鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

文字の大きさ
131 / 181
第四章 巣立ち

第四十二話 活路 42 4-3-3/3 130

しおりを挟む
「アイが求めているのはケンだって分かれば、アイがキリに辛く当たる理由も見えてくる」
「そっか……。キリくんはキリくんのお父さんが居なくなってから、アイさんに叩かれるようになったって言ってたんだよね。でも同時に私のお父さんもラシノに行かなくなった。行けなくなったって言う方が正確なんだろうけど」
 ソラは俯く。
「お父さん、ナガレに送られちゃったから……。キリくんのお父さんに何かしたせいで」
 ほぼ会ったことの無いような父親ではあるが、その不埒を恥じているようだ。
 しかしそれは、ソラが父親との結びつきを感じているからだとも言えるだろう。
「うん、多分そのせい。アイはケンに会えなくなった苛立ちをキリにぶつけてる。なんならキリのせいでケンが居なくなったとでも思ってるのかもしれないね」

 話始める前、ソラが辛くなるだろうと念は押していた。
 しかし案の定、ソラの落胆が深くなっていく様を見て、ユミは心苦しくなってしまう。
 それでも明らかにしておきたいことはあった。
「ケンの代償が暴力として発現するんだとして、お義父さんを殴った一因になっているんだとは思う。ソラには代償について気に病むことはないとは言ったけど、それは誰にも迷惑をかけていないから。私が追いかければ済む話だったからね。でもお義父さんについては一生ものの怪我を負わせられた。ケンがナガレに行くのは妥当だと思ってる」
「それについては私も同意するよ。でも、きっとお父さんだって反省はしてるはず。だから、私だけでも優しく接して上げちゃダメかな?」
 縋るような視線をユミへと送ってくる。

「それはソラの判断ですりゃいいさ。人に対する評価なんて誰かの評価を参考にしてちゃきりがない」
 ユミが答える前にサイが答えた。
「ソラ、私のこと好きか?」
「もちろんだよ、サイさん」
 即答したソラの頭をサイは撫でてやる。
「ありがとう。もちろん私もソラが好きだ。でもな、私のことを嫌いな奴っていっぱいいるんだよ。この前も賽子さいころ勝負で負かした相手に背中から刺されそうになった。もちろん返り討ちにしてナガレ送りにしてやったけどな」
 事も無げに物騒なことを暴露する。
「え……。大丈夫かな、お父さん。そんな人と一緒に居て」
「大丈夫だよ、ソラ。ケンはそんなやわじゃない。ナガレを制圧できる力だって持ってるよ」
 もはや父親の暴状について開き直っていた。

「ごめん。かなり遠回りになっちゃたけど私が言いたいのは、アイが本当に求めているのはソラじゃなくてケン。アイはソラと私の眼からケンの面影を見出していただけ」
「うん、もう納得してる。自分の子供のことが大切ならキリくんをいじめたりしないよね……」
 ソラも母の狂気に開き直っている様子だ。
「ねえソラ。私が孵卵で家を空けている間、私の代わりにお母さんの娘になろうとしてくれてたんだよね」
「うん……。でもやっぱりお母さん、あの時はまだユミと私との認識に差があるみたいだったし、ユミにも怒られちゃった……」
「それに関しては本当にごめん。でも、それで思ったことがあったの。本来母親なら子供をこうやって大事にするものだよなって。お母さんはケンのことが好きになって、ソラと私はそれと同じ眼を持っているのに、飽くまでも私のことを愛してくれた。これはアイとの大きな差なんだと思う」
 今でこそハコはソラのことを実の娘のように扱っている。しかしソラはまだそれについて確信が得られていないはずだ。
「お母さん、今ではソラのことを本当の娘だと思ってるよ。あれ以来、眼を見た訳でもないのに」
 ソラがギンと正式に鴛鴦になり、トミサへやってくる前に2人の関係ははっきりさせておきたいとユミは考えていた。
「お母さん……」
 ソラの中に、温かいものがこみ上げる。

「そう言えばウラヤに一人、心優しい百舌鳥が居たはずだ。今はもう引退しているのだろうが。あの方が空の母親になってくれないかとさえ思ってしまいます」
「ユミ?」
「覚えてる? ソラ。ケンの文に書かれてた一文だよ」
 たとえ忌み嫌う者の言葉であっても、ユミのもりすを以てすれば記憶にはしっかりと刻まれていた。

「心優しい百舌鳥って……、もしかしてお母さん?」
「うん、間違いないと思う。ケンの願いは叶ってたんだよ」
 ケンにとって母は百舌鳥の一人でしかなかったのだろうが、その中でも何か特別な感情を抱いていたのかもしれない。

「そっか……。お父さん喜んでくれるかな?」
 感慨深いソラの声が部屋に響き渡った。

「で、これからどうすんだ?」
 姉妹の間に流れる温かい余韻を裂くように、サイがぽんと手を打った。
「ケンをアイに引き合わせる。それがキリを助けるための答えだと思う」
「うん。私もそれには同意見」
 複雑な顔を浮かべながらも、ソラは強く頷いた。
 
「じゃあナガレに行くってことか?」
「うん。それも七班の皆から承諾を得たことでしょ」
「確かにそうだったな……。本来の目的とは違うが、私が引き止めることは出来んな」
 ナガレに赴く目的は本来2つあった。
 1つはギンの手からソラの文をケンに届けること。
 そしてもう1つは、ミズの近況をアサに伝えてやることだ。
 前者の目的は、ここにいる人員では果たすことは出来ないが、日を改めれば良いだけの話だ。
 
 ユミは立ちあがる。
「もう行くのか? 私は構わんけど」
 サイも立ち上がり、右手で作った握り拳を左手で覆いぽきぽきと鳴らし始める。
「ちょっとサイさん! 殴り込みに行くわけじゃ……、殴り込みに行くのかな?」
「場合によってはそうなるかもね。あそこの空間では鳩の縛めも機能しないから」
 口に出してみることで、改めて縛めの恩恵を認識する。

「少しでも懸念を減らすために、得られる情報は予め得ておきたい」
「得られる情報?」
「そう、ヤミさんに話を話しを聞きに行こう。そろそろ帰ってるはずだからね。ヤミさんがナガレで囚われている間に、知り得たこともあったはず。それを聞いておきたい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...