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第四章 巣立ち
第四十二話 活路 42 4-3-3/3 130
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「アイが求めているのはケンだって分かれば、アイがキリに辛く当たる理由も見えてくる」
「そっか……。キリくんはキリくんのお父さんが居なくなってから、アイさんに叩かれるようになったって言ってたんだよね。でも同時に私のお父さんもラシノに行かなくなった。行けなくなったって言う方が正確なんだろうけど」
ソラは俯く。
「お父さん、ナガレに送られちゃったから……。キリくんのお父さんに何かしたせいで」
ほぼ会ったことの無いような父親ではあるが、その不埒を恥じているようだ。
しかしそれは、ソラが父親との結びつきを感じているからだとも言えるだろう。
「うん、多分そのせい。アイはケンに会えなくなった苛立ちをキリにぶつけてる。なんならキリのせいでケンが居なくなったとでも思ってるのかもしれないね」
話始める前、ソラが辛くなるだろうと念は押していた。
しかし案の定、ソラの落胆が深くなっていく様を見て、ユミは心苦しくなってしまう。
それでも明らかにしておきたいことはあった。
「ケンの代償が暴力として発現するんだとして、お義父さんを殴った一因になっているんだとは思う。ソラには代償について気に病むことはないとは言ったけど、それは誰にも迷惑をかけていないから。私が追いかければ済む話だったからね。でもお義父さんについては一生ものの怪我を負わせられた。ケンがナガレに行くのは妥当だと思ってる」
「それについては私も同意するよ。でも、きっとお父さんだって反省はしてるはず。だから、私だけでも優しく接して上げちゃダメかな?」
縋るような視線をユミへと送ってくる。
「それはソラの判断ですりゃいいさ。人に対する評価なんて誰かの評価を参考にしてちゃきりがない」
ユミが答える前にサイが答えた。
「ソラ、私のこと好きか?」
「もちろんだよ、サイさん」
即答したソラの頭をサイは撫でてやる。
「ありがとう。もちろん私もソラが好きだ。でもな、私のことを嫌いな奴っていっぱいいるんだよ。この前も賽子勝負で負かした相手に背中から刺されそうになった。もちろん返り討ちにしてナガレ送りにしてやったけどな」
事も無げに物騒なことを暴露する。
「え……。大丈夫かな、お父さん。そんな人と一緒に居て」
「大丈夫だよ、ソラ。ケンはそんなやわじゃない。ナガレを制圧できる力だって持ってるよ」
もはや父親の暴状について開き直っていた。
「ごめん。かなり遠回りになっちゃたけど私が言いたいのは、アイが本当に求めているのはソラじゃなくてケン。アイはソラと私の眼からケンの面影を見出していただけ」
「うん、もう納得してる。自分の子供のことが大切ならキリくんをいじめたりしないよね……」
ソラも母の狂気に開き直っている様子だ。
「ねえソラ。私が孵卵で家を空けている間、私の代わりにお母さんの娘になろうとしてくれてたんだよね」
「うん……。でもやっぱりお母さん、あの時はまだユミと私との認識に差があるみたいだったし、ユミにも怒られちゃった……」
「それに関しては本当にごめん。でも、それで思ったことがあったの。本来母親なら子供をこうやって大事にするものだよなって。お母さんはケンのことが好きになって、ソラと私はそれと同じ眼を持っているのに、飽くまでも私のことを愛してくれた。これはアイとの大きな差なんだと思う」
今でこそハコはソラのことを実の娘のように扱っている。しかしソラはまだそれについて確信が得られていないはずだ。
「お母さん、今ではソラのことを本当の娘だと思ってるよ。あれ以来、眼を見た訳でもないのに」
ソラがギンと正式に鴛鴦になり、トミサへやってくる前に2人の関係ははっきりさせておきたいとユミは考えていた。
「お母さん……」
ソラの中に、温かいものがこみ上げる。
「そう言えばウラヤに一人、心優しい百舌鳥が居たはずだ。今はもう引退しているのだろうが。あの方が空の母親になってくれないかとさえ思ってしまいます」
「ユミ?」
「覚えてる? ソラ。ケンの文に書かれてた一文だよ」
たとえ忌み嫌う者の言葉であっても、ユミのもりすを以てすれば記憶にはしっかりと刻まれていた。
「心優しい百舌鳥って……、もしかしてお母さん?」
「うん、間違いないと思う。ケンの願いは叶ってたんだよ」
ケンにとって母は百舌鳥の一人でしかなかったのだろうが、その中でも何か特別な感情を抱いていたのかもしれない。
「そっか……。お父さん喜んでくれるかな?」
感慨深いソラの声が部屋に響き渡った。
「で、これからどうすんだ?」
姉妹の間に流れる温かい余韻を裂くように、サイがぽんと手を打った。
「ケンをアイに引き合わせる。それがキリを助けるための答えだと思う」
「うん。私もそれには同意見」
複雑な顔を浮かべながらも、ソラは強く頷いた。
「じゃあナガレに行くってことか?」
「うん。それも七班の皆から承諾を得たことでしょ」
「確かにそうだったな……。本来の目的とは違うが、私が引き止めることは出来んな」
ナガレに赴く目的は本来2つあった。
1つはギンの手からソラの文をケンに届けること。
そしてもう1つは、ミズの近況をアサに伝えてやることだ。
前者の目的は、ここにいる人員では果たすことは出来ないが、日を改めれば良いだけの話だ。
ユミは立ちあがる。
「もう行くのか? 私は構わんけど」
サイも立ち上がり、右手で作った握り拳を左手で覆いぽきぽきと鳴らし始める。
「ちょっとサイさん! 殴り込みに行くわけじゃ……、殴り込みに行くのかな?」
「場合によってはそうなるかもね。あそこの空間では鳩の縛めも機能しないから」
口に出してみることで、改めて縛めの恩恵を認識する。
「少しでも懸念を減らすために、得られる情報は予め得ておきたい」
「得られる情報?」
「そう、ヤミさんに話を話しを聞きに行こう。そろそろ帰ってるはずだからね。ヤミさんがナガレで囚われている間に、知り得たこともあったはず。それを聞いておきたい」
「そっか……。キリくんはキリくんのお父さんが居なくなってから、アイさんに叩かれるようになったって言ってたんだよね。でも同時に私のお父さんもラシノに行かなくなった。行けなくなったって言う方が正確なんだろうけど」
ソラは俯く。
「お父さん、ナガレに送られちゃったから……。キリくんのお父さんに何かしたせいで」
ほぼ会ったことの無いような父親ではあるが、その不埒を恥じているようだ。
しかしそれは、ソラが父親との結びつきを感じているからだとも言えるだろう。
「うん、多分そのせい。アイはケンに会えなくなった苛立ちをキリにぶつけてる。なんならキリのせいでケンが居なくなったとでも思ってるのかもしれないね」
話始める前、ソラが辛くなるだろうと念は押していた。
しかし案の定、ソラの落胆が深くなっていく様を見て、ユミは心苦しくなってしまう。
それでも明らかにしておきたいことはあった。
「ケンの代償が暴力として発現するんだとして、お義父さんを殴った一因になっているんだとは思う。ソラには代償について気に病むことはないとは言ったけど、それは誰にも迷惑をかけていないから。私が追いかければ済む話だったからね。でもお義父さんについては一生ものの怪我を負わせられた。ケンがナガレに行くのは妥当だと思ってる」
「それについては私も同意するよ。でも、きっとお父さんだって反省はしてるはず。だから、私だけでも優しく接して上げちゃダメかな?」
縋るような視線をユミへと送ってくる。
「それはソラの判断ですりゃいいさ。人に対する評価なんて誰かの評価を参考にしてちゃきりがない」
ユミが答える前にサイが答えた。
「ソラ、私のこと好きか?」
「もちろんだよ、サイさん」
即答したソラの頭をサイは撫でてやる。
「ありがとう。もちろん私もソラが好きだ。でもな、私のことを嫌いな奴っていっぱいいるんだよ。この前も賽子勝負で負かした相手に背中から刺されそうになった。もちろん返り討ちにしてナガレ送りにしてやったけどな」
事も無げに物騒なことを暴露する。
「え……。大丈夫かな、お父さん。そんな人と一緒に居て」
「大丈夫だよ、ソラ。ケンはそんなやわじゃない。ナガレを制圧できる力だって持ってるよ」
もはや父親の暴状について開き直っていた。
「ごめん。かなり遠回りになっちゃたけど私が言いたいのは、アイが本当に求めているのはソラじゃなくてケン。アイはソラと私の眼からケンの面影を見出していただけ」
「うん、もう納得してる。自分の子供のことが大切ならキリくんをいじめたりしないよね……」
ソラも母の狂気に開き直っている様子だ。
「ねえソラ。私が孵卵で家を空けている間、私の代わりにお母さんの娘になろうとしてくれてたんだよね」
「うん……。でもやっぱりお母さん、あの時はまだユミと私との認識に差があるみたいだったし、ユミにも怒られちゃった……」
「それに関しては本当にごめん。でも、それで思ったことがあったの。本来母親なら子供をこうやって大事にするものだよなって。お母さんはケンのことが好きになって、ソラと私はそれと同じ眼を持っているのに、飽くまでも私のことを愛してくれた。これはアイとの大きな差なんだと思う」
今でこそハコはソラのことを実の娘のように扱っている。しかしソラはまだそれについて確信が得られていないはずだ。
「お母さん、今ではソラのことを本当の娘だと思ってるよ。あれ以来、眼を見た訳でもないのに」
ソラがギンと正式に鴛鴦になり、トミサへやってくる前に2人の関係ははっきりさせておきたいとユミは考えていた。
「お母さん……」
ソラの中に、温かいものがこみ上げる。
「そう言えばウラヤに一人、心優しい百舌鳥が居たはずだ。今はもう引退しているのだろうが。あの方が空の母親になってくれないかとさえ思ってしまいます」
「ユミ?」
「覚えてる? ソラ。ケンの文に書かれてた一文だよ」
たとえ忌み嫌う者の言葉であっても、ユミのもりすを以てすれば記憶にはしっかりと刻まれていた。
「心優しい百舌鳥って……、もしかしてお母さん?」
「うん、間違いないと思う。ケンの願いは叶ってたんだよ」
ケンにとって母は百舌鳥の一人でしかなかったのだろうが、その中でも何か特別な感情を抱いていたのかもしれない。
「そっか……。お父さん喜んでくれるかな?」
感慨深いソラの声が部屋に響き渡った。
「で、これからどうすんだ?」
姉妹の間に流れる温かい余韻を裂くように、サイがぽんと手を打った。
「ケンをアイに引き合わせる。それがキリを助けるための答えだと思う」
「うん。私もそれには同意見」
複雑な顔を浮かべながらも、ソラは強く頷いた。
「じゃあナガレに行くってことか?」
「うん。それも七班の皆から承諾を得たことでしょ」
「確かにそうだったな……。本来の目的とは違うが、私が引き止めることは出来んな」
ナガレに赴く目的は本来2つあった。
1つはギンの手からソラの文をケンに届けること。
そしてもう1つは、ミズの近況をアサに伝えてやることだ。
前者の目的は、ここにいる人員では果たすことは出来ないが、日を改めれば良いだけの話だ。
ユミは立ちあがる。
「もう行くのか? 私は構わんけど」
サイも立ち上がり、右手で作った握り拳を左手で覆いぽきぽきと鳴らし始める。
「ちょっとサイさん! 殴り込みに行くわけじゃ……、殴り込みに行くのかな?」
「場合によってはそうなるかもね。あそこの空間では鳩の縛めも機能しないから」
口に出してみることで、改めて縛めの恩恵を認識する。
「少しでも懸念を減らすために、得られる情報は予め得ておきたい」
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