鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第四章 巣立ち

第四十六話 野望 46 4-7-3/3 145

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 こんこんと戸を叩く音がする。
 結局眠りに就くことも出来ず、冗長とした時間を過ごしていた。
 起き上がるきっかけが出来たと思い、体を起こして音のした方へと向かう。

「トキさん、いらっしゃいますか?」
 戸の向こう側から聞き覚えのある声がした。
 ぼうっとした頭が一気に冴えわたる。考えるよりも早く引き戸に手が伸びていた。
 
「クイ? ヤミ?」
 勢いよく戸を開いた先には信じられない顔が2つ並んでいた。
「お前ら無事だったのか?」
 眼の前の姿は心なしかやつれたような印象を受ける。

「ご心配おかけしましたね。申し訳ありません。ですがこうして戻って参りましたよ」
「お、おう。お帰り……。ヤミもまた会えて良かった」
「ええ、私も嬉しいわ。ところで――」
 ヤミは笑顔を浮かべつつ、トキの後方を探るように体を傾けた。
 ヤミの言わんとすることに察しはつく。事実を隠し通すことなど出来ようはずもない。

「スナは死んだ」
 無機質に呟く。
「えっ……」
 ヤミは口を開いたまま動かない。しかし、脚が小刻みに震えているのが見て取れた。
 クイはとっさにヤミの肩を抱く。
「どういうことです、トキさん?」
 驚愕の表情を浮かべ問いかける。

「言った通りの意味だ。森で……、鹿に一突きでな……」
「鹿に? あのスナさんが?」
「ああ、腹に穴が――」
「やめてっ!」
 ヤミは耳を塞ぎ、叫びあげる。

「す、すまん……」
 トキは首を小さく俯かせた。
「いえ、トキさんもお辛いでしょうに……。話して頂きありがとうございます」
「ああ。俺もお前らの話を聞きたい。良ければ上がって行ってくれねぇか? もちろんヤミが辛いなら日を改めるが……」
 トキの言葉を受け、クイはヤミの顔を覗き込んだ。
「どうです? ヤミさん」
「ええ、大丈夫。スナのことちゃんと知っておかないと……」

 ――――

 トキの話の続きは部屋の中で聞くことになる。
 腰を下ろし初めの内こそ冷静な様子のトキだったが、次第に情が昂っていくようだった。
「もちろん、血を流すスナを必死で助けようとした。持ち合わせの包帯じゃ足りなくなって、着ていたものを裂いて傷に当てがった。それでも血は止まらない」
 対するクイは額に汗を浮かべながら聞いていた。
 腕に抱いているヤミは終始肩を震わせ、眼には涙を浮かべている。
「ナガラに運んでやろうとも思った。でもスナの体を持ち上げようとすると苦しそうに呻くんだ……。出血も余計に激しくなる。だから俺は……」
 トキは鼻をすする。
「『もういい。お前に出会えてよかった』だなんてスナの最期の言葉を鵜呑みにするしかなかった……」
 クイの眼に項垂れたトキの姿が映る。
「俺は誰かに助けて欲しかった。でも森の中には他に誰もいない。助けを呼びに行こうもんなら、スナの場所に二度と戻って来れなくなる。結局スナの意識が失われた後に、ナガラへ運んでやったんだが腕の中で体はどんどん冷たくなっていく。村へ着いた頃にはもう手遅れだった」
 トキはふうと息をついた。

「すまねぇな。ついさっきまで俺も悲しみに暮れてたんだ。だがスナの妹が孵卵を受けるって言い出してな。俺も前を向かなきゃならないってようやく起き上がれたところなんだ」
「そうでしたか。そんな中押しかけてしまって申し訳ありません」
 トキを訪ねたのは我が子が生まれたと報告するためだった。しかし、この状況において新たな命のことなど口に出来るはずも無かった。
「気にしないでくれ。とにかくお前らに話せてよかった。そうだ……」
 トキは顔を上げる。そしてクイの眼を真っ直ぐに見据えた。
「どうしました?」
「サイがもし鳩になれたら俺が面倒を見てやりたい。気は早いかもしれんが、学舎の長に掛け合ってみよう。あいつの雛の担当になれないかって」
 先ほど目標について考えていたところだった。
 体がでかいからとナガラの生家からは追い出され、スナに導かれるように今日まで生きて来た。そこに自分の意思など反映されていないかのように。
 もしサイを鳩として導くことが出来るのなら、これからもスナに胸を張って歩めるだろうと思い至った。

「トキさん」
 クイはトキの視線に応えていた。
「どうした?」
「とても立派な考えだと思います」
「お、ありがとな……」
 数日ぶりにトキの頬が綻んだ。
 
「そしてお願いがあります」
「なんだ突然?」
「私はこの280日間、ユミという者の孵卵の監督を務めて参りました」
「そうだったな。ユミと言うのか。……にしてもそいつ、280日も大丈夫だったのか?」
 遅くとも10日で完結する孵卵である。当然の疑問を投げかけた。

「ええ。一旦経緯は省きますが、見事にウラヤの村へ帰還して見せましたよ。それを以て私は合格と判断しました」
「そ、そうか。世の中には特殊な例もあるんだろうな……」
 トキは動揺を隠しきれないが、ひとまずは傾聴する姿勢を見せる。

「お願いというのは、ユミさんの担当になってくれないかということです。スナさんの妹さんがこれから孵卵に挑むのなら、時期的にもちょうど同じ班になれるのではないでしょうか」
「なんだそんなことか。断る理由も無い」
 改めてクイが慕ってくれていると感じた。それに嬉しくなる。久方ぶりの心の動きだった。
「ええ、トキさんの決意に便乗するお願いにも聞こえるでしょう。ですがユミさんはあまりにも異端です」
「それはまあ……、そうなんだろうな。だが気にすることは無い。些細な問題だろう」
「ユミさんが居れば、スナさんの状況も打開することが出来たかもしれない、とさえ私は考えています」
「何だと!?」
 クイの聞き捨てならない言葉に、思わず前のめりになる。

「彼女はなんでも覚えます。歩いた森の道のりでさえも」
「そんなことが?」
 冷静なクイに対して、トキは心が逸るを感じていた。
「先ほどトキさんは誰かに助けて欲しかったとおっしゃいましたよね。もしその場に彼女が居たのなら、近くの村へ応援を要請し、再びスナさんの元へ戻ってくることも可能だったはずです」
「にわかには信じがたいことだが……、むしろ信じたい。その事実はスナの為にもなるはずだ」
「私もそう思います。ですが彼女の力を発揮するためには大きな弊害があります」
「鳩の……、縛めか……」
 イイバの民を守るために定められたと聞き及ぶ鳩の縛め。結果としてスナを守ることは出来なかった。
「その通りです。ユミさんの担当になる上で、トキさんには大きな決断をして頂かなくてはなりません」
「どうでもいい。もっと話を聞かせてくれ」
「はい。ヤミさんもいいですね? もしかしたらハリと自由に暮らす足がかりとなるかもしれません」
 いつの間にか、腕の中のヤミの震えは止まっていた。
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