思うようにしてた。なのにお父さんの方だったなんて――」
「ちょっと待て!」
 感傷に浸るソラの声を遮るようにサイは叫んだ。
「なんでそんなに簡単に納得してんだよ! ユミとソラがケンの眼と似てるってだけだろ? その根拠だけで姉妹だって言い切れるのか?」
「似てるんじゃないよ。同じだよ、この眼は」
 ユミは自身の眼とソラの眼を交互に指差す。
「確かに……」
 サイの視線がユミの指先を追いかけてくるので、ユミにはその様子が滑稽に思えてくる。
 そのまま指をサイの顔まで持って行き、眼の前でぐるぐると回してみた。案の定、サイの瞳もぐるぐると回る。

「わー、めがまわるー」
 そう言ったのも束の間、ぺしっとユミの手を払いのけサイは立ち上がる。
 
「じゃねぇ! 誰がトンボだ!? いつもいつもおちょくりやがって! 根拠を出せっつってんだ!」
「重要なのは私がケンの娘であることの真偽じゃないよ。私がケンと同じ眼を持ってるってこと」
「むむむ?」
 サイが根拠にこだわっているのは、他でもないユミとソラのためだった。
 自身でも思考力に至ってはユミに劣っている自覚はあった。それでも状況が状況だけに、物事は慎重に進めるべきである。
 
 ユミがもりすを使い、鳩の縛めを犯す時はそれが七班の総意であること。そして全員が責任を負うこと。
 七班の縛めで約束されたことである。しかしこの場には、七班の内サイしかいない。ユミの行動計画に欠落点があるならばサイが正してやらねばならないのだ。
 
 今日こそは舌先三寸のユミの話術に惑わされず、議論をわそうと息巻いていたのだが、あっけなく言いくるめられてしまいそうだ。

「ごめんね、ソラ。今から言うことはソラを傷つけることになると思う」
「うん、大丈夫。ユミの言いたいこと、多分分かる」
 ソラは力強く頷いた。
「なんだよぉ。また私は置いてけぼりかよぉ」
 姉妹に向かってサイは頬を膨らませた。

「さっきも言った通り、アイはソラのことを本質的には求めていない。これが分かる事実は何でしょう? はい、サイくん」
「……ユミのことをソラって呼んでるくらいだもんな。実の娘だと見間違えたユミでもいいからアイは欲しいのか」
 ユミの口ぶりに引っかかりを覚えながらも、サイは努めて冷静に答えていく。
「そう、そして何故見間違えたか。答えは私とソラが共通の物を持っているから。それは何?」
「眼か……」
 散々ユミにからかわれたこともあり、サイもすんなりと答えに辿り着くことが出来た。

「私は孵卵で森をさまよった挙句、偶然にもラシノに足を踏み入れてアイに出会った。それで監禁されそうになった。目隠しまでされてね。そこで出てくるのがこの一文」
 ユミはアイの文を両手で示す。非常に読みにくい文ではあるが、読むべき個所の端と端に人差し指を置く。

 ――約束したでしょうその眼を誰にも見せちゃダメってなのに空の眼は今誰を見てるの誰に見られてるの
 
「ここでいう空がユミのことになるのか。……お前そんな約束したのか?」
「バカ!」
 少々理不尽であろうとは感じたが、サイの頬を平手で打つ。
「そんな訳ないでしょ! アイが勝手に言っただけだよ!」
「……それはそうか」
 打たれた頬を撫でながら呟くが、やがてその手を離してソラを手招きする。
「ソラちょっとこっち来い」
「え?」
 ソラは不思議そうな顔を浮かべながらも、素直に立ち上がりサイの隣へと腰を下ろした。
 サイは満足気にソラの手首を掴み、先ほど打たれた頬へ引き寄せ撫でさせる。
「これが本当の手当てって奴だな。これだけで痛みが引いてくんだもんな。ソラは医師としての才能があったんだなぁ」
「サイさんは私を何だと思ってるの?」
 ソラは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

「そのままでいいから聞いててね。アイはとにかくこの眼に異常な執着を持ってる。眼の持ち主を差し置いて」
「そう言うことなんだろうね……。だからアイさんは私の眼を……」
 その続きを口に出すことが出来なかった。サイの頬に触れている手が震えるが、今ではその体温に救われた気分になる。
 
「ソラと私、どっちでもいいなんて言ってたしね、あの時」
 ユミは再びアイの文へ指を巡らせ、文末近くを示した。

 ――空は剣の代わりなんだから

「これに尽きるでしょ。アイは今もケンのことが好き。ケンと同じ眼を持つソラと私のことはその代わりとしか思ってない」
「なるほど、ソラには酷な話かもしれんが有り体に言えばそうなるのか。で、ユミがケンの娘であろうとなかろうとどっちでもいいと。ケンと同じ眼を持っていさえすれば」
 サイは納得したように呟くが、その声には憐みの念も含まれていた。
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